生理学研究所年報(第27巻)

生理学研究所年報　第27巻
研究会報告

11．分子複合体と神経・シナプス機能

2005年6月23日－6月24日
代表・世話人：森泰生（京都大学大学院工学研究科）
所内対応者：井本　敬二（神経シグナル）

（１）: 足場蛋白S-SCAMによるシナプス分子複合体の形成

飯田　純子，川田　現，佐藤　勇次，畑　裕（東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科）
（２）: 神経活動依存的シナプス蛋白ArcとPSD蛋白とのスパインにおける相互作用解析

奥野　浩行¹，藤井　哉¹，成瀬　紘也¹，Shoaib Chowdhury ²，Paul Worley ²，尾藤　晴彦¹
（¹東京大学大学院　医学系研究科　神経生化学，² Johns Hopkins University School of Medicine）
（３）: 調節性分泌におけるシナプトタグミンファミリーの機能と多様性

福田　光則（独立行政法人理化学研究所・福田独立主幹研究ユニット）
（４）: 水とイオンチャネルの構造と機能

藤吉　好則（京都大学大学院理学研究科生物物理学教室）
（５）: 電顕画像の単粒子解析法の開発とイオンチャンネルの構造

小椋　俊彦，三尾　和弘，佐藤　主税（産業技術総合研究所　脳神経情報研究部門）
（６）: タンパク質相互作用ネットワークの大規模解析

夏目　徹（産業技術総合研究所　生物情報解析研究センター機能ゲノムグループ・タンパク質ネットワーク解析チーム）
（７）: 膜蛋白複合体プロテアーゼgセクレターゼの解析

富田　泰輔（東京大学　大学院薬学系研究科　臨床薬学教室）
（８）: 代謝型グルタミン酸受容体の機能制御機構と動的構造変化

立山　充博，久保　義弘（生理学研究所神経機能素子研究部門）
（９）: 内因性カンビノイドによる線条体シナプス伝達の調節

鳴島　円¹，内ヶ島　基政²，松井　稔³，真鍋　俊也³，渡辺　雅彦²，狩野　方伸¹
（¹金沢大院・医・シナプス発達・機能学，²北海道大院・医・解剖発生，
³東京大・医科研・基礎医科学・神経ネットワーク分野）
（10）: シナプス前Gi/o共役型受容体を介する微小シナプス電流の調節

山崎　美和子，橋本　浩一，狩野　方伸（金沢大学　医学系研究科　シナプス発達・機能学）
（11）: 電位依存性Ca²⁺チャネルbサブユニットの生理機能的複合体生成

森　泰生（京都大学大学院工学研究科）

【参加者名】
森　泰生（京都大学工学研究科），畑　裕，飯田　純子（東京医科歯科大学），尾藤　晴彦，奥野　浩行（東京大学大学院医学系研究科），富田　泰輔，宮下　紘幸（東京大学大学院薬学系研究科），真鍋　俊也，関野　祐子，李　楽天，三輪　秀樹（東京大学医科学研究所），福田　光則（理化学研究所），佐藤　主税，夏目　徹（産業技術総合研究所），高橋　正身，板倉　誠（北里大学医学部），井ノ口　馨（三菱化学生命科学研究所），阿部　輝雄（新潟大学脳研），片岡　正和（信州大学工学部），若森　実，原雄二，清中茂樹，三木　崇史，瓜生　幸嗣，加藤　賢太，山崎　浩史（京都大学工学研究科），藤吉　好則，西澤　知宏，野間　健太郎，倉持　陽平（京都大学理学研究科），鳴島　円，山崎　美和子（金沢大学医学研究科），葉山　成樹（ファイザー），富永　真琴，柴崎　貢志，飯田　陶子，富永　知子，早坂　孝宏，岩崎　広英，村田　喜理，岡村　康司，久木田　文夫，島　麻子，三村　明史，村山　奈美枝（統合バイオ），野田　昌晴（基生研），久保　義弘，立山　充博，中條　浩一，藤原　祐一郎，長友　克広，石井　裕，大塚　岳，本蔵　直樹，井上　剛，根本　知己，岸本　拓哉，佐竹　伸一郎，加瀬　大,井本　敬二（生理研）

（1）　足場蛋白S-SCAMによるシナプス分子複合体の形成

飯田　純子，川田　現，佐藤　勇次，畑　裕（東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科）

　足場蛋白質S-SCAMはシナプスにおいて，接着分子neuroligin，Dasm1と直接，cadherinと間接に結合している。また，NMDA受容体サブユニットと結合し，activin受容体やdelta 2グルタミン酸受容体とも結合するといわれている。またcatenin，RapGEP，kalirin-7，PTENなどのシグナル伝達分子と相互作用し，接着構造の周辺に受容体とそのシグナル伝達系からなる分子複合体を集積する役割を担っていると考えられている。さらに，PSD-95，MAGUIN，GKAP/SAPAP，axinなどの他の足場蛋白とも相互作用しているところから，樹状突起スパインを支える大きな蛋白ネットワークの一部を構成する可能性も想定されている。これらの知見から，S-SCAMのような複数の蛋白相互作用領域をもつ足場蛋白は，分子同士の一対一の結合を通じて，分子複合体を細胞の特定の場所に集積し，分子複合体内でのクロストークによりシグナル伝達の効率化を図るという従来から提示されていた役割にとどまらず，分子複合体そのものが機能する場を調節する役割も担う可能性が高いことが示唆される。実際，私達は最近，ノックアウトマウスの解析を含むいくつかの実験から，S-SCAMが樹状突起スパイン全体の形態制御に関わることを見出し，その分子機構を解析している。本研究会では，その結果を中心にS-SCAMに関する最近の知見を発表する。

（2）　神経活動依存的シナプス蛋白ArcとPSD蛋白とのスパインにおける相互作用解析

奥野　浩行¹，藤井　哉¹，成瀬　紘也¹，Shoaib Chowdhury ²，Paul Worley ²，尾藤　晴彦¹
（¹東京大学大学院　医学系研究科　神経生化学，² Johns Hopkins University School of Medicine）

　神経特異的前初期遺伝子の一つArc遺伝子は刺激に対して極めて高い発現誘導性を示し，シナプスの長期可塑性に重要な役割を果たしていることが示唆されている。また，近年，遺伝子改変マウスや遺伝子発現抑制法を用いた個体解析により，記憶・学習等の脳高次機能のおけるArc遺伝子の関与を示唆する知見が蓄積されてきた。しかしながら，シナプス活動によるArc mRNAの発現誘導制御メカニズムやArc蛋白の樹状突起やスパインへの輸送メカニズム，そしてシナプスでの役割という本質的な点に関しては未だ不明である。

　本研究においては，Arcの機能を生化学的・細胞生物学的手法を用いて解析することを目的とし，Yeast 2-hybrid assay等を用いてArc結合蛋白の候補を検索した。その結果，Arcはさまざまなシナプス関連タンパクと結合する可能性が示唆された。このタンパクータンパク相互作用の生物学的・生理学的意義を解析するため，我々は蛍光エネルギー転移(FRET)を応用した生細胞における相互作用の可視化を試みた。本研究では，任意の結合蛋白ペアからGFP由来蛋白でラベルされたFRETペアを単離する新しい方法を開発した。スクリーニングの結果得られたFRETペアを海馬神経細胞に導入したところ，FRETが樹状突起およびスパインで認められ，生きている神経細胞においてArcとPSD蛋白の相互作用を可視化することに成功した。これらの結果を，神経活動依存的なArcの細胞内局在変化とともに議論したい。

（3）　調節性分泌におけるシナプトタグミンファミリーの機能と多様性

福田　光則（独立行政法人理化学研究所・福田独立主幹研究ユニット）

　神経伝達物質の放出やホルモンの分泌に代表される「調節性分泌」は膜輸送の一形態で，細胞内を移動してきた小胞が外界からの刺激依存的に細胞膜と融合し小胞の内容物を細胞外へと放出する現象である。分泌を起こすには2種類の膜の結合が不可欠なため，分泌の制御に関わる分子には細胞膜の構成成分であるリン脂質の結合モチーフ（C2ドメインなど）を持つものが多い。中でも，シナプトタグミンに代表される「カルボキシル末端©型タンデムC2タンパク質」は主に分泌小胞上に存在し，C末端側に存在する二つのC2ドメインを介してカルシウムイオンやリン脂質を結合することから，調節性分泌の際の「カルシウムセンサー」として機能するものと考えられている。本研究ではまず，シナプス小胞輸送におけるシナプトタグミンI分子の機能，特にシナプトタグミン1分子には何故2個のC2ドメインが必要なのか，また膜輸送の制御におけるそれらの機能的な差違とは一体何なのかに焦点を当てる。

　シナプトタグミンは哺乳動物において15種類ものアイソフォーム(I～XV)が存在し，様々な調節性分泌の制御に関与するものと考えられている。内分泌細胞にはシナプス小胞よりもサイズの大きい有芯顆粒が存在し，ここからカルシウム依存的にホルモンなどが分泌される。副腎髄質クロマフィン細胞由来のPC12細胞においては少なくとも4種類のシナプトタグミンアイソフォーム(I，IV，VII，IX)が発現することが報告されている。そこで次に，これらのアイソフォームのうちどのシナプトタグミンが有芯顆粒開口放出の際の主要なカルシウムセンサーとして機能するのかをRNA干渉法及び機能阻害抗体を用いて検討した。その結果，シナプトタグミンIXがシナプトタグミンIと共に有芯顆粒上に存在し（シナプトタグミンIVは主にゴルジ体に存在），ホルモン分泌を制御することが明らかとなった。また，細胞膜上のカルシウムセンサーとして報告されたシナプトタグミンVIIは蛋白質レベルでは検出できず，外来性に遺伝子導入したシナプトタグミンVIIもPC12細胞の細胞膜ではなく主に有芯顆粒上に存在することが明らかとなった。

［参考文献］

　1. J. Biol. Chem. (2004) 279, 52677-52684

　2. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2004) 101, 9441-9446

　3. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2004) 101, 17855-17860

　4.蛋白質核酸酵素, (2004) 49, 2186-2197

（4）　水とイオンチャネルの構造と機能

藤吉　好則（京都大学大学院理学研究科生物物理学教室）

　地球上のほとんどすべての生命は脂質2重膜で包まれた細胞から出来ており，それは水で満たされている。また，神経細胞をはじめ多くの細胞の重要な情報伝達は，受容体やイオンチャネルが存在する膜を介して行われているが，最近イオンチャネルの機能を構造から議論できるような構造生理学とも言うべき研究分野が発展を見せている。水を60%も含む我々の身体や細胞にとって，イオンチャネルが機能を発揮するには，イオンやプロトンと水の透過を選択的に調節できる仕組みが必要である。水だけを透過させて，イオンや低分子化合物さらにはプロトンをも通さない様な機能を有するアクアポリン-1(AQP1)と名付けられた分子量28kDの膜タンパク質が実際に発見され¹⁾，それ以後いろいろな生物種から多様な水チャネルが同定された。我々の身体にも13種類もの水チャネルが存在する。しかも，これらは水だけを選択する単なる“穴”ではなくて，個性豊かな多様な機能を備えたチャネルであることが分かってきている。

　電子顕微鏡を用いると，生体高分子やその複合体の立体構造を直接観察することができるが，実際には，電子の物質との強い相互作用のために電子照射による試料損傷という深刻な問題が存在する。また，試料を真空中に持ち込むので，乾燥して変性してしまう問題が存在するが，試料を薄い非晶質の氷の中に閉じこめて観察する急速凍結法が開発されている²⁾。どちらの問題を解決するにも低温ステージを持った電子顕微鏡が必要になる³⁾。我々が独自に開発した極低温電子顕微鏡⁴⁾を用いて，ヒト由来の膜タンパク質，AQP1の原子モデルが初めて明らかにされた⁵⁾。AQP4も構造解析が容易ではない2層膜からなる2次元結晶であったが構造解析に成功した。それゆえ，AQP1だけでなく脳に発現している水チャネル(AQP4)等の機能が構造学的視点から理解できるようになってきた。これらの水チャネルは，アセチルコリン受容体等と比較すると興味深い特徴も明らかになってきた。

　極低温電子顕微鏡を用いたアセチルコリン受容体の構造解析により，このイオンチャネルのゲーティング機構が解明された⁶⁾。アセチルコリン受容体は，アセチルコリン結合ドメインと膜貫通ドメインがあるが，前者のドメインは，b-シートから出来ており，後者は4本のa-ヘリックスから出来ている。膜貫通部分で一番狭いところは，穴の径が6Åであり非常に大きい。水チャネルでは穴径が3Åと小さいにもかかわらず20億分子もの水を1秒間に透過するが，イオンが直径8Åという水和の殻を形成するので，このチャネルの6Åの径を透過できない。アセチルコリンがアセチルコリン結合ドメインに結合すると内側のbバレル構造が10度右に回転する。その動きが，膜貫通ヘリックスの中のM2ヘリックスを10度右回転させる。結果として，チャネルの最も狭い部分が9Åに拡がるので，イオンは水和したままで透過できるようになる。

　水やイオンチャネルを極低温電子顕微鏡を用いて“みた”結果，自然が作り上げた巧妙な分子機構が解明されたので，これらについて簡単に解説したい。

文献

　1)Preston, G.M., Carrol, T.P. Guggino, W.B., Agre, P.:Science 256, 385-387 (1992)

　2)Adrian, M, Dubochet, J. Lepault, J. and McDowall, A. W.:Nature 308, 32-36 (1984)

　3)Fujiyoshi Y.: Adv. Biophys. 35, 25-80 (1998)

　4) Fujiyoshi, Y. et al.: Ultramicroscopy 38, 241-251 (1991)

　5) Murata, K.et al.: Nature 407, 599-605 (2000)

　6) Miyazawa, A., Fujiyoshi, Y. Unwin, N.: Nature 423, 949-955 (2003)

（5）　電顕画像の単粒子解析法の開発とイオンチャンネルの構造

小椋　俊彦，三尾　和弘，佐藤　主税（産業技術総合研究所　脳神経情報研究部門）

　一般に我々の神経細胞のイオンチャンネルは制御タンパク質と分子複合体を形成して，制御されている。この複合体の構造解析を容易にする技術が電子顕微鏡画像による単粒子構造解析と考えている。本解析技術とその開発過程を下記のチャンネルの解析を例に説明したい。

　車の急ブレーキを踏むときなどは，我々は視覚情報に対して数ミリ秒単位の時間経過で反応することができる。この素速い反応を可能にしているのが，神経細胞に存在する電圧感受性Naチャンネルである。Naチャンネルは隣接したチャンネルが開くと自分自身も開く性質がある。電圧感受性チャンネルは6回の膜貫通部位を有するドメインが4つ結合することで機能蛋白質を形成する。

　神経細胞の小胞膜にはIP3受容体とよばれるイオンチャンネルが存在する。その役割は小胞内に存在するCaイオンの放出を制御することである。我々の細胞内ではCaイオン濃度は通常，厳密に低い濃度に抑えられており，この小胞から放出されるCaイオンは細胞の様々な活動を制御し，その影響は我々の高次機能にも及んでいる。そのため，IP3受容体チャンネルは生体の活動にとって重要である。IP3受容体も同じく6回膜貫通型のイオンチャンネルであり，その細胞質側にIP3とCa両方が結合すると，開いてCaを通す。しかしながら，これらのほ乳類の6回膜貫通型蛋白質は結晶を作成しないため，その構造と機構はこれまで謎であった。

　我々は京大藤吉教授，東大御子柴教授等との共同研究により，Heステージクライオ電子顕微鏡による数万枚の粒子像を基にこれらの構造を解明した。これら2種類のチャンネルは基本的に共通した2層よりなる構造をしていることがわかる。しかし，IP3受容体の内層の中心にはNaチャンネルと異なり明確な長い孔が見られる。この内部パイプはイオンの通路と思われ，パイプの中間にもイオンが放出される切れ目が存在していた。そのためパイプから放出されたCaイオンは気球構造表面の多くの穴から四方八方へ放出されると思われる。これは細胞膜直下で細胞膜と平行に向いたイオン放出孔が存在し，イオンを平行方向に流し出すNaチャンネルの構造と対照的である。IP3受容体は表面に多くの孔を持つ気球状である。これはCaイオンを広く様々な方向に散らばらせる仕組みを持つと思われ，そのことにより細胞質の様々な部位に情報を伝搬させるのに好都合なのであろう。

　C. Sato, Y. Ueno, K Asai, K. Takahashi, M. Sato, A. Engel and Y. Fujiyoshi: Nature, 409, 1047-1051, (2001).

　C. Sato, K. Hamada, T. Ogura, A. Miyazawa, K. Iwasaki, Y. Hiroaki, K. Tani, A. Terauchi, Y. Fujiyoshi, K. Mikoshiba :　J. Mol. Biol., 336, 155-164 (2004).

（6）　タンパク質相互作用ネットワークの大規模解析

夏目　徹（産業技術総合研究所　生物情報解析研究センター
機能ゲノムグループ・タンパク質ネットワーク解析チーム）

　ポスト・シークエンス時代を迎え，プロテミクスによる大規模・包括的なタンパク機能解析が急務とされている。しかし，その進捗はかばかしくない。その理由は，タンパク質が化学的に多様で不安定性だからであり，質量分析を代表とするハイテク機器を駆使しようとも，核酸のように大規模・スステマティックに扱うことが本質的に困難だからである。我々は，ダイナミックレンジが広く，且つ微量なタンパク質サンプルの解析を可能とするため，測定前処理の生化学的プロセス全てを改革・全体最適化を行い，超ナノLCをオンライン化したタンデム質量分析システムを独自に開発した。本システムは，サブ・フェムトモルレベルの感度で，150以上のコンポーネントからなる複雑なタンパク質複合体を，電気泳動などすることなく，1時間ほどで決定することを可能とする。この解析プラットフォームと，ヒト完全長cDNAを用いたタンパク質相互作用解析の大規模解析が現在進行中である¹⁾。

　本講演では，1,500cDNAを使ったfeasibility studyの概要と細胞内シグナル伝達に関わる分子のWhole pathway解析(Wnt/beta-Catenin, Classical MAP kinase, TNF-alpha pathway)概要と，Ubiqutination/Proteasome系の大規模解析から明らかとなった新規な蛋白質修飾・分解システムの発見について紹介する^2-11)。

　1)夏目徹.(2004).“完全長ヒトcDNAを用いた大規模蛋白質ネットワーク解析”(2004). 蛋白質核酸酵素PNE 49(14): 2222-29

　2) Yanagida, M (2004). J Biol Chem 279, 1607-1614.

　3) Bannai, H.,. (2004). J Biol Chem 279, 53427-34.

　4) Ishigaki, S.,. (2004). J Biol Chem 279, 51376-85.

　5) Komatsu, M.,. (2004). Embo J 23, 1977-1986.

　6) Nakayama, K., (2004). Dev Cell 6, 661-672.

　7) Oyama, M., (2004). Genome Res 14, 2048-2052.

　8) Higo, T.,. (2004). Cell 120, 85-98

　9) Kojima, H.,. (2005). PNAS 102, 4524-4529.

　10) Yoshida, K., (2005). Nat Cell Biol 7, 278-285.

　11) Matsuda, N.,. (2005). DNA Repair in press.

（7）膜蛋白複合体プロテアーゼgセクレターゼの解析

富田　泰輔（東京大学　大学院薬学系研究科　臨床薬学教室）

　家族性アルツハイマー病の原因遺伝子としてプレセニリン(PS)遺伝子が同定されている。PSは，bアミロイドペプチドの凝集性を決定するC末端側を切断するgセクレターゼ活性に必須な分子であることが明らかにされている。またgセクレターゼによってNotch，ErbB4など様々な膜蛋白がその膜内配列中で切断をうけることが示されており，PS依存性膜内配列切断を介した新しいシグナル伝達経路が想定されている。PSは分子内切断を受け，さらにNicastrin(Nct)，Aph-1，Pen-2と相互作用して2 MDa以上の巨大な複合体を形成しており，現在ではこの膜蛋白複合体がgセクレターゼそのものであると考えられている。われわれはこのgセクレターゼ複合体について，特にそれぞれの分子の機能を明らかにすることを目的に，培養細胞を用いた過剰発現ないしRNAiによるノックダウン法を用いて検討した。その結果，gセクレターゼ複合体形成過程において，Nct/Aph-1はPS複合体の安定化因子として機能していること，Pen-2は安定化された高分子量複合体の活性化因子として働いていることを明らかにした。さらにバキュロウイルス系を用いたgセクレターゼ複合体を再構成系と，低分子量化合物を分子プローブとしたアプローチにより，その特異な切断過程の分子レベルでの理解・各構成因子の構造活性相関を明らかにすることを目的に検討を進めている。ADに対し原因療法的に神経細胞の変性・脱落を阻止できる可能性のあるセクレターゼ阻害剤が治療に一刻も早く実用可能となることが望まれる。またgセクレターゼは，「疎水性環境にあるペプチド鎖を加水分解する」という，これまでにない蛋白分解の概念を提示するとともに，「リガンド依存的な連続したタンパク分解」による新たなシグナル伝達経路の可能性，そして様々な「一回膜貫通型蛋白の膜内配列の分解」などの新たな研究分野を生み出しつつある。今後gセクレターゼによる切断機構の分子的解明により，AD発症機構の理解，治療・予防薬の開発のみならず，新しい酵素学・生物学が開けていくものと確信している。

（8）　代謝型グルタミン酸受容体の機能制御機構と動的構造変化

立山充博，久保義弘（生理学研究所神経機能素子研究部門）

　代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)の細胞外領域の結晶構造解析により，mGluR1がホモ二量体として構成されていること，グルタミン酸結合により細胞外領域の構造が変化することが報告されている。その結果に基づき，G蛋白質の活性化に直結するmGluR1の細胞内領域においても，二量体サブユニット間の配置が変化することが推測されてきたが，未だ不明であった。そこで，細胞外領域の構造変化に伴って起こる細胞内領域の動的構造変化のリアルタイム解析を目指して研究を進めた。異色の蛍光物質間の距離が近いほどエネルギーの受け渡し（FRET (Fluorescence Resonance Energy Transfer) 効率）が大きくなることが知られているので，構造変化を，FRET 効率の変化として光生理学的に捉えることを計画し，mGluR1の細胞内領域の様々な箇所に2色の蛍光蛋白を付加した。この分子の遺伝子を培養細胞に導入し，細胞膜に発現している分子の蛍光のみを全反射照明下で測光し，グルタミン酸投与に伴うFRET効率の変化を解析した。その結果，(1)サブユニットの内部では明らかな構造変化は起こらない。(2)二量体サブユニットの，細胞内ループ1が相互に遠ざかる。(3)二量体サブユニットの，細胞内ループ2が相互に近づく。という知見が得られた。これらの結果から，リガンド投与により，mGluR1の細胞内領域においては，個々のサブユニットはあまり顕著な構造変化を起こさず，2つのサブユニット間の相対的配置が変化することが想定された。

　ところで，我々は，mGluR1が，グルタミン酸のみならず，細胞外のCa²⁺，Gd³⁺等の多価陽イオンによっても活性化されることを以前報告した。Gd³⁺については，結晶構造解析により，その結合部位が，グルタミン酸結合部位と異なる2つのサブユニット間の負電荷を持つアミノ酸に富む領域に同定された。グルタミン酸とGd³⁺の結合部位，すなわち作用様式が異なるため，それぞれの結合に伴って起こる細胞内領域の構造変化，ひいては，G蛋白質とのリンクが異なるという可能性も考えられる。この仮説を検証するために現在進めている，Gq 系（細胞内Ca²⁺濃度）とGs系（細胞内cAMP濃度）の応答の同時記録の結果についても紹介したい。

　Tateyama M, Abe H, Nakata H, Saitoh O, Kubo Y

　Ligand- induced rearrangement of the intracellular dimeric conformation of metabotropic glutamate receptor1a. Nature Struct Molec Biol 11: 637-642, 2004.

（9）　内因性カンビノイドによる線条体シナプス伝達の調節

鳴島　円¹，内ヶ島　基政²，松井　稔³，真鍋　俊也³，渡辺　雅彦²，狩野　方伸¹
（¹金沢大院・医・シナプス発達・機能学，²北海道大院・医・解剖発生，
³東京大・医科研・基礎医科学・神経ネットワーク分野）

　内因性カンナビノイドは脳のさまざまな部位で逆行性の抑制性シグナル伝達物質として働いている。内因性カンナビノイドはシナプス後細胞の脱分極に伴うCa²⁺流入およびGq/11タンパク共役型代謝型受容体の活性化により合成・放出されることが知られている。本研究では，大脳基底核神経回路の入力核であり，カンナビノイド受容体（CB1受容体）が多く発現している線条体に注目し，内因性カンナビノイドによるシナプス伝達修飾機構について解析した。

　線条体出力細胞である中型有棘ニューロン（MSニューロン）からwhole cell記録を行い，興奮性および抑制性シナプス電流(EPSC，IPSC)を観測すると，IPSCでのみ，シナプス後細胞の脱分極によるシナプス伝達の一過性の減少が観測された。このIPSCの抑制は，CB1受容体の阻害薬(SR141716)により消失したことから，内因性カンナビノイドによるシナプス伝達調節であると考えられる。次に，MSニューロンへのシナプス入力はコリン作動性介在ニューロン由来のアセチルコリンにより修飾されることが知られているため，ムスカリン受容体と内因性カンナビノイドの関係について解析した。ムスカリン受容体の賦活薬(oxotremorine-M)を投与すると，EPSC・IPSCともに振幅が減少したが，IPSCに対する効果のみ，SR141716により阻害された。また，低濃度のoxotremorine-M存在下では，弱い脱分極によっても内因性カンナビノイドによるシナプス伝達抑制が誘起されることも示された。これらのoxotremorine-M の効果は，細胞内のGタンパク阻害薬(GDPbS)の投与，M1受容体の特異的阻害薬であるpirenzepineの投与，およびM1受容体ノックアウトマウスで消失したことから，MSニューロン上のM1受容体が関与していると考えられる。以上の結果より，MSニューロンへの抑制性入力に対して，MSニューロンの脱分極，MSニューロン上のM1ムスカリン受容体の活性化および弱い脱分極と弱い受容体活性化の組み合わせにより，内因性カンナビノイド系を介した逆行性シナプス伝達抑制が起こることが明らかとなった。

（10）　シナプス前Gi/o共役型受容体を介する微小シナプス電流の調節

山崎　美和子，橋本　浩一，狩野　方伸（金沢大学　医学系研究科　シナプス発達・機能学）

　カンナビノイド受容体はGi/o共役型受容体の一つであり，中枢神経系においてはシナプス前終末に存在し，その活性化により神経伝達物質の放出が抑制される。小脳プルキンエ細胞では，興奮性および抑制性入力の両方のシナプス前終末に1型カンナビノイド受容体（CB1受容体）が存在する。興奮性および抑制性の入力線維の刺激によって誘発される活動電位依存的なシナプス伝達はCB1受容体活性化によって抑制される。しかし，活動電位に依存しない微小シナプス後電流に関しては，CB1受容体活性化の効果に相違が見られる。即ち，微小抑制性シナプス後電流(mIPSC)はカンナビノイド受容体アゴニスト(WIN55,212-2)により減弱するが，微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)は影響されないことが知られている。この違いが何に起因するものなのかを明らかにする目的で，生後2週のマウス小脳急性スライスを用いてmIPSC/mEPSC記録を行い，種々の細胞外カルシウム濃度におけるWIN55,212-2の効果を調べた。従来の報告と同様，細胞外カルシウム濃度2 mM（生理的標準濃度）ではWIN55,212-2投与によりmIPSCのみが抑制され，mEPSCは抑制されなかった。細胞外カルシウム濃度を2 mMから0 mMに下げるとmIPSCの頻度は減少し，WIN55,212-2投与による頻度の減少が起こらなくなった。一方細胞外カルシウム濃度を0 mMに下げてもmEPSCの頻度は変化しなかった。次に細胞外カルシウム濃度を5 mMに上げるとmEPSCの頻度は著しく増加し，WIN55,212-2投与による抑制を受けるようになった。またカルシウムイオノフォア(A23187)投与でも同様の現象が観察された。

　以上の結果より，CB1受容体活性化がカルシウム依存的なmIPSC/mEPSCを選択的に抑制する可能性が示唆された。細胞外カルシウム濃度2 mMにおいて，抑制性の終末内は恒常的にカルシウム濃度が高く，カルシウム依存的なmIPSCが生じているためにWIN55,212-2による抑制を受けやすいが，興奮性終末内はカルシウム濃度が低いためにカルシウム依存的なmEPSCが殆ど生じておらずWIN55,212-2による抑制を受けないという可能性が考えられた。さらには同じGi/o共役型受容体であるGABA_B受容体やグループⅢ代謝型グルタミン酸受容体の活性化も，mEPSCおよびmIPSCに対してCB1受容体活性化と同様の効果を示すことが明らかになった。よって，プルキンエ細胞における，Gi/o共役型受容体活性化を介するmIPSC/mEPSCの調節の程度は，カルシウム依存的な放出の程度に依存する可能性が示唆された。

（11）　電位依存性Ca²⁺チャネルbサブユニットの生理機能的複合体生成

森　泰生（京都大学大学院工学研究科）

　神経系の電位依存性Ca²⁺チャネルはa1，b，a2d，gの4つのサブユニットから構成されている。a1はチャネルポアを形成し，電位センサーの機能を担うなどチャネル形成に中心的な役割を担っているのに対し，b，a2d，g各副サブユニット群はa21に結合してその発現・機能調節を行っており，これらを欠いたa21単体では生理的なチャネルとして機能する事は出来ない。特にbサブユニットによる調節機能は重要であり，a21を介したCa²⁺電流はbの存在によって劇的に増大する。

　神経前終末部からの神経伝達物質の放出は，電位依存性Ca²⁺チャネルを介したカルシウム流入により惹起される。しかしその開口放出部近傍にどのように電位依存性カルシウムチャネル群がターゲットされるのか，など神経終末部におけるCa²⁺チャネル活性制御機構に関しては未だ不明な点が多い。我々はbサブユニットが電位依存性チャネルサブユニットとしての機能以外に，新たな役割を有する可能性があると考え，新規結合因子の単離を試みた。

　酵母ツーハイブリッド法を用いたb相互作用蛋白質探索の結果，いくつかのエキソサイトーシス関連分子を得，電位依存性Ca²⁺チャネルのbサブユニットを介して，電気生理学的にチャネル特性を変化させる事が明らかとなった。

　本研究は，神経伝達物質放出時における電位依存性Ca²⁺チャネル活性調節機構解明につながるものと考えられる。



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