生理学研究所年報(第27巻)

生理学研究所年報　第27巻
研究会報告

12．脳磁場計測によるヒト脳機能マッピング

2005年11月2日－11月4日
代表・世話人：柿木　隆介（大学共同利用法人・自然科学研究機構・生理学研究所）
所内対応者：柿木　隆介（大学共同利用法人・自然科学研究機構・生理学研究所）

（１）: 脳磁図による視覚性運動検出機構の探索（オープニングレクチャー）

金桶吉起（生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門）
（２）: 『目の動き』に関わる顔輪郭情報の影響

三木研作^1,2，渡辺昌子²，本多結城子^2,3，中村舞子^2,4，柿木隆介^2,3,5
（¹日本宇宙フォーラム，²生理学研究所，³総合研究大学院大学生命科学研究科，
⁴東京慈恵医科大学神経内科，⁵科学技術振興財団社会技術研究システム）
（３）: 表情の変化する顔刺激を用いた脳磁場反応の検討

中村舞子^1,2，三木研作^1,3，渡辺昌子¹，本多結城子^1,4，井上聖啓²，柿木隆介^1,4,5
（¹自然科学研究機構　生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門，
²東京慈恵会医科大学　神経内科，³日本宇宙フォーラム，
⁴総合研究大学院大学　生命科学研究科　生理科学専攻，
⁵科学技術振興財団　社会技術研究システム）
（４）: 顔認知における意識閾値以下の刺激の影響

寳珠山稔，柿木隆介
（名古屋大学医学部保健学科，生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門）
（５）: 球面型生体磁気計測システムを用いた長潜時聴覚応答の記録

太田圭亮，高松亮介，小山幸子，栗城眞也
（北海道大学　電子科学研究所　量子計測研究分野）
（６）: 合成母音刺激による誘発磁場N1mの検討

尾形エリカ，湯本真人，伊藤憲治，関本荘太郎，狩野章太郎，加我君孝
（東京大学大学院　医学系研究科　脳神経医学専攻　感覚・運動神経科学講座）
（７）: 数字の循環読み上げ音声による聴覚ミスマッチ脳磁場

官振傑¹，湯本真人²，狩野章太郎¹，伊藤憲治³，尾形エリカ⁴，水落智美⁴，加我君孝^1,4
（¹東京大学医学部　耳鼻咽喉科，²検査部，³認知・言語医学，⁴感覚・運動神経科学）
（８）: ミスマッチ陰性成分は多モード内部モデルの予測誤差を反映する

湯本真人¹，伊藤憲治³，宇野彰⁶，狩野章太郎²，金子裕⁴，斎藤治⁵，加我君孝²，矢冨裕¹
（¹東京大学医学部病態診断医学，²耳鼻咽喉科学，³認知・言語医学，
⁴国立精神・神経センター武蔵病院脳外科，⁵精神科，⁶筑波大学人間総合科学）
（９）: 疎性を用いたMEGの解析手法の提案

黒田俊道（早稲田大学大学院理工学研究科）
（10）: 深部にあるアルファ波と高周波リズムの発生源

川端啓介¹，内野勝郎²，村田和優³，外池光雄⁴，岩木直⁵
（¹前大阪府立大学先端研，²平成医療学園専門学校，³藍野学園短大，⁴千葉大工学部，
⁵産総研関西支所）
（11）: MEG40Hz成分の位相同期の計測とそのモデル化の試み

田中慶太，川勝真喜，根本幾（東京電機大学）
（12）: 随意運動後のb帯域同期と性格傾向の相関

志々田一宏¹，橋詰顕²，小野田慶一¹，山下英尚¹，岡本泰昌¹，山脇成人¹
（¹広島大学大学院　医歯薬学総合研究科　精神神経医科学，
²広島大学大学院　医歯薬学総合研究科　脳神経外科学）
（13）: 運動準備過程における一次および二次体性感覚野活動の時系列的変動

和坂俊昭¹^，²，柿木隆介¹
（¹自然科学研究機構　生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門，²日本宇宙フォーラム）
（14）: 刺激における不調和さの視覚誘発脳磁図反応に対する影響の検討

原田暢善¹，岩木直¹，外池光雄²
（¹産業技術総合研究所関西センター　人間福祉医工学部門，²千葉大学工学部　メディカルシステム工学科）
（15）: Random-dot motionからの3次元構造知覚に関連する脳内過程

岩木直¹，外池光雄²，John W. Belliveau³
（¹産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門，²千葉大学工学部メディカルシステム工学科，
³Massachusetts General Hospital）
（16）: 種々の第2次仮現運動に対するヒト脳反応

田中絵実，野口泰基，金桶吉起，柿木隆介
（生理学研究所　統合生理研究系感覚運動調節研究部門）
（17）: Prader-Willi症候群の体性感覚誘発磁場所見－Angelman症候群との相違について－

江川潔¹，朝比奈直子¹，白石秀明¹，須藤章¹，香坂忍¹，斉藤伸治¹，中根進児²，有働康代²
（¹北海道大学大学院医学研究科小児科，²北海道大学病院臨床検査部）
（18）: 聴覚性のてんかん発作を有するてんかん患者の脳磁図

福島克之，仲野久美子，芳村勝城，渡辺裕貴
（国立病院機構静岡てんかん神経医療センター）
（19）: 短周期ペア刺激の聴覚誘発M50回復に反映される統合失調症の左半球機能異常

湯本真人¹，斎藤治⁴，宇野彰⁶，伊藤憲治³，宇川義一²，金子裕⁵，矢冨裕¹
（¹東京大学医学部病態診断医学，²神経内科学，³認知・言語医学，
⁴国立精神・神経センター武蔵病院精神科，⁵脳外科，⁶筑波大学人間総合科学）
（20）: 左痙性不全片麻痺の患者にみられたmirror movementについて

久保田雅也，木村育美，広瀬宏之，榊原洋一
（都立八王子小児病院小児内科，成育医療センター，お茶の水女子大学）
（21）: においの知覚に及ぼす認知的要因の効果－MEGおよび脳波の同時計測による検討

小林剛史^1,2，小早川達²，秋山幸子^2,3，戸田英樹^2,4，斉藤幸子^2,5
（¹文京学院大学，²産業技術総合研究所，³日本体育大学，⁴筑波大学，⁵斉藤幸子味覚嗅覚研究所）
（22）: 逃したくない被験者をなんとか計測する方法

小早川達¹，小見山彩子²，池田稔²，戸田英樹¹
（¹産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門，²日本大学医学部）
（23）: 音楽の基本構造の認知に関わる神経的基盤の解明：MEG計測による検討

大塚明香，長谷川寿一，栗城眞也
（東京大学 21世紀COEプログラム「心とことば-進化認知科学的展開」，北海道大学　電子科学研究所）
（24）: 調性音楽における和音の階層構造と脳磁場の関係

福田大輔，大塚明香，栗城眞也，福田正人，村田昇
（早稲田大学大学院　理工学研究科　電気情報生命専攻）
（25）: 色のカテゴリー知覚の聴性誘発N100m潜時への反映

水落智美¹，湯本真人²，狩野章太郎³，伊藤憲治⁴，山川恵子⁴，加我君孝^1,3
（¹東京大学大学院医学系研究科感覚運動神経科学，²東京大学医学部付属病院検査部，
³東京大学医学部付属病院耳鼻咽喉科，⁴東京大学大学院医学系研究科認知・言語医学）
（26）: 体性感覚誘発磁場における素のインパルス応答への一考察

岸田邦治¹，横田康成¹，深井英和¹，篠崎和弘²，石井良平³，鵜飼聡³
（¹岐阜大学工学部応用情報学科，²和歌山県立医科大学精神医学教室，
³大阪大学大学院医学研究科神経機能医学講座）
（27）: Statistical Parametric Mappingを用いたMinimum Current Estimationの電流源推定結果の標準脳化

橋詰顕，栗栖薫，飯田幸治，白水洋史，志々田一宏，小野田慶一
（広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻先進医療開発科学講座）
（28）: 電流源の方向を大脳皮質表面に垂直に限定した脳内活動源推定法の開発

樋脇治¹，樋口信司¹，早見武人¹，橋詰　顕²，栗栖　薫²
（¹広島市立大学情報科学部，²広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻先進医療開発科学講座）
（29）: 体性感覚二点刺激によるMMNm反応

赤塚康介，柿木隆介
（生理学研究所　感覚運動調節研究部門，総合研究大学院大学　生命科学研究科）
（30）: 痛覚関連体性感覚誘発脳磁場に対する睡眠の影響

王暁宏，乾幸二，柿木隆介（生理学研究所　感覚運動調節研究部門）
（31）: 高頻度反復刺激による視覚誘発脳磁場反応：健常若年成人と老年者での検討

後藤純信^1,2，飛松省三^1,2
（¹国際医療福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科，²九州大学大学院医学研究院脳研臨床神経生理）
（32）: 時間表象の形成に関する脳内メカニズム

野口泰基，柿木隆介
（生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門）
（33）: 日本語単語（漢字）と英語単語の黙読時における左右側頭後頭葉の活動について

寺田さとみ¹，中村仁洋²，原信子²，湯本真人³，宇川義一¹
（¹東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経内科，
²東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻音声・言語医学，³東京大学医学部病態診断医学）
（34）: 音の中心周波数と帯域幅に関わる脳磁界反応

添田喜治，中川誠司
（産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門）
（35）: 高周波可聴音の立ち上がり時間が聴覚誘発脳磁界に及ぼす影響

萬谷惇^1,2，中川誠司¹，小谷賢太郎³，堀井健³
（¹産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門，²関西大学大学院工学研究科，
³関西大学工学部システムマネジメント工学科）
（36）: 高周波可聴音および骨導超音波に対する聴覚誘発脳磁界の計測

中川誠司（独立行政法人産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門）
（37）: ゆらぎを持つ光源に対する心理的プリファレンスと大脳活動との関係

岡本洋輔^1,2，中川誠司²，矢野隆¹，安藤四一¹
（¹熊本大学大学院自然科学研究科，²産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門）
（38）: 視覚逆方向マスキングの有無による脳活動の変化案

川勝真喜，阿部雅也，田中慶太，小谷誠（東京電機大学）
（39）: 脳磁図，網膜電図同時記録による視覚野初期応答潜時の検討

乾幸二，三木研作，金桶吉起，柿木隆介
（生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門）
（40）: 漢字，ハングル文字呈示による言語優位半球の同定－周波数解析とフラクタル次元解析の比較－

金子裕，岡崎光俊，湯本真人
（¹国立精神神経センター武蔵病院脳神経外科武蔵病院神経外科・臨床検査部，²国立精神・神経センター武蔵病院精神科，³東京大学医学部附属病院検査部）
（41）: 日本語における母音無声化の脳内表現

船津誠也¹，今泉敏¹，橋詰顕²，栗栖薫²
（¹県立広島大学，²広島大学医学部）
（42）: 発話理解時における感情認知処理過程－MEGを用いた検討

矢倉晴子¹，外池光雄^2,3，中川誠司²，岩木直²，西原玲子¹，荻野敏¹
（¹大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博士後期過程統合保健看護科学分野，
²千葉大学工学部メディカルシステム工学科，³独立行政法人産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門）

【参加者名】
赤塚　康介（生理研・統合生理・感覚運動），赤松　裕介（東大・医），綾部　友亮（慶應大大院・社会学），荒木　一将（愛学大・歯），石津　智大（早大・文学），乾　幸二（生理研・統合生理・感覚運動），岩木直（産総研・人間福祉），江川　潔（北大大院・医），王　暁宏（生理研・統合生理・感覚運動），太田　圭亮（北大・電研），大塚　明香（東京大学21COE），岡　さち子（東薬大・生命科学），尾形　エリカ（東大大院・医），緒方　克敏（電通大大院・システム工学），緒方　勝也（九大大院・脳研臨床神経生理），岡本　洋輔（熊大大院・自然科学），小川　真司（日医大・千葉北総病院），荻野　祐一（群大大院・医），加古　真祥（早大・理工学），葛西　裕介（早大・理工学），金子　裕（国立精神神経センター・武蔵病院），川勝　真喜（東京電機大学），川端　啓介（前大阪府大・先端科学研），官　振傑（東大・医），菅野　正光（広大・保健学），岸田　邦治（岐阜大・工学部），木村　育美（国立成育医療センター），木村　壮志（早大学・理工学），久保田　雅也（都八王子小児病院），栗城　眞也（北大・電研），黒田　俊道（早大・理工学），後藤　純信（国際医療福祉大・リハビリ），小早川　達（産総研・人間福祉），小林　剛史（文京学院大・人間学），志々田　一宏（広大大院・医歯薬），設楽　直也（群大・耳鼻咽喉），白井　健吾（早大・理工学），関口　貴裕（東京学芸大・教育心理），添田　喜治（産総研・人間福祉），高松　亮介（北大・電研），武井　雄一（群大大院・脳神経精神行動），田代　研之（九大大院・医），田中　絵実（生理研・統合生理・感覚運動），田中　慶太（東京電機大・先端工学），辻　健史（生理研・統合生理・感覚運動），寺田　さとみ（東大大院・医），飛松　省三（九大・医），中川　誠司（産総研・人間福祉），長崎　信一（広大・医歯薬），長峯　隆（京大・医・高次脳機能研究センター），中村　昭範（国立長寿医療センター），中村　仁洋（東大大・医），中村　祐（早大・理工学），中村　舞子（生理研・統合生理・感覚運動），野口　基（生理研・統合生理・感覚運動），橋詰　顕（広大大院・　医歯薬），濱田　泰一（金工大・生命情報学科），原　信子（東大大・医），原田　暢善（産総研・人間福祉），樋脇　治（広島市立大・情報科学），福士　珠美（科学技術振興機構・社会技術研究開発センター），福島　克之（国立病院機構・静岡てんかん・神経医療センター），福田　大輔（早大大院・理工学），藤田　貴子（九大・医・脳研臨床神経生理），伏見　健志（広大・医・保健学），船津　誠也（県立広大・学術情報センター），寳珠山　稔（名古屋大・医・保健），前川　敏彦（九大大院・医・脳研臨床神経生理），前澤　仁志（京大・医・高次脳機能研究センター），萬谷　惇（産総研・人間福祉），水落　智美（東大大院・医），矢倉　晴子（阪大大院・医・保健），山崎　貴男（九大大院・医・脳研臨床神経生理），山田　由美（北陸先端科学技術大学院大学・知識科学），湯本　真人（東大・医・病態診断医学），芳村　勝城（国立病院機構・静岡てんかん・神経医療センター），和坂　俊昭（生理研・統合生理・感覚運動），渡辺　究（早大・理工学），渡邉　昌子（生理研・統合生理・感覚運動），渡辺　裕貴（国立病院機構・静岡てんかん・神経医療センター）

【概要】
　本年の研究会は，参加者が約90名にのぼり，42演題が発表され，極めて活発な議論が行われた。また，約40名の大学院生が参加し，3日間にわたる研究会期間を通じて，若い研究者達の熱心な討論は非常に印象深いものであった。

　生理学研究所に日本で初めての大型脳磁計が導入されてから，15年が過ぎようとしている。その間に，日本では脳磁図研究が著しく進み，現在では，日本は世界で最も脳磁図研究の盛んな国といっても過言ではない。現在は，全国の主要大学の大学病院に脳磁計が設置され臨床応用の試みが盛んに行われている。それと平行して，生理学研究所をはじめとする多くの研究機関にも脳磁計が設置され，ヒトの脳機能の解明を目指して研究が続けられている。

　今回の研究会では，演題は「視覚」，「顔認知」，「聴覚」，「体性感覚」，「嗅覚，味覚」，「運動」，「言語」，「臨床応用」，「工学」といった幅広いジャンルから発表され，わが国における脳磁図研究の裾野の広がりを実感させられた。しかし，脳磁図という共通の手法によって行われた研究ばかりであり，例え自分の専門外であっても十分に理解可能であり，また勉強になる発表ばかりであった。

　この10年間は機能的MRIの熱狂的なブームが，特に米国と英国においておこり，日本でも近年，研究者が著しく増加してきている。しかし，脳磁図の持つ高い時間分解能による時間情報の詳細な検討は，機能的MRIではけして行えないものであり，今後も脳磁図の長所を十分に生かした研究の発展をのぞんでやまない。

統合生理研究系　感覚運動調節部門・教授

柿木隆介

（1）　脳磁図による視覚性運動検出機構の探索（オープニングレクチャー）

金桶吉起（生理学研究所・統合生理研究系・感覚運動調節研究部門）

　“運動がどのような神経機構のもとに視知覚されるか”という問題に，多くの分野の研究者が70年以上も取り組んできた。そして脳磁図という手法がこの研究に使用され始めたのは，わずか10年前のことである。以来多くの脳磁図研究がこの分野の発展に貢献してきたが，それらはかならずしも他の分野（神経生理学，心理学など）の研究者に広く受け入れられているわけではない。その理由のひとつには，脳磁図という手法に対する懐疑心があると思われる。本講演では運動速度の検出機構，運動の空間的統合の神経機構について，我々の研究成果を最新の知見を含めて紹介しつつ，なぜ脳磁図研究が他の分野の研究者に認められにくいのか，またどのようにすれば分野を超えて広く認知されるようになるのかを議論したい。

（2）　『目の動き』に関わる顔輪郭情報の影響

三木研作^1,2，渡辺昌子²，本多結城子^2,3，中村舞子^2,4，柿木隆介^2,3,5
（¹日本宇宙フォーラム，²生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門，
³総合研究大学院大学生命科学研究科，⁴東京慈恵医科大学神経内科，
⁵科学技術振興財団社会技術研究システム）

　我々はこれまで「顔の部分の動き」に対するヒトの運動視中枢（MT/V5野）の活動について脳磁図を用い調べてきた。今回，「目の動き」が単なる「ドットの動き」と区別されるための要因を検討した。

　仮現運動を利用した2条件の視覚刺激を用い誘発脳磁場を測定した。(1) EYES:　模式的な顔の絵（輪郭，目，口）の中で目の部分が動く刺激。(2) DOTS:　EYESより輪郭を除いた刺激。単一等価電流双極子モデルを用い，活動源を推定した。

　全被験者で明瞭な誘発磁場が記録され，活動源は後頭側頭部，MT/V5野付近に位置推定された。活動源の大きさ，頂点潜時，推定位置に関し検討を行った。頂点潜時及び推定位置に両条件で有意な差はなかったが，活動の大きさは，EYESの方がDOTSよりも有意に大きかった。

　ヒトのMT/V5野で「目の動き」に対する特異的な活動が起こりその際顔の輪郭情報が重要な役割を担っている可能性が示唆された。

（3）　表情の変化する顔刺激を用いた脳磁場反応の検討

中村舞子^1,2，三木研作^1,3，渡辺昌子¹，本多結城子^1,4，井上聖啓²，柿木隆介^1,4,5
（¹自然科学研究機構　生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門，
²東京慈恵会医科大学　神経内科，³日本宇宙フォーラム，
⁴総合研究大学院大学　生命科学研究科　生理科学専攻，⁵科学技術振興財団　社会技術研究システム）

【目的】表情認知に関する報告のほとんどは静止画を用いたもので，表情の変化に着目したものは少ない。我々は仮現運動刺激を利用し中性顔から表情顔へ，あるいはその逆へ変化する際の脳活動につき検討した。

【方法】対象は右利き健常成人10名。刺激として中性顔(N)，表情顔（笑顔，H，および嫌悪顔，D），表情を伴わない顔（歯を出す，T，および閉眼，C）の顔写真を用いた。第1刺激(S1)と第2刺激(S2)を連続して提示し，全頭型脳磁計を用いて記録した。

【結果】被験者8例で後頭側頭部に刺激提示後140～200msに最大振幅を持つ反応が得られた。この反応の最大振幅および頂点潜時につき検討したところ，S1間には差を認めなかったが，S2(H，D)で得られた振幅は他のS2よりも大きかった。S2(N)の振幅には先行するS1による差はなかった。

【考察】特定の表情へと変化する動きは後頭側頭部で特異的に処理される可能性が示唆された。

（4）　顔認知における意識閾値以下の刺激の影響

寳珠山稔，柿木隆介
（名古屋大学医学部保健学科，生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門）

【目的】これまでの研究から，ヒトでは視覚刺激としての顔が優位性をもって処理されていることが示されている。刺激はそれが意識にのぼるまでにすでに一定の情報処理がなされていると考えられるが，本研究では刺激としての顔が意識閾値以下の刺激でも優位性をもって処理されていることを示す。

【方法】黒いチェッカー地に赤と緑で描かれた画像と，赤と緑を反転させた同じ画像を高頻度(100Hz)で交互に呈示ことでcolor-opponent flicker effectを用いた視覚閾値以下(subliminal)の刺激を作成することができる。顔，花，ランダムの画像をsubliminal刺激として与え，その後に顔あるいは花の画像を呈示し視覚誘発脳磁場(VEF)を記録した。

【結果】同じ画像がsubliminal刺激として与えられた場合にはVEF成分は大きくなり，その割合は顔刺激でより顕著であり，subliminalな視覚情報処理における顔の優位性を示すものであった。

（5）　球面型生体磁気計測システムを用いた長潜時聴覚応答の記録

太田圭亮，高松亮介，小山幸子，栗城眞也
（北海道大学　電子科学研究所　量子計測研究分野）

　聴覚誘発脳磁界のピークであるP2mは，N1mに比べその特性が明らかになっていない。楽音（ピアノ長三和音）を連続呈示した場合，2～5音目の振幅の減衰はN1mに比べP2mで小さい(Kanda et al., 2004)。本研究では，繰り返しによるN1m，P2m振幅の減衰が刺激音によって異なるかを調べるため，楽音（ピアノ単音A3），言語音（日本語母音/a/，男性話者），純音（楽音，言語音に基本周波数・エンベロープを合わせたもの）に対する脳磁界を計測した。刺激音はそれぞれ長さ312.5msとし312.5msの無音区間を挟み3音連続，HL+40dBで呈示した。計測には北大脳科学研究教育センターの球面型生体磁気計測システムを用い記録した。N1mとP2mが認められる後方極大周辺の12chを選択しRMS値を計算した。その結果，N1m，P2mの2音目以降の減衰率は刺激音により異なる傾向がみられた。

（6）　合成母音刺激による誘発磁場N1mの検討

尾形エリカ，湯本真人，伊藤憲治，関本荘太郎，狩野章太郎，加我君孝
（東京大学大学院　医学系研究科　脳神経医学専攻　感覚・運動神経科学講座）

　昨年本研究会で発表した母音の脳内局在と同様のパラダイムを用い，合成母音刺激による誘発磁場を204チャネル全頭型脳磁計を用いて計測した。F0=130，F3＝2500でF1，F2がa(700，1200)，e(600，1500)，i(500，1800)，o(600，900)，u(500，1200)となる5母音(LowF2条件)と，同じF0，F3を持ち，F1，F2がa(500，1800)，e(400，2100)，i(300，2400)，o(400，1500)，u(300，1800)となる5母音（HighF2条件）をKlatt合成にて作成した。これらを1名の被験者に対して条件毎に擬似ランダムに両耳提示し，eでボタン押しをするよう教示し，各母音150回以上加算した。同様の計測を8回施行し，eを除く各母音に対する誘発磁場N1mの局在推定を行ったところ，前後方向において母音局在の同様な乖離傾向が見られた。

（7）　数字の循環読み上げ音声による聴覚ミスマッチ脳磁場

官振傑¹，湯本真人²，狩野章太郎¹，伊藤憲治³，尾形エリカ⁴，水落智美⁴，加我君孝^1,4
（¹東京大学医学部　耳鼻咽喉科，²検査部，³認知・言語医学，⁴感覚・運動神経科学）

　日本語の数字4の読みにはshi (4s)とyon (4y)があり，昇順では主に前者が用いられ，降順では後者のみが用いられる。我々は1から7までの循環読み上げ音声において，4の読みの違いと順序間違いを低頻度に含む音韻列を用い，ミスマッチ陰性磁場の記録を試みた。計測は昇順と降順の2ブロックで構成され，昇順ブロックは，1→2→3→4s→5→6→7の循環を標準(60%)とし，読みの違い(1→2→3→4y→5→6→7)と順序間違い(1→2→3→4s→5→4s→5→6→7)を擬似ランダムに各20%含む音韻列を用いた。降順ブロックは，7→6→5→4y→3→2→1の循環を標準(60%)とし，読みの違い (7→6→5→4s→3→2→1)と順序間違い (7→6→5→4y→3→4y→3→2→1)を擬似ランダムに各20%含む音韻列を用いた。双方の逸脱刺激により記録されたミスマッチ陰性成分の異同と特徴に関して報告する。

（8）　ミスマッチ陰性成分は多モード内部モデルの予測誤差を反映する

湯本真人¹，伊藤憲治³，宇野彰⁶，狩野章太郎²，金子裕⁴，斎藤治⁵，加我君孝²，矢冨裕¹
（¹東京大学医学部病態診断医学，²耳鼻咽喉科学，³認知・言語医学，
⁴国立精神・神経センター武蔵病院脳外科，⁵精神科，⁶筑波大学人間総合科学）

　ミスマッチ陰性成分(MMN)は，その聴覚オドボール課題による記録様式から，近過去と現在との聴覚環境の変化を検出（バックワード比較）する神経機構を反映すると考えられてきた。我々は，ランダムな音節や音符系列を予告として視覚提示し，これとは不一致となる音を低頻度で含む聴覚刺激と照合する視聴覚間オドボール課題を用い，視聴覚間逸脱音に対してMMN相当成分が記録されることを報告した。このMMNは，時間，相互作用，個人差要因等において従来のMMNとは特性が異なるが，同一の神経基盤に基づく。MMN記録における聴覚オドボール課題は感覚記憶の機能を評価する簡便で優れた計測手法であるが，MMN生成の神経機構は，環境変化の検出よりもむしろ，多モード内部モデルにおける予測誤差検出（フォワード比較）機構として，日々頻繁に機能している。注意下の知覚は予測を不可避的に伴い，多モード内部モデルの適応的更新，即ち学習を伴う。

（9）　疎性を用いたMEGの解析手法の提案

黒田俊道（早稲田大学大学院理工学研究科）

　画像処理の手法の中に，Sparsecordingというものがある。これは対象の画像を限られた基底の中から更に少ない基底を用いて（使用する基底が疎らになるように）再構成する手法である。本研究では，測定によって得られたMEGをその発火位置が疎になるような解析手法を考えている。また，正規分布のような波形の組合せで解を求めることにより，解析結果が滑らかに，時間毎に飛び飛びにならないようにして，より信憑性のある解析手法の解析を目指している。本発表では，手法についての簡単な説明と，この手法を用いての解析結果の報告を行なう予定である。

（10）　深部にあるアルファ波と高周波リズムの発生

川端啓介¹，内野勝郎²，村田和優³，外池光雄⁴，岩木直⁵
（¹前大阪府立大学先端研，²平成医療学園専門学校，³藍野学園短大，
⁴千葉大工学部，⁵産総研関西支所）

　昨年のこの研究会で，閉眼で安静な状態にある被験者のMEG信号に現れる後頭部の強いアルファを解析して，左右の半球に1個づつの活動源があり，そのダイナミックスは90度の位相差を持っていることを述べた。（これは1ケの源が交互に移動すると考えてもよい。）その後求めたdipoleをMR図に落としてみた。それによると，右半球の発生源は脳の中心に近い，非常に深いところにあり，ある時刻ではどの方向の脳壁へも最大50mmぐらいにある。このdipoleは位置座標が浅い方へ周期的に動くのであるが，奇妙なことには，fitting factor g は深いほう（80%以上にも達する）が浅い方よりも大きいのである。これは浅部にはさしたる局部的な活動源がなく，深部での活動源の強度が非常に強いからとみてもよい。これらのデータの信頼性はリズムの周期により再現することからも補強される。さらに，高周波（40Hzまで）での解析を行うと，求められた dipole強度Qが大きくgが相対的に大きい時刻では視床や脳幹上部付近にあることを見出した。この原因としてはアルファ波リズムを誘起する速いImpulse（動物やin vitroの組織で電極を埋め込んだ実験で報告された）の低周波成分が観察されたのではないかと考えている。この様な深部での活動の全体像を掴むことは重要なことである。この更なる発展の可能性についても御討論を乞いたい。因みに使用した産総研のMEGは0.1-100Hz，400Hzサンプリング，digital filterは9-40Hzである。

（11）　MEG40Hz成分の位相同期の計測とそのモデル化の試み

田中慶太，川勝真喜，根本幾（東京電機大学）

　本研究では，40/sで断続するチャープ音に対する脳磁界を計測し，40Hz成分のphase coherence を求めた。この40Hz成分には自発成分（ガンマ波）と，40/sの頻度の音刺激に対する定常応答が含まれると考えられるが，簡単な考察により，刺激によるphase coherence の上昇は誘発反応のみでは説明できないことが分かる。そこで，自発成分の位相が刺激に同期していると考えられるが，自発成分と誘発成分を分離するのは困難である。ここでは分離はひとまず置いて，現象論的に位相の振る舞いを記述するため，応答の40Hz成分をa(t) exp{i(2p40t+j (t))}とした。a(t)の変化は位相j(t)の変化より十分遅いと仮定し，位相に対する微分方程式モデルを構築した。このモデルによって計算されるphase coherenceとその実測値との比較などにより，モデルに含まれるパラメータの推定を行った。現在，実験条件とパラメータの推定値との関係などを調べている。

（12）　随意運動後のb帯域同期と性格傾向の相関

志々田一宏¹，橋詰顕²，小野田慶一¹，山下英尚¹，岡本泰昌¹，山脇成人¹
（¹広島大学大学院　医歯薬学総合研究科　精神神経医科学，
²広島大学大学院　医歯薬学総合研究科　脳神経外科学）

【目的】随意運動後に中心溝周囲に生じるb帯域の同期(post-movement beta synchronization：PMBS)は，皮質の抑制機能や皮質-皮質下回路の機能を反映すると考えられている。一方，衝動性・損害回避傾向といった個人のもつ性格や気質も，同様の脳機能の表現の一つとして捉えることができる。そのため今回，質問紙を用いて評価した性格傾向とPMBSの関連を調べた。

【方法】右利き健常者35名が自己ペースで右示指の随意運動を行っている時の脳磁場を記録。EMGをトリガーとしてb帯域の周波数解析を行った。性格傾向の評価としてTemperament and Character Inventory(TCI)を用いた。

【結果】右半球のPMBSのmagnitudeは，TCIの新奇性追求尺度と負の相関を示した。右半球のPMBSピーク潜時はTCIの新奇性追求尺度と正の相関を示した。

【考察】運動抑制機能が新奇性追求の高さ（≒衝動性）などの性格傾向に関与している可能性が示唆された。

（13）　運動準備過程における一次および二次体性感覚野活動の時系列的変動

和坂俊昭¹^,2，柿木隆介¹
（¹自然科学研究機構　生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門，²日本宇宙フォーラム）

　随意運動遂行に関連して一次体性感覚野(SI)の活動は減少するが(gating)，二次体性感覚野(SII)の活動については解明されていない。本研究では，脳磁図を用いて自発的指伸展動作の準備過程におけるSIおよびSII活動の時系列的変動を検討した。右手首に連続的に提示される電気刺激を無視しながら，被験者には自発的な右第二指の伸展動作を行うよう指示した。準備過程は筋放電前3000msまでを5区間に分割し，各区間におけるSIとSII活動を比較すると，筋放電前500msではSI活動(P30m)は有意な減少を示すのに対して，運動と反対側のSII活動は有意な増大を示した。準備過程にみられるSIとSIIの変動は，運動遂行に関与する運動関連領域からの遠心性投射が原因と考えられるが，この投射による影響はSIとSIIでは異なることから，随意運動遂行におけるSIとSIIの機能的役割が異なることが示唆された。

（14）　刺激における不調和さの視覚誘発脳磁図反応に対する影響の検討

原田暢善¹，岩木直¹，外池光雄²
（¹産業技術総合研究所関西センター　人間福祉医工学部門，²千葉大学工学部　メディカルシステム工学科）

　刺激における不調和さの視覚誘発脳磁図反応に対する影響の検討を行った。動物の線画を用いて，動物の首の挿げ替えにより，視覚刺激の不調和さを，低不調和（正常映像），中不調和，高不調和の三段階に変化させた映像を作成し，線画刺激の不調和さの視覚誘発脳磁図反応に対する影響について検討を行った。側頭領域のチャンネルの加算平均波形の約170-300msの成分において，視覚刺激の不調和さの減少にともない反応強度が増大する傾向を示すことが明らかとなった。すなわち，側頭領域の約170-300msの活動の変化は，実生活の経験で形成された，視覚的なトレースの存在が活動の変化に反映したものであると考えられ，それが，脳磁図反応を増加させる方向に作用したと考えられた。不調和さの低下にともない反応が増大する結果は，先行するfMRIの研究の結果と丁度逆の結果であり，血流量の増加減少では捕らえることの出来ない，脳磁図反応において検出しえた結果であると考えられた。

（15）　Random-dot motionからの3次元構造知覚に関連する脳内過程

岩木直¹，外池光雄²，John W. Belliveau³
（¹産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門，
²千葉大学工学部　メディカルシステム工学科，³Massachusetts General Hospital）

　透明の球面上に配置された多数のドットを中心軸周りに回転運動をさせ，それを二次元平面に投影したものを観察すると，二次元平面上のランダムドットの動きから，奥行きのある三次元の球状構造が知覚される。我々はA) 三次元球の回転，B) 二次元円盤の回転，C) ランダムな運動が知覚される3種類の視覚刺激を呈示し，被験者のMEG計測を行った。 LCMV型空間フィルタを用いて誘発MEGデータから脳内神経活動の時空間特性を可視化するとともに，Wavelet変換を用いた時間-周波数解析により自発脳活動の刺激に同期した変化を定量的に評価した。この結果，parietal，parieto-occipital，およびoccipito- temporal領域で，三次元物体知覚条件(A)における誘発活動の有意な増大(140-260ms)およびa・b帯域における自発活動の有意な減少(ERD)が同時に観測された。

（16）　種々の第2次仮現運動に対するヒト脳反応

田中絵実，野口泰基，金桶吉起，柿木隆介
（生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門）

　属性の異なるsecond-order motionを処理する共通メカニズムの存在を検討するために，3種類のsecond-order (contrast， texture， flicker)と1種類のfirst-orderの仮現運動に対するMEG反応を比較検討した。Motion onset反応の第1成分のピーク潜時・振幅には，各属性間で反応特性に違いが見られたが，その信号源はMT+付近に推定された。また，second-orderにfirst-orderを重ねた mixed motionに対しては，contrastが他のsecond-orderとは大きく異なる反応特性を示した。よって，どの属性のmotionもMT+の活動を必要としているが，その活動様式は異なること，first-，second-order間の相互作用もsecond-orderの刺激属性によって異なることが示された。

（17）　Prader-Willi症候群の体性感覚誘発磁場所見－Angelman症候群との相違について－

江川潔¹，朝比奈直子¹，白石秀明¹，須藤章¹，香坂忍¹，斉藤伸治¹，中根進児²，有働康代²
（¹北海道大学大学院医学研究科小児科，²北海道大学病院臨床検査部）

【目的】Prader-Willi症候群(PWS)，Angelman症候群(AS)は15q11-q13上の父性，母性発現遺伝子を各々原因とする遺伝性疾患である。両者とも多くはGABA_A受容体関連遺伝子を含む広範な染色体ヘテロ欠失により発症し，その親由来のみを相違とする。また少数は欠失を伴わずに発症する。昨年ASの体性感覚誘発磁場(SEF)において，N1mの著明な遅延を欠失例のみに認めGABA_A受容体関連遺伝子が関与する可能性を報告した。今回PWSのSEFを検討した。

【方法】PWS欠失例3例，非欠失例2例の正中神経刺激によるSEFを全頭型脳磁計にて測定した。

【結果】5例のN1m潜時は18.0-21.2m（中央値19.1ms）と正常であった。N1m，P1m成分の多くは低反応であり，遺伝的機序による差異はなかった。PWSとAS欠失例ではGABA_A受容体関連遺伝子欠失の関与は異なると考えられた。

（18）　聴覚性のてんかん発作を有するてんかん患者の脳磁図

福島克之，仲野久美子，芳村勝城，渡辺裕貴
（国立病院機構静岡てんかん神経医療センター）

【目的】聴覚発作の脳波・脳磁図所見の特徴について報告する。

【対象】脳磁図検査を行ったてんかん635人から，聴覚発作を示す患者を抽出し，発作症状，脳波所見，脳磁図所見について検討した。

【結果】本結果では典型的な聴覚発作の頻度は，部分発作を持つてんかん約600人中3人(0.5%)であった。大脳皮質の機能局在を反映する部分発作の中で，聴覚発作は，音が低く（高く）感じる，耳鳴りなどの症状で起始し10数秒から1-2分持続し消失する。時にはこの聴覚症状に引き続き意識が曇り，稀には全身のけいれん発作へ進展する。脳波では側頭部を中心に鋭い棘波が反復性に出現する傾向がみられた。脳磁図ではdipoleがHeschl横回に顕著に集積する特徴がみられた。

【結論】聴覚発作は比較的稀な発作である。脳磁図dipoleがHeschl横回に際立つ特徴から，Heschl横回のてんかん性活動が聴覚発作と関連していることが示唆された。

（19）　短周期ペア刺激の聴覚誘発M50回復に反映される統合失調症の左半球機能異常

湯本真人¹，斎藤治⁴，宇野彰⁶，伊藤憲治³，宇川義一²，金子裕⁵，矢冨裕¹
（¹東京大学医学部病態診断医学，²神経内科学，³認知・言語医学，
⁴国立精神・神経センター武蔵病院精神科，⁵脳外科，⁶筑波大学人間総合科学）

　統合失調症患者，健常者各10名を対象とし，持続10msの2kHz純音による8種類のペア刺激S1-S2（間隔 50，70，100，150，200，300，500，700ms）をペア間隔1.4-1.6sで等確率ランダムに両耳提示し，誘発脳磁場を各100回以上加算記録した。ペア間隔700ms時のS1に対する誘発成分をS1反応とし，S1-S2誘発波形からこれを減算した残存S2誘発成分をS2反応として，S1のM50推定電源による両反応の電源強度波形を比較した。両波形の潜時0-200ms間の相互相関係数は，ペア間隔が短くなる程低下(p<0.01)したが，左半球で健常群に比し患者群が有意な低下(150，500msにてp<0.05)を示した。健常群のM50回復率は両半球ともS字曲線を示したが，左半球で患者群が有意な低下(200，300msにてp<0.05)を示し，統合失調症の左聴覚野機能異常が示唆された。

（20）　左痙性不全片麻痺の患者にみられたmirror movementについて

久保田雅也，木村育美，広瀬宏之，榊原洋一
（都立八王子小児病院小児内科，成育医療センター，お茶の水女子大学）

　症例：27才男性。周生期の詳細不明だが7ヶ月より“左手を使わず握っている”ことに気付かれ，左痙性不全片麻痺と診断された。右上肢の使用時左上肢にmirror movementが出現した。今回，MEG，tractography，fMRIにてmirror movementの発症機序について検討した。MRI上右脳室拡大を認めた。内包後脚を起点としたtractographyでは右錐体路線維は左と比較し，細く粗であった。右正中神経刺激での体性感覚誘発磁場の計測で刺激をトリガーに左手を握る課題を加えると左半球での中潜時成分のダイポールが中心溝より前方へ移動した。左手の運動でのfMRIでは右運動野での反応が大きかったが同側（左半球）の反応は検出されず。このmirror movementは左錐体路の同側支配が発達上強化されたものと思われるがMEG，tractographyの結果はそれを示唆する所見であった。

（21）　においの知覚に及ぼす認知的要因の効果－MEGおよび脳波の同時計測による検討

小林剛史^1,2，小早川達²，秋山幸子^2,3，戸田英樹^2,4，斉藤幸子^2,5
（¹文京学院大学，²産業技術総合研究所，³日本体育大学，⁴筑波大学，⁵斉藤幸子味覚嗅覚研究所）

　嗅覚系の知覚，順応/慣化過程には，生体内外の多様な変数が関与している。嗅覚刺激の濃度，温度，湿度，持続時間といった生体外の要因は，嗅覚提示装置の発達によってかなり厳密な統制が可能になった。一方で，生体内の要因，即ち嗅覚刺激が受容体に結合する末梢レベルと，その信号がより高次に処理される中枢レベルの機能の分離検討は極めて困難である。しかし，我々は刺激提示条件の統制によって末梢レベルに及ぼす影響を相対的に減少させることで，中枢レベル特有の機能を特異的に検討する可能性を見いだした。具体的には，可能な限り嗅覚刺激提示時間を減少させる条件を構築した上で，当該刺激に対して2種類の情報提示（ポジティブ情報vs.リスク情報）を行った。その結果，情報の内容に依存して有意な感覚強度および順応/慣化過程の差が生じた。現在，この差に関わる脳内過程を検討するために，同条件でMEGおよび脳波の同時計測を行っている。

（22）　逃したくない被験者をなんとか計測する方法

小早川達¹，小見山彩子²，池田稔²，戸田英樹¹
（¹産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門，²日本大学医学部）

　我々のグループは昨年の発表において，両側の弧索神経が切断された被験者を用い，高濃度の食塩水が三叉神経に与える影響についての報告を行った。しかしこのような両側の弧索神経が切断された被験者の数は少ない上に，高齢者が多い（本実験に用いた被験者の平均年齢は63.8歳）。そのため歯の詰め物などによるアーチファクトが発生する可能性が高く，本実験においては4人中2人にアーチファクトが認められた。そこで本実験ではこのようなチャンネル間で相関が高い（同期している）信号に対して，小林らが提案した（小林哲生，栗城真也：多チャネル誘発脳磁界計測における自発脳磁界成分低減の検討，信学技報 1996-06，pp7-12）主成分分析を用いてこれらのアーチファクトの除去を試みた。本発表ではこれらの手法を用いた場合のデータの質の改善の程度やその問題点について検討を行う。

（23）　音楽の基本構造の認知に関わる神経的基盤の解明：MEG計測による検討

大塚明香，長谷川寿一，栗城眞也
（東京大学　21世紀COEプログラム「心とことば－進化認知科学的展開」，
北海道大学　電子科学研究所）

　本研究は，音楽における調性・韻律システムの脳神経活動への影響を調べる事を目的としている。音楽の理論的な基本構造である4及び5音の和音進行列をピアノ音で生成し，終結部を完全終止(PC)，進行の途中で係留する半終止(HC)，曖昧に終止する偽終止(MC)の3種類に変化させ，これを被験者に提示した時のMEG信号を計測した。第1音目提示後，2音目以降の和音により誘発されたN1m/P2m反応の強度は一旦減少したが，PCとMCでは終結部へむかって回復を示した。また，PCの最終和音である主和音は，MCの最終和音である関係短調和音よりも大きな反応を誘発した。更に，HCとMCの最終和音提示の1拍後の無音期間に，もう1音を期待した為に内的に誘発されたと思われる反応が観察された。これらの結果は，調性・韻律システムの影響を示すものと考えられ，更にトップダウンの認知処理の関与を示唆すると提案される。

（24）　調性音楽における和音の階層構造と脳磁場の関係

福田大輔，大塚明香，栗城眞也，福田正人，村田昇
（早稲田大学大学院　理工学研究科　電気情報生命専攻）

　本研究は，調性音楽における和音(chord)の階層構造と脳神経活動との関連を調べることを目的とする。刺激はKrumhanslの提案したprobe-tone methodに従って作成した。まずピアノ音による2オクターブの長調または短調の上昇音階(scale)により調性を確立させた後，主和音(tonic chord)または関係調和音(relative chord)を提示した。被験者には提示した上昇音階に対して，後に続く和音が安定して感じられるか否かを判断してスイッチを押す，という課題を与え，MEG装置（エレクタ）により脳磁図を計測した。長調音階の場合，和音のN1m反応の振幅は，主和音よりも関係調和音の方が大きくなるという傾向が見られた。さらに詳しく見るため，音階と和音の組み合わせによってN1m/P2m反応にどのような違いが現れるかを，分散分析を用いて解析している。

（25）　音色のカテゴリー知覚の聴性誘発N100m潜時への反映

水落智美¹，湯本真人²，狩野章太郎³，伊藤憲治⁴，山川恵子⁴，加我君孝^1,3
（¹東京大学大学院医学系研究科感覚運動神経科学，²東京大学医学部付属病院検査部，
³東京大学医学部付属病院耳鼻咽喉科，⁴東京大学大学院医学系研究科認知・言語医学）

　スペクトル包絡は音色の定常的な要素を構成し，音の重要な情報を伝える。3つのカテゴリー(vocal， instrumental，linear)のスペクトル包絡と，2つの基本周波数(F0)以外は音響要素が全て一致した24種類の複合音を無視条件下で両耳提示し，誘発されるN100mのカテゴリー内での動態を潜時に注目して分析した。その結果，F0による有意差はvocalではみられずinstrumental及びlinear (nonvocal)で両半球にみられ，刺激音間での有意差はvocalでは両半球，nonvocalでは右半球のみでみられた。また，個々の音についての検定では，vocal全てとnonvocalの一部の音でF0非依存性が確認され，カテゴリーごとの特徴はみられなかった。以上より音色のカテゴリーには，vocalとnonvocal，F0依存性と非依存性の2つが存在していることが示唆された。

（26）　体性感覚誘発磁場における素のインパルス応答への一考察

岸田邦治¹，横田康成¹，深井英和¹，篠崎和弘²，石井良平³，鵜飼聡³
（¹岐阜大学工学部応用情報学科，²和歌山県立医科大学精神医学教室，
³大阪大学大学院医学研究科神経機能医学講座）

　独立成分解析で処理後，フィードバックシステム論的手法を用いて体性感覚誘発磁場のSQUIDチャンネル間の伝達関数とそのインパルス応答をこれまで同定してきた。伝達関数は数理学上からは満足できるものであったが，左右半球にある活動部位間のそれらには生理学上から期待される時間遅れがほとんどみられなかった。この原因として，同定した伝達関数は期待する素の伝達関数でなく合成伝達関数である可能性があること，また，SQUIDデータはlead fieldで異なる脳内活動部位の磁場が混合されたためであった。そこで，脳内活動部位の電流源データに変換するために優決定型問題として逆問題を解き，その後，素の伝達関数を得る確率を高めるために4成分のフィードバックモデルを用いて脳内電流源データを解析した。その結果，期待される時間遅れを持つインパルス応答がSIと反対側にあるSIIらしき部位間で見られた。

（27）　Statistical Parametric Mappingを用いたMinimum Current Estimationの
電流源推定結果の標準脳化

橋詰顕，栗栖薫，飯田幸治，白水洋史，志々田一宏，小野田慶一
（広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻先進医療開発科学講座）

【目的】fMRIやPETでは被験者の脳活動部位を標準脳座標に変換する手段としてStatistical Parametric Mapping (SPM)というMathWorks社製行列演算ソフトウェアMatlabで動作するツールを用いている。脳磁図のデータもSPMを用いて標準脳化を行えるようにする。

【方法】Neuromag社製脳磁計Neuromag Systemで計測した脳磁図データを，L1ノルム推定ソフトウェアMinimum Current Estimation (MCE)で電流源推定を行った。被験者のMRI画像を脳磁図のHead Position Indicator 座標上の解剖画像データに変換，MCEの推定結果を機能画像データとし，SPM上に展開した。

【結果】MCEのデータの標準脳化に成功した。

【結論】本法により脳磁図のデータの被験者間における統計学的検討が可能となった。

（28）　電流源の方向を大脳皮質表面に垂直に限定した脳内活動源推定法の開発

樋脇治¹，樋口信司¹，早見武人¹，橋詰　顕²，栗栖　薫²
（¹広島市立大学情報科学部，²広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻先進医療開発科学講座）

　大脳の神経活動に伴う脳磁界の主な発生源は，大脳皮質の表面に対して垂直に配列した錐体細胞であり，個々の錐体細胞の細胞内電流が加算的に生じたときに頭外で計測されるような大きさの磁界が発生すると考えられている。本研究では，このような考えに基づき，脳磁界の発生源を大脳皮質表面に垂直に配列した電流源に限定し脳内活動源の位置を推定する方法の開発を試みた。各被験者の頭部MR画像を用いて大脳皮質表面に垂直な電流源を予め配置し，計測された脳磁界からそれぞれの電流源の大きさをL2ノルム最小化法により推定することにより脳内活動源を求めるソフトウェアを構築した。この手法の妥当性を確認するために体性感覚誘発磁界についてECD法で求めた電流源との比較検討を行なった。

（29）　体性感覚二点刺激によるMMNm反応

赤塚康介，柿木隆介
（生理学研究所　感覚運動調節研究部門，総合研究大学院大学　生命科学研究科）

　聴覚刺激を用いたミスマッチ反応に関する研究は広く行われているが，体性感覚刺激を用いた研究は少ない。そこで，本研究においては体性感覚刺激を用いたときのミスマッチ反応について二点識別刺激を用いて検討した。はじめに二点識別閾(DT)を測定し，体性感覚二点刺激によるミスマッチタスクを行った。標準刺激として，二点間の距離をDT minus (DT×10 %)，逸脱刺激としてDT minus (DT×20%)，DT plus(DT×10%)，DT plus (DT×100%)に設定し3条件を行った。逸脱刺激DT minus(DT×20 %)時に波形が150-250 msで有意に増大し，DT plus (DT×100 %)時に波形が30-70 ms，150-250 msで有意に増大した。今回の研究により，体性感覚刺激においてもミスマッチ反応が起こることが示唆された。

（30）　痛覚関連体性感覚誘発脳磁場に対する睡眠の影響

王暁宏，乾幸二，柿木隆介
（生理学研究所感覚運動調節研究部門）

【目的】痛覚関連体性感覚誘発脳磁場に対する睡眠の影響について検討した。

【方法】10名健常被験者の左手背に痛み刺激を与え，37チャンネル脳磁計二基(Bti)を用いて覚醒時と睡眠時脳磁場を記録した。記録脳磁場を多信号信号源解析法BESAを用いて解析した。

【結果】覚醒時に，刺激対側半球と同側半球では明瞭な磁場成分1Mと1M(i)が記録された。平均頂点潜時は対側で148ms，同側157msであった。多信号信号源解析を行うと，対側の第一次体性感覚野(SI)，両側の第二次体性感覚野(SII)と島(Insula)，同側の内側部側頭葉(MT)及び帯状回(ACC)に活動源が認められた。対側のSI，SII，島の頂点潜時は約150msで，1M成分に，同側のSIIと島の頂点潜時は約160msで，1M(i)成分に相当すると考えられる。一方，MTとACCの頂点潜時は約190msで，1Mより遅い磁場成分にMTとACCからの活動が含まれると考えられる。すべての活動源の活動は，睡眠時にほぼ消失した。

【考察】SI，SII，島，ACC及びMTの脳活動は全て，痛覚認知に関連することと考えられる。

（31）　高頻度反復刺激による視覚誘発脳磁場反応：健常若年成人と老年者での検討

後藤純信^1,2，飛松省三^1,2
（¹国際医療福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科，²九州大学大学院医学研究院脳研臨床神経生理）

【目的】高頻度反復刺激(HRS)で誘発される視覚誘発脳磁場(VEF)の反応特性を検討する。

【方法】対象は健常若年成人10名と老年者6名。半側視野に格子縞（格子50分，刺激時間1秒，刺激間隔1.5秒）を呈示し，刺激頻度4Hz（8回反転/秒）でVEFを記録した。200回加算平均し，単一電流双極子(ECD)の発生源を推定した。

【結果】transient型反応(TR)のP100mとそれに続くsteady-state型反応(SS)を認めた。P100m潜時は平均130 msで，SSをフーリエ分析すると刺激頻度に対応した反応を認めた。TRとSSのECDはいずれも刺激視野対側後頭葉に推定され，SSの方が広く分布していた。この傾向は老年者でより明瞭であった。

【考察】HRSでは，TRの潜時と振幅（時間情報）のみならずSSの位相と振幅（時間と周波数情報）を定量分析でき，多面的に視覚機能変化を評価できる。

（32）　時間表象の形成に関する脳内メカニズム

野口泰基，柿木隆介
（生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門）

　目の前に視覚刺激が提示された時，我々の脳はその刺激がどのぐらいの時間提示されていたかを感じることができる。このような感覚を時間感覚と言うが，その形成に関わる脳内のメカニズムは殆ど解明されていない。本実験では脳磁計を用いて視覚誘発脳磁場(VEF)を計測し，そのonset反応とoffset反応の時間差から算出した刺激の「脳内時間」を，同じ刺激に対して被験者が感じた主観的な時間の長さ（心理物理的手法で計測）と比較した。その結果，①ある特定の状況下では両者の間に乖離が生じること，②このような乖離状況においては，onset-offset間の時間差よりもVEFの振幅の方が主観的な時間の長さと深く関係していること，の2点が示された。以上の結果は，人における時間感覚が，視覚野の神経活動における時間的な情報だけではなく，神経反応そのものの強さも加味して形成されていることを示唆する。

（33）　日本語単語（漢字）と英語単語の黙読時における左右側頭後頭葉の活動について

寺田さとみ¹，中村仁洋²，原信子²，湯本真人³，宇川義一¹
（¹東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経内科，
²東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻音声・言語医学，³東京大学医学部病態診断医学）

　視覚呈示された言語に対しての脳活動については，一次視覚野の活動に続いて側頭後頭葉に活動が観察されることが知られている。この経路については，英語と日本語で異なる経路が使われている可能性が，fMRIの研究などで示唆されている。今回は健常者を対象にして，英語と日本語（漢字）の単語をを視覚呈示し，誘発脳磁場を各100回以上加算した。日本語はNTTデータベースシリーズ，英語はMRC psycholinguistic databaseより，単語親密度が一定以上で，文字数が一定範囲内の語を選択し，呈示は0.5sec，ISIは3secとし，自然・非自然の判断をボタン押しをさせながら黙読させた。左右側頭後頭葉（紡錘状回）における活動について，言語間，半球間の検討を行った。

（34）　音の中心周波数と帯域幅に関わる脳磁界反応

添田喜治，中川誠司
（産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門）

　音に関わる脳磁界反応において，純音やその複合音を用いてピッチ（音の高さ）との関連性，特にtonotopy（周波数局在機構）に関連する研究はよく行われている。しかし，等しい音圧レベルであっても音の高さ（周波数）が変われば，心理的な音の大きさ（ラウドネス）が変わることはよく知られているが，このことに関連する脳活動を調べた研究は少ない。本研究では，等音圧レベル下での周波数に対応する脳活動，特に反応強度に注目し，1オクターブバンドノイズ，1/3オクターブバンドノイズ，帯域幅130 Hzの音を用い，中心周波数を250 Hz～8000 Hzの間で変化させた時の脳磁界計測を行った。刺激は，継続時間0.5 s，刺激間間隔1.5 sでランダムな順序で呈示し，各刺激について50回以上の加算平均を行った。解析の結果，中心周波数1000 Hz付近でN1m反応が大きくなる傾向が見られた。

（35）　高周波可聴音の立ち上がり時間が聴覚誘発脳磁界に及ぼす影響

萬谷惇^1,2，中川誠司¹，小谷賢太郎³，堀井健³
（¹産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門，²関西大学大学院工学研究科，
³関西大学工学部システムマネジメント工学科）

　ヒトの聴覚脳機能研究は，主に音声周波数領域(～5000Hz)の音の処理に関して行われてきた。5000Hz以上の高周波音は，音声知覚よりも音源定位などにおいて重要な役割を果たすといわれており，聴覚皮質の活動にも低周波音との違いが表れる可能性がある。我々は16000Hzまでの高周波音の呈示が可能な刺激装置を開発し，高周波音に対する聴覚誘発脳磁界の計測を行っている。今回は，刺激音の立ち上がり時間が聴覚誘発脳磁界に及ぼす影響を検討した。立ち上がり時間を変化させた刺激音に対する聴覚誘発脳磁界を計測し，高周波音と低周波音との間で比較を行った。その結果，低周波音においては立ち上がり時間の増加に伴いN1mの振幅が減少し，潜時が増加する傾向が見られた。一方，高周波音においては一概にそのような傾向は見られなかった。

（36）　高周波可聴音および骨導超音波に対する聴覚誘発脳磁界の計測

中川誠司
（独立行政法人産業技術総合研究所　人間福祉医工学研究部門）

　骨導で呈示された周波数 20000 Hz 以上の高周波音（骨導超音波）は，聴覚健常者はもとより重度感音性難聴者にも知覚されるが，そのピッチは周波数にかかわらずほぼ一定で， 10000～14000 Hz の気導音のピッチに相当する。一方，5000 Hz 以上の高周波可聴音に対する聴覚野の活動に関する報告は少なく，その機序については未解明な部分も残されている。本研究では，16000 Hz までの高周波気導可聴音および30000 Hz 骨導超音波トーンバーストに対する聴覚誘発脳磁界計測を行い，聴覚野の活動を検討した。 500～12000 Hzの気導音に対しては聴覚野内でのトノトピシティが認められた。また，対側刺激と同側刺激ではトノトピシティの方向に差異が見られた。骨導超音波に対する活動部位は，ピッチおよびラウドネスのほぼ等しい高周波気導音と有意に異なっており，それぞれの知覚メカニズムの差異を示唆する結果となった。

（37）　ゆらぎを持つ光源に対する心理的プリファレンスと大脳活動との関係

岡本洋輔^1,2，中川誠司²，矢野隆¹，安藤四一¹
（¹熊本大学大学院自然科学研究科，²産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門）

　ゆらぎを持つ光源に対する心理的好ましさと大脳活動との関係について検討を行なった。視覚刺激として輝度の時間的変動の様子が異なる5種類の刺激を用意した。まず心理実験を行い，それぞれの刺激に対する心理的好ましさの度合い（プリファレンス尺度値）を測定した。次に心理実験の結果を基に，被験者ごとにプリファレンス尺度値の最も高い刺激と低い刺激を選択し，それらの刺激を提示している間の大脳活動を全頭型脳磁計を用いて計測した。計測された脳磁界のアルファ波帯域の自己相関関数を解析した結果，プリファレンスの低い刺激を提示した場合に比べて，プリファレンスの高い刺激を提示した場合に左後頭部付近で自己相関関数の有効継続時間が有意に長くなった。このことは，プリファレンスの高い刺激を提示したときに，左後頭部でのアルファ活動が時間的により安定していることを示している。

（38）　視覚逆方向マスキングの有無による脳活動の変化

川勝真喜，阿部雅也，田中慶太，小谷誠（東京電機大学）

　単独で呈示されれば認知可能である視覚情報の認知が，時間的に連続して後から入ってくる視覚情報によって影響・阻害される事があり，視覚逆方向マスキング現象として知られている。本研究ではマスク効果有りとマスク効果なしの2種の刺激を用意した。この刺激を用いて単語・非単語弁別課題中の誘発脳磁界を計測し，認知阻害度の違う場合の脳磁界反応の差異を検討した。単語・非単語弁別には，少なくとも形態処理と意味処理が行われる。マスク効果がある場合には形態処理は行われるが意味処理は行われないと考える事ができる。つまり，現れる差異は形態処理以降の文字に関する処理であると考えた。実験の結果，マスク効果の条件間の反応の差は主に潜時200ms近辺以降の左側頭部等にみられた。

（39）　脳磁図，網膜電図同時記録による視覚野初期応答潜時の検討

乾幸二，三木研作，金桶吉起，柿木隆介
（生理学研究所　統合生理研究系　感覚運動調節研究部門）

【背景，目的】体性感覚や聴覚誘発皮質活動に比べ，視覚領域では皮質初期反応の潜時について報告が一致していない。網膜電図と脳磁図を同時記録することにより，フラッシュ刺激に伴う信号が皮質に到達するタイミングを検討した。

【方法】フラッシュ刺激を右眼に与え，BTi社製脳磁計1基を用いて後頭部より誘発磁場を記録した。網膜電図は，右下眼瞼より記録した。両者とも500回の試行を加算し，解析に用いた。

【結果】最初の誘発磁場成分(1M)は，立ち上がり潜時が刺激後26ミリ秒，頂点潜時が37ミリ秒であった。単一双極子モデルによる解析では，責任部位は第一次視覚野付近に推定された。網膜電図では，19ミリ秒で陰性頂点となるa波と，60ミリ秒で陽性頂点となるb波が記録された。a波の頂点潜時と1Mの立ち上がり潜時には有意な相関が認められた(p=0.0013)。

【考察，結論】網膜電図で最初に記録される電位，photoreceptor current，は一定した陰性電位であり，陽性へ向かう電位の出現（a波頂点）は，信号が視細胞から網膜内側へ伝えられるタイミングをほぼ反映する。1Mはa波より7ミリ秒遅れて出現し，網膜－皮質間の伝導時間を考慮すると，皮質での最初の活動と考えられる。

（40）　漢字，ハングル文字呈示による言語優位半球の同定－周波数解析とフラクタル次元解析の比較－

金子裕，岡崎光俊，湯本真人
（¹国立精神神経センター武蔵病院脳神経外科武蔵病院神経外科・臨床検査部，
²国立精神・神経センター武蔵病院精神科，³東京大学医学部附属病院検査部）

　漢字およびハングル文字を視覚呈示し，漢字に対しては黙読する課題を行った。Neuromag社製VectorViewを用いてMEGを測定し，raw dataに対して数理解析を行った。周波数解析では，短潜時FFT解析によってnon-phase locked synchronization/desynchronizationを求め，漢字刺激とハングル文字刺激で統計的有意差の得られた潜時・周波数・チャンネルをマッピングした。フラクタル次元解析では解析ウィンドウをずらしながらフラクタル次元の経時的変動を求め，統計的有意差の得られた潜時・チャンネルをマッピングした。周波数解析には周波数の選択に恣意性があったが，フラクタル次元解析には恣意性がない。右利きの16名の健常者を被検者に実験を行い，その結果を報告する。

（41）　日本語における母音無声化の脳内表現

船津誠也¹，今泉敏¹，橋詰顕²，栗栖薫²
（¹県立広島大学，²広島大学医学部）

　日本語における母音無声化においては，無声化した母音（無声化母音）と無声化していない母音（非無声化母音）は音韻論的には異音の関係にあるとされているが，両者は音響的にはかなり異なっている。このような音響的には全く異なる無声化母音と非無声化母音が脳内で如何に処理されるかについて，いまだ明らかになってはいない。本研究においては，無声化母音と非無声化母音が脳内で如何に処理されるか，異なる音素を処理する場合とは異なるのかを明らかにするために脳磁図を用いミスマッチ反応(MMF)を計測した。音素が異なる条件では，左半球のECDモーメントが右半球より有意に大きかった。一方，無声化―非無声化条件では右半球が左半球より大きい傾向が見られたが有意差はなかった。この条件の場合には，音声学的識別を伴っていることから左半球もある程度賦活され，左右の半球差が小さくなったと解釈された。

（42）　発話理解時における感情認知処理過程－MEGを用いた検討

矢倉晴子¹，外池光雄^2,3，中川誠司²，岩木直²，西原玲子¹，荻野敏¹
（¹大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博士後期過程統合保健看護科学分野，
²千葉大学工学部メディカルシステム工学科，
³独立行政法人産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門）

　情緒的プロソディ認知能力(Emotional Prosody Recognition:EP)とは発話において「喜び」「悲しみ」といった感情を理解する能力のことである。このEPが関与する事象関連電位(ERP)について，オドボールパラダイムによるP300成分の関与が多く報告されているが，EP処理そのものに関する脳活動と詳細な場所情報について明らかにされていない。そこで我々は，時間と空間の両方の見地から解析可能な脳磁界計測(Magnetoencephalography：MEG)を用い，音声の感情的な特徴に注目する課題(E-task)と，語頭音に注目する課題(P-task)の脳活動を推定した。その結果，EP処理に含まれる注意に関与した脳活動が，右側頭葉後部における刺激開始後0.18sという非常に早い時間に生じることを示唆した(E-task>P-task**，**; p.<0.01)



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