生理学研究所年報 第28巻
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統合バイオサイエンスセンター

時系列生命現象研究領域

【概要】

 研究室発足後5年目となり,おもに岡村教授らを中心とする電位依存性チャネルなどをはじめとする電位センサー蛋白の動作原理と生理機能の解析と,東島准教授らを中心とする,神経回路形成機構の解析について,安定した研究体制が確立しつつある。今年もイオンチャネル関連分子の解析と,運動機能に関わる神経回路機能の解析を進めた。これまで電位センサーはイオンチャネル固有の構造で膜電位シグナルは細胞膜を介するイオンの出入りを基盤とすると考えられてきたが,我々は電位センサーとホスファターゼを一分子内に併せ持つ新規分子(Ci-VSP)を同定し,その動作原理の解明を行った。更に最近見出された電位センサードメインのみをもつVSOP1の電位依存性プロトンチャネルとしての機能を解析した。これらの蛋白の存在は,膜電位シグナルが従来知られてきた以上に幅広い現象に関わる可能性を示唆しており,これらの動作原理の解明と生理機能の解析により膜電位のあらたな生理的役割が明らかになると期待される。また,東島助教授らは転写因子Chx10ホモログの遺伝子発現により特徴づけられるニューロンを生きた状態で可視化したトランスジェニックゼブラフィッシュを用いて哺乳類脊髄介在ニューロンの基本デザインに関する知見を得ている。脊椎動物に類縁である尾索動物を用いて,運動パターンがどのようにイオンチャネルの特性や発現と関連するかを明らかにするため,遊泳運動の画像解析と電気生理学記録を行った。

 

電位感受性ホスファターゼCi-VSPの分子作動原理の解析

村田喜理
岩崎広英
Mohammad Israil Hossain
黒川竜紀
東島眞一
岡村康司

 電位依存性チャネルの電位センサーをもちながらイオンの通過部位(ポア領域)をもたず,かわりにC末側にホスファターゼドメインをもつ分子VSPについて,以下の解析を行った。

 (1)酵素活性をリアルタイムで計測するため,ツメガエル卵母細胞にPH-ドメインGFPとCi-VSPを共発現させ,共焦点蛍光顕微鏡による蛍光イメージングを行った。脱分極に伴いPLC-delta由来PHドメインGFPのシグナルは減少し過分極に伴い増加した。またPtdIns(3,4,5)P3のイメージングを行った結果,PtdIns(4,5)P2と同様に脱分極に伴い減少し過分極に伴い増加した。脱分極時でのPtdIns(4,5)P2の減少の程度を確認するため,GIRK2チャネル,IRK1チャネル,KCNQ2/3チャネルをそれぞれCi-VSPと共発現させ電流測定により各イオンチャネルの活性が減衰するキネティクスを計測した。ゲート電流の移動チャージ量が増え続ける膜電位範囲である100mVまで電流の減衰速度が加速することがわかり電位センサーの可動膜電位範囲において酵素活性がチューニングされることから,電位依存性イオンチャネルと同様に電位センサーの動きが,下流の構造変化をもたらすことを示した(J. Physiol.in press)(図)。

 (2)電位センサードメインと酵素ドメインの共役の強さを調べる目的で,ゼブラフィッシュVSPをtsA201細胞に発現させ酵素ドメインの状態によりゲート電流の性質が変化するかどうかを調べた。活性中心のシステインをセリンに置換すると有意にゲート電流が加速し,ホスファターゼ阻害剤バナジン酸で同様な効果が確認された。この効果は細胞内のホスホイノシチドの環境が変化したためではなく酵素ドメインの構造変化によるものであると考えられた。

 (3)酵素特性の詳細を明らかにするためCi-VSPおよびゼブラフィッシュVSPについて細胞内領域とGSTの融合蛋白を作成しマラカイトグリーンアッセイとTLCアッセイにより各種ホスホイノシチドを基質として脱リン酸化能を解析した。PtdIns(3,4,5)P3以外にもPtdIns(4,5)P2に対して脱リン酸化能が確認され(1)の研究結果から示唆されたように,VSPがPTENとは異なっていてPtdIns(4,5)P2も脱リン酸化できる能力があることが示された。


(J. Physiol.in press)(図)

 

電位依存性プロトンチャネル分子の同定と分子機能の解析

佐々木真理
大河内善史
黒川竜紀
高木正浩
岡村康司

 電位依存性プロトンチャネル活性をもつVSOP1について動作原理を理解するための解析を行った。またVSOP1がこれまでミクログリア細胞,マクロファージなどで活性酸素産生に関わる電位依存性プロトンチャネルの分子実体であるかどうかの検討を行った。具体的に以下の解析を行った。

 (1)VSOP1の分子特性の解析

 VSOP1は通常の電位依存性チャネルに見られるS4領域に類似した配列をもつ。通常の電位依存性チャネルと同じようなメカニズムで膜電位感知を行っているかを明らかにするため点変異を導入し,電位依存的ゲーティングに与える影響を調べた。S4領域のアルギニンを他のアミノ酸に変化させると電位依存性がシフトしたが,陽電荷をキャンセルまたは陰電荷に変更した場合のシフトは,より開きやすい方向でありまた同じ陽電荷をもつアミノ酸であるリジンに変更しても大きな電位依存性のシフトが見られた(黒川,岡村,高木)。

 (2)VSOP1の組織発現パターンの解析

 VSOP1のinvivoでの役割を明らかにするため,細胞内ドメインをGST融合タンパクとして精製しウサギに免疫してポリクローナル抗体を得た(佐々木,岩崎)。従来の電気生理学的解析で発現することが知られていたミクログリアやマクロファージでの発現に着目して,in situ hybridization法及び免疫抗体法により解析した。その結果,脾臓の血球細胞や脳内ミクログリア細胞に明確な発現を認めた(大河内)。

 (3)VSOP1ノックアウトマウスの作成と解析

 Gene trap法によりVSOP1遺伝子領域に挿入のあるES細胞を用いてキメラマウスを作成し,このマウスの脾臓を用いてウェスタンブロットを行ったところ,VSOP1蛋白の発現が欠落していることを確認した。また好中球とマクロファージからホールセルパッチ記録を行ったところ,電位依存性プロトン電流が完全に消失していた(佐々木,岡村)。これらのことからVSOP1は従来血球細胞などで記載されてきた電位依存性プロトンチャネルの分子実体であると考えられた。

 

ゼブラフィッシュを用いた,脊髄神経回路網の解析

木村有希子
佐藤千恵
東島眞一

 神経発生過程においては異なった転写因子の発現の組み合わせにより,形態学的に異なったタイプの介在神経細胞が分化してくることが示唆されている。しかしながら,これらの介在神経細胞が,最終的に神経回路網の中で機能的にどのようなタイプの神経細胞へ分化していくかは,まだよく分かっていない。我々はこの課題に対して,ゼブラフィッシュを用いて研究を進めている。とくに,特定の種類の神経細胞で,蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックゼブラフィッシュを作製して,それら神経細胞を生きたまま可視化することを方法論の中心に据えている。すでに,Chx10, Dbx1, gsh1, atoh1, nkx2.2, Evx1, Evx2, BarH1, pax6などの遺伝子に関して,緑色ないし赤色の蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックラインを作製することに成功している。これらのラインを用いて,脊髄神経の発生機構,および回路機能の詳細な解析を進めている。

 

尾索動物オタマジャクシ型幼生の運動機能に
関わるイオンチャネル関連分子の総括的解析

西野敦雄(日本学術振興会特別研究員)
岡村康司

 尾索動物は脊椎動物と近縁な動物系統である。尾索動物は脊椎動物と共通の体制を持ったオタマジャクシ形態を示すが,その細胞構成はきわめて単純である。ホヤ幼生の場合,筋肉細胞数は高々40個で,運動神経細胞は10個に満たない。それにもかかわらず,尾索動物のオタマジャクシは高度に制御された遊泳運動を行う。本研究は,カタユウレイボヤ幼生およびオタマボヤを材料として,個体レベルの運動能力を正確に定め,それを支える神経生物学的・分子生理学的基盤を明らかにすることを目的としていた。

 本年はカタユウレイボヤ幼生の遊泳運動を制御する重要な機能素子としてニコチン受容体(nAChR),グリシン受容体(GlyR)に特に注目し,そのホヤ幼生における発現様式と,分子機能についての解析を行った。

 1. カタユウレイボヤゲノム配列を詳細に調べることで,新たに二つのnAChRサブユニットを見出した。これらを含め合計10個のnAChRサブユニット遺伝子の全長cDNA配列とゲノム上の遺伝子構造を明らかにした。分子系統解析から,尾索動物は脊椎動物と類似のnAChRサブユニット構成を持つことが確かめられた。

 2. 尾芽胚期から幼生期に至る段階での発現様式をin situ hybridization法により定め,幼生の筋肉細胞で発現するサブユニット群と,神経細胞で発現するサブユニット群を決定した。

 3. 幼生の筋肉で発現するサブユニット(Ci-nAChR-A1,- BGDE3,-B2/4)に注目し,さらに解析を進めた。筋肉で発現する3つのサブユニットと蛍光タンパク質との融合タンパク質を幼生筋肉に発現させると,筋肉帯背側縁に沿ったステッチ状の構造に共局在した。このステッチは,運動神経細胞の軸索とよく重なることから,これら3つが,確かに神経筋シナプス後膜に濃縮することを示した。

 4. 幼生の筋肉で発現するA1,BGDE3,B2/4をアフリカツメガエルの卵母細胞に発現させ解析したところ,この3種のサブユニットを共発現させると,生理的濃度のAChに反応して大きな電流が観察された。このとき,B2/4を共発現しないと電流量が著しく減少し,BGDE3を共発現しないと電流が消失した。またこのA1,BGDE3,B2/4で構成されるイオンチャネルは著しい内向き整流性を示すこと,相当量のカルシウム透過性を示すことを明らかにした。これらは,脊椎動物の筋肉型nAChRよりむしろ神経型nAChRに近いチャネル特性である。

 5. BGDE3に対するモルフォリノオリゴを用いて幼生における発現を抑制すると,遊泳運動が完全に抑制された。

 以上により,カタユウレイボヤにおける筋肉型nAChRのサブユニット構成,局在様式,電気的特性,生体内での機能を解明した。

 また,脊椎動物で左右交互の体幹筋収縮を調節するGlyRについて,ホヤの相同遺伝子を単離し,同様の解析を行った。ホヤGlyRは神経系では運動神経細胞に主に発現するほか,筋肉細胞でも発現していると示唆された。同様のパターンは同遺伝子の2.5kb上流の配列の導入によっても観察された。カエル卵母細胞にこれを発現させたところ,グリシンに反応した電流が観察された。

 

 

戦略的方法論研究領域

【概要】

 「構造と機能」という分子生物学のパラダイムは生物の機能が生体高分子,特に蛋白質の独自の構造によって支えられていることを明かにして来た。本部門では細胞内超微小形態を高分解能,高コントラストで観察する新しい電子顕微鏡の開発を背景に細胞の「構造と機能」を研究している。

 永山グループは位相差電子顕微鏡の開発と,その応用としてのDNA1分子の塩基配列直読法の開発,チャネル蛋白質の電子線構造解析研究無染色細胞のin vivo高分解能形態観察を行った。

 物質輸送に関する研究が主眼である村上グループは,南京医科大学と共同研究で漢方薬の唾液分泌促進効果について,摘出ラット唾液腺を用い調査を継続発展した。カソリック大学ローマ校とイエテボリ大学と協力して灌流顎下腺とin situ顎下腺の分泌唾液を比較検討するため,唾液中のペプチド/蛋白の質量分析を開始した。

 瀬藤グループは質量顕微鏡法開発応用,翻訳後修飾による細胞内輸送の制御の研究を行った。

 大橋グループはエンドサイトーシス経路における選別輸送の研究を変異細胞を用いて行った。

 

位相板用炭素薄膜の材料科学的研究

Radostin Danev,重松秀樹,大河原浩,永山國昭
宇理須恆雄(分子研)

 位相板の帯電防止は電子位相顕微鏡にとって死命を制する重要な要素技術である。帯電の原因が位相板に付着した3種(有機物,無機物,金属酸化物)汚れによることがわかったので,その解決法を探求した。作製行程を見直しおよび積極的な洗浄を試みたが,完全に汚れに伴う耐電を除去することはできなかった。そこで,その帯電を完全に遮蔽する方法としての「炭素膜サンドイッチ法」について,その遮蔽効果を解析した。現在,論文執筆中。

 

Aharonov-Bohm効果を応用した位相差電子顕微鏡の開発

安田浩史,大河原浩,永山國昭

 位従来の薄膜位相板による電子線ロスの問題を解消できる,Aharonov-Bohm効果を応用した位相板の開発を行っている。2通りの位相板を試作し位相変化の観察を行った。1) 炭素薄膜上に保持した強磁性体パーマロイを長方形環状の細線に加工した位相板。2) サブミクロン白金細線上にコバルト薄膜を形成し棒状に加工した位相板。両位相板ともにGe薄膜観察から位相変化を捕えることに成功した。方法1)についてサブミクロン細線の環状工作が困難であり加工方法を継続検討している。方法2)についてサブミリ長の単磁区構造を持ったコバルト細線棒状位相板開発を進めている。

 

DNA/RNA塩基配列の電子顕微鏡1分子計測法の開発

喜多山 篤,大河原浩,永山國昭
片岡正典(計算科学研究センター)

 DNA/RNAの塩基配列決定の高速化を図るため,電子顕微鏡技術を基軸に新しい方法論を開発している。この方法はi)全核酸塩基の化学修飾による体積・電子密度差の増幅とDNA/RNAの一本鎖への解離,ii)完全伸長した多数の一本鎖DNA/RNA分子の一方向整列によるアレイ作成,iii)アレイ化した一本鎖DNA/RNAの電顕による観察と識別,iv)修飾塩基間のコントラスト差から塩基配列の解読,の4つの要素技術により成り立っている。核酸の化学修飾法について,チミン・ウラシルを除く構成塩基全てを塩基選択的に化学修飾することに成功し,各塩基間の体積と電子密度差の増幅が実現した。また修飾塩基の識別には0.3nmの空間分解能と定量的コントラスト測定の2要件を満たす電子顕微鏡として,JSTの委託開発プログラムを利用して日本電子と共同で開発した200kVの位相差電顕を用いて一本鎖の修飾DNAの観察を行い,いくつかの構造的知見を得た。

 

膜タンパク質の単粒子解析

重松秀樹,Radostin Danev,曽我部隆彰,永山國昭
清中茂樹,森泰生(京都大学大学院工学研究科)

 位相差電子顕微鏡を用いた蛋白質の単粒子解析を実施し,モデル蛋白質(GroEL)の立体構造の決定を行った。現在論文執筆中。構造解析ターゲットとして3種類(TRPM2,TRPV4など)の膜蛋白質の組み換え発現系の構築に成功した。それぞれ界面活性剤可溶化状態での標品の取得に成功し,発現量などの点からTRPV4に絞り込んで,氷包埋試料の単粒子解析を行った。先のモデル蛋白質の結果をふまえて,構造決定を試みている。

 

超高圧電子顕微鏡による位相差像観察

新田浩二,重松秀樹,Radostin Danev,永山國昭
Sang-Hee Lee,Youn-Joong Kim(Korea Basic Science Institute)

 超高圧電子顕微鏡においては,その電子線加速電圧の高さから通常より厚い試料の観察に期待が寄せられる。その一方でコントラストがつきにくいことが問題であったが,われわれが開発している位相差電子顕微鏡法を適用することで十分なコントラストが得られることを期待して,これに取り組んだ。これまで120kV,200kV, 300kVにおいて位相差電子顕微鏡を開発した経験をふまえ,さらに1000kVにおける位相差電子顕微鏡像の取得をめざし,韓国,Korea Basic Science Institute所有の超高圧電子顕微鏡を利用した共同研究を展開した。その結果,炭素薄膜位相板を用いることで,1000kVの加速電圧における急速凍結細胞の無染色像の取得に成功し,現在論文執筆中である。

 

種々の漢方薬の潅流ラット顎下腺に対する水分泌促進作用

村上政隆
魏 睦新,丁 煒(南京医科大学第一付属医院 中医内科)

 唾液分泌低下に対して治療効果のある漢方薬が多く知られているが,これらの薬物が直接唾液腺に作用するのかどうか? また直接作用があるとすれば,唾液を誘発するのかあるいは唾液水分分泌速度を増強するのかを摘出ラット顎下腺の血管灌流標本を用い,水分分泌速度を測定し検討してきた。2006年度は2005年度に検討した漢方薬10種類に加え,新たに10種類を検討した。

 雄性成体ラットから顎下腺を摘出,血管灌流標本を作製。分泌導管にカニューレを施し,これを電子天秤上のカップに導き,分泌された唾液重量を時間微分して分泌速度を求めた。漢方薬は,薬物は灌流液中に推定治療血液濃度で添加,遠沈後上清を0.45ミクロンフィルターを通したものを使用した。唾液分泌刺激の対照としてカルバコール0.2μMを用いた。最初5分間対照刺激をおこなうと,分泌が誘発され初期30秒にピークをもつ初期相とその後緩やかに増加し持続期に入る持続相に分かれた。薬物を灌流系より5分間洗い流し,漢方薬単独を加えたが1種類(甘草)のみCCh刺激がなくても分泌反応を起こした。他の19種類の漢方薬は,単独使用では唾液分泌を誘発しなかった。漢方薬添加後5分でこれにカルバコールを重畳すると,20種類の漢方薬のうち15種類で唾液分泌の増強が観察された。いずれも初期相には影響がなく,分泌持続相の分泌速度を増強させた。唾液腺に直接作用をもたらした15種の薬物に対する反応は3つのパターンに分けることができた。I)持続期全般を緩やかに増強する。(プラトー値が高い)II)持続期にはいり継続して分泌が増加し5-10分で最大値になった後緩やかに減少する。III)持続期にはいり継続して分泌が増加し5-10分で最大値になった後対照刺激のプラトー値より低レベルで分泌が持続する増強と抑制の二相性パターン。Iのパターンは養陰剤に,IIのパターンは(補気剤,清熱剤,化痰剤(日本漢方では祛痰剤),3種混合)に,IIIのパターンは活血剤に,それぞれ漢方薬分類に対応した。増強効果のない5種の薬物がヒトで分泌増加を起こすのは神経活動の変化によるものと推定された。

 唾液分泌促進作用を有する漢方薬には唾液腺に直接作用し唾液分泌の持続相を増強する薬物が15種類存在し,漢方の薬効機序に対応する作用パターンが存在した。これまで,西洋医学的手法により,細胞生理学的反応を臓器レベルに外挿してすべてを理解しようとしていたが,今回観察された分泌増強パターンが生じる機構を少なくとも,1)細胞内信号系への漢方薬の修飾効果,2)傍細胞輸送系の開閉の調節機構,3)臓器循環系の漢方薬による調節の3つの視点から詳細な実験を進めてゆく必要がある。一方,唾液腺臓器レベルでは効果の見られなかった漢方薬は,おそらく個体(全身)レベルで神経系/内分泌系に作用し,唾液分泌を増強しているものと予測される。これらの薬物の効果については全身症状の変化を別個に考察することにより,機序の理解を進める可能性がある。今後,西洋医学的手法と中国医学の経験を結びつけ 蛋白分泌に対する漢方薬の影響や細胞内信号伝達に及ぼす影響などを調べることにより唾液分泌機序の新しい視点が生まれる可能性は極めて高い。また,単一細胞の生理学実験で得られない組織/器官系の反応パターンが漢方薬の分類と一致したことは,漢方分類が組織生理学研究に大きな示唆を与えることを示しており,逆に漢方分類の現代生理学的な理解に繋がることは疑いない。

 

In vitroおよびIn vivoにおける分泌唾液蛋白の相違

村上政隆,大河原浩
Massimo Castagnola,Chiara Fanali,Rosanna Inzitari,Irene Messana(カトリック大学医学部ローマ校)
Alessandro Riva, Felice Loffredo, Francesca Testa-Riva(カリアリ大学医学部細胞形態学)
Jörgen Ekström(ゲーテボー大学神経科学および生理科学部)

 ムスカリン受容体あるいはαアドレナリン受容体を刺激し細胞内Ca濃度を上昇させる刺激様式と,βアドレナリン受容体を刺激し細胞内サイクリックAMP濃度を上昇させる刺激様式で,唾液腺細胞から分泌される唾液の成分が異なることが知られている。前者は初期一過性に蛋白分泌(アミラーゼ,ムチンなど)させるが刺激持続期には蛋白分泌は少量となる。また,水分分泌は初期一過性に増加しピークをつくり,その後再度分泌が増加してプラトー相を形成する。一方,後者は刺激開始で蛋白分泌を緩やかに増加させ,刺激開始5分で最大蛋白分泌となり持続刺激で蛋白分泌は緩やかに減少する。しかし水分分泌は起こらない。前者と後者の刺激を同時に細胞に与えると分泌蛋白は急速に増加し細胞内の分泌顆粒は枯渇する。しかし,分泌される蛋白成分が刺激様式により変化するか否かについて,生体内で神経刺激を受けた場合と,単離し人工灌流液でカルバコール,イソプロテレノールの刺激を腺に与えた場合の分泌蛋白/ペプチドの相同については実験結果がなかった。本研究はEC(Euro-Community)のInterlink Projectとして,カトリック大学ローマ校/カリアリ大学/ゲーテボー大学/生理学研究所が協力して研究を開始した。

 村上がカリアリ大学で立ち上げた唾液腺灌流系をローマカトリック大学で立ち上げ,予備実験を行い,ラット顎下腺及び耳下腺の血管灌流系からカルバコール,イソプロテレノールの刺激を施し唾液を採取した。この唾液にプロテアーゼ阻害を施し,質量分析によりラット唾液中のペプチド/蛋白の組成を検討した。一方,Ekströmはラット個体を用い,麻酔下で交感神経,副交感神経(auriculo-temporal N)を刺激し唾液を採取し質量分析を実施した。唾液蛋白にはDNA情報からそのまま翻訳された蛋白質のみならず,post-translational modificationを受けた蛋白/ペプチドも含まれ,膨大な数のスペクトルとしてデータが集積された。現在,灌流腺in vivo腺に共通の蛋白/ペプチドを抽出し,これを唾液腺からのみ分泌され,血液由来でない,内因性の蛋白として抽出し,公開されているデータベースと比較し同定作業を行っている。今後 岡崎で灌流腺より採取した唾液試料を用い,刺激様式の違いによる分泌蛋白の変化について検討する計画である。

 

顕微質量分析装置の開発

瀬藤光利,早坂孝宏,新間秀一

 本開発は(株)島津製作所,癌研究会,大阪大学,理化学研究所の参画機関とともに,5年計画で2004年より始まった。顕微質量分析装置の原理は,顕微鏡下の生物試料にレーザーを照射し,イオン化された物質を吸引し,高感度質量分析装置で測定を行う。測定試料上をレーザーで2次元走査し得られた質量スペクトル群から,分子の生体内分布の可視化,また多段階質量分析を用いた物質同定も可能である。開発すべき要素技術は5つである。レーザー照準技術と2次元試料走査・環境制御技術,これにより2次元の解像度が決まる。高収率イオン搬送技術と高感度質量分析技術,これにより感度を向上させることが可能となる。そして,得られた情報を処理し,画像として再構成するIT技術である。我々は特に生体試料より高効率でイオン化を実現するための試料前処理技術の開発し報告している。現在までにこれらの手法を用いてマウス脳組織切片上における蛋白質や脂質の分布可視化と分子同定を成功させ,さらには臨床試料への応用も可能であることを示した。

 

翻訳後修飾による細胞内輸送制御の研究

瀬藤光利,早坂孝宏,新間秀一
池上浩司,松本峰男,矢尾育子(三菱生命研)

 単アミノ酸側鎖付加はチュブリンなどに起こる翻訳後修飾である。神経細胞の発達に伴って亢進することが知られているが,その分子実体は明らかではない。我々はチュブリン翻訳後修飾の一つpolyglutamylationに注目し,その酵素であるpolyglutamylaseの同定を試みた。その結果,TTLL遺伝子ファミリーのうちTTLL7がチュブリンサブユニットであるβチュブリンに対して特異的にグルタミン酸付加反応を行うこと,それが神経突起成長に必要であることを明らかにした。また,αチュブリンに対してグルタミン酸付加反応を行うとされていた複合体のうちPGs1が機能低下したROSA22ミュータントマウスを解析することにより,αチュブリンのpolyglutamylationがKIF1キネシンモーター蛋白質の方向性を制御する分子標識の役割を果たすことを明らかにした。以上,本研究の成果は,これまで不明であった細胞な物質輸送の制御メカニズムの解明に大きな発展をもたらし,細胞間における情報伝達異常により引き起こされる疾患を治療するための新たなターゲットになりうる可能性を示した。

 

エンドソーム−ゴルジ細胞内膜系の選別輸送のメカニズムと生理機能

大橋正人

 エンドソーム−ゴルジ細胞内膜系の選別輸送のメカニズムと生理機能を解析し,これまでに細胞シグナル伝達分子などの機能分子の選別におけるコレステロール代謝系や脂肪滴表層ドメインの関与について知見を得てきた。

 今回,解析を極性上皮細胞動態における細胞内膜系の機能解析に発展させるため,上皮系細胞の未だ数の限られているエンドソーム−ゴルジ細胞内膜系マーカー分子の,FL-REX(fluorescence localization-based retrovirus-mediated expression cloning)法による探索・同定を進めた。極性上皮細胞からGFP-cDNA融合ライブラリーを構築し,上皮細胞株に発現させ,エンドソーム−ゴルジ細胞内膜系様の局在を示す細胞をクローン化した。発現したGFP融合cDNAを解析したところ,エンドソーム−ゴルジ細胞内膜系への局在が知られている既知の蛋白質,既知であるがこれまで局在の知られていなかった蛋白質,そして,機能局在とも未知の蛋白質を同定した。現在,これらの蛋白質分子の膜系への局在の意味に注目するとともに,得られた分子,細胞を用いて,上皮細胞動態における細胞内膜系の役割の解析を進めている。

 

 

生命環境研究領域

【概要】

 細胞は,それを取り巻く環境の大きな変化の中で,その環境情報を他のシグナルに変換し,細胞質・核や周囲の細胞に伝達することによって環境変化にダイナミックに対応しながら生存応答を行っている。細胞が存在する臓器・組織によって細胞が受け取る環境情報は異なり,従って細胞が持っている環境情報を受信する機能も異なる。それらセンサー蛋白質は環境の変化に応じてダイナミックに感受性や発現等を変化させてセンシング機構の変化からよりよい生存応答を導く機能を有している。これらのセルセンサー蛋白質は種々の化学的,物理的情報を受容し,センサー間の相互作用を行い,多くは最終的に核への情報統合を行う。これらの細胞環境情報センサーの分子システム連関を解明していくことは,個体適応の理解のための基本単位である「細胞の生存応答」を解明するうえで極めて重要である。この細胞外環境情報を感知するイオンチャネル型のセンサー蛋白質の構造機能解析,活性化制御機構の解析を通して細胞感覚の分子メカニズムの解明を目指している。特に,侵害刺激,温度刺激,機械刺激の受容機構について解析を進めている。

 細胞運動はtailのdetachとfrontの伸展の協調メカニズムによって行われる。この細胞接着・細胞運動の時空間的制御機構の分子メカニズムの解明も目指している。

 

表皮TRPV4の結合蛋白質の解析

東智広,曽我部隆彰,福見知子,富永真琴

 温度感受性TRPチャネルの1つTRPV4は,もともと低浸透圧で活性化するチャネルとして報告されたが,我々が温度感受性も有することを報告した。TRPV4は,感覚神経のみならず表皮ケラチノサイトや視床下部で発現することが知られている。表皮は温度変化に直接曝露される部位であり,視床下部は体液浸透圧や体温の調節中枢として機能していると考えられている。そこで,TRPV4の活性制御機構を明らかにする目的で皮膚のcDNAライブラリーを用いてTRPV4の細胞内ドメインと結合する蛋白質のスクリーニングを行い,興味深い結合蛋白質を得た。両蛋白質の結合に重要なドメインを明らかにした。両蛋白質をHEK293細胞に共発現させることによって,TRPV4活性増強が観察され,この活性制御にPKCのリン酸化が関与していることが明らかとなった。

 

TRPV4の体温制御機構への関与の解析

稲田仁,柴崎貢志,福見知子,富永真琴

 温度感受性TRPチャネルの1つTRPV4は視床下部に発現しており,体温調節機能への関与が推察されている。特異的抗体を用いて,視床下部神経でのTRPV4の発現を確認した。そこで,野生型マウスとTRPV4欠損マウスの腹腔内に温度計を埋め込み,自由行動下に体温の連続記録を行った。無刺激の状態では,両マウス間で体温の概日周期に大きな変化はみられなかった。暑熱負荷等のストレスを加えたときの体温記録を行い,TRPV4の体温制御機構への関与を明らかにしていきたい。視床下部でのTRPV4活性の制御機構の解明を目的としてcDNAライブラリーを用いてTRPV4の細胞内ドメインと結合する蛋白質のスクリーニングを行い,興味深い結合蛋白質を得た。両蛋白質の結合に必要なドメインを明らかにした。この結合によってTRPV4機能が制御され,体温調節能が変化していることを想定して実験を進めている。

 

表皮ケラチノサイトから感覚神経への温度情報伝達のメカニズムの解析

Sravan Mandadi,曽我部隆彰,柴崎貢志,福見知子,富永真琴

 温度感受性TRPチャネルのTRPV4, TRPV3は表皮ケラチノサイトに強く発現しており,感覚神経にはほとんど発現していない。この事実は,温かい温度が表皮ケラチノサイトで受容され,その情報が感覚神経へ伝達される可能性を示唆する。ケラチノサイトは刺激に反応して種々の化学物質を放出することが知られている。そこで,温度刺激によってケラチノサイトから物質が放出され,表皮層に伸びた感覚神経終末に発現するその物質の受容体によって温度情報が伝達される,という仮説を立て,その検証と関与する物質の同定を試みた。ケラチノサイトと感覚神経の共培養系において,温度刺激を行うとケラチノサイト,感覚神経細胞の両方で細胞内Ca2+濃度の上昇が観察された。両細胞の応答に時間差があり,先ずケラチノサイトで反応がみられたことから,温度刺激に応じてなんらかのケラチノサイトから神経細胞への情報伝達がなされていることが推察された。次に,知られたイオンチャネル型神経伝達物質受容体(P2X2, 5HT3, NMDA)をHEK293細胞に発現させ,ケラチノサイトと共培養して,パッチクランプ法を適用してイオンチャネル型神経伝達物質受容体をバイオ分子センサーとして用いて,伝達物質の同定を行った。

 

表皮ケラチノサイトにおけるTRPV4の生理機能の解析

曽我部隆彰,富永真琴,福見知子

 温度感受性TRPチャネルのTRPV4, TRPV3は表皮ケラチノサイトに強く発現しているが,TRPV3がより主に表皮での温度感知に関わっていることを観察している。TRPV4の温度感知以外のケラチノサイトでの機能を明らかにする目的でケラチノサイトcDNAライブラリーを用いてTRPV4の細胞内ドメインと結合する蛋白質のスクリーニングを行い,興味深い結合蛋白質を得た。また,野生型マウスとTRPV4欠損マウスの表皮組織の観察を進めている。

 

海馬におけるTRPV4の機能解析

柴崎貢志,富永真琴

 温度感受性TRPチャネルの1つであるTRPV4が海馬神経細胞において体温下で恒常的に活性化して静止膜電位の形成を介して神経興奮性に重要な役割を担っていることを報告したが,その生理学的意義を明らかにする目的で,野生型マウスとTRPV4欠損マウスでの記憶・学習能力を含めた行動解析,脳波解析,海馬神経細胞での長期増強の解析を進めている。

 

TRPM2のインスリン分泌への関与の解析

川端二功,稲田仁,森泰生(京都大学),富永真琴

 TRPM2チャネルが膵臓β細胞に発現して体温下でβ-NAD+,ADP-ribose,cyclic ADP-ribose等のリガンドによって活性化してCa2+流入からインスリン分泌を惹起することを報告しているが,この事実はTRPM2活性化物質が糖尿病治療薬となる可能性を示唆している。そこで,TRPM2に作用する物質をスクリーニングして,阻害物質を見いだした。その阻害物質は,リガンドのみならず熱刺激によるTRPM2チャネル活性も完全に抑制した。さらに,グルコース依存性の膵島からのインスリン分泌も有意に抑制し,TRPM2のインスリン分泌への関与をさらに裏付ける結果となった。京都大学森泰生博士の研究室からTRPM2欠損マウスを得て,個体レベルで耐糖能等の解析を進めている。

 

発達期脊髄領域における温度感受性TRPチャネルの発現と機能

村山奈美恵,柴崎貢志,富永真琴

 温度感受性TRPチャネルは,一般には感覚神経や表皮ケラチノサイトで温度受容に関わっていると考えられている。しかしながら,後根神経節(DRG)神経細胞の発達過程において温度受容を全く必要としない胎生期においても発現が認められる。このことは,温度感受性TRPチャネルが成体における温度受容とは全く異なる,発達期特異的な役割を有していることを強く示唆している。この仮説を検証するために,発達期マウスの脊髄領域におけるTRPV1,TRPV2,TRPM8,TRPA1の発現様式を解析し,これらのチャネルの発現時期,パターンを同定した。これらのTRPチャネルは発達期において,形成直後のDRG神経細胞や一部の脊髄神経細胞においてのみ発現が確認された。また,カルシウムイメージング法を用い,この発現パターンに一致した機能的チャネルの存在を確認した。これらの結果より,TRPチャネルが細胞増殖や細胞移動などのような発生過程に特異的な生理現象に密接に関わっている可能性が強く示唆された。現在,dominant-negative変異体チャネルを用いた実験を行い,成体とは異なる発達過程特異的なチャネル機能の解明を目指している。

 

免疫系細胞における温度感受性TRPチャネルの発現・機能解析

稲田仁,富永真琴

 体温の免疫機能における重要性は報告されているが,その分子メカニズムは明らかではない。そこで,RT-PCR法を用いて,マウス免疫組織,単離免疫系細胞,免疫系組織由来培養細胞での温度感受性TRPチャネル遺伝子の発現を解析した。その結果,複数の温度感受性TRPV, TRPMチャネルが発現していることが明らかとなった。現在,発現している温度感受性TRPチャネルが免疫系細胞での温度依存性細胞内Ca2+濃度変化,サイトカイン放出等の細胞機能に関与しているかどうかの解析を進めている。

 

ショウジョウバエpainlessチャネルの温度感受性解析

曽我部隆彰,門脇辰彦(名古屋大学),富永真琴

 哺乳類において低温刺激や種々の侵害刺激を受容するTRPA1チャネルのショウジョウバエホモログの1つは,熱刺激非感受性の変異体(painless)の原因遺伝子のコードする蛋白質で,変異体では侵害性熱刺激感受性が欠如していることが明らかになっている。しかし,そのチャネル蛋白質の電気生理学的性質は明らかではない。そこで,painlesscDNAをHEK293細胞に導入して,パッチクランプ法を用いて熱刺激によるチャネル電流応答を観察した。その結果,painlessチャネルは,40度を超える温度刺激によって活性化する非選択性陽イオンチャネルであることが明らかとなった。

 

PKD2L1/PKD1L3複合体による酸味受容

稲田仁,石丸喜朗(デューク大学),松波宏明(デューク大学),富永真琴

 動物において,酸味受容は傷んだ食物や刺激の強い液体を避けるために必須な感覚である。酸味受容の分子機構は長年不明のままであったが,PKD1L3/PKD2L1チャネル複合体を有力な酸味受容体候補として報告した。マウスにおいて,PKD1L3およびPKD2L1の発現は一部の味細胞で観察され,甘味・旨味・苦味の受容に関与するとされるIP3受容体やTRPM5の発現とは重ならなかった。HEK293細胞を用いた強制発現系において,PKD1L3およびPKD2L1は複合体を形成することが明らかになった。また,PKD1L3およびPKD2L1の共発現は膜表面への移行に必須であることが組織化学的・生化学的に確認された。PKD1L3およびPKD2L1を共発現させたHEK293細胞では,酸刺激特異的に細胞内Ca2+濃度の上昇が観察された。パッチクランプ法を用いた電気生理学的解析によって,PKD1L3/PKD2L1チャネル複合体を発現させたHEK293細胞において,pH 3.0以下の酸刺激によって一過性の膜電流が引き起こされることが確認された。

 

mDia結合タンパク質の探索と機能解析

島貫恵実,福見知子

 Rhoの標的蛋白質であるmDia の細胞運動における役割の解明を目指している。Yeast-two Hybrid 法を用いていくつかの mDia結合蛋白質を見いだしている。その1つはactin 結合蛋白質ある。この蛋白質がmDia と協調することで細胞接着斑の安定化等に関与する可能性もある。また,文献的にこの蛋白質は細胞のがん化能に関与するとの報告もあるので,mDia とこの蛋白質の関連を,生化学的および細胞生物学的に解析している。

 さらに,mDia の特性から mDia に結合することが予想される蛋白質は,Rac1,Cdc42 と関連することが予想される。よって両者の結合が確認されれば,Rho ファミリー蛋白質間の協調作用および細胞運動における役割をさらに明らかにできる可能性がある。

 

神経回路形成におけるmDiaを介する情報伝達経路の役割

島貫恵実,柴崎貢志,福見知子

 mDia およびmDia を介する新たな情報伝達経路の解析によって,細胞運動の時・空間的制御機構を解明し,神経の成長円錐の形態維持・軸索伸長過程への寄与を検討している。新規mDia 結合蛋白質 DIPがmDiaによる軸作伸展作用の下流で機能することを見いだした。また,mDia, DIPの中枢神経系での部位特異的な発現を発生初期からin situ hybridization法,免疫組織学法を用いて検討し,両者が中枢神経系の様々な部位で共局在することを確認した。現在,作製した DIP knock out mouseの中枢神経系の組織形成等における役割を個体レベル,および神経細胞初代培養系で検討中である。

 


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