生理学研究所年報 第28巻
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計算科学研究センター

【概要】

 様々な機能性生体様物質の創生を目指している。なかでも核酸の塩基対構造に注目し,4種類の天然塩基を区別することなく塩基対を形成する動的構造変化型ユニバーサル塩基とそれをオリゴヌクレオチドに導入したユニバーサル核酸,高い塩基認識能と塩基対形成能および様々な機能を有する人工核酸塩基,核酸中の全塩基を塩基選択的に標識する手法を開発している。それら人工の核酸塩基を利用して,塩基対構造を深く理解するとともに,電子顕微鏡をはじめとする各種計測装置を利用した一分子核酸配列解析技術への応用についても研究を進めている。人工核酸塩基と反応剤の設計・評価に計算科学研究センターに設置された大型計算機とプログラムライブラリーを利用する。

 

核酸塩基識別子の設計と合成

片岡正典,永山國昭

 透過型電子顕微鏡を用いるDNA配列直読法は多数のDNA断片を増幅することなく配列情報を画像化し,高速・低価格で配列解析を実現する方法である。この塩基配列解析法では一本鎖DNA断片中のすべての核酸塩基を正確に特定し,電子顕微鏡へ識別情報を提供する“核酸塩基識別子”の開発が鍵となる。核酸塩基識別子は核酸塩基を特定する認識部と識別情報を提供する指示部,それらを繋ぐ接続部から構成される。認識部には高い塩基選択性や識別子同士の会合抑制,各種溶媒に対する高い溶解性といった多くの要求が集中し,天然型核酸塩基の適用が困難であることが示唆された。報告者は上記要求を満たす新たな人工核酸塩基の開発を計画し,天然型の塩基対構造を基盤として,1,4-デヒドロピラジンを水素供与体,1,4-ジオキシンを水素受容体とする三環性複素環を認識部として設定した。指示部としては透過型電子顕微鏡において4種の塩基の識別に必要な高い明暗差を得るために,電子密度差の大きな4種の重原子会合体を設定した。接続部にメチレン鎖を採用して認識部と指示部を結合することにより核酸塩基識別子の基本設計を完成させた。未だ全合成には至っていないが,核酸塩基識別子は一本鎖DNA中の核酸塩基1個を識別する分子であり,電子顕微鏡観察に止まらずその応用範囲は極めて広い。

 

ユニバーサル核酸の創生

片岡正典

 報告者の開発した,相対する塩基に呼応して動的に構造変化して天然型核酸塩基4種すべてと塩基対を形成しうる動的構造変化型ユニバーサル塩基をペプチド核酸型のオリゴヌクレオチドへの導入に成功した。天然のオリゴヌクレオチドとの会合体形成について吸収スペクトルで調査したところ,如何なる配列であっても安定な複合体を形成することが明らかとなった。核酸配列を全く認識せず,核酸に対して特異的に複合体を形成する人工核酸の例はなく,その波及効果は計り知れない。

 

全塩基修飾型核酸標識法

片岡正典

 これまでに類を見ない,核酸中の塩基全てを化学的に標識する手法を開発した。本法は塩基選択的に塩基を分解,遊離させてリボースを生成させる第一段階とリボースに対して標識剤を導入する第二段階からなり,一度の操作で,核酸中の同種の塩基全てを標識できる。本法は塩基選択的に行え,反応条件を変えて4度繰り返すことで,全ての塩基に異なる標識を施すことも可能である。また,標識剤は1級あるいは2級のアミノ基を有しているほとんどの標識剤を導入できる。実際に本法を用いて,11個の金からなる金属クラスターによってオリゴヌクレオチドの多点標識に成功しており,配列解析技術など様々な応用が期待される。

 


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