生理学研究所年報 第28巻
 研究会報告 年報目次へ戻る生理研ホームページへ

6.イオンチャネル・トランスポーターと心血管機能:最近の知見と今後の展開

2006年12月19日−12月20日
代表・世話人:亀山 正樹(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・神経筋情報生理学)
所内対応者:岡田 泰伸(自然科学研究機構・生理学研究所)

(1)
L型Ca2+チャネルのCa2+依存性facilitationと不活性化の分子機構
蓑部 悦子1),韓 冬雲1,2),Zahangir A. Saud1),王 午陽1),はお 麗英2),亀山 正樹1)
(鹿児島大院・医歯総合・神経筋情報生理学1),中国医大・薬理2)
(2)
心室筋a1アドレナリン受容体刺激によるL型Ca2+チャネルの細胞内制御機構
大内 仁1),佐々木 博之2),栗原 敏1)
(慈恵医大・医・第二生理1),同総合医科学研究センター2)
(3)
L型Ca2+チャネルCaV1.2およびCaV1.3のゲーティング制御機構
中瀬古(泉)寛子,水流 弘通,赤羽 悟美
(東邦大・医・薬理学)
(4)
低分子量G蛋白質Radによる心筋L型Ca2+チャネル調節機構
村田 光繁,矢田 浩崇,湯浅 慎介,牧野 伸司,佐野 元昭,福田 恵一
(慶應義塾大・医・再生医学)
(5)
電気生理学的手法を用いた3種のbアドレナリン受容体と3量体Gたんぱく質の共役能の解析
稲生 大輔1,2),稲野辺 厚2),倉智 嘉久2)
(東京大・医科研ヒトゲノム解析センター1),大阪大院・医・薬理2)
(6)
アルドステロンのIfチャネル発現に対する影響
武藤 貴雄1),安井 健二1),大草 知子3),原田京子1),山内 正樹2),児玉 逸雄2)
(名古屋大・環境医学研・生体情報計測・解析(スズケン)寄附部門1)
同・心血管分野2),山口大学大学院医学研究科3)
特別講演(1)
心筋リモデリングとイオンチャネル発現制御
桑原 宏一郎
(京都大学大学院・医学研究科・内分泌・代謝内科学)
特別講演(2)
心筋再生研究の現状と展望
福田 恵一
(慶應義塾大学・医学部・再生医学)
(7)
内向き整流 K+ チャネルの異なるサブファミリーKir2 - Kir3間のヘテロ多量体形成の解析
石原 圭子1),山本 友美2),久保 義弘2)
(佐賀大・医・生体構造機能・器官細胞生理1),生理研・神経機能素子2)
(8)
内向き整流性の変調による催不整脈作用
古川 哲史,谷義則,三浦 大志,黒川 洵子,中村 一文,大江透
(東京医科歯科大・難治疾患研・生体情報薬理)
(9)
不整脈を引き起こす心筋型KCNQチャネル変異体の機能解析
中村 友紀,上原明,井上 隆司
(福岡大・医・生理学)
(10)
Kv1.5電流におよぼすlipoxygenase阻害薬とphosphatidylinositol 3-kinase阻害薬の抑制作用
丁 維光1),公 英子1,2),Wu Jie1,2),堀江 稔2),松浦 博1)
(滋賀大・医・細胞機能生理学1),同呼吸循環器内科2)
(11)
新規Na+/Ca2+交換体阻害薬YM-244769の作用特性
喜多 紗斗美,岩本 隆宏
(福岡大・医・薬理学)
(12)
マウス大動脈平滑筋細胞におけるNa+/Ca2+交換反応の電気生理学的機能について
村田 秀道1),堀田 真吾1),山村 寿男1),大矢 進1),岩本 隆宏2),今泉 祐治1)
(名古屋市立大学大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野1)
福岡大学医学部薬理学教室2)
(13)
心筋ミトコンドリアNa+/Ca2+交換 (mitNCX) の機能
金 鳳柱,松岡 達
(京都大院・医・細胞機能制御学)

【参加者名】
亀山 正樹(鹿児島大院・医),岡田 泰伸(生理研),木村 純子(福島県医大・医),坂本 多穂(福島県医大・医),鷹野 誠(自医大),福田 恵一(慶應義塾大・ 医),村田 光繁(慶應義塾大・医),大内 仁(東京慈恵会医大・医),赤羽 悟美(東邦大・医),中瀬古 寛子(東邦大・医),古川 哲史(東京医歯科大・難治研),渡辺 泰秀(浜松医大・医),高橋 信之(生理研),浦本 裕美(生理研),Elbert Lan Lee(生理研),沼田 朋大(生理研),Liu Hongtao(生理研),Abduqodir Toychiev(生理研),佐藤 かお理(生理研),長谷川 裕一(生理研),今泉 祐治(名古屋市大院・薬),大矢 進(名古屋市大院・薬),山村 寿男(名古屋市大院・薬),堀田 真吾(名古屋市大院・薬),村田 秀道(名古屋市大院・薬),大野 晃稔(名古屋市大院・薬),岩浪 真(名古屋市大院・薬),井戸田 晴奈(名古屋市大院・薬),堀 優子(名古屋市大院・薬),船橋 賢司(名古屋市大院・薬),安井 健二(名古屋大院・医),武藤 貴雄(名古屋大院・医),松浦 博(滋賀医大),丁 維光(滋賀医大),豊田 太(滋賀医大),竹内 綾子(京都大院・医),金 鳳柱(京都大院・医),桑原 宏一郎(京都大院・医),倉智 嘉久(大阪大院・医),稲生 大輔(大阪大院・医),上原 明(福岡大・医),中村 友紀(福岡大・医),岩本 隆宏(福岡大・医),喜多 紗斗美(福岡大・医),石原 圭子(佐賀大・医),蓑部 悦子(鹿児島大院・医)

【概要】
 心血管系の細胞膜に存在するイオンチャネルやトランスポーターは,電気的興奮や細胞内へのシグナル伝達など重要な役割を持ち,種々の心血管機能に関わっている。近年,多くのイオンチャネルやトランスポーターの遺伝子が単離・同定され,それらの遺伝子の変異に起因するイオンチャネル病の存在が明らかにされている。さらに,遺伝子変異による産生蛋白の構造異常とそれにより招来された機能異常との関連についても解析が進んで来た。しかし,チャネルやトランスポーターの遺伝子発現が生理的および病態生理学的条件下でどのように制御されているかについては,あまり明らかではない。

 本研究会では,このような状況のもと,心血管系のイオンチャネルやトランスポーターの専門家が集まり,最新の研究成果の発表と活発な討論を行い,心血管系のイオンチャネルやトランスポーターの調節や遺伝子発現制御についての研究戦略の構築を目指した。本研究会で得られた成果を基盤として,今後,新たな研究が展開されるものと期待される。

 

(1) L型Ca2+チャネルのCa2+依存性facilitationと不活性化の分子機構

蓑部 悦子1),韓 冬雲1),2),Zahangir A. Saud 1),王 午陽1),はお 麗英3),亀山 正樹1
(鹿児島大学大学院・医歯学総合研究科・神経筋情報生理学1)
中国医科大学・薬理学2),中国医科大学薬学院・薬物毒理学3)

 Inside-outパッチ法を用いた研究により,カルモジュリン (CaM) やカルパスタチンドメインL (CSL) がCa2+チャネルの活性に関与することが判明した。CaMは濃度依存的にチャネルを活性化し,その濃度-反応関係は2mMで最大(on-cellパッチ下での開確率の140-300 %)となるbell-shape型を示す。この関係は,チャネルに2つのCaM結合部位 (activation siteとinactivation site) があると仮定した数式にあてはめることができた。CSLはCaMに比べ15 %程度の弱いチャネル活性効果を示し,チャネルのactivation siteに結合するpartial agonistであることが示唆された。CaMとCSLを同時にチャネルに作用させたところ,CaMに対するCSLの抑制が確認された。また,チャネルの細胞内ドメインのGST融合ペプチドを作成し,pull-down 法を用いてCaMとCSLの結合部位を検討したところ,C末端部にCaMとCSLとの競合を示唆する部位が見出された。

 

(2) 心室筋a1アドレナリン受容体刺激によるL型Ca2+チャンネルの細胞内制御機構

大内 仁1),佐々木 博之2),栗原 敏1)
(東京慈恵会医科大学・生理学講座第21),同DNA医学研究所・分子細胞生物学研究部2)

 a1アドレナリン受容体刺激はbアドレナリン受容体刺激と並び,心筋細胞内Ca2+動態を変化させ興奮収縮連関を調節しているが,Ca2+を介した細胞内情報伝達制御機構の詳細は明らかでない。最近,我々は,a1アドレナリン受容体刺激により,L型Ca2+電流 (ICa,L) が反応初期に一時的に減弱し,その後,徐々に増大する二相性変化を報告した。また,ICa,Lに対するa1アドレナリン受容体刺激の効果は,濃度及び時間依存性に異なる2つの効果(positive phaseとnegative phase) に分類されることを明らかにし,それぞれの効果発現に関与する細胞内制御機構を解明してきた。本発表では,a1アドレナリン受容体サブタイプであるa1Aa1Bが,それぞれ異なる細胞内情報伝達系を介して,心室筋L型Ca2+チャンネルを制御している分子メカニズムについて報告する。(本研究の一部は,日本心臓財団若年研究者研究奨励(藤基金),循環器学研究振興財団研究助成の援助を受けて行った。)

 

(3) L型Ca2+チャネルCaV1.2及びCaV1.3のゲーティング制御機構

中瀬古(泉)寛子,水流 弘通,赤羽 悟美
(東邦大学・医学部・医学科・薬理学講座)

 心臓にはL型Ca2+チャネルを構成するa1サブユニットとしてCaV1.2とCaV1.3が発現している。前者は心臓全体に発現しているのに対し,後者は洞房結節,心房,房室結節に限局している。両者は相同性が高いにも拘わらず,CaV1.3の活性化及び不活性化の電位感受性はCaV1.2より約-15mVシフトしている。CaV1.2型の第2膜貫通リピートをCaV1.3に置換したCD2キメラチャネルはCaV1.3型の電位依存性不活性化を示す。そこでCaV1.2とCaV1.3の電位感受性の差異を担う分子機構を解明するため,電荷の異なるアミノ酸に着目し,両者のアミノ酸を置換した変異Ca2+チャネルを解析した。その結果,IIS4セグメントのTyr (1.2型) / His (1.3型) とI-II細胞外ループ中のHis (1.2型) / Asp (1.3型) の相違が膜電位感受性の差異に関与することが明らかとなった。一方,CaV1.3は電位依存性不活性化が遅く,定常的な電流成分が多いこと,また,CaV1.3型のC末をCaV1.2に置換したCa2+チャネルにおいてはCaV1.2に比較して定常電流成分が増加することを見出した。CaV1.3(-/-) マウス洞房結節の活動電位幅は野生型に比較して短いことが報告されている。よって,CaV1.3は電位依存性不活性化が遅く,活動電位幅の維持に貢献していることが示唆された。

 

(4) 低分子量G蛋白質Radの心筋L型カルシウムチャネル調節機構

矢田 浩崇,村田 光繁,湯浅 慎介,牧野 伸司,佐野 元昭,福田 恵一
(慶應義塾大学・医学部・再生医学講座)

 低分子量Ras関連G蛋白RGKファミリー(Rad, Gem, Rem)がL型Ca2+チャネルbサブユニットと結合しL型Ca2+電流(ICa,L) を抑制することが知られている。なかでもRadは心臓に多く発現しているが,その役割は不明である。本研究の目的は,内因性Radの心臓における電気生理学的役割を検討することである。ドミナントネガティブ(DN) 変異型Radをアデノウイルスベクターで心筋細胞に強発現することにより内因性Radとbサブユニットとの蛋白相互作用を抑制した。DN Radを強発現した心筋細胞では,細胞膜のL型Ca2+チャネルaサブユニット蛋白の発現量及びそれに伴うpeak ICa,Lの有意な増加が認められた。さらに,DN Radを心臓特異的に発現したトランスジェニックマウス (TG) では,活動電位持続時間の延長に伴い心電図上QT間隔延長を認め,洞停止,房室ブロック及び心室性期外収縮などの不整脈が出現した。さらに,TGマウスにエピネフリンを投与すると野生型マウスには見られなかった心室頻拍が誘発された。これらの結果は,心筋細胞において内因性RadがICa,Lを生理的条件下で抑制し,活動電位持続時間やQT間隔を短縮することにより不整脈発生を予防していることを示唆した。以上より,Radは心筋L型Ca2+チャネルの細胞膜への発現を調節し,心血管疾患の催不整脈作用に関与している可能性がある。

 

(5) 電気生理的手法を用いた3種のbアドレナリン受容体と三量体G蛋白質の共役能の解析

稲生 大輔1),2),稲野辺 厚1),倉智 嘉久1)
(大阪大学大学院・医学系研究科・薬理学講座1)
東京大学科学研究所・ヒトゲノム解析センター2)

 G蛋白質共役型受容体(GPCR) によるシグナル伝達は,1種類の三量体G蛋白質のみを介すると考えられてきたが,近年では1種類のGPCRが複数のG蛋白質と共役する例が多数報告されている。しかし,GPCRの複数共役は,実験系が変化すると見えない場合も存在し,GPCR-G蛋白質の共役様式はさらに謎に包まれている。そこで今回,Gs,Gi/o,Gqの三種のG蛋白質との共役を1つの実験系で同時に検出できる手法を構築した。本手法では,イオンチャネルの活性測定によりG蛋白質共役の評価を行った。共役の評価法は以下の通りである。HEK293T細胞が内因性に持つCl- チャネルの電流の増加をGs,異所性に発現させたG蛋白質制御内向き制御K+チャネル(KGチャネル)の電流の増加をGi/o,KGチャネルの電流の減少をGqとの共役の指標とした。そして,3種のbアドレナリン受容体について本手法を用いた所,b1受容体はGs,Gi/o,b2受容体はGs,Gi/o,Gq,b3受容体はGsとの共役が確認された。しかし,b3受容体が非Gi/o経路を介してKGチャネルの活性化を行なった,b3受容体-Gi/oの共役が確認されなかったなどの課題も残り,他のGPCRのG蛋白質共役能の評価に同様に用いるにはさらなる検討が必要である。

 

(6) アルドステロンのIfチャネル発現に対する影響

武藤 貴雄1),安井 健二1),大草 知子2),原田 京子1),山内 正樹3),児玉 逸雄3)
(名古屋大学・環境医学研究所・生体情報計測・解析(スズケン)寄附研究部門1)
山口大学・医学部・循環病態内科学2),名古屋大学・環境医学研究所・心血管分野3)

【背景】アルドステロン(ALD) 拮抗薬による心不全患者の突然死予防効果が,大規模臨床試験(RALES・EPHESUS) により明らかにされ,近年,ALDの心筋イオンチャネルに及ぼす作用が注目されている。

【目的】ALDのIfチャネル発現に対する作用とALD拮抗薬の効果について検討した。

【方法】新生児ラット培養心筋細胞にALD(10-8M)を添加し,whole-cell patch clamp法(action potential,If電流),real-time PCR法 (HCN1・HCN2・HCN4 mRNAs),Western-Blot法(HCN1・HCN2・HCN4 蛋白)を用いて,ALDの作用を評価した。ALD拮抗薬としてspironolactone (10-7M),eplerenone (10-6M) を用いた。

【結果】培養心筋の自発収縮は,ALD添加によって1.6倍に有意に増加した。Ifチャネル電流は,ALDによって有意に増加した(1.9倍)。HCN2とHCN4のmRNA発現量は,それぞれ1.2倍,1.4倍に有意に増加した。HCN2とHCN4の蛋白量は,それぞれ1.6倍,1.8倍に有意に増加した。ALD拮抗薬はこれらのALDの作用を抑制した。

【結論】ALDはラット培養心筋細胞のIfチャネルの発現を増加させ,ALD拮抗薬はその効果を抑制した。

 

特別講演(1) 心筋リモデリングとイオンチャンネル発現制御

桑原 宏一郎
(京都大学大学院・医学研究科・内分泌代謝内科学講座)

 心肥大および心不全において心室におけるイオンチャンネル発現変化が起こり,それが病態形成に重要な役割を果たしていることが知られている。我々は病的心において発現亢進する心筋胎児型遺伝子群の複数の遺伝子上に転写抑制配列であるneuron-restrictive silencer element (NRSE) が存在することを見出した。NRSEに結合する転写抑制因子neuron-restrictive silencer factor (NRSF) の優勢抑制変異体を心臓で過剰発現するトランスジェニックマウス(Tg) を作製したところ,拡張型心筋症類似の病態を呈するとともに,心室性頻拍により突然死した。Gene chipなどの解析の結果,Tgマウスの心室においてHCN2,4やCACNA1Hといった胎児期の心筋に発現しているイオンチャンネルの発現亢進が判明した。実際これら遺伝子にはNRSEが存在し,NRSFにより直接的に発現制御されていることが考えられた。これら心筋胎児型イオンチャンネルは生後心室での発現は低下するが,病的状態において再度心室での発現が亢進することが報告され,心不全や不整脈の発症への関与が指摘されている。NRSFの機能修飾が,他の心筋胎児型遺伝子と同様,これら胎児型イオンチャンネルの病的心における発現制御に重要な役割を果たし,心不全の病態形成に関与している可能性が示唆された。

 

特別講演(2) 心筋再生研究の現状と展望

福田 恵一
(慶應義塾大学・医学部・再生医学教室)

 現在心筋に分化できる細胞は骨髄間葉系幹細胞,組織幹細胞,胚性幹細胞の3種が存在する。我々はこれまで骨髄間葉系幹細胞が培養条件下に心筋細胞に分化することを報告した。また,発生時期に心臓予定領域に発現する液性因子をスクリーニングし,これを利用して胚性幹細胞を特異的に心筋細胞に分化誘導する方法を開発した。この物質はノギンと呼ばれ,胎仔期には神経を誘導する物質として知られていたが,作用時間や濃度等を調節することで高率に心筋細胞を誘導できる。心筋細胞を心臓に移植して心不全を治療する試みは,10年前から試みられてきた。当初はラット胎仔心筋を心臓に直接注射する方法が取られた。我々は再生心筋細胞を単離する技術を開発し,これを心臓に移植した。再生心筋細胞は心臓に生着し,周囲の心筋細胞とGAP結合していた。さらに我々はフィブリンコートした培養皿上で心筋細胞をシート状にすることに成功した。この方法は細胞に傷害を与えることなく培養皿から細胞を剥離することができ,さらに重層することにより厚みのある組織を作成することができる。これらの方法を用い,心筋再生を早く現実の医療にしたいと考えている。

 

(7) 内向き整流K+チャネルの異なるサブファミリーKir2−Kir3間のヘテロ多量体形成の解析

石原 圭子1),山本 友美2),久保 義弘2)
(佐賀大学・医学部・生体構造機能学・器官細胞生理分野1)
生理学研究所・神経機能素子研究部門2)

 内向き整流K+チャネルのaサブユニットには,7つのサブファミリーに属する多くの種類のものがあり,同じサブファミリーや異なるサブファミリーに属するサブユニットが組み合わさって四量体のチャネル基本構造を作る例が知られている。今回私たちは,G蛋白制御内向き整流K+チャネルのサブユニットであるKir3.1 (GIRK1) やKir3.4 (GIRK4) が,強い内向き整流性を示す心臓のIK1チャネルのサブユニットであるKir2.1(IRK1) とヘテロ多量体となってチャネルを形成するかどうかを,HEK293T細胞やアフリカツメガエル卵母細胞の発現系を用いて検討した。その結果,免疫共沈降,共焦点顕微鏡を用いた局在の観察,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET) 解析,およびdominant negative mutantsを用いた実験で,これらのサブユニットがヘテロマーとなってチャネルを形成することを支持する結果を得た。心臓の洞結節や心房筋ではこれらのサブユニットは共発現しており,IRK1/GIRK1あるいはIRK1/GIRK4ヘテロ複合体チャネルが生理的役割を持つことが示唆された。

 

(8) 内向き整流性の変調による催不整脈作用

古川 哲史1),谷 義則2),三浦 大志1),黒川 洵子2),中村 一文2),大江 透1)
(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・生体情報薬理分野1)
岡山大学大学院・医歯学総合研究科・循環器内科学2)

【背景・目的】Andersen-Tawil syndrome (ATS) は当初QT延長症候群タイプ7(LQT7) に分類されたが,QT間隔の延長の有無には議論の余地が残る。今回QT延長を伴う本邦ATS家系でKCNJ2のT75M変異を同定したので,その電気生理学的特性を検討した。

【方法】Whole-cell patch法により電流―電圧特性曲線(I-V curve)を,inside-out法により細胞内Mg2+・spermine感受性を検討した。

【結果】WT/T75Mヘテロ複合体チャネルではI-V curveにおいて内向き整流性の増強を認めた。KCNJ2チャネルの内向き整流性は電位依存性Mg2+ブロック・spermineブロックによるが,WT/T75Mヘテロ複合体チャネルでは電位依存性Mg2+ブロックの程度が増強していた。

【結論】我々は以前HERGチャネル不活性化の電位依存性のシフトによる内向き整流性増強を伴うLQT家系を報告しており,今回の症例ではメカニズムは異なるものの内向き整流性の増強はQT間隔の修飾因子となりうることが示唆された。

 

(9) 不整脈を引き起こす心筋型KCNQチャネル変異体の機能解析

中村 友紀1),上原 明2),井上 隆司2)
(福岡大学大学院・医学研究科・人間生物系細胞分子制御学1)
福岡大学・医学部・生理学2)
Istvan Ando(Hungarian Academy of Sciences),Bok-Luel Lee(Pusan National University)

 遅延性Kチャネル電流の遅い成分であるKCNQチャネルは,活動電位の再分極相を形作る。このチャネルのポアへリックスのトリプトファン残基にミスセンス変異が入ると,心臓ではQT延長症候群に脳ではてんかんになることが知られる。これらのチャネル病で見られる心筋型KCNQ1および脳型KCNQ3の両アイソフォームにおける変異体について,チャネル電流の性質が変異によりどのように変化するかをHEKやXenopus oocyteなどの再構成系を用いて調べた。ホモ複合体の変異体ではほぼ完全に電流が消失し,ヘテロ複合体ではドミナントネガティブ的に抑制された。このような電流抑制の程度から,同変異は両チャネル病を引き起こすのに十分と考えられた。変異により,時間依存性の電流活性化は遅延した。選択性フィルタ周辺の構造解析の結果,イオン選択性フィルタが変異により不安定な構造になることが示唆された。いずれのKCNQにおいても,このトリプトファン残基は,正常なチャネル機能を保つために必要不可欠と考えられた。

 

(10) Kv1.5電流におよぼすlipoxygenase阻害薬とphosphatidylinositol 3-kinase
阻害薬の抑制作用

丁 維光1),Wu Jie 1),2),公 英子1),2),辻 啓子2),堀江 稔2),松浦 博1)
(滋賀医科大学・医学部・細胞機能生理学1),呼吸循環器内科2)

 Kv1.5チャネルはヒトにおいては主に心房筋に発現しており,その薬物によるブロックは心房細動の効果的な治療法になりうると考えられている。本研究では,hKv1.5 の野生型(WT) およびポア領域の変異体 (R487V)をCHO細胞に導入し,全細胞型パッチクランプ法を用いてlipoxygenase阻害薬とphosphatidylinositol 3-kinase (PI3-K) 阻害薬の作用を検討した。PI3-K阻害薬であるLY294002は濃度依存性 (IC50 = 7.2 mM) にKv1.5–WT電流を抑制し,その抑制作用は完全に可逆的であった。また,LY294002による電流抑制は主に脱分極パルス中に発生・進行しopen-channel blockの特性を示した.LY294002と異なった構造をもつPI3-K阻害剤であるwortmanninはKv1.5/WT電流を抑制しなかったことから,LY294002は直接チャネルに作用しているものと考えられた。LY294002の抑制作用は,Kv1.5/R487Vで有意に減弱した。Lipoxygenase阻害剤であるcinnamyl-3,4-dihydroxy- a-cyanocinnamate (CDC)も主に脱分極パルス中にKv1.5/WT電流を濃度依存性に抑制した (IC50 = 6.3 mM)。これらの実験データはKv1.5チャネル阻害剤の開発に寄与することが期待される。

 

(11) 新規Na+/Ca2+交換体阻害薬YM-244769の作用特性

喜多 紗斗美,岩本 隆宏
(福岡大学・医学部・薬理学教室)

 Na+/Ca2+交換体(NCX) は,心筋,脳,血管平滑筋など様々な臓器に発現しており,細胞内Ca2+ホメオスタシスの維持に重要な働きをしている。近年,国内製薬会社から,いくつかのベンジルオキシフェニル系NCX阻害薬が開発されている。今回,新規NCX阻害薬YM-244769 (YM) の作用特性について解析した結果を報告する。NCXには3種のサブタイプ(NCX1,NCX2,NCX3) が存在するが,YM はNCX1,NCX2に比べてNCX3(Ca2+取り込み活性)を選択的に阻害した。NCX3に対する阻害効力は,既存のNCX阻害薬 (KB-R7943,SN-6) に比べて約100倍強力であった (IC50=18nM)。NCX1とNCX3間のキメラ解析ならびにシステインスキャニング解析により,a-2領域に存在するGly-833がYM の阻害親和性に重要であることが示唆された。さらに,YMはNCX1とNCX3を共発現する神経細胞SH-SY5Yの低酸素・再酸素化障害を既存のNCX阻害薬に比べて強力に阻止した。以上の結果より,YMはNCX3の機能解析に有効な研究ツールであると考えられ,また中枢神経系の虚血保護薬として期待される。

 

(12) マウス大動脈平滑筋細胞におけるNa+/Ca2+交換反応の電気生理学的機能について

村田 秀道1),堀田 真吾1),山村 寿男1),大矢 進1),岩本 隆宏2),今泉 祐治1)
(名古屋市立大学大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野1)
福岡大学医学部薬理学教室2)

 Na+/Ca2+交換体(NCX) は細胞膜を介した電気化学的駆動力に依存して双方向性に働くCa2+輸送体として心筋では起電性を有する。しかし血管平滑筋でのNCX発現が心筋に比べ低いため,その電気生理学的機能特性は不明である。NCX1.3タンパクを平滑筋組織に6-8倍過剰発現したマウス(TG) は,食塩の高摂取により高血圧を示す(岩本らNature Med., 2004)。本研究ではNCX1.3高発現マウス大動脈平滑筋を用いて,正常マウス(WT) と比較することによりNCX機能を解析した。血管平滑筋では細胞内局所筋小胞体からの自発的Ca2+遊離(Ca2+スパーク)により大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネルが開口し,一過性外向き電流(STOC) が生じる。我々はSTOCの頻度がTGの大動脈平滑筋細胞においてWTよりも有意に増加していることを発見した。TG大動脈平滑筋では静止時においてNCX1.3を介して流入したCa2+がリアノジン受容体活性化によりCa2+スパークを発生させSTOCsの頻度を上昇させるため,静止張力調節に寄与している可能性が示唆された。

 

(13) 心筋ミトコンドリアNa+/Ca2+交換 (mitNCX) の機能

金 鳳柱,松岡 達
(京都大学大学院・医学研究科・細胞機能制御学)

 心筋ミトコンドリアNa+/Ca2+交換 (mitNCX) の機能を解明する目的で,サポニン透過性ラット心室筋細胞のミトコンドリアCa2+ (Ca2+m) をRhod-2を用いて測定した。無Na+下に,300nM Ca2+ 液を灌流すると,Rhod-2蛍光は約9倍増加し,Ca2+ユニポータ抑制剤 (Ruthenium Red:RR) により増加は抑制された。モネンシンを用いてNa+を前負荷 (50 mM Na+) しても,RR存在下にはCa2+m増加は起こらなかった。この実験条件下では,ミトコンドリアへのCa2+ 流入はCa2+ユニポータが主でミトコンドリアNCX(mNCX) の逆交換は関与しないと考えられた。300 nMCa2+投与での定常状態からCa2+を除去すると,Na+濃度依存性にCa2+mは減少した。減少初速度の半飽和Na+ 濃度は1.1 mMであった。Na+依存的Ca2+m減少はCGP-37157(mNCX阻害剤)により抑制された。mNCXが主要なCa2+m排出機構であると考えられた。ミトコンドリア基質(リン酸,コハク酸,ピリビン酸)除去とFCCPの投与により,膜電位(TMREで測定)は脱分極したが,mNCXによるCa2+m排出には著明な変化は無かった。

 


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