生理学研究所年報 第28巻
 研究会報告 年報目次へ戻る生理研ホームページへ

10.シナプス可塑性の分子的基盤

2006年6月28日−6月29日
代表・世話人:高橋正身(北里大学医学部)
所内対応者:井本 敬二(神経シグナル)

(1)
シナプス間隙物質による神経終末の組織化
西宗裕史 (Harvard Univ. Dept. MCB, Univ. of Kansas Medical Sch. Dept. Anatomy & Cell Biology)
(2)
神経伝達物質の同期性放出を制御するシナプトタグミンの役割
西木禎一(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
(3)
SADキナーゼによる神経伝達物質放出の調節機構
大塚稔久(富山大学大学院医学薬学研究部)
(4)
AMPA受容体のリン酸化と脂質修飾によるtrafficking制御
林崇(ジョンズ・ホプキンス大学医学部神経科学科)
(5)
NMDA受容体の欠損は海馬CA3領域の興奮性の亢進を引き起こす
福島章顕1,中尾和人1,篠江徹2,真鍋俊也2,三品昌美1
1東京大学医学系研究科・分子神経生物学教室,
2東京大学医科学研究所・神経ネットワーク分野)
(6)
生体内における神経活動の2光子励起イメージング
喜多村和郎(大阪大学大学院医学系研究科細胞神経科学)
(7)
2光子励起光標識法を用いた単一スパインのアクチン繊維構築の解析
本蔵直樹(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター)
(8)
微小管動態制御を介した樹状突起伸張の分子機構
大川宜昭,井ノ口馨(三菱化学生命科学研究所)
(東京大学 大学院 医学系研究科 医用生体工学講座システム生理学)
(9)
M1受容体を介した海馬CA1領域における長期増強の修飾機構
篠江徹,松井稔,真鍋俊也(東京大学医科学研究所神経ネットワーク分野)
(10)
拡散を介した小脳異種シナプス抑制の分子基盤:グルタミン酸輸送体が担う役割
佐竹伸一郎,井本敬二(生理研神経シグナル)
(11)
アストロサイトの機能変化とシナプス伝達の可塑性
小泉修一(国立衛研・薬理)
(12)
ニューロン―グリア細胞間の情報伝達によるシナプス空間の動的制御
松井広(生理研・脳形態解析)
(13)
神経ペプチドPACAPによる高次脳機能調節
橋本均1,2,新谷紀人1,角田享也2,松田敏夫2,3,馬場明道1
1大阪大・院薬・神経薬理,2大阪大・院医・子どものこころの分子統御機構研セ, 3大阪大・院薬・複合薬物動態)
(14)
マウスと昆虫におけるフェロモン受容メカニズム
佐藤幸治,東原和成(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

【参加者名】
高橋正身(北里大医),佐藤幸治(東京大院新領域創成科学),福島章顕,本蔵直樹,松崎政紀,尾藤晴彦,藤井哉(東京大院医学),真鍋俊也,渡部文子,篠江徹(東京大医科学研),畑裕(東京医科歯科大医)井ノ口馨,大川宣昭(三菱化学生命科学研),小泉修一,大久保聡子(国立医薬品食品衛生研),板倉誠(北里大医),阿部輝雄(新潟大脳研),片岡正和(信州大工),大塚稔久,所崇,比嘉進(富山大医),森泰生,瓜生幸嗣,三木崇史,加藤賢太,山崎浩史,秋山智志,清中茂樹(京都大院工学),橋本均(大阪大院薬学),狩野方伸,喜多村和郎,橋爪幹(大阪大院医学),西木禎一(岡山大院医歯薬学総合),林崇(Johns Hopkins大),西宗裕史(Harvard大),福田善之,岩崎広英(統合バイオ),石井裕,加勢大輔,井上剛,佐々木幸恵,稲田浩之,西巻拓也,高鶴裕介,渡部美穂,山口純弥,和気弘明,前島隆司,野田昌晴,北村明彦,春日井雄,川上良介,深澤有吾,根本知己,佐竹伸一郎,松井広,井本敬二(生理研)


 

(1) シナプス間隙物質による神経終末の組織化

西宗裕史 (Harvard Univ. Dept. MCB, Univ. of Kansas Medical Sch. Dept. Anatomy & Cell Biology)

 シナプス前終末に存在する電位依存性カルシウムチャネルとアクティブゾーンは神経伝達に重要な分子と構造である。これらのシナプス前終末における組織化と維持は,シナプス形成にとって不可欠であり,また可塑性に関与する可能性が高い。我々は,電位依存性PQ,Nタイプカルシウムチャネルとシナプス間隙の細胞外マトリックス分子(ラミニン)の相互作用によりアクティブゾーン構造が組織化されている知見を得た。まず,シナプス形成研究のモデルとなってきた神経筋接合部において得られた知見を報告する。さらに,この様なカルシウムチャネルの細胞外蛋白質相互作用が中枢神経系のシナプスにおいてもシナプス前終末の組織化に関与する可能性について予備的な結果を紹介したい。さて,ラミニン分子は3つの異なるサブユニット(abg) から形成される3量体だが,神経筋接合部には3種類 (a4,a5,b2) の特異的サブユニットが存在する。こられサブユニットの遺伝子欠損マウスの解析から,個々のラミニンサブユニットは異なる機能を担うことが解ってきた。シナプス前終末に対しては,b2サブユニットがカルシウムチャネルと相互作用しアクティブゾーンを組織化し,a4がアクティブゾーンの位置と大きさの調整する。一方でシナプス後細胞に対してはa5が,神経伝達物質受容体集合体の形態的分化を調節している結果を得た。このようにラミニン分子はシナプス前終末だけでなくシナプス後細胞にも作用してシナプス形成とその成熟に関与する可能性が考えられる。

 1. Nishimune H, Sanes JR, Carlson SS. (2004) A synaptic laminin-calcium channel interaction organizes active zones in motor nerve terminals [Research Article]. Nature ; 432 : 580-587

 2. Fernandez-Chacon R, Wolfel M, Nishimune H, Tabares L, Schmitz F, Castellano-Munoz M, Rosenmund C, Montesinos ML, Sanes JR, Schneggenburger R, Sudhof TC. (2004). The synaptic vesicle protein CSPalpha prevents presynaptic degeneration. Neuron ; 42 : 237-251.

 3. Nishimune H, Vasseur S, Wiese S, Birling MC, Holtmann B, Sendtner M, Iovanna JL, Henderson CE. (2000). Reg-2 is a motoneuron neurotrophic factor and a signalling intermediate in the CNTF survival pathway. Nature Cell Biol. 2 : 906-914.

 

(2) 神経伝達物質の同期性放出を制御するシナプトタグミンの役割

西木禎一(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)

 シナプス伝達を担う神経伝達物質は,シナプス前終末においてシナプス小胞に蓄えられている。細胞膜の興奮に伴うCa2+の神経終末内への流入がシナプス小胞の開口放出を引き起こし,伝達物質はシナプス間隙へ遊離する。神経伝達物質放出のCa2+センサーの最有力候補は,シナプス小胞膜タンパク質シナプトタグミン1である。しかしながら,神経伝達物質放出におけるシナプトタグミン1のくわしい機能は不明のままである。この問題を明らかにするために,シナプトタグミン1遺伝子欠損マウスの海馬から調製した神経細胞を微小基質ドット上で培養し,自己シナプスを形成させた単一ニューロンからの伝達物質放出を,パッチクランプ法により解析した。刺激に対する神経伝達物質の放出は,刺激後数ミリ秒で素早く放出される同期性成分と,その後数百ミリ秒間にわたり放出が続く非同期性成分に分けられる。シナプトタグミン1欠損神経細胞では,同期性成分が消失している一方で,非同期性成分が増加していた。その結果,刺激後400ミリ秒間に放出された伝達物質の総量には有意な差がなかった。このことから,シナプトタグミン1は伝達物質の放出において二つの役割をもつことが明らかとなった。ひとつは,シナプス小胞の開口放出を刺激に同期させて瞬時に引き起こすことであり,もうひとつは非同期性の放出を抑制することである。さらに,アミノ酸置換によりCa2+結合部位を変異させたシナプトタグミン1遺伝子を神経細胞に発現させ,伝達物質放出に対する影響を調べた。その結果,シナプトタグミン1のCa2+に対する親和性が低下すると,伝達物質放出の同期性成分が減り,非同期性成分が増えることが示唆された。さらに,シナプトタグミン1へのCa2+の結合が同期性放出に必須であること,非同期性成分の抑制にはCa2+結合は関与しないことが示された。このように,シナプトタグミン1は神経伝達物質放出の刺激に対する同期性を制御している。

 1. Nishiki T and Augustine GJ. (2004) Dual roles of the C2B domain of synaptotagmin I in synchronizing Ca2+-dependent neurotransmitter release. J Neurosci., 24: 8542-8550.

 2.Nishiki T and Augustine GJ. (2004) Synaptotagmin I synchronizes transmitter release in mouse hippocampal neurons. J Neurosci., 24: 6127-6132.

 

(3) SADキナーゼによる神経伝達物質放出の調節機構

大塚稔久(富山大学大学院医学薬学研究部)

 神経終末の形質膜直下に存在するアクティブゾーン(Active zone; AZ) は,シナプス小胞が特異的にドッキングする場所で,神経伝達を時間的・空間的に制御する構造体として機能している。私共が見出したAZ蛋白質CASTおよびELKSはAZの主要構成分子であり,他のAZ蛋白質Bassoon, Piccolo, RIMs, Munc13-1と巨大な分子複合体を形成し,AZの形成・維持・機能発現に関与していることが明らかになりつつある。また,AZに関連する一連の研究過程で,私共は,神経細胞の極性形成(軸索と樹状突起の形成)を制御するリン酸化酵素SADキナーゼがシナプス小胞とAZに局在していることを明らかにした1。SADキナーゼはリン酸化の活性依存的に神経伝達物質の放出を制御しており,さらに,AZにおいてRIM1を特異的にリン酸化する。AZの構築・機能発現に関わるシグナル伝達機構については不明な点が多いが,このユニークな局在を示すSADキナーゼの同定を足がかりに,AZにおけるリン酸化ネットワークの全容解明とその生理的な役割について新たな知見が得られることを期待している。

 1. Inoue, E., Mochida, S., Takagi, H., Higa, S., Deguchi- Tawarada, M., Takao-Rikitsu, E., Inoue, M., Yao, I., Takeuchi, K., Kitajima, I., Setou, M., Ohtsuka, T.*, and Takai, Y. (2006) SAD: a presynaptic kinase associated with synaptic vesicles and the active zone cytomatrix that regulates neurotransmitter release. Neuron 50: 261-275. (*corresponding author)

 2. Deguchi-Tawarada, M., Inoue, E., Takao-Rikitsu, E., Inoue, M., Kitajima, I., Ohtsuka, T.*, and Takai, Y. (2006) Active Zone Protein CAST is a Component of Conventional and Ribbon Synapses in Mouse Retina. J. Comp. Neurol. 495: 480-496.(*corresponding author)

 3. Takao-Rikitsu, E., Mochida, S., Inoue, E., Deguchi-Tawarada, M., Inoue, M., Ohtsuka, T.*, and Takai, Y. (2004) Physical and functional interaction of the active zone proteins, CAST, RIM1, and Bassoon, in neurotransmitter release. J. Cell Biol. 164:301-311. (*corresponding author)

 4. Ohtsuka, T.*, Takao-Rikitsu, E., Inoue, E., Inoue, M., Takeuchi, M., Matsubara, K., Deguchi-Tawarada, M., Satoh, K., Morimoto, K., Nakanishi, H., and Takai, Y. (2002) CAST: a novel protein of the cytomatrix at the active zone of synapses that forms a ternary complex with RIM1 and Munc13-1. J. Cell Biol. 158: 577-590. (*corresponding author)

 

(4) AMPA受容体のリン酸化と脂質修飾によるtrafficking制御

林崇(ジョンズ・ホプキンス大学医学部神経科学科)

 AMPA型グルタミン酸受容体は,中枢神経系において速い興奮性シナプス伝達を担う主要なイオンチャンネル型受容体である。このAMPA受容体の制御は,学習・記憶の分子基盤として重要な役割を果たすと考えられる。これまでAMPA受容体自体の分子修飾による機能や局在の調節機構は,可逆的なセリン・スレオニンリン酸化を中心として精力的に研究が展開されて来た。今回,新たにチロシンリン酸化および脂質修飾の一種であるパルミトイル化によるAMPA受容体の局在とtraffickingの制御を明らかにしたのでこれを紹介する。

 先ず,AMPA受容体GluR2サブユニットのC末端領域に存在するチロシン残基が,Srcファミリーチロシンキナーゼによりリン酸化される事を見出した。そして,このチロシンリン酸化に伴ってGluR2C末端結合タンパク質GRIP1/2およびPICK1との会合性に変化が生じ,細胞表面のAMPA受容体がエンドサイトーシス機構によって刺激依存的に神経細胞内に取り込まれる事を示した。

 次いで,AMPA受容体各サブユニットの二カ所の共通配列中のシステイン残基がパルミトイル化される事を明らかにした。その結果,受容体サブユニット間の会合性やチャンネルの電流電圧特性には影響を与える事なく,受容体の細胞内局在が制御された。即ち,チャンネルポア領域を構成する第二膜貫通領域のパルミトイル化によりAMPA受容体のゴルジ体局在が制御された。また,C末端領域のパルミトイル化は,AMPA受容体の表面発現の維持とグルタミン酸受容体アゴニストの刺激による神経細胞内への取り込みに関与した。

 以上の結果から,従来研究の進んでいたセリン・スレオニンリン酸化に加え,AMPA受容体のチロシンリン酸化および脂質修飾もシナプス可塑性における重要な分子制御機構であると示唆された。

 1. Hayashi T, Huganir RL. (2004) Tyrosine phosphorylation and regulation of the AMPA receptor by Src family tyrosine kinases. J. Neurosci. 24, 6152-6160.

 2. Hayashi T, Rumbaugh G, Huganir RL. (2005) Differential regulation of AMPA receptor subunit trafficking by palmitoylation of two distinct sites. Neuron 47, 709-723.

 

(5) NMDA受容体の欠損は海馬CA3領域の興奮性の亢進を引き起こす

福島章顕1,中尾和人1,篠江徹2,真鍋俊也2,三品昌美1
1東京大学医学系研究科・分子神経生物学教室,
2東京大学医科学研究所・神経ネットワーク分野)

 海馬CA3錐体細胞は,豊富に存在するリカレント回路により同期発火する。この同期発火は海馬脳波の発生,記憶の形成,さらにてんかん発作の発症に関与すると考えられている。海馬スライスの実験からCA3野での同期発火はNMDA受容体依存的なシナプス結合の増強を引き起こし,てんかん発生に関与すると考えられてきた。しかしながら,意外にもCA3錐体神経細胞選択的にNMDA受容体を欠損したマウスは,カイニン酸誘発発作をより発症しやすくなっていた。変異体マウスCA3野の局所脳波において異常なEEGスパイクが検出され,このEEGスパイクの発生時には個々のCA3錐体細胞のユニット活動が著しく増加していた。これらの結果は変異体のCA3錐体神経細胞がより同期発火しやすくなったことを示唆している。CA3野の興奮性の増大の機構を調べたところ,変異体CA3錐体細胞において,AMPA受容体応答とGABAA受容体応答の比に変化は検出できなかったが,高頻度刺激で誘発される後過分極電流が変異体マウスで消失していることが明らかになった。以上の結果は,NMDA受容体はCA3錐体細胞の同期発火を制限することでCA3リカレントネットワーク全体の興奮性を抑制することを示唆しており,これはおそらくNMDA受容体と後過分極電流との共役によって達成されていると考えられる。

 

(6) 生体内における神経活動の2光子励起イメージング

喜多村和郎(大阪大学大学院医学系研究科細胞神経科学)

 2光子励起イメージング法は,生体内すなわち生きた脳内において単一神経細胞の活動を捉えることのできる強力な手法である。これまでの細胞外記録法やユニット記録法では得られなかった情報を可視化することが可能であることから,近年,非常に多くの研究者から注目を集めている。我々は,特に,脳内における単一神経細胞の入出力関係を明らかにすることを目標に,2光子励起カルシウムイメージングとホールセル記録の同時計測を行ってきた。

 麻酔下のラット小脳において,プルキンエ細胞からホールセル記録と樹状突起内カルシウムイメージングを行った。感覚刺激で誘発される登上線維入力由来の複雑スパイクが観察され,それによって起こる樹状突起内カルシウム信号を電位変化と同時に捉えることに成功した。登上線維入力により,プルキンエ細胞の樹状突起全体にわたりカルシウム濃度の上昇が見られ,平行線維シナプスのスパインにおいても顕著なカルシウム上昇が観察された。このことは,登上線維入力が生体内において,全体的な統合シグナルとして機能していることを示唆している。

 また,2光子励起イメージングを用いた生体内におけるパッチクランプ記録の成功率向上のために,新たな方法の開発を行っている。研究会では,この方法およびこれを応用した,生体内における単一神経細胞の機能改変法について紹介したい。

最近の論文

 Y. Loewenstein, S. Mahon, P. Chadderton, K. Kitamura, H. Sompolinsky, Y. Yarom & M. HTM usser : Bistability of cerebellar Purkinje cells modulated by sensory stimulation. Nature Neurosci. 8, 201-211 (2005).

 

(7) 2光子励起光標識法を用いた単一スパインのアクチン繊維構築の解析

本蔵直樹(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター)

 大脳皮質においては,興奮性シナプスの多くは樹状突起のスパインに形成される。スパインの構造は非常に多様であり,近年スパイン頭部構造の大きさに依存して,機能的なグルタミン酸受容体の発現量が決まること,長期増強に際してはスパインの頭部の増大が起きること,またこの構造可塑性がスパイン初期形態に依存することが示されている。スパインにはアクチン繊維(F-actin) が多く存在するが,他の細胞骨格タンパク質である微小管や中間系フィラメントは存在せず,F-actinが主要な細胞骨格と考えられている。しかし,これまでの研究では単一スパイン内でのF-actinの構築,即ちその配列や動態,は未知であった。そこで私はGFPの改変タンパク質PA-GFPとb-actinを融合したDNAを作製し,遺伝子銃を用いてCA1錐体細胞へ導入し,単一スパインに存在するアクチン分子の動態を,2光子励起顕微鏡を用いて蛍光観察した。2光子励起光活性化法を用いてアクチン分子の構成を調べたところ,拡散速度の違いからG-actin(ミリ秒の拡散)とF-actin(分の拡散)は明確に区別でき,これよりスパインにはF-actinが濃縮していることが定量的に示された。またG-actinの速い拡散のために,2光子励起光活性化を行った1秒後に観察される蛍光像は,F-actinのみを反映していることがわかった。この方法論を用いてスパインのF-actinを調べたところ,F-actinには動的および安定的な性質を持つ2種類のプールが存在することが分かった。安定的なF-actinプールはスパイン体積に比例してその存在比率が増し,その存在量はスパイン体積の2乗に比例した。こうして,大きなスパインのF-actinは小さいスパインのそれより全体として安定であることがわかった。一方,動的なF-actinはスパイン先端部から基底部に向けてトレッドミリングしており,スパイン体積が大きいほど流れは速く,かつ長さも長いことがわかった。これは大きなスパイン程,F-actinは大きな力でスパインを膨張させていること,即ち,スパイン体積はアクチン重合の速さで決まることを示唆した。実際,スライス標本にアクチン重合阻害剤であるLatrunculin A を投与したところ,スパイン頭部体積は数分以内に収縮することが明らかとなった。この様に,私はサブスパインレベルのアクチン繊維の構築を初めて明らかにした。動的F-actinプールはスパイン頭部形態をよく説明した。一方,安定的プールは,スパインのネック形態及びスパインの形態安定性に関係することが示唆された。

 

(8) 微小管動態制御を介した樹状突起伸張の分子機構

大川宜昭,井ノ口馨(三菱化学生命科学研究所)

 小脳プルキンエ細胞の樹状突起は,神経細胞群の中でも特に複雑な形態を示し,その発達は,平行線維・登状線維とのシナプス形成を伴いつつ生後2-3週目の間に劇的に進むことが知られている。この樹状突起の伸展・パターン形成は微小管の動態制御を伴うと想定されているが,その分子機構の詳細は不明である。我々は生後2-3週のプルキンエ細胞特異的ディファレンシャルスクリーニングを行い,プルキンエ細胞発達に寄与する因子の同定を行ってきた。

 得られた候補因子の1つは微小管の脱重合促進因子であるstathminであり,プルキンエ細胞におけるstathminの発現は生後12日から18日にかけて減少することが観察された。Stathminの発現低下が樹状突起伸展に重要であるという仮説のもと,初代培養プルキンエ細胞にstathminを過剰発現させたところ,樹状突起の伸展阻害が観察された。また,stathminはリン酸化を受けることで微小管崩壊活性を失うが,その活性低下に重要とされるSer16のリン酸化は,神経活動依存的にCaMKIIにより触媒されることが示唆された。我々は,CaMKII活性がプルキンエ細胞樹状突起伸展に重要であることも見いだしている。さらに,樹状突起伸展との関連性が示唆されている電位依存性L型カルシウムチャンネル及び1型代謝型グルタミン酸受容体の阻害剤により,Ser16のリン酸化レベルは有意に減少した。以上の結果は,プルキンエ細胞樹状突起発達におけるstathminの発現減少,及び,神経活動依存的カルシウムシグナリングを介したCaMKIIによるstathminのリン酸化の重要性を示唆している。

 さらに我々は,上記スクリーニングにより発達期プルキンエ細胞で発現上昇する因子としてNAT1を同定した。NAT1は,触媒活性を持つARD1と複合体を形成しアセチルトランスフェラーゼとして機能する。ARD1,NAT1はともに微小管と共局在を示すことが観察されたとともに,in vitroにおいて,ARD1-NAT1複合体はブタ脳より精製したtubulinのアセチル化を促進した。微小管を構成するa-tubulinのアセチル化は,微小管の安定性との関連が示唆されている。また,ARD1のRNAiおよび,ドミナントネガティブ型ARD1の過剰発現は,a-tubulinの脱アセチル化酵素であるHDAC6の過剰発現と同様に初代培養プルキンエ細胞の樹状突起発達を阻害した。以上の結果はARD1-NAT1複合体が未同定であったa-tubulinのアセチル化制御因子であること,及び,この複合体によるa-tubulinのアセチル化制御を介し,樹状突起伸展が微小管レベルで制御されていることを示唆している。

 以上の結果から,樹状突起発達における微小管動態制御の重要性が示唆された。今後は,上記の結果を踏まえ,構造的・機能的可塑性発現への微小管制御機構の関与を検討したい。

 1.Ohkawa N., et al. (2006) Stathmin, a microtubule destabilizer, mediates the development of dendritic arbors in cerebellar Purkinje cells. Submitted.

 

(9) M1受容体を介した海馬CA1領域における長期増強の修飾機構

篠江徹,松井稔,真鍋俊也(東京大学医科学研究所神経ネットワーク分野)

 ムスカリン性アセチルコリン受容体 (mAChR) は,学習や記憶の形成に重要な役割を担う海馬のシナプス可塑性を制御すると考えられている受容体の一つである。しかしながら,これまでに行われてきた研究では,比較的高い濃度のmAChRアゴニストが用いられ,またアンタゴニストのサブタイプ選択性も十分なものではなかった。そのため,生理的な濃度のアセチルコリンがシナプス可塑性の制御に関与しているのか,さらにその場合,どのサブタイプがその効果を担うのかは,未だ明らかにされていなかった。本研究では,これらの問題を検討するために電気生理学的な手法を用いて解析を行った。その結果,サブタイプ非選択的なmAChRアゴニストであるカルバコールを低濃度 (50 nM) でマウス海馬スライス標本に灌流投与することにより,CA1領域における興奮性シナプス伝達の長期増強 (LTP) が増大することが明らかとなった。また,このLTPの増大効果は,M1受容体ノックアウトマウスにおいて消失していた。一方,M3受容体ノックアウトマウスでは,この増大効果は正常であった。また,両ノックアウトマウスのLTPそのものは正常であった。さらに,野生型マウスにおいて海馬上昇層を高頻度刺激して内側中隔核に由来するコリン作動性神経終末から内因性アセチルコリンを放出させると,LTPがやはり増大した。また,この内因性アセチルコリンによるLTP増大効果は,M1受容体ノックアウトマウスで消失していた。これら一連の結果から,コリン作動性神経終末から生理的に放出されるアセチルコリンは,シナプス後細胞のM1受容体を介してシナプス可塑性を修飾することが示唆された。

 1.Shinoe T, Matsui M, Taketo MM, Manabe T (2005) Modulation of synaptic plasticity by physiological activation of M1 muscarinic acetylcholine receptors in the mouse hippocampus. J Neurosci 25:11194-11200.

 

(10) 拡散を介した小脳異種シナプス抑制の分子基盤:グルタミン酸輸送体が担う役割

佐竹伸一郎,井本敬二(生理研神経シグナル)

 下オリーブ核から小脳への登上線維を反復刺激 (5 Hz, 1 s) すると,籠細胞‐プルキンエ細胞間のGABA作動性シナプス伝達が一時的に (〜10 s) 減弱する(即ち,プルキンエ細胞を脱抑制するため,小脳出力が強化されることになる)1。登上線維の興奮性伝達物質は,放出部位から拡散して前シナプス性AMPA型グルタミン酸受容体を活性化することにより,籠細胞のGABA放出を抑制したと推定している2。この異種シナプス抑制の分子基盤を明らかにするため,登上線維の伝達物質が拡散する過程において,グルタミン酸輸送体が果たす役割を検討した。EAAT4/GLT-1特異的阻害薬threo-3-methylglutamate (IC50 = 〜100 mM) は,低濃度 (30 mM) で登上線維刺激に伴うGABAシナプス抑制を顕著に増強した。一方,GLT-1阻害薬dihydrokainate (IC50 = 〜30 mM) は,高濃度(300 mM)で投与しても無効であった。プルキンエ細胞に豊富に存在するニューロン型グルタミン酸輸送体EAAT4が,登上線維‐籠細胞間異種シナプス抑制を制御する役割を担っていることを示唆している。

 EAAT4は,小脳において矢状方向にzebrin-IIと重複する様式で帯状に発現している。この性質を利用してEAAT4発現量と異種シナプス抑制について検討を行い,EAAT4低発現領域では登上線維刺激に伴うGABAシナプス抑制を容易に誘発できるが,高発現領域では誘発できないことを見出した。小脳異種シナプス抑制には,プルキンエ細胞のEAAT4発現量に依存した領域特異性があると考えられる。登上線維を強く反復刺激 (5 Hz, 30 s)すると,登上線維‐プルキンエ細胞間シナプス伝達(AMPA受容体)に長期抑圧が惹起される。この時,プルキンエ細胞のグルタミン酸輸送体は逆に長期増強を起こす。登上線維シナプスに長期抑圧を誘発すると,異種シナプス抑制は有意に減弱した。プルキンエ細胞(後シナプス細胞)は,グルタミン酸回収能を変化させて,拡散を介した登上線維‐籠細胞(前シナプス細胞)間クロストークを逆行性に制御できることを示唆している。こうした観察結果に基づき,ニューロン型グルタミン酸輸送体が小脳皮質の情報処理に主導的役割を果たす可能性について議論したい。

 1. Satake S., Saitow F., Rusakov D. and Konishi S. (2004) AMPA receptor-mediated presynaptic inhibition at cerebellar GABAergic synapses: a characterization of molecular mechanisms. Eur. J. Neurosci. 19, 2464-2474.

 2. Satake S., Song S.-Y., Cao Q., Satoh H., Rusakov D. A., Yanagawa Y., Ling E.-A., Imoto K. and Konishi S. (2006) Characterization of AMPA receptors targeted by the climbing fiber transmitter mediating presynaptic inhibition of GABAergic transmission at cerebellar interneuron-Purkinje cell synapses. J. Neurosci. 26, 2278-2289.

 

(11) アストロサイトの機能変化とシナプス伝達の可塑性

小泉修一(国立衛研・薬理)

 アストロサイトはシナプスを取り囲み,ほとんどすべての神経伝達物質受容体を有し,シナプス間隙から漏れた伝達物質に素早く応答する。また,刺激に応じてグリア伝達物質 (gliotransmitter) を放出し,ニューロンを含む周辺細胞とコミュニケーションをとる。このようにニューロンの活動は周囲のグリア細胞,特にアストロサイトによって積極的・即時的な制御を受けていることがわかってきた。本研究では,gliotransmitterとして中心的役割を果たすATPとその受容体P2受容体に注目し,アストロサイトによるシナプス伝達制御様式の詳細,さらに炎症・外傷等の病態時に即座に反応性に変化するアストロサイトの機能変化がシナプス伝達効率に与える影響についても述べる。

 ラット海馬初代ニューロン−グリア共培養細胞では,アストロサイトは刺激依存的にATPを細胞外に放出し,ATP依存的及び即時的に興奮性シナプス伝達を制御した。このATPを介した tripartite synapse(三者間シナプス;pre-, post- 及びastrocyteが作るperi-synapse)によるコミュニケーションが,所謂シナプス伝達の本体である可能性が示唆された。一方アストロサイは神経活動に依存しない自発的ATP放出能を有しており,周辺細胞は常に一定以上のATP刺激に曝されていた。このアストロサイトの自発的なATP放出が,近傍ニューロンのシナプス伝達を恒常的にも制御していることが明らかとなった。炎症及び外傷等の病態時には,アストロサイトは素早く反応性アストロサイトに変化する。肥厚化した短いプロセスを有する特徴的な形態を呈し,種々の刺激応答性及びアウトプット能を変化させる。反応性アストロサイトはATP放出能が著しく亢進していた。このようなgliotransmitter放出能の変化はシナプス伝達効率に強く影響することが示唆される。これまで『脳の可塑性研究』は,『シナプスの可塑性研究』として行われてきたが,より変わり身の早いグリア細胞の機能変化は,脳の可塑性によりダイナミックに影響することが予想される。

 1. Koizumi S., Fujishita K., Tsuda M., Shigemoto-Mogami, Y. and Inoue K. (2003) Dynamic inhibition of excitatory synaptic transmission by astrocyte-derived ATP in hippocampal cultures. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 11023-11028.

 2. Tsuda M., Shigemoto-Mogami Y., Koizumi S., Mizokoshi A., Kohsaka, S., Salter M. W. and Inoue K. (2003) Induction of P2X4 ionotropic ATP receptor in spinal hyperactive microglia gates neuropathic pain. Nature, 424, 778 - 783.

 

(12) ニューロン―グリア細胞間の情報伝達によるシナプス空間の動的制御

松井広(生理研・脳形態解析)

 シナプス前終末部から放出された伝達物質は細胞外空間を拡散し,その広がり方に従って,神経細胞間の情報伝達の特性は決定される。しかし,伝達物質がどんな速度で,どの程度の距離まで,いかなる濃度で拡散するのか,これまで統一的見解は得られていない。特に,シナプス間隙を越えた伝達物質の広がりを制御する要素としては,グリア細胞に高密度で発現しているトランスポーターによる伝達物質回収機構が考えられる。しかし,このトランスポーターがどれだけ重要な役割をしているのかに関して,議論は紛糾している (Otis et al., 1997; Auger and Attwell, 2000; Takatsuru et al., 2006)。

 本研究では,小脳登上線維および平行線維からバーグマングリア細胞に向けて,シナプス小胞の異所放出があり,放出されたグルタミン酸がバーグマングリア細胞のCa2+透過型AMPA受容体を活性化していることを突き止めた (Matsui and Jahr, 2003; 2004; Matsui et al., 2005; Matsui and Jahr, 2006)。これは,シナプス間隙に放出された伝達物質が溢れ出て,グリア細胞まで拡散することによって,ニューロン?グリア細胞間の情報伝達が行なわれるとする従来の視点を覆す発見である。またこれまで,バーグマングリア細胞のCa2+透過型AMPA受容体の活性化に従って,グリア細胞によるシナプス部位の包囲率が制御されていることが提唱されてきた (Iino et al., 2001)。本研究では,二光子イメージングを用いて,バーグマングリア細胞の形態が分単位でダイナミックに変化することを明らかにした。したがってグリア細胞は,各々のシナプスによって働きが異なり,その役割も刻一刻と変化するものであると予測される。

 1. Matsui K, Jahr CE (2006) Exocytosis unbound. Current Opinion in Neurobiology, in press.

 2. Matsui K, Jahr CE, Rubio ME (2005) High concentration rapid transients of glutamate mediate neural-glial communication via ectopic release. Journal of Neuroscience, 25: 7538-7547.

 3. Matsui K, Jahr CE (2004) Differential control of synaptic and ectopic vesicular release of glutamate. Journal of Neuroscience, 24: 8932-8939.

 4. Matsui K, Jahr CE (2003) Ectopic release of synaptic vesicles. Neuron, 40: 1173-1183.

 

(13) 神経ペプチドPACAPによる高次脳機能調節

橋本均1,2,新谷紀人1,角田享也2,松田敏夫2,3,馬場明道1
1大阪大・院薬・神経薬理,2大阪大・院医・子どものこころの分子統御機構研セ,
3大阪大・院薬・複合薬物動態)

 神経ペプチドは一般に,共発現する低分子性神経伝達物質の作用を,そのセカンドメッセンジャー系の活性化時間や方向性などを変化させることにより,長いタイムスパンで修飾する。私たちは,神経ペプチドPACAP (pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide) の選択的受容体PAC1のクローニングを契機として,PACAPの生理・病態的意義,創薬標的分子としての可能性を探る研究を進め,これまでに精神行動の調節など,予測外の機能を見出してきた。マウスにおけるノックアウト表現型には,1) 新規環境下での多動,探索行動の増加,高頻度の跳躍,2) 脳内の感覚運動ゲーティング機能を反映するとされる音刺激驚愕反応におけるプレパルス抑制の低下,3) 海馬シナプス可塑性および記憶保持過程の障害などが観察された。またこれらの分子機構へのアプローチとして,4) 抗精神病薬や精神刺激薬への薬理反応が,臨床治療効果と類似すること,5) 精神刺激薬による多動の調節機構に,特定のセロトニン受容体が関与することなども見出した。以上の結果は,PACAPシグナル系を直ちに創薬標的として位置づけるものではないが,PACAP欠損マウスが,精神疾患や認知障害等の神経生物学や感受性遺伝子の研究に有用な,予測的妥当性を有した病態モデルである可能性を示すものである。

 1. Tanaka K, Shintani N, Hashimoto H, Kawagishi N, Ago Y, Matsuda T, Hashimoto R, Kunugi H, Yamamoto A, Kawaguchi C, Shimada T, Baba A. (2006) Psychostimulant- induced attenuation of hyperactivity and prepulse inhibition deficits in Adcyap1-deficient mice. J. Neurosci., 26: 5091-5097.

 2. 橋本均,新谷紀人,馬場明道 (2006) PACAP欠損マウス−新しい精神機能障害モデル。脳と精神の医学,17: 47-52.

 3. Hashimoto H, Shintani N, Baba A. (2006) New insights into the central PACAPergic system from the phenotypes in PACAP- and PACAP receptor-knockout mice. Ann. N. Y. Acad. Sci., in press.

 

(14) マウスと昆虫におけるフェロモン受容メカニズム

佐藤幸治,東原和成(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

 多くの生物は社会性の維持や的確な繁殖相手を見つけ出すために,種特異的な物質を介したケミカルコミュニケーションを利用している。これらの物質はフェロモンと呼ばれ,哺乳類と昆虫ではそれぞれ独自にその受容機構が発達している。マウスでは未だフェロモンそのものが数々のヴェールに包まれているが,主嗅球を介して雌マウスを誘引する雄の尿由来の揮発性フェロモンが最近報告された。この他にもマウスでは古くからフェロモン受容器官として鋤鼻器の存在が知られており,最近我々の研究グループで,雄マウスの涙腺から特異的に分泌されるペプチド(ESP1) がメスの鋤鼻器を活性化することを明らかにした1)。このペプチドのアミノ酸配列はゲノム中に多重クラスタを形成してコードされており,様々な相同遺伝子が含まれる。発現解析およびリコンビナントによる電気生理学的な応答解析を行ったところ,主嗅覚器ではなく鋤鼻器がESPペプチドの受容器官であることがわかった。つまりマウスは主嗅覚系と揮発性フェロモン,および鋤鼻器と非揮発性フェロモンの2段階の嗅覚性感覚刺激を介した情報伝達手段を発達させてきたと思われる。

 一方昆虫では既に数百種のフェロモンが同定されており,それらは触角中のフェロモン受容体を発現している嗅細胞で受容される。昆虫におけるフェロモン受容の分子機構はほとんど未解明であるが,最近我々はカイコの雄誘因物質,ボンビコールの受容体を同定した2)。この受容体が生体同様に高感度でボンビコールを受容するためにはOr83bファミリーの受容体との共発現が必須であり,匂い刺激に対して非選択的カチオン電流が発生することを明らかにした3)。このように異種間で独自なフェロモン受容機構は,生物が進化させてきた究極の化学センサーの分子基盤と言える。

 1) Kimotto H, Haga S, Sato K, and Touhara K. (2005) Sex-specific peptides from exocrine glands stimulate mouse vomeronasal sensory neurons. Nature, 437: 898-901.

 2) Sakurai T, Nakagawa T, Mitsuno H, Mori H, Endo Y, Tanoue S, Yasukochi Y, Touhara K, and Nishioka T. (2004) Identification and functional characterization of a sex pheromone receptor in the silkmoth Bombyx mori. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101: 16653-16658.

 3) Nakagawa T, Sakurai T, Nishioka T, and Touhara K. (2005) Insect sex-pheromone signals mediated by specific combinations of olfactory receptors. Science, 307: 1638-1642.

 


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