生理学研究所年報 第28巻
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11.脳磁場計測によるヒト脳機能マッピング

2006年12月13日−12月15日
代表・世話人:柿木 隆介(自然科学研究機構・生理学研究所)
所内対応者:柿木 隆介(自然科学研究機構・生理学研究所)

(1)
注意の磁場イメージング:体性感覚・聴覚皮質の早期可塑性
橋本 勲(金沢工業大学・東京赤坂研究所)
(2)
生体磁気計測の基礎と応用
内川 義則(東京電機大学・理工学部電子情報工学科)
(3)
脳波側からみた脳磁場計測
長峯 隆(京都大学・医学研究科附属高次脳機能総合研究センター・臨床脳生理学領域)
(4)
言語脳活動の計測と解析法
栗城 眞也(北海道大学・電子科学研究所)
(5)
ヒト脳機能マッピングの現状と将来
柴崎 浩(京都大学・名誉教授)
(6)
The radial bias: a different slant on visual orientation sensitivity in human and non-human primates
佐々木 由香(ハーバード大学)
(7)
感覚情報の階層処理
乾 幸二(生理学研究所・感覚運動調節研究部門)
(8)
DirectXを用いた四分の一パターン反転視覚刺激示課題の開発
橋詰 顕(広島大学大学院・先進医療開発科学講座脳神経外科)
栗栖 薫,長崎 信一,谷本 啓二(広島大学大学院・病態情報医科学講座歯科放射線科)
(9)
Fundamental Research on Electrical Brain Mapping of Motor Imagination
Mastake Kawada(The University of Tokushima)
Richard M. Leahy (University of Southern California)
(10)
聴覚・視覚誘発脳磁図反応における刺激の規則性,親密度および調和性の可交換性
原田 暢善,岩木 直,外池 光雄(産業技術総合研究所関西センター・人間福祉医工学部門)
(11)
ボタン押し練習前後の反応時間と脳磁場周波数変化について
菅野 正光,岩田 全弘,藤村 昌彦,弓削 類(広島大学大学院・保健学研究科)
橋詰 顕,栗栖 薫(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・脳神経外科学)
(12)
運動様式の違いによる運動誘発磁場の大脳皮質運動野と感覚野の反応の相違について
小川 真司(日本医科大学・千葉北総病院リハビリテーション科)
(慶應義塾大学・医学部リハビリテーション医学教室)
(13)
パターンリバーサル刺激視覚誘発反応P100成分の発生機構の検討
仲間 大貴,三浦 太一,畑中 啓作,北村 吉宏
(岡山理科大学・理学部応用物理学科・岡山療護センター)
(14)
MEGによる言語優位半球の同定 - Wadaテストとの比較
金子 裕,岡崎 光俊(国立精神神経センター・武蔵病院脳神経外科・臨床検査部・精神科)
(15)
音色のカテゴリー知覚の聴性誘発N1mの下降脚への反映
水落 智美,加我 君孝(東京大学大学院・医学系研究科・感覚運動神経科学)
湯本 真人(東京大学・医学部附属病院・検査部)
狩野 章太郎(東京大学・医学部附属病院・耳鼻咽喉科)
伊藤 憲治,山川 恵子(東京大学大学院・医学系研究科・認知言語医学)
(16)
ノンパラメトリック統計を用いた信号源の統計的有意性の推定
鈴木 祐子,関原 謙介(首都大学東京大学院・工学研究科・システム基礎工学専攻)
(17)
時間相関の存在する複数信号源のためのBeamformer法
木村 壮志(早稲田大学大学院・理工学研究科・電気情報生命専攻)
(18)
言語性課題遂行時における自発脳磁界の解析
高松 亮介,平田 恵啓,栗城 眞也(北海道大学・電子科学研究所)
川勝 真喜(東京電機大学・情報環境学部)
(19)
誘発磁場と信号解析におけるその数理
岸田 邦治,横田 康成(岐阜大学・工学部応用情報学科)
(20)
棘波自動検出システムを用いた,脳磁図棘波の定量化の試み
芳村 勝城(静岡てんかん・神経医療センター)
渡辺 裕貴(国立精神神経センター・武蔵病院精神科)
(21)
聴覚誘発MEG応答の刺激依存性 −刺激音の周期的構造による影響−
鷲尾 大輔,栗城 眞也(北海道大学・電子科学研究所)
(22)
聴覚MMNとadaptation反応
寳珠山 稔(名古屋大学・医学部保健学科)
(23)
両耳間時間差と両耳間相関度に関わる脳磁界反応
添田 喜治,中川 誠司(産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門)
(24)
時間的に振幅変調された視覚刺激に対する脳磁界反応
岡本 洋輔,矢野 隆,安藤 四一(熊本大学大学院・自然科学研究科)
中川 誠司,藤井 健司(産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門)
(25)
格闘時における脳磁場反応と心理的要因の関係
中川 慧,伏見 健志,岩田 全広,河原 裕美,藤村 昌彦,弓削 類
(広島大学大学院・保健学研究科)
橋詰 顕,栗栖薫(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・脳神経外科学)
志々田 一宏(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・精神神経医科学)
(26)
MEG信号の独立成分分析による分離
岩木 直(産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門)
(27)
空間フィルタおよび解剖学的標準化を用いた脳磁場の周波数解析
志々田 一宏,小野田 慶一,山下 英尚,岡本 泰昌,山脇 成人
(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・精神神経医科学)
橋詰 顕,栗栖 薫(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・脳神経外科学)
中川 慧,伏見 健志,弓削 類(広島大学大学院・保健学研究科)
(28)
肘関節屈曲,過伸展動作観察時における脳磁場反応
伏見 健志,中川 慧,岩田 全広,藤村 昌彦,弓削 類(広島大学大学院・保健学研究科)
橋詰 顕,栗栖 薫(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・脳神経外科学)
志々田 一宏(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・精神神経医科学)
(29)
気体刺激のリアルタイムモニタリングによる嗅覚誘発電位・脳磁場の同時計測(2)
小早川 達,後藤 なおみ,戸田英樹(産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門)
秋山 幸代(国立スポーツ科学センター・スポーツ科学部)
小林 剛史(文京学院大学・人間学部)
斉藤 幸子(斉藤幸子味覚嗅覚研究所)

【参加者名】
中川 慧(広島大・大学院),伏見健志(広島大・大学院),菅野正光(広島大・大学院),芳村勝城(静岡てんかん神経医療センター),西村 勉(京都大・大学院),山代 幸哉(鹿児島大・大学院),橋詰 顕(広島大・先進医療開発科学),中川 誠司(産業技術総合研究所),山崎 貴男(九州大・医学研究院),綾部 友亮(慶應大・大学院),萩原 綱一(九州大・大学院),川田 昌武(徳島大・ソシオテクノサイエンス),原田 暢善(産業技術総合研究所),後藤 純信(国際医療福祉大・リハビリテーション),岩田 全広(名古屋大・大学院),小川 真司(日本医科大・千葉北総病院),早坂 友成(国際医療福祉大・大学院),三浦 太一(岡山理科大・理学部),仲間 大貴(岡山理科大・大学院),畑中 啓作(岡山理科大・理学部),斎藤 優(早稲田大・大学院),水落 智美(東京大・大学院),葛西 祐介(早稲田大・大学院),及川 敬敏(早稲田大・大学院),加古 真祥(早稲田大・大学院),佐々木 貴志(早稲田大・理工学部),嶋田 裕介(早稲田大・理工学部),嶋田 育代(早稲田大・理工学部),堂脇 可菜子(早稲田大・理工学部),鈴木 祐子(首都大学東京・大学院),前澤 仁志(京都大・大学院),木村 壮志(早稲田大・大学院),高松亮介(北海道大・大学院),高津 治(熊本大・医学部),岸田邦治(岐阜大・工学部),金子 裕(国立精神神経センター・武蔵病院),中島 大輔(九州大・大学院),尾崎 剛(大阪大・大学院),鷲尾 大輔(北海道大・大学院),雨宮 薫(慶應大・大学院),岡本 洋輔(熊本大・大学院),岩木 直(産業技術総合研究所),志々田 一宏(広島大・大学院),小早川 達(産業技術総合研究所),青山 敦(慶應大・理工学研究科),緒方 勝也(九州大・医学研究院),御代田 亮平(東京大・大学院),山崎 貴也(東京大・大学院),添田 喜治(産業技術総合研究所),宮田 智也(東京大・大学院),森田 武志(静岡県立総合病院),齊藤 崇子(九州大・芸術工学研究院),軍司 敦子(国立精神神経センター・精神保健研究所),長崎 信一(広島大・医歯薬学総合研究科),大鶴 直史(神戸大・大学院),野嶌 一平(神戸大・大学院),河原 裕美(広島大・大学院),東浦 拓郎(筑波大・大学院),金田 健史(白鴎大・発達科学部)飛松 省三(九州大・医学研究院),寶珠山 稔(名古屋大・医学部),中村 みほ(愛知県心身障害者コロニー),柿木 隆介(生理研),金桶 吉起(生理研),渡邊 昌子(生理研),乾 幸二(生理研),三木 研作(生理研),木田 哲夫(生理研),平井 真洋(生理研),中田 大貴(生理研),橋本 章子(生理研),赤塚 康介(生理研),田中 絵実(生理研),本多 結城子(生理研),浦川 智和(生理研),鯨井 加代子(生理研),坂本 貴和子(生理研),宮崎 貴浩(生理研),岡 さちこ(生理研),クリスチャン・アルトマン(生理研)

【概要】
 本年の研究会は,参加者が約65名にのぼり,22の一般演題と6つの教育講演が発表され,極めて活発な議論が行われた。また,約40名の大学院生が参加し,3日間にわたる研究会期間を通じて,若い研究者達の熱心な討論は非常に印象深いものであった。

 生理学研究所に日本で初めての大型脳磁計が導入されてから,15年が過ぎようとしている。その間に,日本では脳磁図研究が著しく進み,現在では,日本は世界で最も脳磁図研究の盛んな国といっても過言ではない。現在は,全国の主要大学の大学病院に脳磁計が設置され臨床応用の試みが盛んに行われている。それと平行して,生理学研究所をはじめとする多くの研究機関にも脳磁計が設置され,ヒトの脳機能の解明を目指して研究が続けられている。

 今回の研究会では,演題は「視覚」,「聴覚」,「体性感覚」,「嗅覚」,「運動」,「言語」,「臨床応用」,「工学」といった幅広いジャンルから発表され,わが国における脳磁図研究の裾野の広がりを実感させられた。しかし,脳磁図という共通の手法によって行われた研究ばかりであり,例え自分の専門外であっても十分に理解可能であり,また勉強になる発表ばかりであった。

 この10年間は機能的MRIの熱狂的なブームが,特に米国と英国においておこり,日本でも近年,研究者が著しく増加してきている。しかし,脳磁図の持つ高い時間分解能による時間情報の詳細な検討は,機能的MRIではけして行えないものであり,今後も脳磁図の長所を十分に生かした研究の発展をのぞんでやまない。

 

(1) 注意の磁場イメージング:体性感覚・聴覚皮質の早期可塑性

橋本 勲(金沢工業大学・東京赤坂研究所)

 選択的注意は認知過程の入り口であり,有用な情報の選別と優先処理を行う情報処理の制御である。3b野起源のM50成分を指標として選択的注意による体性感覚野の可塑的変化を観測した。2指と3指からの同時感覚入力に対して,一方の指に注意を向けることが,その指の投射野を選択的に賦活し,同時に他方の指からの入力に対する投射野の反応を抑制することを見出した。その基盤にはtop-down制御による3b野錐体細胞の水平結合を介する超早期の可塑的変化があると考えられた。聴覚系においても,周波数(400 Hzと4 kHzトーンピップ)に対する選択的注意により1次聴覚野起源のN100m双極子の位置が変化し,特に右半球で2つの周波数音に対するN100m双極子間の距離が増大した。

 先天聾では体性感覚刺激が聴覚野を賦活することが知られている。健常人の指先に与えられた3種の振動刺激(180, 280, 380 Hz)を識別するのは困難な課題である。振動刺激の後に同一周波数の音刺激をフィードバックとして与えると,振動の触感への聴覚イメージを誘導できる。このようなフィードバック条件下では振動周波数識別の向上に伴い,聴覚野の反応(潜時150-200 ms)が出現し,体性感覚周波数識別に聴覚野の関与が示唆された。

 

(2) 生体磁気計測の基礎と応用

内川 義則(東京電機大学・理工学部電子情報工学科)

 人間の心臓,脳や肺などからは地球の環境磁界の一万分の一から一億分の一程度の微弱な磁界が発生している。今日,これらの磁界を測定し,病気の診断および脳や心臓の機能解析に応用しようとする研究が各国で盛んに行われてきている。本講演では,「生体磁気計測の基礎と応用」の題で,これら生体磁気研究を支える技術としての磁界計測法,SQUIDシステムおよび信号処理法や周辺装置について三次元ベクトル計測法を含む計測例と解析例を通して述べることとする。

 

(3) 脳波側からみた脳磁場計測

長峯 隆(京都大学・医学研究科附属高次脳機能総合研究センター・臨床脳生理学領域)

 生体内における電磁現象では静場近似が成立することから,脳波計測と脳磁場計測は,脳内の電気現象をとらえる表裏一体のものとして語られることが多い。しかしながら,頭蓋,脳などの物理学的性質によって,両者間にはいくつかの相違点も見いだされる。脳磁場計測の方法立案,結果解釈などの参考になると思われるこの相違点を,再度,脳波側から眺めてみたい。

 頭蓋骨を通しての脳波成分の減衰が高周波数帯でより大きいことから,高周波数成分は脳磁場,徐波成分は脳波記録がより適していると推定される。波形の形状が,両者間で異なる可能性も考慮すべきかもしれない。

 不関電極を必要とする脳波記録に対し,脳磁場計測は細胞内電流の絶対値を推定するといわれる。しかしながら,推定できるのはあくまでも頭表に水平な電流成分のみである。本当に推定したいものが細胞膜内外の電位差であることを考えると,脳波を用いての逆問題推定の方がより正解に近いものを出す場合もありうる。

 従来の脳磁場研究は,点活動として仮定できる電流源を主な対象としてきた。今後,連合野のように広がりをもった活動を考えていくにあたっては,脳磁場計測で検出しにくい脳表に垂直な電流活動を考慮する必要がある。どのような形で波形に現れてくるか,脳波計測が参考になるであろう。

 

(4) 言語脳活動の計測と解析法

栗城 眞也(北海道大学・電子科学研究所)


 言語機能のように高次な脳の働きをMEGでイメージングするのは簡単ではない。研究の対象から始まり刺激作成,呈示法,タスク,信号処理,信号源解析,表示法に至るまでの首尾一貫した方法論が見当たらない。本講演では,教育的な観点を念頭に置きながら,我々の研究室が過去数年にわたって試行錯誤してきた言語機能計測と解析の概要を紹介する。

【研究目的】言語学の専門家との共同で,統語機能に着目した。焦点をしぼり,日本語の特徴である句の移動に関係する脳活動を計測することを目指した。

【刺激と呈示法】SOV(主語−目的語−述語)からなる節(単文)をS−Vで挟んだ複文形式とし,単文の主語と述語を交換した移動文(SVO)と正規文の対照とした。文を読む速度に合わせ,句ごとに視覚呈示する時間を設定した。

【タスク】タスクはSVO, SOVいずれに対しても,問題文のあとに正規な順序で質問となる単文を呈示し,命題関係(誰が誰に何をした?)の正否を判断させた。刺激文を読むと同時に移動文が理解されるプロセスをねらった。

【シミューレーション】電流分布推定のなかで局在した信号源分布を推定するL1ノルム法を採用し,シミュレーションにより精度と標準偏差を評価した。

【信号源解析】L1ノルム法により推定した多数の信号源をシミュレーションで得られた標準偏差(位置の不確かさ)を考慮して重ね合わせることで,活動の集中した領域を前頭,側頭,後頭などに特定した。最後に,それらの活動中心を固定して逆問題解析し,色々な領域での活動の時間推移を求めた。

【結論】古典的な言語野を越えて広い領域が統語機能に関連することが分かった。

 

(5) ヒト脳機能マッピングの現状と将来

柴崎 浩(京都大学・名誉教授)

 Recent advance of technologies has enabled us to visualize functional specialization or localization and connectivity of human brain non-invasively. Two main streams of functional brain mapping are currently available; one based on the electrophysiological and the other based on the hemodynamic principle. Electrophysiological techniques include EEG, MEG, and transcranial magnetic stimulation (TMS). Functional neuroimaging techniques include PET, functional MRI, and the more recently developed near-infrared spectroscopy (NIRS). This lecture will discuss neurovascular coupling, characteristics of each technique, multi-disciplinary approach, functional connectivity, and future directions of human brain mapping. Experimental and clinical studies suggest that the hemodynamic change of brain is correlated better with the local field potentials of neuronal discharges than the post-synaptic action potentials (spikes) within a certain range of neuronal activation. As for EEG/MEG, in addition to the source localization estimated from the electrical or magnetic field, analysis of rhythmic oscillations of various frequency bands has added useful information both clinically and experimentally. It is well known that the biggest difference between EEG and MEG exists in the orientation of source current to be recorded. MEG records only the source current tangentially oriented to the head surface whereas EEG records both tangential and radial sources. EEG is seen widespread over the head surface due to volume conduction while MEG is not influenced by different electrical conductivity of various structures surrounding the cerebral cortex. Practically, MEG is not applicable to ictal recording of epilepsy patients because the head has to be fixed throughout the recording. Repetitive TMS reversibly interferes with the function of the underlying cortex, thus creating a virtual lesion. EEG and MEG provide higher time resolution than the hemodynamic techniques. Since NIRS does not require the strict head fixation, it can be applied to the infants and children, ictal recording of epileptic seizures, and activation studies employing the behavioral task like walking. Taking advantage of each individual technique, it is useful to combine two or more techniques either simultaneously or independently. The most important advance in recent years is the development of techniques for investigating functional connectivity among different brain areas, such as coherence analysis of rhythmic oscillations of various frequency bands among different cortical areas, and the more recently advanced diffusion tensor imaging. Future development of human brain mapping heavily depends on discovery of a new technology or further advance in the currently available technologies. Furthermore, use of the most appropriate technique available among others is of utmost importance to solve each specific question, and multi-disciplinary approach by taking advantage of each individual technique will further increase the scientific value of each technique.

 

(6) The radial bias: a different slant on visual orientation sensitivity in human and non-human primates

佐々木 由香(ハーバード大学)

 It is generally assumed that sensitivity to different stimulus orientations is mapped in a globally equivalent fashion across primate visual cortex, at a spatial scale larger than that of orientation columns. However some evidence predicts instead that radial orientations should produce higher activity than other orientations, throughout visual cortex. Here this radial orientation bias was robustly confirmed using 1) human psychophysics, plus fMRI in 2) humans and 3) behaving monkeys. In visual cortex, fMRI activity was at least 20% higher in the retinotopic representations of polar angle which corresponded to the radial stimulus orientations (relative to tangential). In a global demonstration of this, we activated complementary retinotopic quadrants of visual cortex by simply changing stimulus orientation, without changing stimulus location in the visual field. This evidence reveals a neural link between orientation sensitivity and the cortical retinotopy, which have previously been considered independent.

 

(7)感覚情報の階層処理

乾 幸二(生理学研究所・感覚運動調節研究部門)

 感覚情報は大脳皮質において階層的に処理されると考えられています。主な根拠は動物実験での解剖学的所見と単一細胞記録による受容野の知見でありますが,情報処理の時間的流れを実際に確認した研究はほとんどありません。ヒトでは,実験手技の制限から知見はさらに限られています。私は脳磁図を用いてヒト大脳皮質での情報処理の階層性を求めて実験を行ってきました。触覚,痛覚,聴覚及び視覚情報処理について検討した結果,以下のような共通性を見いだしました。

 1) サルでの解剖学的階層構造にほぼ合致する活動の流れがあり,各皮質間連絡の時間はおよそ5ミリ秒でした。IV層入力-III層出力のfeedforward pathwayによるものであるとするとほぼ妥当な値ではないかと考えられます。

 2) 初期過程では情報は基本的に近接する領域に順次伝達され,情報処理の流れは一定方向へ向かいます(例えば,3b野-1野-5野の,中心後回を後方へ向かう流れ)。

 3) 並行する処理経路が存在し(例えば中心後回を後方へ向かう背側路とS1からS2へ向かう腹側路),並列階層的な情報処理の概念に矛盾しません。

 4) 初期皮質活動は約10ミリ秒感覚で2階活動の向きを逆転させ,三相構造を示します。このような活動様式は,感覚情報処理初期過程における共通する皮質層内伝導を反映するものと考えます。

 5) 三相構造を示す初期活動の後,持続の長い活動が生じます(例えばS2の後期活動)。この活動は初期活動とは異なる役割をもつものと考えらます。

 6) 後期活動の後,持続の非常に長い活動が前部帯状回と海馬付近に生じます。これらの活動は,受動的な注意や意識的認知に関わると考えられます。

 このような実験結果に基づき,ヒトでの階層的感覚情報処理について考察してみたいと思います。

 

(8) DirectXを用いた四分の一パターン反転視覚刺激示課題の開発

橋詰 顕(広島大学大学院・先進医療開発科学講座脳神経外科)
栗栖 薫,長崎 信一,谷本 啓二(広島大学大学院・病態情報医科学講座歯科放射線科)

【背景】NeuroScan社製視聴覚刺激呈示装置STIMでは呈示困難な視覚提示課題を作成する。

【方法】プログラム言語はMS-Visual C++ 7.1,DirectX9.0Cを用いた。640×480画素のフルスクリーンで視覚呈示を行い,内480×480画素を20×20の白黒市松模様とし,600ミリ秒毎に上下左右が約四分の一ずつ反転する課題を作成した。遮蔽した右外側に白丸を表示させ,photosensorで検出することでトリガー信号を作成した。最低加算回数を50回とし,20歳代健常者9名(女性7名)の脳磁場計測を行い,sLORETAを用いて電流源推定した。

【結果】7例で明瞭なP100mが認められ,内6例で視野に対応した視覚野の電流源推定が可能であった。

【結語】DirectXを使うことで,STIMでは困難な視覚呈示刺激課題の作成が可能であった。

 

(9) Fundamental Research on Electrical Brain Mapping of Motor Imagination

Mastake Kawada(The University of Tokushima)
Richard M. Leahy (University of Southern California)

 近年,ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(Brain Computer Interface: BCI)の研究が活発に進められている。BCIは脳内電磁現象に伴う信号を,外部装置で利用するというものである。任意の運動をイメージした場合に,どのような脳活動が発生するかを把握できれば,その信号を利用したBCIが実現できると考えられる。本報告では,脳内電磁現象を利用したBCIを開発するための基礎研究として,任意の運動をイメージした際に発生するEEGから,その活動部位を推定した結果について述べる。本研究では,脳活動部位の推定法としてMinimum Norm Solutionを用い,任意運動として右手,及び,右足をイメージした際のEEGデータを用いた。同結果より,右手,及び,右足の運動イメージ時の活動部位には相違があり,その活動部位は右手の方が右足より大きいという知見を得た。

 

(10) 聴覚・視覚誘発脳磁図反応における刺激の規則性,親密度および調和性の可交換性

原田 暢善,岩木 直,外池 光雄(産業技術総合研究所関西センター・人間福祉医工学部門)

 聴覚誘発脳磁図反応において,刺激間隔の1/fゆらぎのべき乗の増加,すなわち規則性の増加,および4文字ひらがなの日本語音声刺激の親密度の増加にともない,一次聴覚野の活動強度および潜時が減少することが明らかになった。また視覚誘発脳磁図反応において,動物の首および胴体の意味的距離の減少にともなう不調和さの減少(調和性の増加),および4文字ひらがなの親密度の増加にともない視覚誘発脳磁図反応の220ms成分の活動強度が増加することが明らかになった。本来,質的に異なる,聴覚刺激の規則性および親密度,および,視覚刺激の親密度および調和性が脳皮質活動で同様な作用を持つことが明らかになった。質的に異なる刺激要因が脳皮質活動に対する作用要因として互いに交換可能であり,その作用を数量的にコントロールしうることが示された。

 

(11) ボタン押し練習前後の反応時間と脳磁場周波数変化について

菅野 正光,岩田 全弘,藤村 昌彦,弓削 類(広島大学大学院・保健学研究科)
橋詰 顕,栗栖 薫(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・脳神経外科学)

【目的】事象関連脱同期/同期(ERD/ERS)は皮質の抑制機能や皮質-皮質下回路の機能を反映すると考えられている。一方,反応時間も一般に練習により短縮することが運度学習の研究等で確認されている。そこで今回,練習前後の反応時間と脳磁場周波数を比較検討した。

【方法】右利き健常成人12名がstroop課題に合わせボタン押しを行っている時の脳磁場を記録した。視覚提示をトリガーとしてb帯域の周波数解析を行った。

【結果】12名中9名が練習後,反応時間を短縮しかつ正答率も向上させた。また練習後,全員がbERDを小さくした。

【考察】練習を行った事により運動は馴化され,反応時間とERDに反映したと考えられた。

 

(12) 運動様式の違いによる運動誘発磁場の大脳皮質運動野と感覚野の反応の相違について

小川 真司(日本医科大学・千葉北総病院リハビリテーション科)
(慶應義塾大学・医学部リハビリテーション医学教室)

【目的】運動様式の違いによる大脳皮質運動野と感覚野の反応の相違を観察する。

【方法】右利き健常者6人の示指背屈運動と手関節背屈運動における運動誘発磁場を計測した。運動野の反応は,対側の1次運動野を中心に10チャンネルを選択し,単一ダイポール推定法において,Goodness of fit(G値)90%以上の条件下で,最もG値の高いダイポールを求めた。感覚野の反応は,対側の中心溝を挟んだ30チャンネルを選択し,G値80%以上の条件下で,最もG値の高いダイポールを求めた。それぞれのダイポールにおける,G値,潜時,モーメント,位置を記録した。

【結果】被験者6人中,示指運動では,運動野の反応は1人,感覚野の反応は3人に,手関節運動では,運動野の反応は5人,感覚野の反応は4人にダイポールが推定された。

【考察】条件を一定にし,大脳皮質の反応を観察したところ,運動様式による相違があると考えられた。

 

(13) パターンリバーサル刺激視覚誘発反応P100成分の発生機構の検討

仲間 大貴,三浦 太一,畑中 啓作,北村 吉宏
(岡山理科大学・理学部応用物理学科・岡山療護センター)

 われわれは,パターンリバーサル刺激による視覚誘発磁界を単一双極子モデルにより信号源解析し,視覚誘発反応N75-P100-N145成分が一次視覚野鳥距溝底の同一場所から発生することを示した。三相波が同一場所で経時的に発生することから,これら誘発反応は,視覚情報が網膜から一次視覚野に到達した際生じるのでなく,一次視覚野から高次視覚野を経由し,再度一次視覚野に戻った際生じるという仮説を唱えた。この仮説は,N145成分に関して,2双極子モデル解析法により潜時135 ms付近にV4の活動が認められ支持されたが,P100成分に関しては高次視覚野の活動を同定できなかった。この理由として,高次視覚野の活動が,リバーサル刺激を構成するオンセット刺激とオフセット刺激で打ち消しあう可能性を考え,オンセット/オフセット刺激を別に行い,リバーサル刺激と比較することでP100成分の発生機構を検討した。

 

(14) MEGによる言語優位半球の同定 - Wadaテストとの比較

金子 裕,岡崎 光俊(国立精神神経センター・武蔵病院脳神経外科・臨床検査部・精神科)

 MEGによる言語優位半球同定の信頼性の検証を目的とした。対象はてんかんの外科治療の過程でMEGによる言語優位半球の同定とWadaテストを行った10例である。MEGのよる言語の優位半球の同定は,漢字およびハングル文字を視覚呈示し,漢字に対しては黙読する課題で行った。Neuromag社製204チャンネル脳磁計を用いてMEGを測定し,MATLABを用いて周波数・統計解析を行った。MEGで言語の優位半球が左と診断されたのは3例,右と診断されたのは5例,両側性と診断されたのは2例であった。左と診断された3例では,Wadaテストでも左と診断された。右と診断されたのは5例では,Wadaテストでは4例が右で1例が両側性と診断された。両側性と診断された2例では,Wadaテストでは1例が左で1例が右と診断された。MEGによる言語の優位半球の同定とWadaテストは概ね一致しており,実用に耐えると考えられる。

 

(15) 音色のカテゴリー知覚の聴性誘発N1mの下降脚への反映

水落 智美,加我 君孝(東京大学大学院・医学系研究科・感覚運動神経科学)
湯本 真人(東京大学・医学部附属病院・検査部)
狩野 章太郎(東京大学・医学部附属病院・耳鼻咽喉科)
伊藤 憲治,山川 恵子(東京大学大学院・医学系研究科・認知言語医学)

 音色の定常的な要素を構成するスペクトル包絡の違いが聴性誘発磁場に与える影響を調べるために,3つの音色(vocal, instrumental, linear) のスペクトル包絡を持つ基本周波数110Hz の12種類の複合音を無視条件下で両耳提示し,誘発されるN1mの頂点及び下降脚の潜時を分析した。N1mの頂点潜時はvocalに対する潜時が他の2つの音色より有意に早く,その下降脚はlinearに対する潜時がinstrumentalより有意に早かった。また両成分の潜時において左右半球間での有意差はみられなかったが,音色と左右半球での交互作用がみられた。更に,各音色に対してN1mの頂点および下降脚の潜時差を比較すると,linearが他の2つの音色より有意に短かった。これらよりvocalではN1m成分の下降脚が延長することがわかり,人の声は聴覚野での早期の処理に時間を要する可能性が示唆された。

 

(16) ノンパラメトリック統計を用いた信号源の統計的有意性の推定

鈴木 祐子,関原 謙介(首都大学東京大学院・工学研究科・システム基礎工学専攻)

 ノンパラメトリック統計を用いた信号源の統計的有意性を推定する方法として,3種類の方法を提案する。1,ブートストラップ法を用いた,等価電流ダイポールモデルの信頼度区間の推定。2,ランダマイゼーションテストを用いた,空間フィルタ出力の統計検定。3,2条件の計測に対する,パーミュテーションテストによる再構成結果の統計評価。以上の3種類それぞれについて,シミュレーション結果と,実測MEGデータを用いた結果を報告する。

 

(17) 時間相関の存在する複数信号源のためのBeamformer法

木村 壮志(早稲田大学大学院・理工学研究科・電気情報生命専攻)

 MEGデータを用いた脳の高次機能解明を行うために,より精度の高い複数信号源推定手法の開発が望まれている。Beamformer法は,時間的に安定した推定解を得られる点で非常に有用な手法であるが,時間相関の存在する複数信号源を推定できないという短所がある。そこで我々はこの問題を解決するために,データ共分散行列の信号空間固有ベクトルを個々の成分に分解し,共分散行列を再構成することにより,時間相関成分を除去する手法を提案した。以前の報告では,固有ベクトルを分解する方法としてMulti-Dipole Fittingを用いていたが,その際に先見情報として信号源数を把握しておく必要があった。そこで,信号源数が不明のときでも固有ベクトルを分解できる方法としてL2ノルム最小化法を用いることにした。新たに考案した手法をシミュレーションと実験データに適用したところ,時間相関のある複数信号源を推定できた。

 

(18) 言語性課題遂行時における自発脳磁界の解析

高松 亮介,平田 恵啓,栗城 眞也(北海道大学・電子科学研究所)
川勝 真喜(東京電機大学・情報環境学部)

 連想性の高い文を提示し,その時の自発脳磁界から言語機能に関連した脳活動を抽出することを目的として行なった。被験者にプライミング句(例:「壁に絵を」)を提示し,その句から連想される動詞(例:「掛ける」)を想起させ,その後動詞を提示して文章に整合性があるかどうかを判断する課題を遂行中の脳磁界を計測した。

 101ch脳磁計で記録したraw dataから加算平均した誘発反応を引いたものを自発性脳磁界として,50 epochまでのデータを解析した。Waveletを用いた時間‐周波数解析を行い,反応が見られた時間(0-200 ms)と周波数帯(5-9 Hz)を切り出し,主成分分析をして寄与率が5%以上の成分のみとして雑音を除去した。その後,L2ノルムによる電流密度分布を計算し,標準脳の表面上に活動源を推定した。その結果,左前頭葉と右側頭後部に言語機能に関連していると見られる自発活動の変化を認めた。

 

(19) 誘発磁場と信号解析におけるその数理

岸田 邦治,横田 康成(岐阜大学・工学部応用情報学科)

 体性感覚と聴覚におけるダイナミックスは脳磁図の加算平均波形に含まれるだけでなく,そのゆらぎにも含まれているはずである。この方針に沿ったアプローチとして,時間構造に基づく同時対角化なるICAのアルゴリズムを誘発磁場の抽出のために用いてきた。用いたアルゴリズムでは相互相関の最小化を目指していたが,誘発磁場に適用した場合にはデータ数等の制約から,独立までの分解はアルゴリズム上できなくともよいと当初思っていた。しかし,誘発磁場の場合には「独立成分解析では独立成分の相互相関は無いはず」と言う前提から「無相関化は不可能である」と変更すべきであった。この視点をこれまでの発表に付け加えると,共分散行列の対角化はブロック対角化と修正される。このため,アルゴリズムの「相関の最小化」には誘発磁場に対応した特有の数理があることを紹介する。つまり,「from ICA to BSS」なる標語を紹介する。

 

(20) 棘波自動検出システムを用いた,脳磁図棘波の定量化の試み

芳村 勝城(静岡てんかん・神経医療センター)
渡辺 裕貴(国立精神神経センター・武蔵病院精神科)

 渡辺らが開発した棘波自動検出システムにおいて,検出の条件(棘波判定パラメータ)を変えることにより,ある条件に限定した棘波の等価電流双極子分布を描出することが可能である。今回この方法を用いて,てんかん患者10例について,各てんかん患者における発作間欠時棘波を立ち上がりから頂点までの勾配の違いによって分類し,これらの棘波の分布を調べてみた。その結果,棘波の等価電流双極子が推定される位置のばらつきが大きい患者ほど,勾配がなだらかな棘波が多い傾向が認められた。また,発作症状や画像診断等から推定されるてんかん原性領域の付近では棘波の勾配が急で,離れるにつれてなだらかになる傾向を視覚化することができた。これらの手法はてんかんにおけるirritative zoneのより詳細で客観的な分析に役立つ可能性がある。

 

(21) 聴覚誘発MEG応答の刺激依存性 −刺激音の周期的構造による影響−

鷲尾 大輔,栗城 眞也(北海道大学・電子科学研究所)

【はじめに】聴覚性誘発脳磁界の代表的な応答としてN1mやP2mと呼ばれる成分が知られている。P2mの詳細については明らかになっていないが,これまでの報告からP2mは刺激音の周期的構造に関係している可能性があると考えられる。従って,本研究では刺激音の周期的構造に対する脳活動を検討することを目的とした。

【実験】男性3名(全員右利き)が被験者として参加した。刺激音として周期的構造を持つピアノ音と非周期的構造を持つ人工音を用いて計測した。脳磁界計測には球面型101チャネルMEG計測装置を用いた。応答波形の強度評価のため後方極大20チャネルのRMS値を計算した。

【結果と考察】刺激音に対するN1mのRMS振幅は,ピアノ音と人工音で差は見られなかったが,P2mの振幅は自然音の方が大きかった。これは,P2mがピアノ音のような規則正しい周期的構造の波形に対してよく反応して誘発されるためであると考えられる。

 

(22) 聴覚MMNとadaptation反応

寳珠山 稔(名古屋大学・医学部保健学科)

 弁別ができない2つの聴覚刺激を用いてMismatch field (MMF)とadaptation反応について脳磁計を用いて計測した。

【方法】7つの周波数(中心周波数675 Hz)で構成される音(CS7)と中心の周波数を除いた6つの周波数で構成される音(CS6)を作成し,CS6あるいはCS7を先行刺激として与え,675 Hzの音に対する聴覚誘発脳磁場(AEF)のadaptationについて観察した。MMFについてはCS6を標準刺激,CS7を逸脱刺激として記録した。

【結果】AEFのadaptationとしての変化はP2m (200ms)について認められた。しかし,CS6とCS7によるMMFは検出できなかった。

【考察】刺激の差異が弁別閾値以下である場合のMMNの出現については議論があるが,本研究では少なくとも大脳皮質レベルでMMFを生じない刺激でのadaptationを検出しえた。

 

(23) 両耳間時間差と両耳間相関度に関わる脳磁界反応

添田 喜治,中川 誠司(産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門)

 音源の位置を知る能力は,人間にも動物にも重要である。頭の一方側にある一つの音源について考えたとき,遠い方の耳に到達する音は近い方の耳に到達する音に比べて,時間的に遅れ,強さは弱くなる。この場合,音源の場所に関する手がかりは,両耳間時間差と両耳間強度差である。また,両耳に到達する音の相関は,音像の広がり感と関係があり,両耳間相関が低いほど広い音像が知覚されることが明らかにされている。つまり,両耳間相関が低いほど音像が広がってしまい,音源の場所はわかりにくくなる。本研究では,音源の位置の知覚に関して重要な要素である,両耳間時間差と両耳間相関度を変化させて脳磁界計測を行い,N1m反応に注目して解析を行った。解析の結果,両耳間相関度が高いときに,両耳間時間差の増加に伴いN1m振幅が大きくなる傾向が見られた。しかしながら,両耳間相関度が低いときには,両耳間時間差の効果は見られなかった。

 

(24) 時間的に振幅変調された視覚刺激に対する脳磁界反応

岡本 洋輔,矢野 隆,安藤 四一(熊本大学大学院・自然科学研究科)
中川 誠司,藤井 健司(産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門)

 時間周波数の異なる複数の信号を合成した視覚刺激を呈示すると,各構成信号の周波数の差に相当する成分が知覚される。しかし,各構成信号の周波数及びそれらの差がもたらす知覚の違いについて詳しく調べた例はなく,差分周波数の抽出メカニズムの詳細は明らかにされていない。本実験では,振幅変調刺激のキャリア周波数,変調周波数およびその変調度を変化させて知覚閾値を測定すると共に,脳磁界計測を行った。解析の結果,変調周波数に対応する脳反応成分が見られた。その大きさは,キャリア周波数が低い場合は変調度の増大と共に大きくなったが,キャリア周波数が高い場合は変調度の増加に伴う変化は見られなかった。これはキャリア周波数が高くなると変調周波数に対応する成分が知覚されにくくなるという閾値測定の結果に対応している。また変調周波数に相当する正弦波刺激に対する脳活動との比較から,両者の知覚に関する視覚系の処理の違いが示唆された。

 

(25) 格闘時における脳磁場反応と心理的要因の関係

中川 慧,伏見 健志,岩田 全広,河原 裕美,藤村 昌彦,弓削 類
(広島大学大学院・保健学研究科)
橋詰 顕,栗栖薫(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・脳神経外科学)
志々田 一宏(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・精神神経医科学)

【目的】格闘時の脳磁場反応と心理的指標の関係を調べた。

【方法】パンチング動画を注視させ,攻撃側・守備側の視点から,攻撃に的中する場合としない場合の脳磁場反応を比較した。解析には空間フィルター法,心理的指標には気質性格検査を用いた。

【結果】後頭・頭頂領域で,画像提示後300ms前後と500ms前後で脳磁場反応が確認された。立場の違いによって,脳磁場反応に差がみられ,守備側でより大きな反応がみられる傾向にあった。また,運動野付近にも反応がみられる被験者もあった。

【考察】後頭・頭頂領域の活性の第1成分は画像の動き始め,第2成分はパンチング動作に対する反応,運動野付近は動作のイメージングによる反応と考えられた。各反応に対する磁場強度の違いは,心理的要因が関係する可能性が考えられた。

 

(26) MEG信号の独立成分分析による分離

岩木 直(産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門)

 MEG信号は,(A) 刺激に誘発されて発生する誘発脳磁界成分,(B) 内的な処理に関連する内因性成分,(C) 自発脳活動に由来する成分,(D) 刺激装置や体動などに起因するアーチファクト,(E) 外来ノイズなど,さまざまな信号の重ねあわせである。現在までに,これらの成分を分離し,解析対象の信号(Signals-of-Interest)を抽出する,あるいは雑音を除去するためのさまざまな手法が考案されてきた。そのような手法の一つである独立成分文政(independent component analysis: ICA)は,近年さまざまな信号に適用されてきている有力な信号分離手法である。研究会では,ICAを(i) 電気刺激や眼球運動にともなってよるアーチファクトの除去,(ii) 自発脳活動や心磁図信号の分離,(iii) 誘発脳磁図に含まれる複数の成分の分離に適用した結果について紹介する。

 

(27) 空間フィルタおよび解剖学的標準化を用いた脳磁場の周波数解析

志々田 一宏,小野田 慶一,山下 英尚,岡本 泰昌,山脇 成人
(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・精神神経医科学)
橋詰 顕,栗栖 薫(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・脳神経外科学)
中川 慧,伏見 健志,弓削 類(広島大学大学院・保健学研究科)

【背景・目的】さまざまな課題施行時に生じるb帯域などの周波数変化を捉えることで,皮質の活動を評価することが試みられている。しかし,センサーごとの周波数解析では,センサーと脳の位置関係が被験者間で異なるためグループ解析が困難であった。そこで今回,空間フィルタおよびSPM2による解剖学的標準化を用いて周波数解析を行った。

【方法】被験者6名が自発運動,単語生成課題などの課題を行っているときの脳磁場を記録。個人のMRIの脳内に5mm間隔に置いた格子点上の接平面方向の電流をsLORETAにより推定し,b帯域の活動を加算平均した。このデータを,SPM2によりMRI構造画像を標準脳化した情報を用いて空間的に変形し,被験者間で統計検定した。

【結果】生理学的に妥当と思われる部位に脱同期がみられた。

【考察】空間フィルタと解剖学的標準化は,グループ解析に有用であった。

 

(28) 肘関節屈曲,過伸展動作観察時における脳磁場反応

伏見 健志,中川 慧,岩田 全広,藤村 昌彦,弓削 類(広島大学大学院・保健学研究科)
橋詰 顕,栗栖 薫(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・脳神経外科学)
志々田 一宏(広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・精神神経医科学)

【目的】生理学的動作と実際には起こり得ない非生理学的動作の観察における視覚情報処理および認知機構の差異を調べた。

【方法】3D人体画像作成ソフトPOSER6を用い,矢状面を向いた人体モデルの肘関節70°屈曲,過伸展画像を作成した。DirectXを用いて動画化し,左右肘関節動作をランダムに480×480画素,視野角約20°でスクリーンに提示した。解析には,空間フィルターを用いて電流源推定を行った。

【結果】13名中8名の被験者において,屈曲動作観察時よりも過伸展動作観察時で,約200-300 msの頂点潜時で右後頭側頭領域の脳磁場反応が大きくなる傾向がみられた。

【考察】非生理学的動作の観察は,生理学的動作よりもイメージが困難なため,その認識においてより多くの神経活動が必要になる可能性が考えられた。

 

(29) 気体刺激のリアルタイムモニタリングによる嗅覚誘発電位・脳磁場の同時計測(2)

小早川 達,後藤 なおみ,戸田英樹(産業技術総合研究所・人間福祉医工学研究部門)
秋山 幸代(国立スポーツ科学センター・スポーツ科学部)
小林 剛史(文京学院大学・人間学部)
斉藤 幸子(斉藤幸子味覚嗅覚研究所)

 本研究は,我々のグループで開発した超音波ガスセンサーを用い,気体刺激をリアルタイムにモニターすることによって誘発された嗅覚誘発電位と脳磁場を同時に計測し,検討することを目的とした。ニオイ物質にはバニリンを用い,刺激提示時間は200 ms,刺激間間隔は40 sとして30回提示を1セッションとし,日を変えて合計7-9セッションを繰り返し,約200回の加算データを得た。超音波ガスセンサーの出力を基準にして加算した結果,前頭の電極(Fpz) において190ms付近に陰性成分が認められ,Cz,Pzではその振幅の現象が見られた。同時に計測した脳磁場データについて,複数セッションにまたがった加算・解析を現在行っている。

 


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