生理学研究所年報 第28巻
 研究会報告 年報目次へ戻る生理研ホームページへ

17.DNA構造を基盤とするゲノム生理学の展開−DNA,蛋白質,膜の相互作用

2006年11月9日−11月10日
代表・世話人:水田龍信(東京理科大学生命科学研究所分子生物学部門)
所内対応者:永山國昭(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター)

(1)
2006年研究会の挨拶−核,ミトコンドリア,葉緑体の共通モデル
永山國昭(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター)
(2)
膜とDNAの破壊による細胞死の様式
水田龍信(東京理科大学生命科学研究所分子生物学部門)
(3)
細菌染色体の高次構造構築機構の解析
大庭良介(京都大学生命科学研究科統合生命科学専攻)
(4)
DNA高次構造の自己組織化と生物活性
吉川祐子(名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科)
(5)
オリゴアルギニンPEG脂質とプラスミドDNAとの複合体構造と遺伝子発現効率
米谷芳枝(星薬科大学医薬品化学研究所創剤構築研究室)
(6)
脂質膜アセンブリーによる新規人工遺伝子デリバリーシステムの構築
小暮健太朗(北海道大学大学院薬学研究院創剤薬理学分野)
(7)
再構成させた細胞骨格との相互作用による巨大リポソームの形態形成
滝口金吾(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻)
(8)
単一GUV法を用いたペプチドやDNAと脂質膜の相互作用の解析
山崎昌一(静岡大学大学院創造科学技術研究部統合バイオサイエンス)
(9)
Morphology of Ternary Complexes between Liposomes, DNAs and Cations
Vasily Kuvichkin(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター)
(10)
反復配列を含む超らせんDNA分子の形状とDNA分子間相互作用の解析
加藤幹男(大阪府立大学大学院理学系研究科生物科学専攻)
(11)
DNA凝集体の理論:ファンデルワールス〜クーロン相互作用
石本志高(岡山光量子科学研究所)
(12)
ゲノム解析から得られるもの:腎癌関連遺伝子kankの生理機能解析
木山亮一(産業技術総合研究所)
(13)
DNA・蛋白質複合体の相互作用様式
鳥越秀峰(東京理科大学理学部応用化学科)
(14)
酵母ゲノムおよびミニ染色体におけるDNA構造を利用したクロマチン構造制御およびタンパク質−DNA相互作用の解析
清水光弘(明星大学理工学部化学科)
(15)
クロマチン工学の開拓
大山 隆(早稲田大学教育総合科学学術院)
(16)
2006年研究会の総括−DNA/RNA機能ゲノミクスの立上げ
永山國昭(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター)

【参加者名】
永山 國昭(統合バイオ),水田 龍信(東京理科大・生命科学研究所分子生物学部門),大庭 良介(京大・生命科学研究科統合生命科学専攻),吉川 祐子(名古屋文理大・短期大学部食物栄養学科),米谷 芳枝(星薬科大・医薬品化学研究所創剤構築研究室),小暮 健太朗(北海道大・大学院薬学研究院創剤薬理学分野),滝口 金吾(名大・大学院理学研究科生命理学専攻),山崎 昌一(静岡大・大学院創造科学技術研究部統合バイオサイエンス),Vasily Kuvichkin(統合バイオ),加藤 幹男(大阪大・大学院理学系研究科生物科学専攻),石本 志高(岡山光量子科学研究所),木山 亮一(産業技術総合研究所),鳥越 秀峰(東京理科大・理学部応用化学科),清水 光弘(明星大・理工学部化学科),大山 隆(早稲田大学教育総合科学学術院),田中 雅嗣(東京都老人総合研究所健康長寿ゲノム探索),臼田 信光(藤田保健衛生大・医I),金子 康子(埼玉大・教育学部),仁木 宏典(情報システム研究機構国立遺伝学研究所系統生物研究センター),前島 一弘(理研・今本細胞核機能研究室)

【概要】
 ゲノム構造は,一次塩基配列,DNAトポロジー,DNA物理構造,クロマチン構造,核構造などの幅広い階層構造を有し,生命の基本骨格を成すとともに,病態の発現とも深く関与する。ヒトゲノムに代表されるゲノムプロジェクトの進展により塩基配列の決定はほぼ完了したものの,その他の多層的ゲノム構造に関しては未解明の点が多く,研究者間の交流も多くない。本研究会は多層的ゲノム構造研究の最先端にある研究者を一堂に集め,生理学研究所の位相差電子顕微鏡の利用を一つの手段として,ゲノム構造の相互関連を捉えることができる研究集団として成長することを目指している。具体的には,分野横断的なDNA/RNA機能ゲノミクス研究の立ち上げを最終目標としている。このような理念のもと,平成18年度研究会は,提案代表者:水田龍信(東京理科大学),所内代表者:永山國昭(統合バイオサイエンスセンター)のオーガナイズにより11月9-10日に岡崎コンファレンスセンターで開催された。出席者約20名を集め,口頭発表15件が行われた。今回は「DNA,蛋白質,膜の相互作用」という副題のもと,多層的ゲノム構造を念頭に,それと相互作用を行う分子に関する最新の話題が提供された。特に膜との相互作用では,DNA機能の新たな可能性が提示され,活発な討論が行われた。発表者はそれぞれ生物物理学,分子生物学,免疫学,創剤薬理学,高分子工学,理論物理学を専門とするが,「DNA構造」と「DNAとの相互作用」を共通のキーワードとして,独自の立場から発表を行った。その結果,相互間の学問的理解が深まり,従来の専門分野の枠組みを越えた共通基盤の形成の可能性が見えてきた。このような共通の問題意識と共同研究の機運の高まりを受け,最終総括では,生理学研究所をハブとして,新しい研究領域を立ち上げるための具体的な話し合いが行われた。

 

(1) 2006年研究会の挨拶−核,ミトコンドリア,葉緑体の共通モデル

永山國昭(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター)

 3年目を迎えた本研究会だが,今年は昨年以上に新展開を期待したい。RNAiに2006年度のノーベル生理・医学賞が与えられ,ポストゲノムの展開に新たな焦点があてられはじめた。特にDNA−RNA−蛋白質の遺伝子発現ネットワークが極めてダイナミックなものであり,情報的側面だけでは細胞内の遺伝/生理過程がとらえきれないことが明確になってきた。本研究会参加者は,何らかの意味で生理的実体としての核酸および核酸・生体分子複合体を研究しており,情報を構造と機能に結び付けようとしている。こうしたグループが共通に持つべき研究上の大目標は何であろうか。そこを今年は考えてみたい。一例としてその出自が共生バクテリアと考えられている,核,ミトコンドリア,葉緑体の共通モデルは何かという問題をたててみた。これらに共通するのはDNA/RNAの存在と2層膜構造の存在である。この2つの事実は関係があるのかないのか。両者を合理的に結びつける新しいモデルを提案し,新規イメージング法 (f-EMI) を用いた実証方法について考察したい。

 

(2) 膜とDNAの破壊による細胞死の様式

水田龍信(東京理科大学生命科学研究所分子生物学部門)

 生物の基本的構成要素は膜とDNAである。いずれが欠けても,もはやそれは生物とはいえない。生物が生物でなくなる現象を死と定義すれば,膜またはDNAの破壊は死と表裏一体の関係にある。細胞は生物の最小単位の一つである。多細胞生物の細胞の死(細胞死)は大きく分けてネクローシスとアポトーシスの二つの様式に分類できる。アポトーシスではまずDNAの分解があり,その後,二次的に膜の破壊へと至る。ネクローシスでは逆に,まず膜の破壊があり,引き続いてDNAの分解に向かう。細胞死は生物の形態形成,神経系や免疫系などの高次機能の確立において,大きな役割を担っているが,そのメカニズムに関しては不明な点が多い。我々は細胞死DNA断片化酵素DNAseg に注目し,これまで精製蛋白を用いた一分子レベルの解析,過剰発現系による細胞レベルの解析,遺伝子ノックアウトマウスを用いた個体レベルの解析を行ってきた。その結果,DNAseg はネクローシスDNA断片化酵素であることが判明した。180 bpのヌクレオソーム単位のDNA断片化はアポトーシスの判断基準の一つであるが,必ずしもアポトーシスに限定されないことが明らかになった。また,細胞核内のクロマチンを特異的に分解すると,核がつぶれていくことから,クロマチンは遺伝情報を担うだけでなく,核の骨格としても機能していることが示唆された。

 

(3) 細菌染色体の高次構造構築機構の解析

大庭良介,竹安邦夫(京都大学生命科学研究科統合生命科学専攻)

 原核生物・真核生物を問わず,染色体はタンパク質等によって階層的に折り畳まれ,細胞あるいは核内に収められている。細菌ゲノム(ヌクレオイド)では,DNA〜30nm幅のファイバー構造〜80nm幅のファイバー構造〜高次凝集体,という階層構造が報告されている。本研究では,この階層構造構築機構の解析を行った。

 Dpsタンパク質はヌクレオイドを凝集させる因子の一つとして知られている。大腸菌におけるDps依存的なヌクレオイド凝集機構を解析から,①対数増殖期においてFisタンパク質が凝集を阻害する,②FisがTopoisomerase IとDNA gyraseの発現を抑制している,③Topoisomerase IとDNA gyraseの発現が凝集を促進することが分かった。ヌクレオイド凝集が起きる細胞内のDNAトポロジーの状態を調べるため,細胞質抽出液を用いてプラスミドDNAのトポロジー変化を調べたところ,④ヌクレオイド凝集が起こる株ではDNAトポロジーが変化することが分かった。以上の結果は,『DNAのトポロジーが動的である』ことがDps依存的なヌクレオイド凝集に必要であることを示唆している。

 次に,30nm・80nmファイバー構造へのRNAの関与を調べた。RNase等を用いた実験から,バクテリアではヌクレオソーム構造の代わりに太さ10nmのファイバー構造が存在し,30nmファイバー以上の構造体の保持に新生合成一本鎖RNAが関与していることがわかった。この結果から我々は,新しいヌクレオイド階層構造『DNA〜10nmファイバー〜30nmファイバー〜80nmファイバー〜高次凝集体』というモデルを提案する。

 

(4) DNA高次構造の自己組織化と生物活性

吉川祐子(名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科)

 生体の遺伝情報を伝えるDNAは,その大きさが数10 mmから数10mmにもおよぶ巨大分子であり,細胞内ではコンパクトに折り畳まれた凝縮状態で存在している。in vitroでも,ポリアミン,PEGなどの中性高分子,あるいは,陽イオン性の界面活性剤などを添加すると,DNAの凝縮や沈殿を引き起こすことが知られている。このようなin vitroでのDNA凝縮は,細胞内でのDNAの高次構造変化のモデル系とみなすことが出来る。

 10年程前までは,DNAの凝縮は,ある閾値以上の凝縮剤の濃度で凝縮が開始し,凝縮の転移は連続的であるとみなされていた。それに対して,蛍光顕微鏡によるDNAの単一分子観測法により,DNAの折り畳みは,著しい不連続性の伴った転移現象でありことが近年明らかになった。今回の講演では,このようなDNAの凝縮過程を制御することにより,多様な折り畳み構造が生成することを紹介したい。また,DNAの酸化損傷である二重鎖切断反応の速度を,単一分子観測により,定量的に解析したのでこれについても報告する。更には,凝縮転移による高次構造の多様性と,その生物的な意味についても考察を行いたい。

【文献】

 Y. Yoshikawa et al., Eur. J Biochem., 268, 2593-2599 (2001).

 Y. Yoshikawa et al., FEBS Lett., 566, 39-42 (2004).

 Y. Yoshikawa et al., Biophys. J. 90, 993-999 (2006).

 K. Hibino et al., Chem. Phys. Lett., 426, 405-409(2006)

 

(5) オリゴアルギニンPEG脂質とプラスミドDNAとの複合体構造と遺伝子発現効率

米谷芳枝(星薬科大学医薬品化学研究所創剤構築研究室)

 遺伝子治療には安全で高効率に遺伝子導入できる非ウイルスベクターの開発が不可欠である。しかしながら,非ウイルスベクターは遺伝子導入効率が低い欠点がある。そこで,遺伝子送達用ベクターの開発のために,細胞膜透過性ペプチドキャリヤーであるHIV-1Tatフラグメントのように,細胞内に高効率で遺伝子を運べる可能性のあるオリゴアルギニンからなる脂質を合成し,遺伝子との複合体の物理化学的性質と,遺伝子導入効率を調べた。

 オリゴアルギニン脂質は,ArgN (N=4〜10)と,ポリエチレングリコール2000のスペーサーと3,5-bis (dodecyloxy)benzamide(BDB)からなる人工脂質(ArgN-PEG-BDB)である。各脂質は水に溶解し,ミセルとなる。Arg10-PEG-BDBでは,臨界ミセル濃度は約20mMであった。ヒト子宮頸部がん細胞であるHeLa細胞においてルシフェラーゼ遺伝子をコードしたプラスミドDNAを用いて遺伝子発現を調べたとき,オリゴアルギニン脂質ミセルは,そのアルギニン鎖長が10のとき最も高い発現効率を示した。Arg10-PEG-BDBは,臨界ミセル濃度以下である5mMにおいて,さらに高い遺伝子発現を示し,このときの遺伝子発現効率は市販の遺伝子導入試薬のlipofectamine2000に匹敵した。

 Arg10-PEG-BDBミセルと遺伝子の複合体は,動的光散乱から求めたサイズは約1.5 mmで表面電位が+43mvであった。複合体の構造を,原子間力顕微鏡AFM,位相差電子顕微鏡,暗視野顕微鏡で観察した結果,遺伝子にミセルが絡まった長い形状であることが確認され,また,臨界ミセル濃度以下においても同じような構造が観察された。

 

(6) 脂質膜アセンブリーによる新規人工遺伝子デリバリーシステムの構築

小暮健太朗(北海道大学大学院薬学研究院創剤薬理学分野)

 近年,ウイルスベクターの病原性・免疫原性が問題となり,より安全な人工遺伝子デリバリーシステムが注目されている。しかし,ウイルスに比べ遺伝子送達能力が低いことが欠点である。我々は,ウイルスを超える人工遺伝子デリバリーシステム開発を目的として,独自の パッケージングコンセプトProgrammed Packaging (Programming・Design・Assembly) に基づき,新規人工遺伝子デリバリーシステムである多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)の構築に成功している。MENDは,エンベロープ型ウイルスの構造特性を模したものであり,凝縮化核酸コアと脂質エンベロープから構成され,コアとエンベロープに多種類の機能性素子をトポロジーをコントロールして搭載することが可能である。通常の我々の領域の学会では,機能評価にのみ注目が集まってしまうためアセンブリーを強調した発表を行う機会は少ないが,今回は凝縮化核酸コアの脂質膜アセンブリーを中心に最近のMENDに関する成果を紹介させていただく。

 

(7) 再構成させた細胞骨格との相互作用による巨大リポソームの形態形成

滝口金吾(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻)

 細胞は膜によって外部から仕切られ機能を維持している。従って膜の挙動を制御している機構を探ることは非常に重要である。古くから生体膜の形態の調節決定因子として細胞骨格の存在が指摘されていたが,細胞骨格が膜にどのように作用するかはまだ不明な点が多い。なぜならこれまでの研究手法は,試料全体から得られる平均化されたシグナルをもとに解析するものであった。それらの手法の限界を相補するため,本研究では細胞骨格構成蛋白質(アクチンやチューブリンなど)を封入した巨大リポソ−ムを構築し,内部で細胞骨格様ネットワークを再構成させたときに個々の膜が示す振舞いや形態変化を光学顕微鏡(主に暗視野顕微鏡)を用いて直接観察した。例えば,アクチンと同時にアクチン線維架橋蛋白質を封入した実験では,リポソームに起きる形態変化が,各架橋蛋白質の濃度ではなく,各々のアクチン架橋様式に対応したものであることが明らかになった。この結果は,共同して働く結合蛋白質の性質種類を変えることによって,定性的にリポソームを様々な形態に分化させられることを示している。今はまだリポソーム内に基本的な細胞骨格構造を再構成させるのに成功した段階であるが,この系の開発を更に進めることによって,分子レベルでの動的な機構が細胞全体の生命活動を支えている仕組みを明らかに出来ればと考えている。

 

(8) 単一GUV法を用いたペプチドやDNAと脂質膜の相互作用の解析

山崎昌一(静岡大学大学院創造科学技術研究部統合バイオサイエンス)

 従来の生体膜/脂質膜の研究では,小さな直径(50〜500 nm) の一枚膜リポソーム(SUVやLUV)や多重層リポソームが多く存在する水溶液を用いて種々の物理化学的装置による物理量の集団平均の測定が行われてきた。一方直径10 mm 以上の一枚膜リポソームである巨大リポソーム(GUV)を用いた実験では,1個のGUVの構造や物理量の変化をリアルタイムで測定することが可能である。我々はこの利点を生かして物質と脂質膜界面の相互作用の高感度な測定や膜融合・膜分裂の過程の詳細な観測などに成功した。1) 昨年我々は抗菌性ペプチドと脂質膜の相互作用をGUVを用いて研究して,ペプチドが脂質膜にポアを形成することを直接的に示し,ポア形成の速度論など従来の方法ではわからない情報を得ることに成功した2)。さらにこの研究で,多くのGUVから得た1個のGUVの物理量を統計的に解析することで,小さなリポソームの集団を用いた研究とは質的に異なる情報が得られることを初めて示した(単一GUV法)。本講演では単一GUV法により得られた成果を説明し,その方法の利点を解説する。さらに最近行っているDNAと脂質膜の相互作用の単一GUV法による研究の予備的な結果を説明し,議論する。

 1) e-J. Surf. Sci. Nanotech.3, 218, 2005

 2) Biochemistry, 44, 1582/3, 2005

 

(9) Morphology of Ternary Complexes between Liposomes, DNAs and Cations

Vasily Kuvichkin(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター)

 Ternary complexes made of DNA, neutral lipids and cations have been studied for more than 30 years though they are far less acknowledged compared with DNA-cationic lipid complexes (lipoplexes). The major concern with lipoplexes is the medical application but that with ternary complexes is understanding of the lipid role in the cell as neutral (zwitterionic) lipids are major characters in the cell membrane. Till recently direct lipid-nucleic acid interactions, thought to be the cause of the DNA membrane complexes, have been overlooked with a few exceptions of research groups including us. The disregard may arise from the difference in DNA-lipid interactions between the two complexes, subtle one controlled by the cation concentration in ternary complexes and strong and visible one in lipoplexes. A lot of efforts have been made to grasp the direct evidence of the DNA involvement in the ternary complex but failed because of the subtleness.

 The application of phase contrast TEM to the ternary system seems to make an epoch by its visibility of DNA molecules without staining. We have found that DNA is an actual fusogen for neutral liposomes under a proper condition of cations. Morphological aspects of the ternary complexes such as DNA condensation, liposome contacts, liposome fusions and their intermediates will be reported.

 

(10) 反復配列を含む超らせんDNA分子の形状とDNA分子間相互作用の解析

加藤幹男(大阪府立大学大学院理学系研究科生物科学専攻)

 負の超らせん環境下で誘起される高次構造転移として,分子内三重鎖構造や,十字架型構造の形成が良く知られている。これらの特殊高次構造は,その形成に際して負の超らせんを吸収し,その変化は,アガロースゲル二次元電気泳動によって求めることができる。今回,我々は,ミニサテライト配列AL79を含む超らせんプラスミドDNAが,一次元目に酸性 (pH4),二次元目に中性+クロロキンの緩衝液を用いた電気泳動実験で,新奇な泳動図を示すことを見出した。すなわち,トポアイソマーは連続な曲線上になく,超らせん数が1からおよそ9(今回のアガロースゲルの分解能限界)までの格子点上に分布していた。このことは,ある超らせん数を持つプラスミドDNA分子は,見かけの超らせん数(移動度)の異なるさまざまな形状を取り得ることを示すものである。一方,反復配列を含まないpUC19 DNAは通常の泳動図を示した。電子顕微鏡観察の結果は,AL79 DNAは,pUC19 DNAに比べて分子が凝集した構造物を形成しやすいことを見出している。このAL79塩基配列の立体構造特性を明らかにするために,現在,超らせんDNA分子の化学修飾実験による構造解析と,さまざまな条件での顕微鏡観察を進めている。

 

(11) DNA凝集体の理論:ファンデルワールス〜クーロン相互作用

石本志高(岡山光量子科学研究所)

 完全屈曲性を持つ高分子ガウス鎖の連続理論は,場の理論による相転移の記述等よく知られている。一方,DNA等のより一般の半屈曲性高分子鎖については,数値計算で一定の理解は得られたが,予言性を持つ解析理論に至っていなかった。我々はこのモデルを経路積分において引力項付で定式化し,DNA凝縮に特徴的なトロイド状態を解析的に導き出した[Ishimoto, Kikuchi: J. Chem. Phys. 125 (2006) 074905]。更に実験との一致を見,ウィップ‐トロイド相転移を発見した。これを発展させ,異なる引力相互作用によるトロイド半径のスケーリング則を提案した[Ishimoto, Kikuchi: in preparation]。

 

(12) ゲノム解析から得られるもの:腎癌関連遺伝子kankの生理機能解析

木山亮一(産業技術総合研究所)

 近年,ゲノムを直接比較し解析する技術が開発され,癌組織と正常組織のDNAを直接比較することが可能になってきた。我々はその比較ゲノムの手法としてゲノムサブトラクション法を用いて腎細胞癌 (renal cell carcinoma) DNAの変異部位を網羅的にクローニングし,得られたクローンについて解析し,染色体9p24部位にある新規の癌関連遺伝子Kankを得た。Kank遺伝子は,clear cellタイプの腎細胞癌において高頻度で遺伝子発現の消失/減少を示し,癌細胞中で強制発現を行うと細胞増殖阻害及び細胞形態変化を示した。したがって,Kank遺伝子は癌抑制遺伝子と考えられる。Kank遺伝子は,腎臓の尿細管で良く発現しており,腎臓由来の細胞において細胞移動に関係するmembrane ruffling部位に局在していた。我々は,Kankタンパク質に結合するタンパク質を探索したところ,膜波打ち構造 (lamellipodium) に関与するIRSp53タンパク質と相互作用を行うことがわかった。Kankタンパク質がIRSp53タンパク質に結合してIRSp53タンパク質の機能を阻害することにより,膜受容体などからのシグナルをRac1からIRSp53を経由してWAVE2に伝達する過程を阻害し,actin重合反応を阻害するものと考えられる。

 

(13) DNA・蛋白質複合体の相互作用様式

鳥越秀峰(東京理科大学理学部応用化学科)

 DNA結合蛋白質がDNAを特異的に認識する機構を明らかにすることは,細胞核内の生命現象を分子論的に解明する上で非常に重要である。真核生物の染色体末端のテロメアDNAの長さは細胞の老化や癌化と密接な関係にあり,この長さの調節には,テロメラーゼと共にテロメアDNAに特異的に結合する蛋白質が関与する。本研究では,テロメアのリーディング鎖の3’末端の突出した1本鎖DNA領域に特異的に結合するPot1蛋白質に注目し,この蛋白質のDNA結合ドメイン(Pot1DBD)とテロメア1本鎖DNA領域との相互作用機構を解析した。Pot1DBDとテロメア1本鎖DNA領域との複合体の3次元構造はX線結晶構造解析により明らかとなり,相互作用に関与すると期待されるアミノ酸残基が示唆されている。しかし,これらのアミノ酸残基のうちいくつかは他の種類のアミノ酸残基に置換しても,テロメア1本鎖DNA領域との結合能がほとんど変化せず,テロメア1本鎖DNAの認識にほとんど寄与していないという意外な結果が得られている。この結果を踏まえて,2本鎖DNA結合蛋白質が2本鎖DNAを認識する分子機構との相違点などについて考察する。

 

(14) 酵母ゲノムおよびミニ染色体におけるDNA構造を利用したクロマチン構造制御
およびタンパク質−DNA相互作用の解析

清水光弘(明星大学理工学部化学科)

 クロマチンの基本単位であるヌクレオソームは,プロモーターなどにおいてしばしば正確な位置に形成され(ヌクレオソームポジショニング),遺伝子発現制御のメカニズムの一つとして提唱されている。一方,DNAは塩基配列,トポロジーなどに依存して,通常のB型DNAとは異なる特殊な構造を形成する。我々は,出芽酵母ゲノムの正確な位置に,さまざまなヌクレオソーム排除配列(特殊なB’構造または左巻Z-DNAを形成できる)を導入するアプローチを確立し,a-細胞特異的遺伝子BAR1ならびに無機リン酸飢餓状態で誘導発現されるPHO5の転写抑制におけるヌクレオソームポジショニングの重要性を明らかにした。本研究の結果は,ゲノムにおいてDNA構造によってヌクレオソームの配置を改変し,遺伝子発現を人為的に制御できる可能性を示している。一方では,ポジショニングしたヌクレオソームを有する酵母ミニ染色体のアッセイ系を用いて,アクチベーターのヌクレオソームDNAへの結合を解析した。Cys6-Zn2ドメインを持つHap1は,ヌクレオソーム中央の認識部位には結合できないことがin vivoで示され,ヌクレオソームポジショニングが転写因子のアクセスを制御することが示された。

 

(15) クロマチン工学の開拓

大山 隆1,隅田周志2,棚瀬潤一11早稲田大教育総合科学学術院生物,2甲南大学理工学部生物学科)

 真核細胞のゲノムDNA上で外来遺伝子を思い通りに発現させる技術はまだない。これを実現するためにはクロマチンの構造を改変したり修飾したりする技術(“クロマチン工学”)の開発が欠かせない。真核細胞の場合,遺伝子発現の開始段階に関わる基盤的構造は,30乃至10 nmの太さのクロマチン繊維である。ゲノムDNAは,これらの繊維内で機能的に折り畳まれているはずであるが,ヌクレオソームの配置を決める情報の所在や,ヌクレオソームの連鎖を機能的に折り畳む仕組みについてはほとんど何も分かっていない。これらを解明することは,クロマチン工学開拓のための第一歩と考えられる。

 クロマチン繊維を構築するための情報の多くは,DNAの高次構造や特性に印されていると考えられている。実際,我々は,負の超らせんを擬態したベントDNAが転写のための局所的クロマチンの構築ならびにクロマチンの動態に寄与していることを見出し,すでに報告した。ベントDNAをうまく使うと,少なくともHeLa細胞やCOS細胞では,クロマチンからの転写を高度に活性化できる。現在,ベントDNAの機能が細胞分化と個体発生の影響を受けるかどうかについて検討を始めている。今回,ES細胞を用いた解析結果について報告するとともに,DNAの機械的特性と転写の関係についても整理し,クロマチン工学について展望したい。

 

(16) 2006年研究会の総括−DNA/RNA機能ゲノミクスの立上げ

永山國昭(自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター)

 挨拶で本研究会の目標について触れ,一例を提案した。「核,ミトコンドリア,葉緑体の共通モデル」というテーマである。人によってはこれは,“生命の起源”や“進化論”問題であり本研究会で扱っているような現世的なテーマと結びつかない,と思うかもしれない。確かに個別的な生物現象の底に共通テーマを見出すのは困難である。そこでポストゲノムにふさわしいDNA/RNA研究法の確立というところに共通項が見出せないか考えてみたい。

 現在の細胞生物学の隆盛は遺伝子タグである蛍光性蛋白質(FP) の出現と遺伝子融合技術に支えられているといってよい。この手法のおかげで遺伝子発現物の細胞内挙動が明確になり,分子過程が明らかになった。しかし機能分子(蛋白質)の源である情報分子 (DNA/RNA) に関して,まだその細胞内挙動は不明確である。蛍光染色による顕微イメージング手法はあるが,FPと異なり遺伝子タグではないので常に隔靴掻痒の感がある。挨拶でも述べた新しいイメージング法,機能電顕イメージング法(f-EMI) は,この隘路を突き破る可能性がある。それは機能イメージングに使われるハロゲン元素タグがFPのような遺伝子タグ(ハロゲンを含む核酸塩基が生合成で取り込まれる)だからである。この利点と電顕の高分解能性で全く新しい手法,DNA/RNA機能イメージング,が生まれることを期待したい。このイメージングは極めて包括的であり,i) DNA/RNA局在の経時変化,ii) NA/RNA−蛋白質相互作用,iii) DNA/RNA−膜相互作用,iv) DNA/RNA複合体構造等の研究,すなわち,本研究会で扱っている全ての研究対象を支援できる。本研究会をベースに新機種法と磨れた生物系の融合による特定研究「DNA/RNA機能ゲノミクス」の立上げを提案したい。

 


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