生理学研究所年報 第28巻 | |
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23.体温調節,温度受容研究会2007年1月11日−1月12日
【参加者名】 【概要】
(1) 運動に関わる要因がヒトの熱放散反応に及ぼす影響近藤徳彦(神戸大学発達科学部) 運動時の熱放散反応(皮膚血流や発汗反応)は運動時の体温をある範囲内に維持するためには欠かせないものである。この熱放散反応は,体温や皮膚温などの温度に依存する要因(温熱性要因)の上昇により大きくなることが知られている。しかし,同一体温上で比較すると運動時と安静時の熱放散反応は異なり,その違いは皮膚血流と発汗反応では同じではない。このことから,運動時の熱放散反応には温熱性要因以外の要因(セントラルコマンド,筋からの末梢性入力,圧や浸透圧受容器からの入力,精神性入力など:非温熱性要因)の関与が考えられている。非温熱性要因として運動時に関わるセントラルコマンドと筋からの末梢性入力の熱放散反応に及ぼす影響を検討すると,両要因とも発汗反応には促進的に作用するが,皮膚血管拡張反応には主として抑制的作用することが示された。この作用は運動を継続する上で必要なものと推察され,皮膚血管拡張反応の抑制は,運動時の筋への血流配分を確保し,発汗反応への抑制は皮膚血管拡張反応の抑制に伴う熱放散量の減少を補う働きがあるのではと推測される。今後は,運動時の熱放散反応に影響する要因の相互作用という観点からの検討がさらに必要になる。
(2) 視床下部視索前野GABA感受性機構の熱産生における役割大坂寿雅(国立健康・栄養研究所) これまでに視床下部視索前野(POA) のGABA感受性機構が発熱時および寒冷刺激による熱産生に不可欠であり,熱産生の共通機構である可能性を示唆してきた。しかし,PGE2発熱はGABAA拮抗薬をPGE2投与と同側のみならず反対側POAに片側性に局所注入することによってもブロックされ,このとき大脳皮質脳波の2-4Hz成分が選択的に増大していた。これらの結果からPOAのGABA受容機構は皮質機能にも影響していることと,熱産生抑制は非特異的現象である可能性が示唆された。しかしながら,GABAA拮抗薬を視床下部背内側部に注入したときも大脳皮質脳波の2-4Hz成分は増大したが,この処置自体で熱産生反応が誘起された。すなわち脳波の変化と熱産生反応とには相関がなかった。また,POAにGABAA作動薬を注入して誘起される熱産生反応は視床下部背内側部にGABAA作動薬を前投与するとブロックされた。熱産生誘起に興奮性に関わっている視床下部背内側部がGABAによる常時抑制を受けており,その起始部がPOAのGABA感受性部位である可能性が示唆され,直列接続しているGABA作動系による抑制と脱抑制とが熱産生制御に重要であると推測された。
(3) 温度感覚,温熱的快・不快感の部位差中村真由美(早稲田大学スポーツ科学研究科 博士課程1年)
温度感覚,温熱的快・不快感の部位特異性を調べるため,暑熱環境下で局所的な加温,冷却実験を行った。水灌流用チューブで作成した温度刺激装置を頭部,胸部,腹部,大腿部に装着し,加温時は42℃,冷却時は25℃の水を90秒間流して温度刺激を行った。全身と刺激部位における温度感覚,および温熱的快・不快感を被験者に-10から10の目盛がついたダイアルで申告させた。冷刺激時,刺激部位における局所的温度感覚に部位差は認められなかったが,温熱的快・不快感に関しては頭部と腹部の間に有意差が認められ,頭部の冷却は特に快適と感じ,腹部の冷却による快適度は低かった。全身的感覚に関しても,頭部冷却時,腹部冷却時の温熱的快・不快感に有意差が認められ,頭部冷却時に特に快適と感じていた。温刺激では,全身的感覚に関して頭部加温時,胸部加温時の温熱的快・不快感に有意差が認められ,頭部加温時に暑さによる不快感が顕著に増強した。以上のような頭部,体幹部における感覚の特徴は,脳を熱による障害から守る,冷えによる内臓機能の失調を防ぐという意味があると考えられ,部位の機能に応じた温熱的快・不快感の特性があることが示唆された。
(4) 暑熱負荷時の皮膚交感神経活動(SSNA) 発火頻度(BF) の増加は低血液量により抑制されない上條義一郎(信州大学大学院医学研究科・加齢適応医科学系独立専攻・スポーツ医科学分野) 低血液量により暑熱負荷時の皮膚血管拡張反応が抑制される。しかし,この抑制にSSNAが関与しているか否かについては不明である。そこで我々は,低血液量が暑熱負荷時のSSNAに与える影響を検討した。被験者18名を低血液量群 (L,9名) とコントロール群 (C,9名) に分け,L群には実験前に利尿剤を投与した。被験者にサーマルスーツを着用させ,これに34℃の温水を還流し10分間の測定後,47℃の温水を45分間環流し,この間食道温 (Tes),腓骨神経SSNA,同側足背部皮膚血管コンダクタンス(CVC=皮膚血流量/平均血圧),発汗率(SR)を測定した。その結果,暑熱負荷によるCVC増加はC群に比べL群で49%低下し (P<0.05),さらにTes上昇に対するCVC増加の感受性(CVC/Tes)もC群に比べL群で71%低下した(P<0.05)。一方,SR増加, Tes上昇に対するSR増加の感受性(SR/Tes)は両群間で有意差を認めなかった。BFは両群とも暑熱負荷前比べて暑熱負荷時に約15回/分増加したが群間に差を認めず,Tes上昇に対するBF上昇の感受性(BF/Tes)にも群間に差がなかった。さらに我々は,予め利尿剤を投与し低血液量状態とした9名の被験者に同様の暑熱負荷をかけ,暑熱負荷開始後50分目以降に生理食塩水を輸液し体液量を回復させ,同様の測定を行った。その結果,暑熱負荷時におけるCVC/Tesは輸液前と比べ輸液後には187%増加した(P<0.01)が,SR/Tes,BF/Tesは輸液により増加しなかった。以上より,低血液量時における皮膚血管拡張抑制はBFでは説明できないことが明らかになった。
(5) 臓器間情報ネットワークによる糖・エネルギー代謝の協調的調節片桐秀樹(東北大学大学院医学系研究科 創生応用医学研究センター) 全身の各臓器・組織の代謝はそれぞれ個別・無関係に行われているのではなく,個体としての代謝を効率よく一方向に導くべく,協調し密接に連関して進められている。この機構が乱れると,肥満やそれに基づく糖尿病・メタボリックシンドロームといった代謝疾患を引き起こされる可能性がある。しかし,そのメカニズムについては,ほとんど解明されていない。我々は,最近,自律神経系のネットワークが,このような各臓器・組織間の協調的代謝調節に関与していることを見出した。内臓脂肪組織は自律神経にシグナルを送り,食欲を調節しているということ,さらに,肝臓は過栄養時にエネルギーの蓄積を感知し,自律神経にその情報を伝え,基礎代謝を亢進させることにより,肥満を予防する役割を有しているということである。これらの機構は,過栄養やエネルギー不足といった代謝状態の変化について,自律神経系を使って各臓器は脳にその情報を送り,脳は,管制塔として全身の代謝を制御していることを示している。このような内在するエネルギー代謝調節機構は新たな治療法の開発のターゲットとなりうるものと考える。
(6) 持久性トレーニング直後の蛋白質・糖質サプリメント摂取が体温調節能に与える影響後藤正樹,上條義一郎,岡崎和伸,増木静江,宮川健,能勢博 若年男性18名に暑熱環境下での自転車エルゴメーター運動(70%VO2peak,30分)を5日間行わせ,運動直後にプラセボ(P, n=9) または蛋白質・糖質サプリメント(S, n=9)を摂取させた。トレーニング後,血漿量と自転車エルゴメーター運動中(65%VO2Peak,30分)の食道温に対する発汗及び前腕皮膚血管コンダクタンスの感受性はP群に対してS群で有意に増加した。持久性トレーニング時の蛋白・糖質サプリメント摂取が,若年者の血漿量を増加させ体温調節能を亢進させることが明らかとなった。
(7) プロスタグランジンE2は視索前野のGABA-A受容体発現を低下させる杉本幸彦(京都大学薬学研究科) プロスタグランジンE2 (PGE2) は,古くから内因性の発熱物質として知られるが,PGE2がどのような分子機作で発熱応答を起こすのかは依然不明な点が多い。PGE2の受容体には4種類のサブタイプが存在するが,我々が作成した4種類のサブタイプを個々に欠損するマウスのうち,EP3欠損マウスのみがPGE2脳室内投与やリポ多糖末梢投与に対して発熱応答を示さなかった。視索前野はPGE2発熱の感受性が最も高い部位であり,実際EP3は視索前野に豊富に発現することから,視索前野のEP3受容体発現ニューロンが発熱の鍵を握ると考えられるが,この神経の特性やEP3応答の分子機構は不明である。我々は,EP3発現細胞の発現プロファイル解析に基づき,本細胞がGABA-Aを発現することを見出した。さらに,視索前野でのGABA-A遺伝子発現量ならびにタンパク質発現量は,PGE2投与により低下した。このような応答は,野生型では認められたが,EP3欠損マウスでは見られなかった。以上の結果から,PGE2-EP3シグナルは,GABA-A発現低下を来し,この現象は発熱応答と密接に相関することがわかった。
(8) ヒトにおける体温リズムと体温調節青木健(日本大学医学部 社会医学講座 衛生学/宇宙医学部門)
昼行性動物であるヒトの体温は,1日の中で早朝に最低を示した後,日中上昇し,夕方に最高となり,夜間にかけて下降するリズムを示す。この体温リズムについてwhole bodyで考えた場合,熱産生と熱放散リズムのずれにより生じる熱収支バランスとの関連性が深い。そしてこの体温リズムに伴い,熱放散反応(皮膚血管拡張反応や発汗反応)をはじめとした体温調節反応も,日内で変動することが知られている。我々の実験でも早朝と夕方を比べると,皮膚血管拡張や発汗開始の体温閾値は,安静時の体温レベルに依存し,夕方では朝に比べて高い方へシフトした。また,体温上昇に対する皮膚血管拡張の感受性は,朝に比べて夕方の方が大きくなった。 さらに体温リズムのなかでも,夜間のリズム制御には松果体より分泌されるメラトニンが重要な役割を果たしていることから,メラトニンと体温調節反応の関係について検討した。例えば,高照度環境下での夜間断眠により夜間のメラトニン分泌および体温低下が抑制されることで,皮膚血管拡張や発汗開始の体温閾値も高い方へシフトした。一方,日中にメラトニンを経口投与した場合には,体温の低下に伴い皮膚血管拡張や発汗開始の体温閾値も低い方へシフトすることに加え,体温上昇に対する皮膚血管拡張の感受性も低下を示した。このように,体温調節反応は体温リズムに加え,その制御に関係する因子にも影響を受けることが明らかとなってきた。
(9) ハムスターの冬眠時体温を制御する中枢神経機構田村豊(福山大学薬学部薬理学研究室)
シリアン・ハムスターは,寒冷環境下短日周期で飼育すると冬眠行動を誘発する。ハムスターの冬眠は,体温下降開始から24時間までの導入期,その後の維持期,および体温が上昇する覚醒期の3期に分類される。冬眠開始17時間後(導入期)のハムスター側脳室にアデノシンA1受容体拮抗薬である8-Cyclopentyltheophilline(CPT; 3 nmol) を投与すると,体温は上昇し維持期への移行が阻害された。しかし,A2受容体拮抗薬の3,7-dimethyl-1- propargylxanthine(3 nmol) の投与では覚醒しなかった。さらに,冬眠開始30時間後(維持期)にCPTを投与しても体温の上昇は観察されなかった。一方,オピオイド受容体拮抗薬のナロキソン(3 nmol) は,導入期に側脳室内投与しても体温上昇を惹起しなかったが,維持期に投与すると体温上昇を惹起し冬眠を中断させた。さらに,thyrotropin-releasing hormone(TRH; 55.2 pmol) を投与すると導入期,維持期のどちらでもハムスターは覚醒し,抗TRH抗体を側脳室内に予め投与しておくと触刺激による冬眠からの覚醒が抑制された。以上の知見より,ハムスターの冬眠時体温は,アデノシン系,オピオイド系,TRH系という異なる3つの中枢神経系により制御されていると考えられる。
(10) 環境温度変化曝露によるラットLPS発熱反応への影響宇野忠(山梨県環境科学研究所・生気象学研究室) 夏季や冬季における室内と室外の往復などを想定し高温,低温環境に曝露される場合だけではなく,温度変化が大きい環境に繰り返しさらされる時に生体内恒常性が受ける影響を解明することを目的とし,ラットを25℃環境,持続的な4℃寒冷環境,4℃と27℃間を1時間サイクルで変化する繰り返し温度変化環境などの条件で1〜10日間の曝露を行い,ストレス指標として血漿中コルチコステロンの測定を行った。10日間にわたり寒冷,繰返し温度変化曝露とも25℃曝露よりも,さらに1,2,4日間において繰り返し温度変化曝露では寒冷曝露よりも高い値を示し,環境温度の繰り返し変化がより強いストレスを与えることを明らかとした。 また,体温測定用テレメトリーセンサー埋め込みラットをコルチコステロン濃度に顕著な差がみられた2日間曝露した後,LPSの腹腔内投与により引き起こされる発熱反応の比較を行った。寒冷,繰り返し温度変化曝露共に25℃曝露より発熱反応の増強が見られた。また2日間曝露に加え25℃環境にて1日間さらに曝露しコルチコステロンが通常レベルに戻った状態ではさらなる増強が観察されたことから,増加したコルチコステロンの直接的な作用によるものではなく,環境温度変化に伴うストレス環境がLPS発熱反応へ何らかの影響を与えた可能性が示唆された。
(11) 表皮ケラチノサイドが温度刺激を受容して感覚神経に温度情報を伝達するメカニズム曽我部隆彰(岡崎統合バイオサイエンスセンター 細胞生理部門) 表皮ケラチノサイトにはTRPV3, TRPV4という2種類の30度台の温度刺激で活性化する温度感受性TRPチャネルが発現している。この事実は,表皮が最初に温度を感知する部位である可能性を示唆している。その場合,ケラチノサイトで感知された温度情報が感覚神経に伝達されなければならない。ケラチノサイトと感覚神経細胞の共培養系に熱刺激をすると,ケラチノサイトより遅れて感覚神経細胞内のCa2+濃度が上昇した。ATP受容体の阻害剤PPADSを前処理すると感覚神経細胞のみでCa2+濃度上昇が抑制された。次に,ATP受容体 (P2X2) を強制発現させたHEK293細胞をバイオセンサーとして用い,ケラチノサイトとの共培養系においてパッチクランプ法により検討した。熱刺激にともない30度後半でP2X2の活性過電流が観察された。この活性過電流はTRPV3欠損ケラチノサイトを用いると消失したが,TRPV4欠損ケラチノサイトでは野生型と同等に観察された。セロトニン受容体 (5HT3) やグルタミン酸受容体(NMDAR) では電流は生じなかった。感覚神経細胞をバイオセンサーとして用いた共培養系に熱刺激を加えると,30度後半で感覚神経細胞のP2X3活性化電流が観察された。以上の結果から,熱刺激によってケラチノサイトのTRPV3を介したATP放出が起こり,感覚神経のP2X受容体に作用して温度情報を伝達することが示唆された。
(12) 磁気共鳴スペクトロスコピーによる脳温計測吉岡芳親,高濱祥子,神原芳行,松村豊(岩手医科大学・先端医療研究センター,科学技術振興機構・CREST) 磁気共鳴スペクトロスコピーにより健康成人男性の脳内温度を経時的に測定し,飲水時と運動負荷時の脳内温度変化を評価できるか否かを検討した。冷水(0℃/500mL)の摂取では,一過性に0.5℃程度脳内温度が低下し,飲水終了後徐々に上昇した。温水(53℃/500mL)の摂取では,0.4℃程度一過性に脳温が上昇した。これらの温度変化は,熱収支で予想された温度変化よりも大きく,一過性であった。また,体温付近の温度の飲水による脳内温度変化は確認できなかった。よって,冷水・温水の摂取による脳内温度変化は,飲水により冷却又は加温された血液の流入によりもたらされたと考えられる。30分程度の軽い運動負荷でも,0.5-1.0℃程度の脳内温度上昇を観測できた。運動負荷時の食道温の変化は,0.5℃程度であり,脳内温度変化の方が大きいと思われた。これは,運動負荷による体全体の温度上昇と脳活動による温度上昇が重なった結果であると考えられる。磁気共鳴スペクトロスコピーにより健常者の脳内温度変化を評価できるようになってきたと思われる。
(13) 体温リズムの生物時計による内因性支配と非光同調因子による外因性修飾作用山仲勇二郎,橋本聡子,高須奈々,本間さと,本間研一 ヒトを時刻情報から隔離された恒常環境下で生活させると,睡眠覚醒リズム,深部体温リズムは,約25時間のフリーラン周期を示す。このことから,通常の明暗周期環境下においては,朝方に光を浴びることにより生物時計を位相前進させ,24時間の環境周期に同調していると考えられる。その一方で,全盲患者の約50%が24時間の概日リズムを示すことから,光以外の環境因子がヒトの生物時計のリズム調節に関与していると考えられている。最近,我々は非光同調因子として運動に注目し,低照度環境下での運動が生物時計の位相反応に及ぼす影響について実験を行った。 本実験は,健常成人男性を対象とし,6泊7日の隔離実験を行った。隔離実験室内は,生物時計の光同調が困難な低照度環境とし,実験3日目から6日目までの4日間非光同調因子として身体運動を負荷した。生物時計の位相変化は,実験前後の血中メラトニンリズム,体温リズムから評価した。また,実験前後で睡眠脳波,心臓自律神経活動の変化についても比較した。 本研究会では,1) 非光同調因子による生物時計の位相反応,2) 生物時計の位相反応による体温リズムの変化,3)非光同調因子による体温リズムのマスキング,4)生物時計の位相反応と体温リズムのマスキングが睡眠脳波および睡眠時心臓自律神経活動に与える影響(体温リズムマスキングの生理学的意義)について検討した結果を報告する。
(14) 冷刺激が誘発するゼブラフィッシュ稚魚のふるえ−脊椎動物における恒温性の起源か?杉山麿人,細川浩,久枝宏,小林茂夫(京都大学情報学研究科 知能情報学専攻生体情報処理分野) 環境温が下がると,哺乳類や鳥類(恒温動物)は芯温維持のために反射的に体をふるわせて産熱する。このふるえの機構が脊椎動物のどの段階で獲得されたのかわかっていない。ここでは,低温のプールに入れるとゼブラフィッシュの稚魚が反射的にふるえるが,成魚では消失することを示す。脊椎動物における恒温性の起源がサカナにあると結論する。
(15) 温度受容チャネルTRPM8の分布とその体温調節に関する役割田地野浩司,林宏壮,小佐田佳織,柴草哲郎,細川浩,小林茂夫 環境温が低下すると,皮膚直下の温度受容器が活動し,神経線維に求心性の活動電位を発生する。この活動電位が神経線維を伝わり,自律性,行動性体温調節反応を誘発する。最近,感覚神経の細胞体で発現し,低温とメンソールで活性化するTRPM8が同定された。このTRPM8が体温調節反応を引き起こす温度受容器の候補と考えられている。しかし,TRPM8が感覚神経の末端に実際に発現しているかどうかは明らかでない。本研究では,TRPM8が皮下に発現しているかどうかをTRPM8の抗体を使った免疫組織化学的方法で調べた。また,TRPM8の活性化が自律性,行動性体温調節反応を引き起こすかどうかを,皮膚にメンソールを塗布することで解析した。免疫組織化学的方法で,抗体による染色により,皮膚直下にTRPM8を発現している神経細胞の線維が存在することが分かった。皮膚へのメンソール塗布は,後根神経節のTRPM8発現細胞を興奮させた。また,この刺激により,マウスの芯温は上昇した。このときマウスの酸素消費量が増大し,尾の血管収縮が起こった。酸素消費量の増大は筋肉や褐色脂肪細胞の活性化によるものであった。メンソールを塗布されたマウスは,より高温の環境を好むようになった。これらの結果により,TRPM8が低温に対する自律性,行動性両方の体温調節反応を引き起こす分子だと結論する。
(16) 新しい行動性体温調節動物実験装置細野剛良(大阪電気通信大学医療福祉工学科) 行動性体温調節の動物実験装置としてThermal gradientなどが知られている。いずれも大規模なものであったり,煩雑な動物の訓練を必要とするものであった。マウスの滞在エリアの床となるプレートの温度を変え,「2つの環境温度のうちどちらを選ぶか?」という課題の簡単な構造の装置を構築した。2枚のプレート温を25℃と35℃とし,5分毎に温度を入れ換えると,ほどなくマウスは常に35℃の方を選ぶように行動した。
(17) アラキドン酸発熱の意外なしくみ松村潔(大阪工業大学情報科学部) ラット脳室にアラキドン酸 (AA)を投与すると2相性の体温上昇が起こった。COX-2阻害剤は1相目には影響せず,2相目をほぼ完全に抑制した。脳脊髄液中のプロスタグランジンE2(PGE2) もCOX-2阻害剤で低下した。AA投与によりクモ膜下腔の血管内皮細胞にCOX-2が誘導された。以上の結果は,AAがPGE2の原材料としてだけでなく,AAをPGE2に代謝する酵素の誘導因子として機能していることを示す。
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