生理学研究所年報 第28巻 | |
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25.Fmq研究会2007年3月11日
【参加者名】 【概要】
(1) 加算作業中のFmq とthalamicqについて末次正知(山口大学医学部 精神科) EEG, MEG, fMRI を使った研究において,anterior cingulated cortex (ACC) を含んだmedial prefrontal cortex (mPFC) を Fmqの発生源とする報告がいくつかのグループよりなされている。ところで,睡眠中にもFmqに似たリズムが出現することや,Fmqと睡眠紡錘波が,その形状や分布に類似性が認められることから,今回,Fmq出現群と非出現群の二群を設定し,加算作業中と睡眠中の脳波記録を行った(実験 1)。その結果,Fmqの出現機構と睡眠紡錘波のそれは類似している可能性が考えられた。そこで,パーキンソン病の加療目的で,視床下核に電極を植え込まれた患者を対象に,加算作業中と睡眠中の脳波を記録した(実験 2)。その結果,加算作業中に,Fmqと同時に視床下核からqリズムが出現し,睡眠中には同部位(Fz および視床下核)からqリズムおよび睡眠紡錘波が出現した。視床下核は睡眠紡錘波の発生源とされる視床網様核に近接している。以上の結果より,Fmqの発生源として視床網様核が重要である事が示唆された。
(2) 石原論文の被引用文献に見るFmq 研究の展望石井良平(大阪大学大学院医学系研究科 精神医学教室)
石原論文とは1972年にEEG Journalに発表されたFmqについての最初の英語論文で,現在,教科書では,「臨床脳波学」,「脳波筋電図用語辞典」,Electroencephalographyに引用され,Fmq研究についての初期の代表的な論文として紹介されている。今回,この論文が過去にどのような論文に引用されたかを検索した。その結果,ワーキングメモリ課題施行時に出現する前頭部シータ波活動についての報告や,脳磁図を用いた活動源推定の報告のインパクトが高かったが,精神科領域での応用を目指した研究は被引用回数が高くなかった。また,MEG,fMRIなどの他の脳機能測定法を用いた研究や,認知課題施行時の律動活動の意義を探る研究が,ここ数年で特に注目を集めていることがわかった。今後は,Fmqと種々の認知機能との関係や,脳内での発生源のより正確な同定と部位間の関連についての研究が中心となろう。
(3) 複雑な手指運動に伴う局所脳律動変化の脳磁図解析崎原ことえ(大阪大学大学院医学系研究科 機能診断科学講座) 【目的】複雑な手指運動の脳内処理メカニズムを解明する。 【方法】健常右利き被験者10人に利き手で習熟運動と非習熟運動の2種類の手指運動を試行させ,脳信号強度変化のERD(脱同期反応),ERS(同期反応)を比較した。【結果】運動前野にてlow g帯域のERD,補足運動野にてa〜b帯域のERD,頭頂間溝水平部にてb〜low g帯域のERDがみられた。運動前野のERD反応が習熟運動で有意に低下,補足運動野でのERD反応が習熟運動で有意に増加,頭頂間溝水平部でのERDが習熟運動で有意に低下した。 【考察】fMRIやPETの先行研究で運動の習熟によって運動前野の脳活動低下,固有補足運動野の活動増加,また頭頂間溝水平部での活動の低下が報告されており,本研究では脳磁図によってさらに関与する局所脳律動変化を捉えた。 【結論】運動の習熟によって,優位に活動する領野が変化しさらに関与する局所脳律動変化にも違いがみられることが明らかになった。
(4) サル前頭葉のシータ波活動逵本徹(自然科学研究機構 生理学研究所 脳機能計測センター) ヒトが注意集中する時に,前頭葉周辺でq波が記録される。この脳波活動はfrontal midline theta (Fmq ) rhythmsと呼ばれているが,正確な発生源や発生機構については不明な点が多い。ヒトでそれらを解明することは侵襲的な実験が限られた状況下でしか許されず極めて困難であるため,代替として,サルでFmq 波のモデルを作成して大脳皮質埋込電極でその発生源を調べた。サルには一定時間待ってから自分のペースでレバーを動かす課題を行わせた。前頭前野9野と前帯状野32野のq波活動は運動の2-3秒前から徐々に漸増し,運動直後に極大となった。運動後のq波活動は,報酬を与えると再度増加して二度目の極大を示したが,報酬を与えないと速やかに低下した。このq波活動は,周波数・空間分布・注意負荷との関連性の点においてヒトのFmq波の相同物と考えて矛盾なく,Fmq波の解明に役立つ可能性がある。
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