生理学研究所年報 第29巻
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脳機能計測センター

形態情報解析室

【概要】

 形態情報解析室は,形態に関連する超高圧電子顕微鏡室(別棟)と組織培養標本室(本棟2F)から構成される。

 超高圧電子顕微鏡室では,医学生物学用超高圧電子顕微鏡(H-1250M型;常用1,000kV)を,昭和57年3月に導入して同年11月よりこれを用いての共同利用実験が開始されている。平成19年度は共同利用実験計画が26年目に入った。本研究所の超高圧電顕の特徴を生かした応用研究の公募に対して全国から応募があり,平成19年度は最終的に13課題が採択され,実施された。このうち5件は,国外の研究者による研究あるいは国外の研究者が関係するものである。これらは,厚い生物試料の立体観察と三次元解析,薄い試料の高分解能観察等である。共同利用実験の成果は,超高圧電子顕微鏡共同利用実験報告の章に詳述されている。超高圧電子顕微鏡室では,上記の共同利用実験計画を援助するとともに,これらの課題を支える各種装置の維持管理及び開発,医学生物学用超高圧電子顕微鏡に関連する各種基礎データの集積および電子顕微鏡画像処理解析法の開発に取り組んでいる。電子線トモグラフィーによる手法には,コロラド大で開発されたIMODプログラムでの方法などを用いて解析を進めている。

 本年度の超高圧電顕の利用状況の内訳は,共同利用実験等126日,修理調整等59日である(技術課脳機能計測センター形態情報解析室報告参照)。電顕フィルム等使用枚数は6,729枚,フィラメン点灯時間は426時間であった。平成19年度は,装置は68%の稼働率で利用され,試料位置で10-6 Pa台の高い真空度のもとに,各部の劣化に伴う修理改造を伴いながらも高い解像度を保って安定に運転されている。

 組織培養標本室では,通常用およびP2用の培養細胞専用の培養機器と,各種の光学顕微鏡標本の作製および観察用機器の整備に勤めている。

 

小腸絨毛上皮下線維芽細胞間のギャップ結合

古家園子,古家喜四夫(JST,細胞力覚プロジェクト)

 小腸絨毛上皮下線維芽細胞は消化管上皮の基底膜の下で細胞網を形成し,lamina propriaを包んでいる特殊な線維芽細胞であり,血管や神経終末,絨毛の平滑筋とも隣接しており,絨毛におけるシグナル伝達の要の役割をはたしていると考えられる。絨毛の下部1/3では細胞の形は幅広い細胞突起を保つフラットな形態であるが,上部2/3では細胞は星状の形態に変化している。細胞間はギャップ結合でつながっており,星形でもフラットな形態でも,ギャップ結合の透過性に有意の差はみとめられない。絨毛上皮下線維芽細胞間のギャップ結合の開閉や透過性の制御機構をFRAP法で検討している。

 

超高圧電子顕微鏡によるトモグラフィー解析について

有井達夫

 ±60度の範囲内において数度おきに連続的に傾斜して得られる多数枚の超高圧電子顕微鏡傾斜像を用いてコンピュータートモグラフィー手法により得られる三次元再構成した三次元データの基本的な特性について研究している。特に試料による電子線の吸収効果とフィルムから得られる電子線強度との関係に注目して得られる精度を検討している。

 また断層画像から3次元量を求めるためのソフトウェアー(アナライズなど)による3次元形態情報の値の精度をモデルを用いて検討している。

 

 

機能情報解析室

【概要】

 随意運動や意志・判断などの高次機能を司る神経機構の研究が進められた。サルを検査対象として慢性埋め込み電極を利用し,大脳皮質フィールド電位の記録解析を行っている。

 

注意に関係する脳活動の研究

逵本徹

 「注意」や「意欲」の神経機序は不明な点が多い。これまでに陽電子断層撮影法を用いた研究で,前頭前野・前帯状野・海馬の脳血流量が想定される意欲の変化と一致した変動を示すことを明らかにした。大脳辺縁系と前頭前野の「意欲」への関与を示唆する知見と考えられる。さらに一歩進めて,この脳領域でどのような神経活動が行われているのかを解明するために,運動課題を行うサルの大脳皮質フィールド電位を記録した。その結果,前帯状野32野と前頭前野9野のシータ波活動が「注意」や「意欲」に相関していると解釈可能な知見を得た。両部位のシータ波は高いコヒーレンスを示し,これらの部位が機能的に関連していることを示唆する。この活動はヒトの脳波で「注意の集中」に関係して観察されるFrontal midline theta rhythmsに相当すると考えられる。埋め込み電極による高い空間分解能を活かして,現在,32野と9野の間の情報の流れについて解析を行うとともに,さらに多くの領野での記録を試みている。

 

 

生体情報解析室

【概要】

 生体情報解析室は,根本知己准教授と機能共関研究部門より一時的に出向した高橋直樹技術職員(2007年5月まで)からなる2光子顕微鏡を担当するグループと,生体情報解析用コンピュータシステム,所内情報ネットワークの維持管理を担当する吉村伸明技術課職員,村田安永技術課職員から構成されていた。本稿では2光子顕微鏡グループについてのみ概要を述べる。2光子顕微鏡グループは機能協関研究部門,生体恒常機能発達部門の協力を得,5F511号室クリーンルームに広帯域高出力型の超短光パルスレーザーとレーザースキャニング型蛍光顕微鏡からなる2光子顕微鏡システムを計3台管理している。本年度は新たにポンプ用のグリーンレーザー光源を改良し,より広範囲の発振波長を達成することに成功した。さらに既存の波長領域においても高いレーザー出力を得られるようになり,in vivoイメージングに有効であった。またフェムト秒パルス用チャープ補正系とオートコリレータを導入し,対物レンズ後の標本位置におけるレーザーパルス幅を最小にする操作を容易に実行できるようになった。

 本年度,2光子顕微鏡グループは,分泌腺・神経組織における形態変化や機能イメージグ,開口放出の分子機構について研究を推進した。まず生体恒常機能発達機構研究部門と共同し,構築した世界でトップクラスの個体in vivoイメージング用正立型2光子顕微鏡システム用いて,麻酔下のマウス大脳新皮質の表面から0.9mm以上深部においても断層像を得ることが可能であった。さらに本年はその特性を推し進めると共に原因解明に努め,第V層錐体細胞のbasal dendriteのin vivo可視化に世界で初めて成功した。この成果は,平成19年度文部科学省科学技術週間パネル展に「生きた脳の内側から神経細胞を覗う」(和気弘明,鍋倉淳一,根本知己)として出品し受賞した。このような2光子顕微鏡の要素技術の顕在化は,昨年度に引き続き,科学振興機構産学共同シーズイノベーション化事業(顕在化ステージ)の支援を受け推進した。

 開口放出の分子機構に関して,膵臓ランゲルハンス島b細胞をモデルとして,イノシトールリン脂質やカルシウムイオンを介したシグナル伝達系について検討を行った。(九州大学大学院歯学研究院・平田雅人教授,兼松隆准教授グループと共同研究)。膵臓外分泌腺における水チャネルAQP12の生理的機能について,東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・佐々木 成教授,内田信一准教授,頼 建光博士のグループにて作成されたノックアウトマウスを用いて検討を行った。さらに,昨年度に引き続きバイオ分子センサープロジェクトの支援を受け,身体左右差の発生を決定するノード流を検知するセンサー分子について基礎生物学研究所時空間制御研究室・野中茂紀准教授と共に実施した。また関西医科大学附属生命医学研究所所長・木梨達男教授,戎野幸彦博士のグループと共に,免疫細胞の2光子in vivoイメージングについて生きたマウスのリンパ節への細胞運動を観察することに成功し,その運動に重要な分子の同定に成功した。その他,企業と共同研究契約を締結し2光子顕微鏡法の可能性を探索した結果,新しい酵素機能測定法の可能性が出てきた。

 定期的にバイオイメージング・セミナーを自主的に開催し,生理学研究所,基礎生物学研究所,分子科学研究所を横断した多くの若手研究者の参加があった。


図1. 平成19年度文部科学省科学技術週間パネル展受賞作品

図1. 平成19年度文部科学省科学技術週間パネル展受賞作品
「生きた脳の内側から神経細胞を覗う」


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