生理学研究所年報 第29巻 | |
研究活動報告 | ![]() ![]() |
|
技術課大庭明生 1.概要今年度の人事は,生体膜研究部門・深田正紀教授の着任に伴い生体情報解析室・高橋直樹技術係員を生体膜研究部門に配置換えをした。また広報展開推進室の立ち上げと小泉周准教授の着任に伴い感覚運動調節研究部門・永田治技術係長を広報推進展開室に配置換えをした。 課の研究活動への寄与と貢献を一層進めるため下記の事業を実施した。 ①技術課研修セミナーの開催 岡田泰伸教授の所長への就任に伴い岡田新所長を技術課研修セミナーに招聘し,『技術課への提言』をテーマにセミナーを開催した。講演で,研究活動からの技術成果のデータベース化と研究所が進めている脳研究の成果の4次元脳機能イメージング化を,点検連携資料室と広報展開推進室とともに,推進する提言がなされた。特に前者については,これまで技術課が作成してきた生理学実験技術データベースを公開した。 ②生理科学実験技術トレーニングコースでの技術指導 生理学研究所が毎年主催し,実施している生理科学実験技術トレーニングコースで,『生理学実験のための電気回路・機械工作・プログラミング』をテーマに,『PICマイコンによる温度コントローラーとバスチェンバーの作製』と『C言語によるPICプログラミング』の2コースを担当し,7名の若手研究者の技術指導を行った。 ③生理科学技術研究会の開催 全国の大学等の技術職員の技術連携と交流を目的に第30回を基礎生物学研究所・技術課と合同で開催した(平成20年2月14日−15日)。会では,口演発表が22題,ポスター発表が45題あり,研修講演として『ショウジョウバエを材料として用いた生殖細胞形成機構に関する研究』(小林悟,基礎生物学研究所・岡崎統合バイオサイエンスセンター・発生遺伝学研究部門),特別講演として『脳・ブレインインタフェース・ロボット』(川人光男,株式会社国際電気通信基礎技術研究所,脳情報研究所)を行った。これらの報告は『生理学技術研究会報告(第30号)』にまとめた。 ④奨励研究採択課題技術シンポジウムの開催 時代要請に対応した技術認識と向上に立った技術職員の業務の社会的開示を推進するために奨励研究採択者による第4回の報告会(平成20年2月15日)を12演題で行った。この報告は『生理学技術研究会報告(第30号)』にまとめた。 ⑤自然科学研究機構技術研究会の開催 自然科学研究機構技術職員の業務の紹介と業務連携を目的に,第2回を分子科学研究所で開催した(平成20年6月25−26日)。会では21演題の発表があり,詳細は『第2回自然科学研究機構技術研究会集録』としてまとめた。 ⑥東海北陸地区技術職員研修等の受講と参加 東海北陸地区の大学等の技術職員の技術交流と向上を目的に毎年当番校により行われている技術研修で,生物・生命コース(浜松医科大学,1名)と情報処理コース(静岡大学,1名)を受講した。 また,高エネルギー加速器研究機構技術職員シンポジウム(高エネルギー加速器研究機構,2名),大阪大学・京都大学・神戸大学連携シンポジウム(大阪大学,3名),天文学に関する技術シンポジウム(国立天文台,1名),感染症の病原体等の管理規制に関する説明会(名古屋,1名),国際規制物質の使用に関する申請等の講習会(大阪,1名),日本動物実験技術者講習会(名古屋,2名),電子顕微鏡ミクロトームワークショップ(大阪,1名),日本神経科学学会(横浜,1名),日本分子生物学会(東京,1名),日本肥満学会(東京,1名)にも参加し,業務の研究支援力の強化を図った。 ⑦放送大学利用による専門技術研修の受講 研究の高度化と多様化の進むなかで技術職員の研修は重要な課題である。今回研修科目として(1)実験科学とその方法(2名),(2)基礎生物学(3名),(3)人体の構造と機能(3名),(4) 人間情報科学とe-ランニング(1名),(5) 精神分析入門(1名)を選び,10名が受講した。 ⑧科学研究費補助金(奨励研究)の採択 業務を展開,推進していくための問題意識の養成,その解決のための計画および方法の企画能力の養成,さらにはその表現力と説明力の養成を通じて,業務上の技術力の総合的な向上を図ることを目的に標記の申請を行い,下記の2課題の採択を得た。 (1) 佐治俊幸:ホームケージ用摂水摂餌量連続計測装置の開発 (2) 斉藤久美子:脂肪酸酸化調節因子マロニルCoA量の測定法の開発 また核融合科学研究所と岡崎3機関が合同で,『高出力レーザ用保護メガネの開発』を課題に奨励研究を申請し,採択された。 ⑨成茂神経科学研究助成基金の採択 課の自立的運営のためには独自の運営資金の確保が重要な課題である。今回,女性技術職員の研究支援をキーワードに,窪田美津子技術係員を代表者にして奨励研究採択課題技術シンポジウムの開催を申請し,採択された。 ⑩地域連携事業への参加 岡崎商工会議所主催による『ものづくり岡崎フェア(知的財産活用フェア)』が開催(2月14−15日)され,岡崎3機関・技術課は,『技術課の紹介』をテーマに展示を行い,地域との連携を図った。 ⑪安全衛生技能講習等の受講と参加 研究所の安全衛生を課業務として充実するために,第1種衛生管理者講習(岡崎,1名),特定化学物質等作業主任者技能講習(名古屋,1名),酸素欠乏・硫化水素危険作業者技能講習(名古屋,1名),有機溶剤作業主任者技能講習(名古屋,1名),高圧ガス製造第2種CE設置事業所保安講習(名古屋,1名)を受講した。 また,核融合科学研究所で開催された第4回安全衛生に関する情報交換会(3月12日)に3名が参加し,安全衛生に関する知見を深めた。 ⑫岡崎3機関技術課長会と機構技術会議の開催 岡崎3研究所の動向の意見交換を,事務センターの総務課長,施設課長を交え毎月1回開催している。 また核融合科学研究所,時に国立天文台も交え毎月1回の相互訪問による情報交換も行っている。
2.施設の運営状況〈1〉統合生理研究系(1)生体磁気計測装置室 永田治,竹島康行 【概要】 2007年4月〜9月 センサチャネルにおいて,1チャネルにノイズの増加が見られたため,アンプの交換調整などの対策を行なったが改善されなかったため,ハードサイクルをかねてセンサ基盤の交換を行なった。その結果,平均的なノイズレベルは基本スペックを超えるレベルで調整できており,同様のセンサが稼動している他サイトと比較してもトップレベルである。今後適切な保守管理が行なわれていれば今後三年間はハードサイクル等大きな修理は必要ない最善の状態と判断できるのでこのまま後任者に引き継ぐこととする。 三次元MRI画像解析環境の更新においては,各機能のPCへの移植がほぼ完了したが,ユーザインターフェイスに一部不備があり検討を要する。基本的にはモジュール単位であれば利用可能であり,四次元的な表現においても十分対応できると思われる。ただし,利用においては最低限AVSのネットワーク操作知識を要する。 2007年10月〜3月 ハードサイクル後に,一部のチャネルにおいてスパイク状のノイズが発生したため,再度チャネルの調整をおこなった。 平成19年度 生体磁気計測装置共同利用実験の実施状況
*総日数はセンサを使用した計測実験の総日数であり,解析装置の使用日数は含まれていない。
〈2〉脳機能計測センター(1)形態情報解析室 山口登 【超高圧電子顕微鏡利用状況】 今年度における超高圧電子顕微鏡共同利用実験は,合計13課題が採択され,全ての課題が実施された。これらの共同実験の成果は,超高圧電子顕微鏡共同利用実験報告の章に詳述されている。超高圧電子顕微鏡の年間の利用状況を表にまとめたので下記に示す。稼動率は,利用日数と使用可能日数より求めている。本年度の主な超高圧電子顕微鏡の改良・修理としては,自動昇圧用モーターの交換および対物レンズ可変用ロータリースイッチの交換,高圧印加用レジンコンデンサーの点検・交換,フィルム乾燥機用ターボモレキュラーポンプの交換などが行われた。 2007年度 超高圧電顕月別稼働率
フィラメント点灯時間 425.7時間
(2)生体機能情報解析室 佐藤茂基 【概要】 今年度の装置整備状況は,主な事項として次の通りである。 今年度,fMRI装置の共同利用実験は合計12課題が採択され,これら実験課題が実施された。 今年度,リアルタイム装置本体において長期間の修理を要する故障は起きず,比較的安定した稼働状態であった。所外の利用者は3グループあり,装置利用の有効性からから日程を重ねて使用している。 平成19年度のfMRI装置とリアルタイム装置利用実績を別表に記す。
【機器利用率】 平成19年度fMRI装置月別稼働率
*土日に実施された実験は0.5日分を平日に振り替えて計算
平成19年度リアルタイム装置月別稼働率
*保守以外の土曜,日曜,祝祭日は,使用可能日に含めた。
(3)生体情報解析室 吉村伸明,村田安永 【概要】 生理学研究所における当施設の利用形態は,生体情報解析システム(高機能ワークステーション,アプリケーション,高画質フルカラープリンタ等),情報サービス(e-mail,WWW等),プログラム開発及びメディア変換などに分類することができる。また,これらを円滑に運用していくためには,所内LANの管理,整備や情報セキュリティの維持も重要である。このような現状をふまえたうえで,岡崎情報ネットワーク管理室とも連携しながら,施設整備を進めている。 生体情報解析システムは,今年度2月に更新を行った。データ解析・可視化,信号処理,画像処理,数式演算,統計処理,電子回路設計などの多くのネットワークライセンス用アプリケーションを備えている。ネットワーク認証により各部門施設のPC上でこれらアプリケーションが供用できる。登録者は103名で,研究推進のための積極的な利用がある。 生理学研究所のネットワーク利用状況は,メール登録者が431名。WWW登録者が66名。LANの端末数が1,827台。所内向けのダイヤルアップサービスは9回/週,1.4時間/週。VPNサービスは37回/週,47時間/週の利用があった。 所外からのメール受信数は21,000通/週。所外へのメール発信数は11,000通/週。WWWは4,700台/週の端末から74,000ページ/週の閲覧があった。
〈3〉生理研・基生研共通施設(1)電子顕微鏡室 前橋寛 【概要】 明大寺地区の電子顕微鏡の利用が少なくなってきたが,各地区1台ずつ利用できる装置を維持するため透過型電子顕微鏡 (JEM-1200EX,JEM-1010) の保守契約(年1回点検)を継続した。明大寺地区電子顕微鏡室には5月から基生研より共通利用として,透過電子顕微鏡(H-7600,CCDカメラ付属試料ステージ傾斜機構最大傾斜角±60゜)が移設された。 昨年度,JEM-1010本体と付属のCCDカメラの倍率表示等を同期させるため,電顕本体にカメラ制御基板を挿入しコンピュータから入力できるようにしたが,本体のキーボードからテキスト入力モードを変更する必要がある為,使い勝手が少し悪くなった。 昨年度,購入した共焦点レーザー顕微鏡 (LSM-510) の制御用コンピュータが立ち上がらなくなったが,メモリーとハードディスクの抜き差しで起動するようになった。 利用者との情報交換を目的に,電子顕微鏡室に関するブログを開設することを始めた。故障状況や,使い方,試料作製法等,画像を交えて投稿し,コメント(コメントされた人にメール送信)にて情報交換するようにし,WEBサイトに情報を共有し蓄えるようにした。
【研究内容一覧表】 本年度,室を利用してなされた研究の総件数は36件であった。機構内では29件あり,機構外は,国内で7件,国外では中国,ドイツの研究者による利用が3件あった。下記の表はその研究部門・施設,大学,研究所と研究内容の一覧表である。
利用内容一覧表
所外(国内)
所外(国外)
(2)機器研究試作室 加藤勝己 【概要】 機器研究試作室は多種多様な医学・生物学用実験機器の開発と改良,それに関わる技術指導,技術相談を室の役割としている。今,我々の周りには便利な物品があふれ,自分で工夫して作ったり,改良する機会が少なくなり,新しい研究には新しい研究機器を作るという『ものづくり』が希薄になっている。一方で,最近の研究の多様化は室に新たな役割の模索を迫っている。そうした認識のもと,『ものづくり』能力の重要性の理解と機械工作ニーズの新たな発掘と展開を目指すために,2000年度から,医学・生物学の実験研究に使用される実験装置や器具を題材にして,機械工作の基礎的知識を実習主体で行う機械工作基礎講座を開講し,2008年度は,施設担当職員の配置転換もあったため,汎用工作機械の使用方法を主体に実習する初級コース(リキャップ台)と応用コース(簡易型一軸式マニュプレータ)の2コースを開講し,現在は初級コースの開講中である。参加希望者は,2コース合わせ生理研6名,基生研18名で,初級コースは半日を1回,応用コースはガイダンスの後,マンツーマンで3〜4回の講習を行う予定である。 また,生理学研究所では,山手地区に移転した研究室のために,2005年4月に工作室を開設し,利用者のための安全及び利用講習会を,毎年機器研究試作室が依頼を受けて実施している。 なお,機器研究試作室の平成19年度の利用状況は,以下の通りである。
平成19年度 機器研究試作室 利用報告
機器研究試作室利用人数表
機器研究試作室部門別のべ利用状況
〈4〉動物実験センター(岡崎共通研究施設)佐治俊幸,廣江猛,窪田美津子,小池崇子 【概要】 3年計画による明大寺地区陸生動物室のSPF化の第三期改修を行った。本年度は,地下の残る実験室等の改修と廊下の改修を行い地下エリアのSPF化が終了した。各部屋の清掃消毒及び使用方法の決定等を平成20年度当初に行い,SPF飼育室の稼働を目指す。 SPF飼育室の立ち上げとともに,一般飼育室のクリーン化をはかるため,はじめて全飼育室の一斉モニタリングを行った。その結果,マウス肝炎ウィルス,Mycoplasma pulmonis,Bordetella bronchisepticaを検出した。すぐに感染症対策委員会を立ち上げて,今後の方針について話し合いを行い,Minimum requirement カテゴリーA, Bの病原性微生物がいない環境を目指すことになった。 実験動物の授受に関し,年間で48件の導入と49件の供与があった。平均すると毎週2件の授受が行われており,それに伴う条件や書類の確認,ユーザーへのアドバイスに費やされる時間が増大している。 【受精卵凍結・クリーンアップ事業】 山手地区でも明大寺地区と平行して,受精卵凍結事業を行う体制が整い,利用者からの依頼に柔軟に対応できるようになった。 実施件数としては,受精卵凍結保存がのべ22件,クリーンアップ兼受精卵凍結保存が15件,過去に当センターで受精卵凍結した系統の融解・移植の依頼があり,9件行った。 【明大寺地区 陸生動物室】 平成19年度の飼育室利用部門数は,21部門(生理研14部門,基生研5部門,統合バイオサイエンスセンター 2部門)であった。動物数飼育数は,マウス,ラット,サルで増加傾向にある。 マウス・ラット一般飼育室では,クリーン化のための一斉モニタリングを行った。動物および飼育室内のクリーンアップ完了後には,3ヶ月に1回のペースで行う予定である。 【山手地区 動物実験センター分室】 平成19年度の飼育室利用部門数は,14部門(生理研7部門,基生研2部門,統合バイオサイエンスセンター5部門)であった。 利用者講習会を毎月開催するとともに,陸生動物利用者には実務講習会を実施している。各受講者はそれぞれ39名,32名であった。 全SPF飼育室およびマウス一時保管室1,マウス・ラット一時保管室2の病原微生物モニタリングが,3ヶ月に1回のペースで実施され,異常は検出されなかった。 【明大寺及び山手地区 水生動物室】 平成19年度の水生動物室利用状況は,生理研・基生研両研究所あわせて7部門・施設の利用があった。 平成19年度より2年計画で行われる基礎生物学研究所の耐震補強工事に伴う水生動物室の改修工事がスタートした。本年度は,ポンプ室のみが改修されたが,次年度の水槽室改修のために,不要水槽の解体を行った。平成20年度の秋までは,水槽室が使用できないために基生研南側のドライエリアへ飼育水槽10基を移設し飼育が可能となるようにし,改修後に必要となる水槽もドライエリアへ移動させた。また,ホヤを飼育しているグループには,山手地区へ動物を移動させてもらい,耐震補強工事に備えた。 平成20年度秋までに,耐震補強工事後の水生動物室の水槽設置計画を策定する必要がある。
陸生動物 部門別・動物種別搬入数(平成19年度)
水生動物 月別・動物種別搬入数(平成19年度)
|