2007年8月15日−8月16日
代表・世話人:高橋 良輔(京都大学大学院医学研究科)
所内対応者:岡田 泰伸(生理学研究所機能協関部門)
- (1)
- TGF-bによる細胞死誘導活性および細胞死誘導阻害活性の分子機構と制御機構
米原 伸(京都大学大学院生命科学研究科)
- (2)
- 遺伝学的研究によるカスパーゼの生物学
三浦 正幸(東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室)
-
- ショートトーク ショウジョウバエ外感覚器発生過程における生と死の運命決定機構
古藤 日子(東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室)
- (3)
- 新規アポトーシス関連蛋白質の分子機能
清水 重臣(東京医科歯科大学難治疾患研究所病態細胞生物学)
- (4)
- 高等植物のプログラム細胞死を制御する液胞プロセシング酵素VPE
西村 いくこ(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻)
- (5)
- 神経変性疾患ALSにおける非細胞自律性の神経細胞死
山中 宏二(理化学研究所脳科学総合研究センター 山中研究ユニット)
- (6)
- 組織・細胞種特異的小胞体ストレス応答と疾患
今泉 和則(宮崎大学医学部解剖学講座分子細胞生物学分野)
- (7)
- 直鎖状ポリユビキチン鎖によるNF-kB活性制御メカニズム
岩井 一宏(大阪市立大学大学院医学研究科分子制御)
- (8)
- TRAFファミリー分子による免疫制御
中野 裕康(順天堂大学医学部免疫学)
-
- ショートトーク 大量の空胞形成を伴う細胞死に見られたミトコンドリアの細胞外排出
中島 章人(順天堂大学医学部免疫学)
- (9)
- 抗原受容体を介するBリンパ球アポトーシスの分子メカニズム
鍔田 武志(東京医科歯科大学疾患生命科学研究部)
- (10)
- アポトーシス細胞の貪食
長田 重一(京都大学大学院医学研究科)
- (11)
- ドーパミンニューロンの生と死におけるパエル受容体の役割
高橋 良輔(京都大学大学院医学研究科臨床神経学)
- (12)
- ポリグルタミン病における蛋白質構造異常・凝集を標的とした治療戦略
永井 義隆(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学)
-
- ショートトーク 神経細胞死における熱ショック転写因子 (HSF) の役割
−生存と死の制御−
藤掛 伸宏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学)
- (13)
- ストレス応答性SAPK/JNK活性化と細胞の核内イベント
仁科 博史(東京大学大学院薬学系研究科細胞情報学教室,CREST)
- (14)
- ASKファミリーによるストレス応答と細胞死の制御
一條 秀憲(東京大学大学院薬学系研究科細胞情報学教室)
- (15)
- 非アポトーシス型細胞死の解析
辻本 賀英(大阪大学大学院医学系研究科遺伝子学,SORST of JST)
- (16)
- 脳ニューロンの虚血再灌流性アポトーシス/過興奮毒性ネクローシスは
容積感受性アニオンチャネル活性ブロックによって救済される
岡田 泰伸(生理学研究所機能協関部門)
-
- ショートトーク スタウロスポリン誘導性アポトーシスは高浸透圧刺激活性化型
カチオンチャネル活性によって救済される
沼田 朋大(生理学研究所機能協関部門)
【参加者名】
米原伸・菊池弥奈・桐山真利亜・戸田雅人・福岡あゆみ・高田顕徳・高橋涼香(京都大学大学院生命科学研究科),三浦正幸・古藤日子・山口良文(東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室),清水重臣(東京医科歯科大学難治疾患研究所病態細胞生物学),西村いくこ(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻),山中宏二(理化学研究所脳科学総合研究センター),今泉和則(宮崎大学医学部解剖学講座分子細胞生物学分野),岩井一宏・坂田真(大阪市立大学大学院医学研究科分子制御),中野裕康・中島章人(順天堂大学医学部免疫学),鍔田武志・石井優輝(東京医科歯科大学疾患生命科学研究部),長田重一(京都大学大学院医学研究科),高橋良輔・江川斉宏・小林芳人・田代善崇・山門穂高・村上学(京都大学大学院医学研究科),永井義隆・藤掛伸宏・岡本佑馬(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学),藤掛伸宏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学),仁科博史・根岸崇大・沢登健治・山崎世和(東京医科歯科大学難治疾患研究所発生再生生物学),一條秀憲・石倉聖子・寺田優美・福富尚・丸山順一・山内翔太(東京大学大学院薬学系研究科細胞情報学教室),辻本賀英(大阪大学大学院医学系研究科),岡田泰伸・沼田朋大(生理学研究所機能協関部門)
【概要】
本研究会では「細胞死研究の新たな潮流と疾患研究への展開」と題して,細胞死研究および各種疾患の分子細胞生物学的研究の領域の第一線で活躍する21名が講演を行った。細胞死関係では米原はTGFbによるアポトーシスへのSlug,Bimの関与を,清水はミトコンドリア依存性細胞死でのセリンプロテアーゼの関与を,辻本はシクロフィリンDの非アポトーシス細胞死における重要な役割をそれぞれ明らかにした。三浦はショウジョウバエを用いたカスパーゼ活性化,長田はマクロファージの貪食の低分子Gタンパク質の,それぞれライブイメージングの成果が発表し,イメージングにより細胞死制御の精緻なメカニズムが解明されつつある現状が示された。西村は植物のアポトーシスに液胞のプロテアーゼが重要であるとの知見を述べた。鍔田はB細胞アポトーシスの分子機構について,仁科,一條はJNK-ASK1経路について,岡田は細胞死におけるアニオンチャネルの役割についてそれぞれ興味深い新知見を発表した。一方疾患研究では,山中は遺伝性ALSが非細胞自律的に生じることを明らかにし,高橋は小胞体ストレスと遺伝性パーキンソン病,今泉は小胞体ストレスセンサーの骨形成への関与について述べ,永井はポリグルタミン病の蛋白質構造異常を標的とした治療戦略を提示した。中野はTRAF familyが腸管のパイエル板形成に重要であることを示し,岩井は新規に見出した直鎖状ポリユビキチン鎖がNFkB活性化に関わるとの新知見を発表した。これ以外にもいくつかの研究室から大学院生を含む若手研究者による発表も4題あった。多岐にわたる内容であったにもかかわらず,大変興味深い新規の知見の発表が相次ぎ,研究室主任のみならず,大学院生をはじめとした若手も積極的に議論に参加し,分子細胞生物学を基盤とした細胞死研究と疾患研究の相互交流と若手研究者の育成という両面で大いに収穫があった。
米原 伸(京都大学大学院生命科学研究科)
TGF-bは細胞の増殖抑制や分化誘導に機能するが,ある種の細胞ではアポトーシスを誘導する。マウスB細胞株や脾臓B細胞を用いて,TGF- b がアポトーシスを誘導する条件を検討した結果,IFN- g の前処理やTGF- b が活性化するJNK抑制の条件下で,アポトーシスの誘導されることを見いだした。そこで,TGF- b 刺激によって発現が誘導されるがJNK活性抑制条件下ではその発現上昇が抑制される遺伝子をDNAアレイ法で網羅的に解析し,107種類の遺伝子を同定した。その中で,線虫で抗細胞死遺伝子として同定されたces-1の相同遺伝子であるsnail-2(Slugタンパク質をコードする)に注目し,解析を行った。また,細胞死を実行する因子としてはBH3-onlyタンパク質であるBimが重要であることも見いだした。TGF-bは,Bimを介するアポトーシス誘導シグナルを導入するが,同時にSlugの発現誘導を介する抗アポトーシスシグナルを導入し,Slugの作用が強い細胞ではアポトーシスは阻害され,他の生理機能が発揮されるという生理的な制御機構を明らかにした。
三浦 正幸(東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室)
カスパーゼは分子ファミリーを形成し様々な刺激によって活性化することでアポトーシスを実行する中心分子である。私たちはカスパーゼ1がほ乳類においては細胞死のみならず炎症反応といった免疫系との接点を持つことに注目し,カスパーゼがアポトーシス以外の生理機能をもつことに興味を抱いていた。その後,私たちは遺伝学的な研究に優れたショウジョウバエを用いてカスパーゼの生理機能に関する研究を行ってきたが,その結果としてカスパーゼは細胞死に関わる機能に加え,細胞増殖,分化,移動といったアポトーシス以外の様々な生理機能を果たすことが明らかになってきた。そしてこのようなカスパーゼの様々な生理機能は段階的なカスパーゼ活性化によってなされることが示唆されてきた。カスパーゼの生理機能を生体で明らかにするためには,その活性化動態を知ることが不可欠である。そこでショウジョウバエ変態時における唾腺の退縮に関わるカスパーゼの活性化を生体イメージングによって詳細に観察した。その結果,エクジソンサージによって開始されるカスパーゼ活性化シグナルが唾腺の前端から後方へと伝播する様子が観察された。生体では一様に分布すると考えられていた変態ホルモンの作用が濃度勾配をもって標的組織に作用し,パターンを持ったカスパーゼ活性化の引き金を引いていることが示唆された。
古藤 日子,倉永 英里奈,三浦 正幸(東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室)
プログラム細胞死の制御因子はこれまでに数多く同定され,細胞死実行因子であるcaspaseやその阻害因子のIAPファミリータンパク質はショウジョウバエからヒトまで保存されていることが明らかになった。また,近年これらの細胞死調節因子が細胞増殖や細胞移動などにも関与することが報告されており,その役割は多岐に渡り重要であると考えられる。しかしながら,発生過程において細胞死シグナルが「いつ」「どこで」進行するのかについては未だ明らかでない。そこで我々は蛍光タンパク質を利用した細胞死シグナルの可視化を試みた。ショウジョウバエにおけるIAP (DIAP1) はcaspaseに結合,分解することで細胞死を抑制するが,一旦細胞死刺激が入るとDIAP1自身の分解が促進され,caspaseの活性化,及び細胞死が誘導されると考えられている。そこでDIAP1の分解を検出するプローブ (PRAP; pre-apoptosis signal detecting probe based on DIAP1 degradationを作成し,ショウジョウバエ中胸背毛の発生における細胞死シグナルのイメージング解析を行っている。中胸背毛は1個の前駆細胞から非対称分裂により生ずる4種の細胞群から形成される。今回,中胸背毛の発生過程においてPRAPが非対称な局在パターンを示すことが明らかとなったので,そのパターン解析と生理的意義について報告する。
清水 重臣(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 病態細胞生物)
1. アポトーシスのシグナル伝達機構にはミトコンドリアの膜透過性変化が関与している。これまで,ミトコンドリア膜透過性を制御している分子はBcl-2ファミリー蛋白質のみであると考えられてきたが,我々はBcl-2ファミリー蛋白質とは独立の制御機構が存在する事を見いだした。また,この独立した制御機構には,①ミトコンドリア膜に局在するセリンプロテアーゼPARLが関与する事,②PARLの欠損により,Bcl-2ファミリー蛋白質非依存的なアポトーシスが緩和される事,を発見した。
2. Bcl-2ファミリー蛋白質のメンバーであるBaxがアポトーシスの際にどのような機構でミトコンドリアに移動するかは,未だ不明の点が多い。我々は,ミトコンドリアにBaxのレセプター様の分子が存在すると考え,これを探索したところ,VDAC2が同定された。実際,①VDAC2欠損細胞ではBaxを介したアポトーシスが緩和され,②Bax欠損細胞においてVDAC2のサイレンシングをすると,種々のアポトーシスが抑制された,また③VDAC2を欠損すると,アポトーシス時のBax移動が抑制された。
西村 いくこ(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻・植物学系)
液胞プロセシング酵素 (VPE) は,高等植物の様々な液胞タンパク質の成熟化や活性化を制御する酵素として私達が見いだしたシステインプロテアーゼである。最近,VPEが高等植物のプログラム細胞死に関与していることが分かってきた。免疫系をもたない植物は,過敏感細胞死によって感染した病原体を封じ込める。過敏感細胞死には,動物プログラム細胞死と共通した分子機構が働いていると考えられてきた。例えば,動物細胞死の実行因子であるcaspaseの活性は,植物の細胞死でも検出されている。しかし,caspase活性をもつ分子の実体は不明のままだった.私達はタバコモザイクウイルスの感染による過敏感細胞死を解析し,caspase-1活性を示す酵素がVPEであることを見出した (Science, 305, 855, 2004; JBC, 280, 32914, 2005)。VPE遺伝子の発現を抑制すると,ウィルス感染による過敏感細胞死が抑えられた。VPEは液胞膜の崩壊を引き起こし,これによって細胞を死に至らしめる。VPEは,生体防御としての細胞死のみならず,発生に伴う細胞死も制御していた (Plant Cell, 17, 876, 2005)。細胞死の実行を制御する酵素が,植物では液胞に存在し,動物では細胞質ゾルに存在すること,そして両者がプロテアーゼとして同じ活性をもっていたことは進化的に興味深い。動物は死細胞を貪食細胞によって分解するが,細胞壁に囲まれた植物細胞は死んだ後も死細胞内の成分を自らの力で分解する必要がある。そのため,多種多様な分解酵素を含む液胞を破壊するという戦術を獲得したと考えられる (Curr. Opinion Plant Biol., 8, 404, 2005; Apoptosis, 11, 905, 2006)。
山中 宏二(理化学研究所脳科学総合研究センター 山中研究ユニット)
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は運動ニューロン変性をきたす神経変性疾患であり,変異SOD1 (superoxide dismutase 1) は優性遺伝性ALSの原因遺伝子である。変異SOD1が未知の運動ニューロン毒性を獲得して,運動ニューロン死を来すことが知られている。
運動ニューロンにおける変異SOD1毒性が神経変性に必要十分であるという自律性神経細胞死の仮説を検証するため,運動ニューロンを作れないOlig1/2-/-マウスと,すべての細胞群に変異SOD1を発現するSOD1G37Rマウスとのキメラを作成したところ,運動ニューロン変性の遅延と著明な生存期間の延長を認めた。野生型の非神経細胞が,変異SOD1の運動ニューロンへの毒性を軽減することから,運動ニューロン死は非細胞自律性におこることが示された。
さらに変異SOD1毒性が神経系のどの細胞種に由来するかを解明するため,Cre-loxシステムにより細胞種特異的に変異SOD1の発現を除去できるLoxSOD1G37Rマウスを作成した。LoxSOD1G37Rマウスを細胞群特異的に発現するCreマウスと交配して各細胞種特異的に変異SOD1の発現を抑制し,マウスの発症と進行時期を検討した。運動ニューロンとグリア細胞における変異SOD1の毒性発現がそれぞれALSの発症と進行の規定因子であることが示された。
今泉 和則(宮崎大学医学部解剖学講座分子細胞生物学分野)
膜貫通領域を有するCREB/ATFファミリーに属する転写因子の一群が,小胞体 (ER) ストレストランスデューサーとして働くことがわかってきている。それらは発現分布に特異性があり,「組織特異的ERストレス応答」の情報伝達分子として機能している可能性がある。我々はこれまでアストロサイトおよび骨芽細胞で発現するOASISと,脳では神経細胞に発現するBBF2H7を同定しそれぞれの機能について解析を進めてきた。OASISおよびBBF2H7はいずれも小胞体ストレスに応じて小胞体からゴルジ体へ輸送され,そこで膜内切断を受ける。切断されたN末端断片は核内へ移行し,ターゲット遺伝子の発現を調節する。OASIS欠損マウスでは全身の骨組織において皮質骨および海面骨とも骨量が著しく減少し,骨粗鬆症に極めて類似した病変を示す。一方,BBF2H7欠損マウスでは発育遅滞を伴って胎生期に死亡する。このような知見も含めこれまで得られたin vivoおよびin vitro解析データを紹介し,両分子の生体内での役割と疾患との関連性について述べたい。
岩井 一宏(大阪市立大学 大学院医学研究科 分子制御)
近年,ユビキチン修飾系は蛋白質分解のみならず,多彩な様式で標的タンパク質の機能を制御しており,結合するポリユビキチン鎖の種類によりタンパク質の制御様式が異なることが知られつつある。我々はユビキチンのN末端のメチオニンのa-アミノ基にユビキチンのC末端が結合した直鎖状ポリユビキチン鎖を生成するLUBACユビキチンリガーゼ(HOIL-1L/HOIPからなる)を同定し,その機能解析を進めている。その過程で,LUBACがTNF-a 依存的にNEMOと結合して直鎖状ポリユビキチン鎖を付加し,NF-kBを活性化させることを見出した。さらに,HOIL-1L欠損MEFではTNF-a 依存的にNF-kBによって誘導される分子の発現が抑制されていた。マウス肝細胞ではNF-kBの活性化が傷害された場合には,TNF-a 刺激によってアポトーシスすることが知られている。そこで,成獣HOIL-1L欠損マウスにTNF-a を投与したところ,肝細胞でアポトーシスが観察された。以上の結果から,直鎖状ポリユビキチン化はTNF-k 依存的なNF-kB活性化に関与することが明らかとなった。
中野 裕康(順天堂大学医学部 免疫学)
二次リンパ組織形成には,リンフォトキシン-ベータレセプター (LT-bR) により誘導される非古典的NF-kB活性化経路が必須であることが明らかにされている。しかしながら,LT-bRに会合するTRAF2およびTRAF5の二次リンパ組織形成における役割は明らかとなっていない。そこで,我々はtraf2-/-, traf5-/-, traf2-/- traf5-/-マウスを用いて,二次リンパ組織形成におけるTRAF2およびTRAF5の役割を検討した。いずれのノックアウトマウスにおいても腸間膜リンパ節は正常に認められたが,traf2-/-およびtraf2-/- traf5-/-マウスではパイエル板形成に著明な障害が認められた。そのメカニズムを解析したところ,パイエル板原基におけるVCAM1陽性細胞が減少し,さらにパイエル板形成に必須のケモカインであるCXCL13の発現が低下していることが明らかとなった。一方,パイエル板の形成障害はtnfr1-/-マウスでも認められた。そこでTNFaによりcxcl13 の発現が誘導されるかどうかを検討したところ,これまでの報告と異なりTNFa 刺激によりcxcl13 mRNAの発現が誘導され,その誘導はtraf2-/-およびrelA-/-マウス由来の細胞で低下していた。さらにTNFa 刺激によりRelAがcxcl13 プロモーターにレクルートされることが明らかとなった。以上より,TNFR1-TRAF2-RelA依存性のシグナルがcxcl13 の発現を直接制御し,パイエル板形成に必須の役割を果たしていることが初めて明らかとなった。
中島 章人(順天堂大学医学部 免疫学)
ミトコンドリアは絶えず融合と分裂を繰り返すダイナミックな細胞内小器官であるが,アポトーシス誘導に伴い,分断化(fragmentation)が誘導されることが知られている。今回我々は,cellular FLICE-inhibitory protein (c-Flip)-/-マウス由来の胎児線維芽細胞を用いた実験から,TNFaによって急速にアポトーシスが誘導されるのにともない分断化されたミトコンドリアが空胞によって包まれ,細胞外に選択的かつ積極的に排出されることを見いだした。これらの変化は細胞死を起こした約30%の細胞で認められ,核はクロマチンの凝集が認められることよりアポトーシスの亜型と考えられた。種々のマーカーを用いた染色より,細胞質に形成された大量の空胞は主に細胞膜に由来するものと考えられた。さらにこの現象はc-Flip-/-細胞だけではなく,抗Fas抗体を投与し劇症肝炎を誘導したマウスの肝細胞においても空胞変性と細胞からのミトコンドリアの放出が認められた。何故アポトーシス誘導に伴い一部の細胞ではミトコンドリアが選択的に排出されるのか,また生理的条件下でも同じようにミトコンドリアが排出されているのかについては今後の検討課題である。
小野寺大志,于潔,満栄勇,佐藤元彦,鍔田武志
(東京医科歯科大学疾患生命科学研究部免疫学,難治疾患研究所免疫疾患)
成熟B細胞は抗原と反応するとアポトーシスをおこし,活性化して抗体産生をおこすには,CD40を介する抗アポトーシスシグナルが必要である。CD22およびCD72はB細胞抗原受容体(BCR)シグナル伝達を負に制御する抑制性共受容体で,抗原によるB細胞アポトーシスを制御する。ナイーブB細胞はIgMとIgDを発現し,B細胞が抗原と反応して活性化すると,IgE,IgG,IgAのいずれかのクラスの免疫グロブリン (Ig) を産生し,記憶B細胞はもっぱらIgGを産生する。いずれのクラスのIgもBCRを構成する。我々は,CD22がIgM-BCRおよびIgD-BCRを介するシグナル伝達を負に制御するが,IgG-BCRやIgE-BCRを介するシグナル伝達は弱くしか制御しないことを明らかにした。さらに,CD22欠損マウスを用いた解析により,CD22欠損によりB細胞の分裂が亢進し,IgG陽性B細胞や胚中心B細胞,さらにプラズマ細胞への分化が早くなり,迅速で大量の抗体産生を誘導することを明らかにした。この結果は,記憶B細胞でのIgG-BCR発現によるCD22のシグナル制御の減弱が,記憶免疫応答の際の迅速大量の抗体産生に関与することを強く示唆する。
長田 重一(京都大学大学院医学研究科)
アポトーシスを起こした細胞は速やかにマクロファージなどの貪食細胞に取込まれ分解される。私達は以前にマクロファージが分泌し,アポトーシス細胞を貪食細胞に橋渡しする分子(MFG-E8)を同定した。この因子はアポトーシス細胞に暴露されるリン脂質phosphatidylserine,貪食細胞のintegrinに結合する。今回,integrinを発現するNIH3T3細胞を用いて,貪食における低分子量G-蛋白質の関与を解析した。その結果,貪食細胞で活性化されるRac1, RhoG, Rab5が貪食を正に促進するのに対し,RhoAはこの過程を負に制御することが示された。そこで,Rac1の活性化をFRETプローブを用いて検討したところ,アポトーシス細胞はRac1が活性化されているLamellipodiaから貪食されること,NIH3T3細胞内でアポトーシス細胞を貪食する場所は決まっており,一種のゲートを形成していることが示された。また,アポトーシス細胞を貪食する際,actinが重合し,phagocytic cupを形成するが,死細胞が細胞内に取込まれるためにはRac1が不活化し,actinが脱重合することが必要であることも示された。
高橋 良輔(京都大学大学院医学研究科臨床神経学)
ドーパミン神経選択的変性を特徴とする常染色体劣性若年性パーキンソニズム (AR-JP) はユビキチンリガーゼであるParkin遺伝子の欠損により発症する家族性パーキンソン病である。我々はParkinの基質,Pael受容体(Pael-R) の蓄積により小胞体ストレスが惹起されて細胞死が誘発されることを示してきた。本年はPael-Rをアデノウイルスベクターでマウス黒質に感染させると,小胞体ストレスによって細胞死が生じることを示した。またドーパミンがPael-R誘導性細胞死を増強することを明らかにした。さらにPael-RトランスジェニックマウスとParkinノックアウトマウスの掛けあわせで緩徐進行性の黒質ドーパミン神経および青斑核ノルアドレナリン神経細胞死が生じ,2年齢で40%もの細胞脱落が観察された。変性領域の神経細胞では小胞体シャペロンBiPや転写因子CHOPの発現誘導が見られ,細胞死が小胞体ストレスによるものであることが示唆された。さらにPael-Rの生理的役割としてドーパミン量を増やす作用があることを明らかにし,Pael-R過剰発現により増加するドーパミンおよびその代謝産物由来の酸化的ストレスが,ドーパミン神経が特に選択的に変性する理由になっているものと考えられた。
永井 義隆(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学)
近年,アルツハイマー病,パーキンソン病,ポリグルタミン (PolyQ) 病などの多くの神経変性疾患において,蛋白質の構造異常・凝集が病態に深く関わることが明らかになった。PolyQ病では,PolyQ鎖の異常伸長により原因蛋白質のミスフォールディングを生じ,その結果難溶性の凝集体を形成して神経変性を引き起こすと考えられている。私達は,異常伸長PolyQ蛋白質の構造異常・凝集体形成が治療標的となると考え,PolyQ蛋白質の構造解析を行った。その結果,異常伸長PolyQ蛋白質モノマーがbシート構造への異常コンフォメーション変移を経て,アミロイド線維状凝集体を形成し,bシート変移したモノマーが細胞毒性を発揮することを明らかにした。そして,異常伸長PolyQ鎖特異的結合ペプチドQBP1を同定し,QBP1が異常伸長PolyQ蛋白質の毒性bシート変移・凝集体形成を阻害し,PolyQ病モデルショウジョウバエの神経変性を抑制することを明らかにした。さらに薬物治療確立へ向けて,低分子化合物ライブラリー(45,000化合物)からハイスループットスクリーニングを行い,約100種類の新規PolyQ凝集阻害化合物を同定し,ショウジョウバエモデルの神経変性を抑制する化合物を同定した。私達の治療戦略はPolyQ病のみならず,蛋白質構造異常・凝集に起因する他の神経変性疾患にも共通した治療法開発につながると考えられる。
藤掛 伸宏,永井 義隆(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学)
神経変性疾患ポリグルタミン (PolyQ) 病では,PolyQ鎖の異常伸長により原因蛋白質のミスフォールディングが生じ,その結果難溶性の凝集体を形成して神経細胞死を引き起こすと考えられている。これまでの研究で,分子シャペロンHsp40やHsp70の遺伝子発現により,異常伸長PolyQ蛋白質のミスフォールディングが抑制され,神経細胞死が抑制されることが示されている。しかし,分子シャペロン群は熱ショック転写因子 (HSF) により同調的に発現制御されて協調的に働くため,単独の分子シャペロンの過剰発現では細胞毒性が生じることが知られている。そこで本研究ではHSF活性化剤の投与,あるいはHSFの遺伝子発現という二つの方法を用いて分子シャペロン群の同調的発現誘導を試み,PolyQ病に対する治療効果を検討した。その結果,HSF活性化剤17-AAGはHsp40,Hsp70の発現を誘導して,PolyQ病モデルショウジョウバエの神経細胞死を抑制することを明らかにした。一方,HSFの遺伝子発現では,Hsp40,Hsp70とは異なる遺伝子の発現を誘導し,予想に反して神経細胞死を増悪することを明らかにした。本研究から,HSFはその活性化様式により異なる遺伝子を発現誘導し,その結果神経細胞死に相反する影響を及ぼすことが明らかとなった。
仁科 博史(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
SAPK/JNKシグナル伝達系は様々なストレスに応答し,細胞死誘導・細胞増殖促進,さらに細胞の老化抑制などの様々な細胞応答を制御する。受容体刺激など細胞膜を介するSAPK/JNK活性化誘導の分子機構に比べて,DNA損傷によって誘導される核から細胞質へのSAPK/JNK活性化シグナル経路については未だ不明の点が多い。最近我々は,DNA損傷によって誘導される持続的なSAPK/JNK活性化に核内に存在するDaxxと癌抑制遺伝子産物Ras Ras association domain family 1C (RASSF1C)が関与することを見出した。すなわち,1) 核内に存在するDaxxはDNA損傷によってユビキチン化された分解される,2) Daxxと結合していたRASSF1Cは核から細胞質に移行する,3) 細胞質に移行したRASSF1CはSAPK/JNK活性化の誘導に関与することを見出した。また,RASSF1と結合するMST1は細胞核の凝縮を誘導するが,SAPK/JNKの活性化が必須に役割を果たすことを見出した。これらの研究成果は,シグナル系の新たなクロストークと細胞死誘導におけるSAPK/JNKの役割解明に貢献すると考えられる。
一條 秀憲(東京大学・大学院薬学系研究科・細胞情報学教室,CREST)
Apoptosis Signal-regulating Kinase (ASK) 1はJNKとp38MAPキナーゼの上流に存在するMAPKKKである。これらのMAPキナーゼ経路は,様々な環境ストレスに応答して細胞の生死や分化をはじめとする多様な生物活性をコントロールするためのシグナル伝達系として機能している。ASK1ノックアウトマウスの解析により,ASK1が酸化ストレスや小胞体ストレスによるアポトーシスに必要なシグナルであることが明らかになり,またASK1がアルツハイマー病において認められる神経細胞死のメディエーターとしてこれらの疾患に関わっていることも示唆されている。一方,ASK1は皮膚損傷ストレスに応答して炎症性サイトカインの産生ならびにマクロファージの遊走・活性化を伴う発毛促進に必要なことも明らかになってきた。本研究会では,活性酸素 (ROS) によるASK1,ASK2の活性制御機構について紹介するとともに,ASKファミリー経路を介するアポトーシス経路の破綻と発がんのメカニズムについて報告する。
辻本 賀英(大阪大学大学院医学系研究科・遺伝子学,SORST of JST)
我々は,哺乳動物細胞が有する細胞死機構の包括的な理解を目指し,アポトーシスの解析と同時に非アポトーシス細胞死機構の解析を行ってきた。非アポトーシス型細胞死としてこれまでに,オートファジー依存的な細胞死機構,虚血・再灌流障害において重要な役割を演じるミトコンドリア膜透過性遷移現象 (MPT) 依存的なネクローシス,低酸素・低グルコースで誘導され,ユニークな形態を伴い,カルシウム非依存的なフォスフォリパーゼA2に依存した細胞死機構などの解析を行ってきた。
本研究会では,特に,MPT依存的なネクローシスについて,これまでの知見を整理しつつ,最近の進展を紹介した。シクロフィリンD欠損マウスの作成・解析を通し,ミトコンドリアが最終的に脱機能に陥るMPTにミトコンドリア局在のシクロフィリンDが必須であること,またMPTはアポトーシスには関与せず,酸化ストレスなどにより誘導されるネクローシスに関与すること,またシクロフィリンD欠損マウスは心筋梗塞モデルにおいて強い耐性を示すことなどを紹介した。さらに,最近の研究成果として,シクロフィリンDと阻害剤であるシクロスポリンAの複合体の結晶構造解析に成功したこと,MPTが疾患発症に関与することが示唆されていたmnd2変異症にはMPTが関与しないこと,さらに,シクロフィリンDが認知機能や情動性などの行動に関与することなどを報告した。
岡田 泰伸,井上 華(生理学研究所機能協関部門)
大滝 博和,塩田 清二(昭和大学医学部解剖学)
グルタミン酸受容体の過剰刺激による神経細胞死は過興奮毒性と呼ばれ,虚血やてんかん等の病態に深く関与する。グルタミン酸受容体の持続的活性化が神経細胞の膨張をもたらしてネクローシスを引き起こすメカニズムを,初代培養系とスライス標本中の皮質ニューロンを用いて検討した。容積感受性外向整流性アニオンチャネル(VSOR) は細胞膨張によって活性化され容積調節を担うチャネルであるが,過興奮刺激によっても活性化された。過興奮時に見られるニューロンの持続的な膨張には,VSORを介するクロライドの流入が必要で,このチャネルを薬剤により抑制すると,過興奮によるニューロンの膨張が抑制され,その後のネクローシスも救済された。VSORは海馬ニューロンにも発現しているので,in vivoマウスの一過性前脳虚血によるCA1ニューロンの遅発性神経細胞死にも関与していることが考えられた。事実,VSORブロッカーを虚血前と再灌流後に投与することによってCA1ニューロンのアポトーシス性細胞死が著しく抑制された。VSORをターゲットにした脳虚血およびその後の再灌流による神経細胞障害の救済法開発の可能性が示唆された。
沼田 朋大,ベーナーフランク,岡田 泰伸(生理学研究所機能協関部門)
アポトーシス性細胞容積減少(AVD: Apoptotic Volume Decrease) は,アポトーシス死の初期過程に起こる特徴的な現象の一つである。一方,調節性容積増加 (RVI: Regulatory Volume Increase) は,主に高浸透圧刺激活性化型カチオンチャネル (HICC: Hypertonicity-Induced Cation Channel) が活性化することで細胞容積縮小からの細胞容積の回復をもたらす現象である。HeLa細胞にスタウロスポリン (STS: Staurosporine) 誘導性AVDと同時に高浸透圧刺激誘導性RVIを起こさせたところ,高浸透圧刺激に従いAVDの抑制が見られた。次にSTS誘導性AVD時のHICC活性を電気生理学的に調べたところ,STS処理時間によってHICC活性の減少が見られた。実際に細胞死とカスパーゼ3/7活性をSTS誘導性アポトーシスと同時に高浸透圧刺激をした細胞で調べたところ,細胞死,カスパーゼ3/7活性は抑制された。また,HICCの阻害剤を用いた場合,高浸透圧刺激によるAVD,細胞死,カスパーゼ3/7活性の抑制は消失した。以上から,アポトーシス死は,HICC活性の抑制によるRVIの機能不全で起こるが,逆にHICC活性を高浸透圧刺激で亢進させてRVIを起こさせておくと,AVDが抑制されることによってアポトーシス性細胞死から救済されることが分かった。