生理学研究所年報 第29巻
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9.脳波と脳磁図を用いたヒト脳機能の解明

2007年6月21日
代表・世話人:柿木 隆介(自然科学研究機構生理学研究所)
所内対応者:柿木 隆介(自然科学研究機構生理学研究所)

(1)
視覚反応のグレーティング方位依存性のmultifocal VEF計測を用いた研究
大脇崇史(東京大学 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻)
(2)
連続提示刺激の視覚誘発脳磁場反応
橋本章子(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
(3)
時間的に振幅変調された輝度変化パターンに対する脳磁界反応
岡本洋輔(独立行政法人産業技術総合研究所)
(4)
パターンリバーサル刺激による視覚誘発反応N75-P100-N145成分の起源の検討
豊田忠祐(岡山理科大学理学部応用物理学科医用科学専攻)
(5)
多義的仮現運動の知覚交代を行う意図に統計的相関を示すMEG
下野昌宣(東京大学)
(6)
双安定仮現運動における知覚交替に関連した皮質間ネットワークの解析
南 哲人(独立行政法人情報通信研究機構未来ICT研究センター)
(7)
反復経頭蓋磁気刺激による多義図形の知覚交替についての研究
葛 盛(九州大学大学院システム情報科学研究院)
(8)
経頭蓋磁気刺激による視覚探索課題時の時間特性
松岡 彬(九州大学大学院システム情報科学研究院)
(9)
初期視覚野の活動を抑えるランダムドットブリンキング
三木研作(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
(10)
顔刺激を用いた自己認知に関する研究
山崎貴也(東京大学大学院 新領域創成科学研究科
 複雑理工学専攻武田研究室)
(11)
色調知覚と脳活動の関係に関する研究
豊福哲郎(千葉大学大学院工学研究科)
(12)
オートステレオグラムを用いた奥行き知覚時のMEG反応
古内康寛(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
(13)
バイオロジカルモーション刺激に対する脳磁場反応:
double-stimulus presentation法による検討
平井真洋(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
(14)
視覚性運動刺激の大きさが脳磁場反応に与える影響について
浦川智和(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
(15)
様々な仮現運動刺激に対するヒト脳磁場反応
田中絵実(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
(16)
母音の視聴覚提示時の脳磁界反応
尾形エリカ(東京大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学)
(17)
文字・音声刺激を用いたMEG研究
小林明裕(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
(18)
仮名文字音読時に文字種の違いが処理過程に与える影響
東島 将(関西大学大学院工学研究科)
(19)
MCE法による言語優位半球および言語特異的皮質領野の同定
太田 徹(秋田大学医学部神経運動器学講座 脳神経外科学分野)
(20)
文法由来の逸脱と単語由来の逸脱に対する反応計測
御代田亮平(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻)
(21)
漢字単語の意味処理への音韻の影響:音韻プライミング課題を使ったMEG研究
魏 強(情報通信研究機構 バイオICTグループ)
(22)
3-D SEFに基づく周波数の異なる指刺激による応答特性の検討
川瀬 啓(東京電機大学大学院 理工学研究科)
(23)
正中神経刺激による体性感覚誘発脳磁界とM波との関係
大山峰生(新潟医療福祉大学)
(24)
触覚振動刺激の周波数判別における二次体性感覚野と聴覚野の相互連絡
井口義信(東京都精神医学総合研究所 脳機能解析研究チーム)
(25)
仙骨部表面電気刺激による体性感覚誘発脳磁界
松下真史(東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学)
(26)
頚部脊髄誘発磁場からの信号源再構成
佐藤朋也(首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 生体信号処理研究室)
(27)
舌前方と後方でみられる体性感覚処理機構の違い
坂本貴和子(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
(28)
体性感覚二点識別の脳内処理機構
赤塚康介(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
(29)
体性感覚刺激Go/Nogo課題における反応抑制過程:事象関連型fMRIによる検討
中田大貴(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
(30)
空間的注意の視覚−体性感覚モダリティリンクに関わる脳磁場反応
木田哲夫(生理学研究所統合生理研究系感覚運動調節研究部門)
(31)
病変を持つ症例に対するpattern reversal刺激を用いた
視覚関連局所脳律動変化の解析
谷 直樹(大阪大学 医学部 脳神経外科)
(32)
脳腫瘍症例における体性感覚誘発磁場を用いた感覚機能評価
土谷大輔(山形大学医学部脳神経外科)
(33)
シルビウス裂周囲症候群のてんかん外科におけるMEGの有用性
村上博淳(国立病院機構 西新潟中央病院 脳神経外科)
(34)
Gastaut型特発性小児後頭葉てんかんの脳磁図所見
齋藤なか(国立病院機構西新潟中央病院 小児科)
(35)
陰性ミオクローヌスを呈したてんかん患者2例の脳磁図解
服部英司(大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学)
(36)
軽度アルツハイマー病患者における基礎律動減衰の評価:MEG研究
栗本 龍(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
(37)
認知症診断のための自発性脳磁場データベースの構築
初坂奈津子(金沢工業大学先端電子技術応用研究所)
(38)
標準脳座標に変換した脳表電流密度マップのROI解析による言語優位半球の同定
錦古里武志(名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科)
(39)
Multimodality - fMRI, MEG, NIRS -による言語優位半球同定の検討
太田貴裕(東京大学医学部 脳神経外科)
(40)
MCGによる心疾患モデルマウスの経時的観察
葛西祐介(早稲田大学大学院理工学研究科)
(41)
Current Source Reconstruction of MCG Vector Data
De Melis Massimo
(Department of electronic and computer engineering, Tokyo Denki University)
(42)
ウェーブレット変換と独立成分分析を用いた心磁図のノイズ低減に関する研究
宮内秀彰(岩手大学大学院工学研究科)
(43)
運動負荷による三次元心磁図のST分節の検討
寒河江健(東京電機大学大学院 理工学研究科)
(44)
Early detection of coronary artery disease in patients with suspected acute
coronary syndrome without ST elevation by magnetocardiography.
Hyukchan Kwon (Bio-signal Research Center, Korea Research Institute of Standards and Science, Daejeon, Korea)
(45)
Diagnostic performance of magnetocardiography parameters to detect patients
with coronary artery disease I: non-ST-segment elevation myocardial infarction
Hyun Kyoon Lim (Korea Research Institute of Standards and Science,
Daejeon, Korea)
(46)
シングルチップ集積型SQUIDマグネトメーターアレイ心磁計を用いた
モルモット心磁・心電同時計測とQT間隔自動解析
駒村和雄(国立循環器病センター研究所 循環動態機能部)
(47)
聴覚野における時間積分機構の検討
中川誠司(独立行政法人産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門)
(48)
定常聴覚刺激提示時における聴覚磁場応答
冨田教幸(金沢工業大学大学院 システム設計工学専攻)
(49)
音源の位置の知覚に関わる聴覚誘発脳磁界反応
添田喜治(産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門)
(50)
先行する音階にプライミングされた和音による脳磁界反応
大塚明香(東京大学21世紀COEプログラム「心とことば−進化認知科学的展開」)
(51)
異なる音階構造を持つ音列聴取時のMEG計測
前島克也(東京電機大学大学院 情報環境学研究科 情報環境デザイン学専攻)
(52)
音色のカテゴリー知覚の聴覚誘発N1m潜時への反映
水落智美(東京大学大学院 医学系研究科 感覚・運動神経科学)
(53)
情緒的音声聴取時における早期聴覚情報処理過程;男女差に関する検討
矢倉晴子(情報通信研究機構未来ICT研究センター)
(54)
音の特徴の情報処理に音楽経験が与える影響の検討
小野健太郎(国立長寿医療センター研究所 長寿脳科学研究部)
(55)
フレーズの変化の認識に対応する誘発脳磁界の研究−変化のタイプとの関係
平井一弘(東京電機大学大学院 情報環境学研究科)
(56)
バースト長を変えたときの音列のテンポ認識とそれに伴うN1mの計測
笹本貴宣(東京電機大学大学院情報環境学研究科)
(57)
聴覚皮質にみられる確率共鳴現象
田中慶太(東京電機大学)
(58)
示指伸展運動時における運動誘発脳磁界第二成分について
大西秀明(新潟医療福祉大学医療技術学部)
(59)
ニューロイメージングPF構想(ニューロインフォマティクス)
鈴木良次(NIMG-PF 委員会)
(60)
力操作時の非協調的視覚変化に伴う擬似的力感覚生成過程の基礎的検討
青山敦(慶應義塾大学大学院 理工学研究科)
(61)
脳磁界応答から見た運動感覚が運動イメージ想起に与える影響
林 紘章(関西大学大学院工学研究科)
(62)
機能的MRIを用いたヒトの嗅覚と味覚の脳活動に関する研究
宇野富徳(東京電機大学)
(63)
ガムチューイングが短期記憶獲得時のq波活動に及ぼす影響
堂脇可菜子(早稲田大学大学院理工学研究科)
(64)
小脳経頭蓋磁気刺激によりヒラメ筋に誘発される筋電位への前庭系賦活の効果
〜視運動性眼振を用いて〜
藤原暢子(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学)
(65)
刺激部位の違いによる経頭蓋磁気刺激時の誘発脳波計測
佐藤秀之(九州大学大学院システム情報科学研究院)
(66)
全力暗算時における局所脳律動変化
〜そろばん熟練者と非熟練者の比較〜
木曽加奈子(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学)
(67)
計算する脳−計算式実行中の脳活動の解析
中村昭範(国立長寿医療センター 長寿脳科学研究部)
(68)
三次元脳磁界計測に基づく大脳皮質での複数信号源弁別に関する研究
金 鳳洙(東京電機大学理工学部電子情報工学科)
(69)
N1m振幅などに含まれる乗法的な個人の効果を前処理で除去したデータの
分散分析について
根本幾(東京電機大学情報環境学部)
(70)
MEGトポグラフにおける統計的有意な活動の抽出方法の開発
岩井裕章(千葉大学大学院工学研究科人工システム科学専攻
メディカルシステムコース)
(71)
脳内信号源推定における遺伝的アルゴリズムパラメータの最適化
佐々木貴志(早稲田大学大学院理工学研究科)
(72)
MEG計測へのカルマンフィルタの応用
宇野 裕(東京大学大学院 新領域創成科学研究科
複雑理工学武田常広研究室)
(73)
チホノフの正則化を用いたMEG信号源推定
斎藤 優(早稲田大学大学院理工学研究科)
(74)
誘発脳磁界計測データを用いたアダプティブ,及び,
ノンアダプティブな空間フィルターの比較
長野雅実(首都大学東京大学院 システムデザイン学部)
(75)
Beamformerによる時間相関を持つ複数信号源推定
及川敬敏(早稲田大学大学院理工学研究科)
(76)
平面型グラジオメータの等磁場線図
橋詰 顕(広島大学大学院先進医療開発科学講座脳神経外科)
(77)
電流双極子を2等辺3角形コイルで表現したファントムの試作
上原 弦(金沢工業大学)
(78)
心磁界計測データーからの信号源推定
組橋 勇(首都大学東京大学院 システムデザイン研究科)
(79)
人とサルの心臓磁場の比較
宗行健太(岡山大学大学院自然科学研究科)
(80)
高ダイナミックレンジ・広帯域型FLL回路の開発
−その1 回路設計とシミュレーション−
小林宏一郎(岩手大学 工学部)
(81)
高ダイナミックレンジ・広帯域型FLL回路の開発
−その2 試作回路の評価と心磁図計測−
小山大介(岩手大学 工学部)
(82)
小動物生体磁気計測装置におけるノイズキャンセリング
宮本政和(金沢工業大学 先端電子技術応用研究所)
(83)
75ch SQUID頚部脊髄誘発磁場計測システムの開発
足立善昭(金沢工業大学 先端電子技術応用研究所)
(84)
高精度TMS刺激部位解析システム
樋脇 治(広島市立大学大学院情報科学研究科)
(85)
超強磁場MRIにおけるヒト頭部RF電磁場のFDTD解析
関野正樹(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
(86)
骨再生の実用化に向けた永久磁石磁気回路の検討
齋藤大輔(東京電機大学 先端工学研究所)
(87)
骨形成に関わる細胞系パターニングにおける反磁性的な磁気作用
岩坂正和(千葉大学工学部)
(88)
中間周波磁界 (2,20kHz) の生物影響評価
池畑政輝(財団法人鉄道総合技術研究所 環境工学研究部 生物工学)
(89)
磁気誘発筋電図による施灸効果の検出
千葉 惇(近畿大学医学部生理学1)
(90)
交番磁気刺激による神経栄養因子産生の促進:
アルツハイマー型痴呆等脳疾患の治療の可能性
木下 香(株式会社メディカル・アプライアンス 技術開発センター)
(91)
大腸菌SOD欠損株の遺伝子変異誘発に基づく定常磁場の影響評価
吉江幸子(財団法人鉄道総合技術研究所 環境工学研究部 生物工学)
(92)
細胞磁界測定法を用いたRefractory Fiberの有害性評価
工藤雄一朗(北里大学医学部衛生学公衆衛生学)
(93)
光酸化を利用したリポソーム内包薬物の放出制御に関する研究
中川秀紀(東京大学大学院医学系研究科)

【参加者名】
大脇崇史(東京大学新領域創成科学研究科複雑理工学専攻),橋本章子(自然科学研究機構生理学研究所),岡本洋輔(独立行政法人産業技術総合研究所),豊田忠祐(岡山理科大学理学部応用物理学科医用科学専攻),下野昌宣(東京大学),南哲人(独立行政法人情報通信研究機構未来ICT研究センター),葛盛(九州大学大学院システム情報科学研究院),松岡彬(九州大学大学院システム情報科学研究院),三木研作(生理学研究所統合生理研究系),山崎貴也(東京大学 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 武田研究室),豊福哲郎(千葉大学大学院工学研究科),古内康寛(東京大学大学院新領域創成科学研究科),平井真洋(自然科学研究機構生理学研究所),浦川智和(自然科学研究機構生理学研究所感覚運動調節部門),田中絵実(自然科学研究機構生理学研究所),尾形エリカ(東京大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学),小林明裕(東京大学大学院新領域創成科学研究科),東島将(関西大学大学院),太田徹(秋田大学医学部神経運動器学講座脳神経外科学分野),御代田亮平(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻),魏強(情報通信研究機構バイオICTグループ),川瀬啓(東京電機大学大学院理工学研究科),大山峰生(新潟医療福祉大学),井口義信(東京都精神医学総合研究所脳機能解析研究チーム),松下真史(東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学),佐藤朋也(首都大学東京大学院システムデザイン研究科生体信号処理研究室),坂本貴和子(自然科学研究機構生理学研究所),赤塚康介(自然科学研究機構生理学研究所),中田大貴(自然科学研究機構生理学研究所),木田哲夫(生理学研究所 統合生理研究系 感覚運動調節研究部門),谷直樹(大阪大学医学部脳神経外科),土谷大輔(山形大学医学部脳神経外科),村上博淳(国立病院機構西新潟中央病院脳神経外科),齋藤なか(国立病院機構西新潟中央病院小児科),服部英司(大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学),栗本龍(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室),初坂奈津子(金沢工業大学先端電子技術応用研究所),錦古里武志(名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科),太田貴裕(東京大学医学部脳神経外科),葛西祐介(早稲田大学大学院理工学研究科),De Melis Massimo (Department of electronic and computer engineering, Tokyo Denki University),宮内秀彰(岩手大学大学院工学研究科福祉システム工学専攻),寒河江健(東京電機大学大学院理工学研究科),Hyukchan Kwon (Bio-signal Research Center, Korea Research Institute of Standards and Science, Daejeon, Korea) Hyun Kyoon Lim (Korea Research Institute of Standards and Science, Daejeon, Korea) ,駒村和雄(国立循環器病センター研究所),中川誠司(独立行政法人産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門),冨田教幸(金沢工業大学大学院システム設計工学専攻),添田喜治(産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門),大塚明香(東京大学21世紀COEプログラム「心とことば−進化認知科学的展開」,前島克也(東京電機大学大学院情報環境学研究科情報環境デザイン学専攻),水落智美(東京大学大学院医学系研究科感覚・運動神経科学),矢倉晴子(情報通信研究機構情報通信研究機構 未来ICT研究センター),小野健太郎(国立長寿医療センター研究所長寿脳科学研究部),平井一弘(東京電機大学大学院情報環境学研究科),笹本貴宣(東京電機大学大学院情報環境学研究科),田中慶太(東京電機大学),大西秀明(新潟医療福祉大学医療技術学部),鈴木良次(NIMG-PF委員会),青山敦(慶應義塾大学大学院理工学研究科),林紘章(関西大学大学院工学研究科),宇野富徳(東京電機大学),堂脇可菜子(早稲田大学大学院理工学研究科),藤原暢子(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断学),佐藤秀之(九州大学大学院システム情報科学研究院),木曽加奈子(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学),中村昭範(国立長寿医療センター長寿脳科学研究部),金鳳洙(東京電機大学理工学部電子情報工学科),根本幾(東京電機大学情報環境学部),岩井裕章(千葉大学大学院工学研究科人工システム科学専攻メディカルシステムコース),佐々木貴志(早稲田大学大学院理工学研究科),宇野裕(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学武田常広研究室),斎藤優(早稲田大学大学院理工学研究科),長野雅実(首都大学東京システムデザイン学部),及川敬敏(早稲田大学大学院理工学研究科),橋詰顕(広島大学大学院脳神経外科),上原 弦(金沢工業大学),組橋勇(首都大学東京大学院システムデザイン研究科),宗行健太(岡山大学大学院自然科学研究科),小林宏一郎(岩手大学工学部),小山大介(岩手大学工学部),宮本政和(金沢工業大学先端電子技術応用研究所),足立善昭(金沢工業大学先端電子技術応用研究所),樋脇治(広島市立大学大学院情報科学研究科),関野正樹(東京大学大学院新領域創成科学研究科),齋藤大輔(東京電機大学先端工学研究所),岩坂正和(千葉大学工学部),池畑政輝((財)鉄道総合技術研究所環境工学研究部生物工学)千葉惇(近畿大学医学部生理学1),木下香(株式会社メディカル・アプライアンス技術開発センター),吉江幸子(財団法人鉄道総合技術研究所環境工学研究部生物工学),工藤雄一朗(北里大学医学部衛生学公衆衛生学),中川秀紀(筑波大学大学院システム情報工学研究科)

【概要】
 本年の研究会は,参加者が約100名であり,94の一般演題が発表され,極めて活発な議論が行われた。演題数の増加のため,各演題ともに4分間の口演を行っていただき,その後はポスター発表をしていただいた。これにより,口演とポスターの長所と短所を補うことができたと思われる。発表の半数近くは大学院生によるものであり,若い研究者達の熱心な討論は非常に印象深いものであった。

 生理学研究所に日本で初めての大型脳磁計が導入されてから,15年が過ぎようとしている。その間に,日本では脳磁図研究が著しく進み,現在では,日本は世界で最も脳磁図研究の盛んな国といっても過言ではない。現在は,全国の主要大学の大学病院に脳磁計が設置され臨床応用の試みが盛んに行われている。それと平行して,生理学研究所をはじめとする多くの研究機関にも脳磁計が設置され,ヒトの脳機能の解明を目指して研究が続けられている。

 今回の研究会では,演題は「視覚」,「聴覚」,「体性感覚」,「嗅覚」,「運動」,「言語」,「臨床応用」,「工学」といった幅広いジャンルから発表され,わが国における脳磁図研究の裾野の広がりを実感させられた。しかし,脳磁図という共通の手法によって行われた研究ばかりであり,例え自分の専門外であっても十分に理解可能であり,また勉強になる発表ばかりであった。

 この10年間は機能的MRIの熱狂的なブームが,特に米国と英国においておこり,日本でも近年,研究者が著しく増加してきている。しかし,脳磁図の持つ高い時間分解能による時間情報の詳細な検討は,機能的MRIではけして行えないものであり,今後も脳磁図の長所を十分に生かした研究の発展をのぞんでやまない。

 

(1) 視覚反応のグレーティング方位依存性のmultifocal VEF計測を用いた研究

大脇崇史,武田常広(東京大学 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻)

 グレーティング刺激に対する脳活動の強度はグレーティングの方位によって変化し,強い脳活動を誘発する方位はグレーティング刺激を呈示した視野中の位置によって変化することが,fMRIを用いた研究で最近報告された。それによれば,固視点と呈示位置とを結ぶ方位に対して強い脳活動が誘発される。そこで,視野中の複数の刺激に対する応答を短時間で計測できる手法であるmultifocal VEF計測を用いて,MEGにおいても同様の方位依存性があるかを調べた。正方形のグレーティングを固視点の周囲12ヶ所に配置し,これらの白黒パターンを互いに位相のみが異なるM系列に従って反転させ,個々のグレーティング刺激に対する応答を得た。グレーティングの方位には0,45,90,135º の4種類を用いた。その結果,脳磁場応答強度がグレーティングの方位に依存して変化することがわかった。その方位依存性は先行研究と矛盾していなかった。

 

(2) 連続提示刺激の視覚誘発脳磁場反応

橋本章子,乾 幸二,渡邉昌子,柿木隆介(自然科学研究機構 生理学研究所)

 同一視野に異なる2つの視覚刺激S1とS2を連続して提示したときの,視覚誘発脳磁場反応を検討した。S1を16ms提示した直後にS2を提示すると,S2を提示する長さによってS1の見え方は変化した。そのときの2つの刺激の誘発脳磁場成分は分離することができず,S1の見え方に関わりなくS1の提示開始後180ms周辺に一貫して観察された。そこで,S1とS2の提示時間間隔を変えて比較した。その結果,2つの刺激の提示間隔が短いときには誘発成分は分離できないが,間隔が長くなると,S2の誘発成分は観察できた。しかし,単独で提示した場合に比べ,S2に対する応答の頂点潜時は遅延した。S1の処理はS2の処理に影響を与えるが,誘発成分のこの結果は,行動レベルのバックワードマスキング現象や,S2の反応時間が短縮するプライミング現象とは異なることを示唆した。

 

(3) 時間的に振幅変調された輝度変化パターンに対する脳磁界反応

岡本洋輔1,2),中川誠司1),藤井健司1),矢野 隆2),安藤四一2)
1) 独立行政法人産業技術総合研究所 2) 熊本大学 自然科学研究科)

 時間周波数の異なる複数の信号を合成した点滅刺激を呈示すると,刺激の輝度変化パターンのエンベロープに相当する時間周波数が知覚される。しかし,その知覚に信号の構成周波数がもたらす違いについて詳しく調べた例はなく,エンベロープの抽出メカニズムの詳細は明らかにされていない。本実験では,振幅変調刺激のキャリア周波数,変調周波数およびその変調度を変化させて変調周波数の知覚閾値を測定すると共に,脳磁界計測を行った。解析の結果,変調周波数に対応する脳反応成分の大きさは,キャリア周波数が低い場合は変調度の増大と共に大きくなったが,キャリア周波数が高い場合は変調度の増加に伴う変化は見られなかった。これはキャリア周波数が高くなると変調周波数に対応する成分が知覚されにくくなるという閾値測定の結果に対応している。また正弦波刺激に対する脳活動との比較から,両者の知覚に関する視覚系の処理の違いが示唆された。

 

(4) パターンリバーサル刺激による視覚誘発反応N75-P100-N145成分の
起源の検討

豊田忠祐1),畑中啓作1),仲間大貴1),北村吉宏2)
1) 岡山理科大学理学部応用物理学科医用科学専攻 2) 岡山療護センター)

 チェッカーボードパターンの反転を視覚刺激とするパターンリバーサル刺激法の特徴は,N75-P100-N145とよばれる三相波が観測されることである。われわれは,パターンリバーサル刺激による視覚誘発磁界を単一双極子モデルで解析し,信号源がいずれも一次視覚野(V1)鳥距溝底の同一場所に推定されることから,三相波は視覚情報が網膜から経時的にV1に伝えられ生じるのではなく,高次視覚野で処理された後に,再度V1に戻る際生じるのではないかという仮説を提唱した。この仮説を検証するため,パターンリバーサル刺激の構成要素であるパターンオンセット/オフセット刺激や,複数双極子モデルによる検討を行った。その結果P100,N145波に関しては,頂点潜時の10〜15ms前に,それぞれ高次視覚野V3/V5,V4における活動を認め,これらの活動がP100,N145波の生成に関与しているのではないかという示唆を得た。

 

(5) 多義的仮現運動の知覚交代を行う意図に統計的相関を示すMEG

下野昌宣1,2),武田常広1)1) 東京大学 2) 日本学術振興会特別研究員)

 本発表は,多義的仮現運動の知覚交代に関する研究で,3つの要素から構成される。第一に,我々は,この刺激で生起される知覚状態が,特定条件の下で被験者の意図によりコントロール可能である事を心理物理実験で示した。 その条件とは刺激1フレームの提示時間が275ms付近よりも長くなる事である。第二に,MEG計測により,275ms以前の誘発成分は知覚交代を起こそうとする意図と関連して変調し,また275ms以降の誘発成分は,結果として知覚交代が起きた事に関連して変調する事を示した。これらの結果の解釈は会場に委ねる。第三に,単独試行のMEG信号から知覚交代が起こるタイミングを予測する事を目標とした解析結果も報告する。現段階で,“知覚交代が能動的に起こせるかどうか”の事前予測が,70% 以上の精度で可能である事を示している。

 

(6) 双安定仮現運動における知覚交替に関連した皮質間ネットワークの解析

南 哲人1),村田 勉1),矢野史朗1),宗綱信治1),鈴木良次1,2)
1) 独立行政法人情報通信研究機構未来ICT研究センター 
2)
金沢工業大学人間情報システム研究所)

 脳の認識機能の特徴は,同じ感覚入力に対しても,さまざまなとらえ方を見出す柔軟性にある。1つの図形の観察において複数の見えが意識に昇る知覚闘争現象は,この脳の柔軟性を理解する上でも,重要な知覚現象である。機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) により,この切り替わりに関連する部位は,脳内の広範囲の部位が活動しており,これらの部位の大規模統合が深く関わっている可能性が示唆されている。そこで本研究では,双安定性仮現運動刺激を用いて,知覚闘争時におけるMEG信号を計測した。解析手法としては,単一試行ベースで,特定周波数帯の脳内空間における実信号と虚信号を求め,それらを利用して,試行ごとのパワーと位相が求めた。その結果,ガンマ帯において,右前頭部と後頭部の有意な位相同期現象をとらえることができた。

 

(7) 反復経頭蓋磁気刺激による多義図形の知覚交替についての研究

葛 盛1),上野照剛2),伊良皆啓治1)
1) 九州大学大学院システム情報科学研究院 2) 九州大学大学院工学研究院)

 Past research about perceptual reversals of ambiguous figures indicated that the superior parietal lobule is involved in perceptual reversals. To investigate the rTMS effect over the right superior parietal lobule on perceptual reversals, three kinds of trials, i.e., Target, Control and No-TMS trials were performed in the present study. In the Target trial, rTMS was applied over the right superior parietal lobule. In the Control trial, rTMS was applied over the right posterior temporal lobe. In the No-TMS trial, no TMS was applied over the subject's skull. The inter-reversal times of perceptual reversals between these three trials were compared. It was suggested that the right superior parietal lobule plays a critical role in perceptual reversals of ambiguous figures.

 

(8) 経頭蓋磁気刺激による視覚探索課題時の時間特性

松岡 彬1),川村祐司1),葛 盛1),上野照剛2),伊良皆啓治1)
1)九州大学大学院システム情報科学研究院 2) 九州大学工学研究院)

 経頭蓋磁気刺激,TMSとは脳の刺激方法の1つで,痛みが少なく非侵襲的で比較的深部の刺激も可能であるといった長所を持ち,脳機能ダイナミクスの研究に有用とされている。視覚探索とは目的の物体を探す,ヒトの視覚的注意の一種で,TMSを用いた過去の視覚探索の研究では右後頭頂葉が関与していることが示唆されている。しかし視覚探索の時間特性はまだ十分わかっていない。本研究ではTMSを視覚探索課題に用い,ヒトの視覚機能のダイナミクスを調べることが目的である。本研究では視覚探索時の右後頭頂葉の時間的関係を,TMSを利用して調べたところ,画像提示から150ms後でTMSによる反応時間の有意な遅れが観測された。視覚探索は画像提示後150ms前後において右後頭頂葉で処理されている可能性が考えられる。

 

(9) 初期視覚野の活動を抑えるランダムドットブリンキング

三木研作1, 2),渡邉昌子1),竹島康行1),照屋美加1),本多結城子1, 3),柿木隆介1, 2, 3)
1) 生理学研究所 統合生理研究系 
2) 社会技術研究システム 独立行政法人 科学技術振興機構
3)総合研究大学院大学 生命科学研究科)

 初期視覚野の活動を抑えるランダムドットブリンキング (RDB) を用い,顔認知過程を反映する誘発脳波を調べた。3種類の視覚刺激を用いた。(1) Upright:輪郭,目,口からなる模式的な正立顔。(2) Inverted:Upright条件を逆さにしたもの。正立顔としての全体性は失われているが,空間的配置はUprightと同じ。(3) Scramble:UprightやInvertedと構成要素は同じだが,内部構造の空間的配置自体が異なる。T5,T6電極で,頂点潜時が刺激提示後250ミリ秒の陰性波 (N250) が各条件でみられた。N250の頂点潜時は,Inverted とScramble条件で,Uprightに比べ有意に延長していた。また最大振幅に関しては,条件間に有意な差はみられなかった。この結果より,正立顔を構成する要素が失われていくことで,顔認知過程の情報処理が遅れることが示唆された。

 

(10) 顔刺激を用いた自己認知に関する研究

山崎貴也,武田常広(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

 自己顔認知とは,自分の顔を識別する機能のことであり,自己意識の指標になると考えられている。しかし,自己顔認知のメカニズムには解明されていない部分が多く,これらに関連したEEG及びMEGによる研究も少ないのが現状である。EEGにおける先行研究において2つの異なる結果が報告されている。一方は知人と他人の顔の提示に対する誘発反応では差がなく,自己と知人の顔の提示に対する誘発反応でのみ差が見られたという報告,もう一方は自己,知人と他人の顔の提示に対するすべての誘発反応で差が見られたという報告である。そこで,本研究ではMEGを用いて同様の実験を行い,得られた結果を特に後期成分(200〜700ms) の反応強度に注目することで二つの異なった知見に対する検討を行った。

 

(11) 色調知覚と脳活動の関係に関する研究

豊福哲郎,岩井裕章,三分一史和,外池光雄(千葉大学大学院工学研究科)

 近年,様々な色彩技術の発展に伴って人間の色知覚機能を正確に予測することが重要となっている。これまでの研究により人間は網膜錐体では赤,緑,青の三原色で,網膜の神経節細胞以降大脳皮質では赤と緑,青と黄が対になった4色の成分に変換され反対色で知覚しているといわれている。また,自然な色の物体を知覚するとき記憶や,学習に関係があることも分かっている。これにより,S.Zekiは抽象的な色の物体を知覚するときにも記憶などに関連があるのかをfMRIを用いて,補色画像を刺激とした実験を行っている。そこで本実験ではこれらの空間分解能に優れたfMRIの結果に対し時間分解能に優れたMEG計測によって脳内の色知覚,認識のメカニズムを明らかにすることを目的とする。この実験の結果,通常色における賦活が右紡錘状回に約100ms前後に起こることが示唆されるなど,継時的な応答を得ることができた。

 

(12) オートステレオグラムを用いた奥行き知覚時のMEG反応

古内康寛,大脇崇史,武田常広(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

 両眼視差による奥行き知覚の研究は数多く報告されているが,偏光フィルタや赤緑眼鏡を使った研究が多い。また,オートステレオグラムを用いた研究では,EEG,部分的なMEGによる先行研究があるが,いずれも輻輳運動中の脳活動を記録したものになっている。本研究は,被験者が輻輳運動を終了させた状態で,奥行き知覚が起きた時の脳活動を全頭型440chMEGを用いて計測した。視覚刺激はダイナミックに変化しているランダムドットパターンを1800ms間提示した後に,1200ms間ランダムドットステレオグラムを提示した。結果は,奥行き知覚ができる刺激提示後,約280ms付近で頭頂付近に大きな誘発磁場が観測された。このデータをもとに,ウェーブレットによる時間周波数解析,ダイポール推定による位置推定を行った。

 

(13) バイオロジカルモーション刺激に対する脳磁場反応:
double-stimulus presentation法による検討

平井真洋1,2),金桶吉起1),中田大貴1),柿木隆介1)
1) 自然科学研究機構 生理学研究所 2)日本学術振興会)

 これまで,fMRIを用いた研究によりbiological motion (BM) 刺激提示時における脳活動部位が明らかにされてきた。しかしながら,神経活動の時間的側面は十分に明らかにされていない。本研究では,double-stimulus presentation法を用いることによりBM知覚処理に関連した神経活動を明らかにすることを試みた。実験では第一刺激(S1)として,scrambled point-light walker (sPLW)を用い,続けて第二刺激(S2) として,upright PLW,inverted PLWおよびsPLW刺激を提示した。その結果,S1に対するMEG反応は後側頭部において200-300msecで検出されたのに対し,S2に対するMEG反応は右後側頭部において380msec付近で検出され,PLW刺激で有意に強い活動を示した。これよりBM知覚処理は運動視処理とは異なることが示唆された。

 

(14) 視覚性運動刺激の大きさが脳磁場反応に与える影響について

浦川智和1,2),田中絵実1),柿木隆介1,2),金桶吉起1,2)
1) 自然科学研究機構 生理学研究所 2) 総合研究大学院大学 生命科学研究科)

 限られた視野内で視覚性の運動情報を処理するとき,その刺激のもつ大きさは重要であると考えられる。このことを検討するために今回種々の大きさ(2.2º×2.9º〜44.8º×57.4ºの4段階)と速度を持つ運動刺激を用いて実験を行ったところ,これまで知られている速度増加(2.9º/s〜23.5º/sの4段階)に伴う脳磁場反応の潜時短縮・振幅増大といった傾向に加えて,刺激大きさの増大に対しても潜時が短縮した。このとき振幅の有意な変動は認められなかった。これらの結果から,視覚性運動情報処理過程において運動刺激の大きさは神経活動レベルではなくその時間的側面に反映されており,その処理は刺激大きさが増大することにより時間的に短縮することが明らかになった。

 

(15) 様々な仮現運動刺激に対するヒト脳磁場反応

田中絵実,野口泰基,柿木隆介,金桶吉起(自然科学研究機構生理学研究所)

 異なる視覚属性で定義された仮現運動刺激の運動知覚に関わる情報処理が視覚属性依存的か否かを検討するために,1st-order属性(luminance)と3種類の2nd-order属性 (contrast, texture, flicker) で定義された仮現運動刺激に対するMEG反応を比較した。Motion onset反応のピーク潜時と振幅からは,属性間で反応特性が異なることが示されたが,信号源は全てMT+付近に推定された。さらに,輝度変化を付加した2nd-order刺激に対する反応との比較より,輝度付加の影響は2nd-orderの属性によって異なることが示された。これらの結果から,属性に関わらず仮現運動知覚にはMT+の活動を必要だが,その活動の時間動態は属性依存的であることが示唆された。

 

(16) 母音の視聴覚提示時の脳磁界反応

尾形エリカ1),湯本真人2),伊藤憲治3),関本荘太郎3)
狩野章太郎1),伊藤 健1),加我君孝1)
1)東京大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学
2)東京大学大学院医学系研究科病態診断医学
3)東京大学大学院医学系研究科認知・言語医学)

 母音の口形と音声を提示して脳磁界反応を計測することで,母音聴取時の聴覚処理過程を修飾する要因について検討した。視覚刺激と音刺激を時間差提示してボタン押しによるマッチング課題を行い,聴覚刺激後の脳磁界反応を解析した。その結果,聴覚刺激後の反応で,視覚刺激と音刺激が一致している提示条件と不一致の提示条件とで有意差が認められ,一致条件で聴覚野応答が低下した。このことから,口形の視覚刺激を見たことによって聴覚野を修飾するような感覚予測が生じ,聴覚野応答の早い潜時に対して反映される可能性が示唆された。

 

(17) 文字・音声刺激を用いたMEG研究

小林明裕,武田常広(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

 McGurk刺激 (McGurk et al., 1977) のように,視覚と聴覚の意味が互いに矛盾する刺激を被験者に提示すると,矛盾しない刺激が与えられた時に比べて,反応時間が遅延すること (Norrix et al., 2006) が知られている。Mcgurk類似刺激を利用したfMRI実験 (Attenveldt et al., 2004) により,この脳活動に関連して賦活する,視覚野や聴覚野を含む領域が示された。そこで本研究では,MEGを用いて,視覚・聴覚間の矛盾の有無に伴う脳磁場活動の変化について検討した。その結果,視聴覚間の矛盾が存在すると,反応時間が遅延することが確認された。また,その矛盾に伴って,視覚野および聴覚野の信号強度の時間積分値(SSP (signal space projection)を利用することにより取得した)が減少する可能性が示された。

 

(18) 仮名文字音読時に文字種の違いが処理過程に与える影響

東島 将1),小谷賢太郎1),堀井 健1),岩木 直2)
1) 関西大学大学院工学研究科 2) 独立行政法人産業技術総合研究所)

 ヒトが文字を音読する際,直音よりも拗音の音読に時間がかかると報告されている。しかしその理由を文字読みの処理過程から検討した研究はない。本研究では,文字読み処理過程において直音と拗音の音読時間の差が生じる要因が音韻処理,構音処理のどちらであるのかを明らかにすることを目的としている。音韻処理については各文字の音読に関連したMEGを計測し,音韻処理に関連して活動する左縁上回に注目し,RMS解析を行った。構音処理については,予め教示した文字を呈示刺激にしたがってできる限り速く音読してもらう課題を設定し,その呈示刺激から音読までの時間を文字種で比較した。その結果,音韻処理での活動潜時では,直音と拗音で大きな差は見られなかったが,構音処理では,両者に差が見られた。本研究の結果は,直音と拗音の音読時間の差が生じる要因として構音処理が強く関与している可能性を支持するものである。

 

(19) MCE法による言語優位半球および言語特異的皮質領野の同定

太田 徹,柴田憲一,東山巨樹,笹嶋寿郎,溝井和夫
(秋田大学医学部神経運動器学講座 脳神経外科学分野)

【目的】単純な言語課題と簡便な解析法を用いること,空間・時間分解能に優れる脳磁図を用いることで,より簡便に言語優位半球や言語特異的皮質領野を同定し,その経時的伝播をも明らかにすることを目的とした。

【対象・方法】手術症例を含む右利きの成人男性8例を対象とし,「しりとり」遂行時の脳磁界(60波形)を全頭型脳磁計で計測した。信号源推定にはソフトウェア「MCE」を用いた。両側シルビウス裂周囲領域を関心領域とし,信号強度3。5 nAm以上の反応を有意な言語関連誘発反応として採用した。

【結果】全例,左大脳半球が言語優位であった。関心領域の誘発反応の潜時や持続時間は対象毎にばらつきがみられたが,その傾向は2群に大別できた。また,手術症例ではより低侵襲な手術アプローチの決定に寄与できた。

【結語】言語機能局在を簡便に同定できたが,時間的要素の検討には,さらなる計測条件の最適化が必要と思われた。

 

(20) 文法由来の逸脱と単語由来の逸脱に対する反応計測

御代田亮平,武田常広(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻)

 fMRIやPETによる研究によって人間の言語野が同定される一方,MEGやEEGを用いた研究によって言語処理の過程が解明されつつある(Friederici, 2002など)。これらの研究で主に用いられる手法としては,文法または単語に関して逸脱した文の視覚刺激や聴覚刺激の呈示時の誘発反応を測定するものである。しかし逆に文中における言語的に逸脱した箇所に対する誘発反応が文法由来のものか,または単語由来のものかを調べた研究は少ない。そこで我々は日本語において文法上の非正常文と単語上の非正常文に対する誘発反応の違いを2種類の実験を用いて調べた。各実験において文の最後の一文字において,文法上もしくは単語上で逸脱する文をそれぞれ数十種類作り,その一文字に対する誘発反応を測定した。文法に関する課題と単語に関する課題に対する誘発反応の差異を潜時と活動部位の両側面から考察した。

 

(21) 漢字単語の意味処理への音韻の影響:
音韻プライミング課題を使ったMEG研究

魏 強1,2),井原 綾1),早川友恵1,3),村田 勉1),藤巻則夫1,2)
1)情報通信研究機構 バイオICTグループ,
2)九州工業大学 生命体工学研究科
3)帝京大学 文学部心理学科)

 The current study investigated the neural mechanisms of the effect of phonological information on the lexico-semantic process during silent reading of kanji (morphogram)words by using magnetoencephalography (MEG). We conducted an experiment in which subjects were presented prime-target word pairs that consisted of two kanji characters. The paired words were presented for 100 ms and 1000 ms respectively, with a stimulus onset asynchrony of 1000 ms. The primes were phonologically same (homophone) as or different (non-homophone) from the following target words, or pseudo-characters randomly in each epoch. Subjects were instructed to read the target words silently. Brain responses were recorded using a 148-channel whole-head MEG system. Differences in neural activities between conditions were observed in the left posterior temporal and inferior parietal areas, and became weaker by the phonological repetition as expected from a previous report. Furthermore, we found that activity was larger for non-homophone condition in the anterior temporal lobe, and for homophone condition in Broca's area, as compared with the other two conditions in a latency-window of 400-500 ms. This suggests that these regions are related to the integration of context /the selection of appropriate meaning for ambiguous words.

 

(22) 3-D SEFに基づく周波数の異なる指刺激による応答特性の検討

川瀬 啓1),金 鳳洙2),内川義則1),小林宏一郎3)
1) 東京電機大学大学院 理工学研究科 2)東京電機大学 理工学部,
3)岩手大学 工学部)

 脳磁界(MEG) 計測では大脳皮質から発生する微弱な磁界を多点同時に高い時間分解能で計測することが可能である。そこで,外界からの刺激によって誘発されるMEGを計測し解析することで,ヒトの脳内における感覚や認知などの伝達過程の解明に関する研究が行われている。本研究では,三つの異なる指での刺激間隔(ISI) 変化に対する体性感覚野の応答特性を検討するため,右手の親指,薬指,小指にISIを変化させながら体性感覚誘発脳磁界(SEF) 計測を行った。得られたSEF波形に相互相関関数を用いて刺激に対する時間遅れを求め,各SEFの刺激周波数−位相特性を検討した。また,刺激周波数−位相特性から求めた各潜時における信号源推定を行った。さらに,体性感覚野における刺激周波数-位相特性についてシミュレーションによる検討を行ったので報告する。

 

(23) 正中神経刺激による体性感覚誘発脳磁界とM波との関係

大山峰生1),大西秀明1),相馬俊雄1),大石 誠2),亀山茂樹3)
1) 新潟医療福祉大学 2)新潟大学医歯学総合病院 3)独立行政法人国立病院機構西新潟中央病院)

 正中神経の電気刺激により,刺激後約20msecで体性感覚誘発脳磁界 (SEF) 第一成分が明確に観察され (N20m),その電流発生源は中心溝を同定する際の基準として用いられることが多い。一方,N20mの他に刺激後30msec以降においても明確な磁界波形を認めるが,これが腱,筋,関節,皮膚のどの受容器に起因した反応かは明確でない。本研究では,正中神経刺激によるSEFと短母指外転筋のM波を同時に計測し,SEFの第二,第三成分に寄与する要因を検討した。対象は健常男性8名とした。SEF計測にはNeuromagを使用し,計測時の正中神経刺激は,運動閾値下から0.5mA間隔でM波が最大に達するまでの強度とした。計測時は手関節,母指を固定し,関節運動を抑制した。その結果,SEF第二成分の振幅値は,刺激強度の増大に伴い増加したが,最大M波に達する以前のある刺激強度で一定になるかあるいは低下する傾向を示した。

 

(24) 触覚振動刺激の周波数判別における二次体性感覚野と聴覚野の相互連絡

井口義信1),星 詳子1),根本正史1),橋本 勲2)
1)東京都精神医学総合研究所 脳機能解析研究チーム
2)金沢工業大学 人間情報システム研究所(東京分室))

 我々は,触覚振動刺激の周波数判別において,刺激の1.3秒後に音feedbackを呈示することによって識別精度が向上し,その触覚情報の処理に聴覚野が関与することを見出した。今回は,この音feedbackに対する脳反応が,SII領域との連絡を含むか否かを検討した。対象は健常者9名。触覚振動刺激の周波数判別(3種の刺激間の判別)と二値弁別(触感の差の検出)での音feedback,および,同じ音の受動的聴取でのAEFsを計測した。3条件で共通に聴覚反応N100mを認めた。これに加えて振動周波数の判別下では,7例がSII領域の反応を示した。一方,二値弁別下でのSII反応は3例,音の受動的聴取ではゼロであった。音feedback自体には課題がなく,SII反応のtime-lockは緩い(潜時100〜300 ms)が,触覚刺激の周波数情報の必要性によって,聴覚野−SII領域の連絡が発現すると考えられた。

 

(25) 仙骨部表面電気刺激による体性感覚誘発脳磁界

松下真史1),中里信和2),中川晴夫1),菅野彰剛2),荒井陽一1)
1) 東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学
 2)広南病院脳神経外科 東北療護センター)

【目的】近年,難治性の尿失禁や頻尿の治療法として,仙骨部表面(S)の治療的電気刺激が導入されつつある。今回,刺激の至適条件の設定の一助とすべくS刺激による体性感覚誘発脳磁界を計測した。

【方法】健常男性6名において,Sに加えて正中神経(M)と後脛骨神経(T)の電気刺激による誘発脳磁界を測定した。それぞれの第1波の頂点潜時における信号源を,電流双極子モデルで推定し,被験者ごとのMR画像上に表示した。

【結果】S刺激の第1波は,潜時が30msでありMより長くTより小さい。S刺激の第1波の等価双極子は,頭頂部の中心溝付近に推定された。

【考察】以上の結果は,S刺激においても一次体性感覚野由来の信号が測定できたことを示す。今後,異なる刺激条件下での本反応を調べることによって,S刺激治療の至適条件設定に役立つ可能性がある。

 

(26) 頚部脊髄誘発磁場からの信号源再構成

佐藤朋也1),足立善昭2),友利正樹3),富澤將司3),川端茂徳3),関原謙介1)
1) 首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 生体信号処理研究室
2)金沢工業大学 先端電子技術応用研究所 3)東京医科歯科大学 整形外科)

 頚部脊髄誘発磁場から,その磁場の発生源である信号源を再構成することは,非侵襲的に頚部脊髄機能を診断する画期的な手法といえる。そこで,頚部脊髄誘発磁場データに対して空間フィルターを用いた電流源再構成法を適用し,脊髄周囲の電流分布の可視化を行い,頚部脊髄伝導障害部の非侵襲的特定への可能性を見出した。また,空間フィルターとして,空間マッチトフィルター,Minimum-Normフィルター,sLORETAフィルターの3種類の空間フィルターを適用し,性能比較を行った。さらに,頚部脊髄誘発磁場データのx成分,y成分それぞれに対して空間フィルターを適用し信号源再構成を行ったところ,脊髄内部を伝播する細胞内電流,脊髄に流入する膜電流の2つの電流についてそれぞれ独立して再構成することに成功し,z成分に対して適用した場合よりも,より精度の高い障害部位診断への可能性を見出した。

 

(27) 舌前方と後方でみられる体性感覚処理機構の違い

坂本貴和子1,2,3),中田大貴1,2),乾 幸二2),柿木隆介2,3),Gian Luca Romani 1)
1)ITAB-Institute for Advanced Biomedical Technologies, University of Chieti, Italy,
2)自然科学研究機構 生理学研究所 感覚運動調節研究部門
3)総合研究大学院大学 生命科学研究科)

 The somatic sensation of the tongue is necessary for daily life, but it is difficult to know the underlying neural mechanisms. In particular, because of the vomiting reflex and several morphological problems, there has been no systematic attempt to examine somatosensory processing by stimulating the posterior of the tongue. This is the first study to clarify the human cortical processing for sensory perception by the posterior part of the tongue with a newly developed device and functional magnetic resonance imaging. Stimulation of the left and right postero-lateral parts of the tongue induced significant activity in the primary somatosensory cortex (SI) and Brodmann area 40 in the right hemisphere and the anterior cingulate cortex (ACC). In contrast, antero-lateral stimulation produced activity only in the right SI. The activated region in SI was significantly larger following stimulation of the posterior than anterior part. These results indicate that a clear difference exists in somatosensory processing between stimulation of the antero-lateral and postero-lateral parts of the tongue, and a right hemisphere is dominant for the stimulation of both antero-lateral and postero-lateral areas. The activity in BA40 and ACC may imply that the posterior of the tongue belongs to the visceral system.

 

(28) 体性感覚二点識別の脳内処理機構

赤塚康介,柿木隆介(自然科学研究機構 生理学研究所)

 This is the first functional magnetic imaging (fMRI) study that investigated the neural mechanisms related to somatosensory spatial discrimination, so-called two-point discrimination. During fMRI scanning, we examined two discrimination tasks using four types of electrical stimuli which applied to one or two points with strong or weak intensity. In the two point discrimination task (TPD), subjects were required to discriminate stimuli whether it applied to one or two points. In the intensity discrimination task (ID), subjects were required to discriminate stimuli whether its intensity was strong or weak. In each task, they pressed the button to report their choice. Comparing the both discrimination task with control, we found significantly activated regions in the bilateral pre-frontal gyrus, pre-motor cortex, anterior insula, pre-supplementary motor area, anterior cingulate cortex, inferior parietal lobule (IPL) (Brodmann area 40), anterior lobe of the cerebellar vermis, and striatum and contralateral secondary somatosensory cortex. Between TPD and ID, IPL was more activated during TPD than ID. Therefore, the IPL is considered to play an important role for two-point discrimination task.

 

(29) 体性感覚刺激Go/Nogo課題における反応抑制過程:
事象関連型fMRIによる検討

中田大貴1,2,3),坂本貴和子1,2),柿木隆介2),Romani GL1)
1)Institute for Advanced Biomedical Technologies, University of Chieti, Italy
2)自然科学研究機構 生理学研究所 3)名古屋大学医学部保健学科)

 Inhibiting inappropriate behavior and thoughts is an essential ability for humans, but the responsible regions for the inhibitory process are a matter of continuous debate. This is the first present study of event-related functional magnetic resonance imaging (fMRI) using somatosensory go/nogo tasks. Fifteen subjects preformed two different types of go/nogo task, (1) movement and (2) count to compare with previous studies using visual go/nogo tasks. That is, to confirm whether the inhibitory process is dependent on sensory modalities. Our data indicated that the response inhibition network involved dorsolateral (DLPFC) and ventrolateral (VLPFC) prefrontal cortices, pre-supplementary motor area (pre-SMA), anterior cingulate cortex (ACC), inferior parietal lobule (IPL), Insula and temporoparietal junction (TPJ), which were consistent with previous results using visual go/nogo tasks. These activities existed in both Movement and Count Nogo trials. Therefore, our results suggest that the network for the inhibitory process is not dependent on sensory modalities but reflects common neural activities. In addition, a direct comparison between Movement and Count Nogo trials showed the difference of activation in prefrontal cortex, temporal lobe, ACC and pre-SMA. Thus, the inhibitory control process would consist of two neural networks, common and uncommon regions depending on response mode.

 

(30) 空間的注意の視覚−体性感覚モダリティリンクに関わる脳磁場反応

木田哲夫,乾 幸二,和坂俊昭,赤塚康介,田中絵実,柿木隆介
(生理学研究所統合生理研究系感覚運動調節研究部門)

 空間的注意による皮質活動の変化はよく知られているが,近年この注意効果は他の感覚モダリティにも及ぶこと(クロスモダルリンク)が報告されている。本研究では,脳磁場記録により視覚−体性感覚間のクロスモダルリンクに関わる皮質処理について検証した。視覚,体性感覚ともに標的,非標的刺激を右視野(右手2指),左視野(左手2指)に約1秒間隔でランダム順に提示した。被験者は4つの注意条件をランダム順に行った(右体性感覚・左体性感覚・右視覚・左視覚注意)。右手体性感覚刺激に対する二次体性感覚野 (SII) 付近の脳磁場反応(潜時80ms〜)は,右体性感覚注意時だけでなく右視覚注意時にも増大したが,一次体性感覚野の反応には有意な変化は認められなかった。左手刺激でも同様の結果が得られた。体性感覚入力に対するSII近辺の脳磁場反応は,注意された感覚モダリティに関係なく,空間的注意により変化することが示唆された。

 

(31) 病変を持つ症例に対するpattern reversal刺激を用いた視覚関連局所脳律動変化の解析

谷 直樹,平田雅之,加藤天美,齋藤洋一,貴島晴彦,押野 悟,吉峰俊樹
(大阪大学 医学部 脳神経外科)

【目的・方法】先行研究にて視覚関連局所脳律動変化はg 帯域のERS (Event-related synchronisation)が一次視覚野を中心に出現するという知見を得ている。今回,視覚経路に病変を持つ症例22例に対し広視野角刺激を施行し,開口合成脳磁図を用いて局所脳律動変化を調べた。内1例では術中cortical VEPを測定,MEGの結果と比較した。

【結果】病変が視覚関連領野に局在する場合,high- g 帯域のERSは鋭敏に影響を受け,特に視野障害が1/2以上の場合,視野障害のない場合と比べhigh- g ERSは有意な減弱を認めた。cortical VEPにても腫瘍周囲での g ERSの減弱,消失を認めた。

【考察】 g 帯域のERSは主に一次視覚野の活動を反映すると考えられるが,視覚障害がある場合,視野障害の程度に一致した減弱,消失を認め,感度の高い視覚機能の指標となりうると考えられる。

 

(32) 脳腫瘍症例における体性感覚誘発磁場を用いた感覚機能評価

土谷大輔,毛利 渉,櫻田 香,嘉山孝正(山形大学医学部脳神経外科)

【はじめに】脳腫瘍例での体性感覚誘発磁場(somatosensory evoked fields;SEF) による感覚機能評価とMRI所見を比較した。

【対象と方法】前頭葉の脳腫瘍連続15例を対象とした。SEFは全頭型306チャンネル脳磁界計を用い,正中神経を刺激し200回平均加算した。

【検討項目】1. N20mの遅延及びd/mの低下,2. 感覚障害の有無,3. 中心後回の浮腫及び圧排の有無,これらを1を中心として検討した。

【結果】[1] 全15例中,N20m遅延及びd/m低下を認めたものは4例で,全例で感覚障害(+),浮腫(+)及び圧排(+)であった。[2] N20m遅延は認めないが,d/m低下を認めたものは3例で,全例で感覚障害(-),浮腫(-)であったが,圧排(+)であった。[3] N20m遅延及びd/m低下を認めなかったものは8例で,全例で感覚障害(-)であった。中心前回に主座を置くanaplastic glioneuronal tumor例のみで圧排(+)と浮腫(+)であったが,他では浮腫(-),圧排(-)であった。

【結論】N20m及びd/mはともに腫瘍による感覚機能障害を反映すると考えられたが,腫瘍による圧排がある場合,d/m低下がより鋭敏であると考えられた。また,gliomaでは機能を保ちながら浸潤する例がある可能性が示唆された。

 

(33) シルビウス裂周囲症候群のてんかん外科におけるMEGの有用性

村上博淳,藤本礼尚,杉山一郎,増田 浩,亀山茂樹
(国立病院機構 西新潟中央病院 脳神経外科)

【目的】congenital bilateral/unilateral perisylvian syndrome (CB/UPS) に随伴するてんかんは難治であり治療法が確立していない。我々は多角的検査診断に基づいて発作焦点を同定し皮質切除を行って良好な結果を得た。この際MEG所見が非常に有用でありECDの集積部位を基に切除計画を立てた症例も経験したので報告する。

【方法】症例は男性2例,女性1例。発症時年齢3-13歳(平均9歳),手術時年齢4-21歳(平均14歳)。MRI上のpolymicrogyria両側性2例,片側性1例。全例で発作間欠時にMEG施行,1例で発作時SPECT施行,2例で慢性硬膜下記録施行。4歳の小児例では慢性硬膜下記録を行わずに皮質切除した。

【結果】術後1年以上経過した2例はEngel class I,術後4ヶ月の小児も発作を認めていない。慢性硬膜記録を行った2例では発作起始部位とMEGのECD集積部位が一致した。発作時SPECTを施行できた1例では血流増加部位とECD集積部位,発作起始部位がすべて一致した。

【結論】CB/UPSに対する発作焦点切除術の切除部位決定にMEGが有用であった。小児例ではMEGガイド下の皮質切除術も選択肢のひとつとなり得る。

 

(34) Gastaut型特発性小児後頭葉てんかんの脳磁図所見

齋藤なか,遠山 潤,赤坂紀幸(国立病院機構西新潟中央病院 小児科)

【はじめに】Gastaut型特発性小児後頭葉てんかん (Gastaut type idiopathic childhood occipital epilepsy:G-ICOE) は視覚発作を主症状とする小児てんかんの1型である。後頭部の突発波を特徴とするが,脳磁図に関する報告は殆どなく視覚症状との関連は明らかではない。G-ICOE例に対して脳磁図による電流源解析を行った。

【対象と方法】対象はG-ICOEの3例,男児2例女児1例である。306chanel全頭型脳磁型を用い,発作間歇期における棘波のピークで等価電流双極子 (equivalent current dipole : ECD) を推定しMRI画像に投影した。

【結果】2例ではECDは後頭葉内に散発的な集積を示し,もう1例では頭頂後頭溝周囲にやや広がりを持った集積として認めた。

【考察】3例とも視覚症状が主症状であったが一次性視覚皮質であるcalcarine sulcus周囲への集積は認めず,発作波が視覚野を含む後頭葉内に伝播して視覚症状を生じている可能性を示唆する所見であった。

 

(35) 陰性ミオクローヌスを呈したてんかん患者2例の脳磁図解

服部英司1),川脇 寿2),九鬼一郎2),佐久間悟1),横井俊男1),松岡 収1),山野恒一1)
1) 大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学
 2) 大阪市立総合医療センター小児神経内科)

 陰性ミオクローヌス発作を呈した2例の脳磁図解析を行った。症例1は11歳女児,左上肢のピクッとする発作を繰り返し,物を持つと誘発された。発作間歇時脳波は右頭頂部優位の全般性棘徐波を示した。症例2は5歳女児,右に傾いて転倒する発作,脱力して転倒する発作を呈した。発作間歇時脳波は,睡眠時にCzを中心に棘徐波を認めた。発作間歇時脳波の棘波の立ち上がりの部分で解析すると,症例1では右の頭頂部中心後回,右手の一次感覚野に内前方に向いたダイポールがクラスターした。症例2では右頭頂部中心後回の足の一次感覚野にダイポールがクラスターした。両者とも,一次感覚野の狭い領域にダイポールが推定され,陰性ミオクローヌス発作には一次感覚野が強く関係すると考えられた。

 

(36) 軽度アルツハイマー病患者における基礎律動減衰の評価:MEG研究

栗本 龍1),石井良平1),池澤浩二1),疇地道代1),Leonides Canuet 1)
岩瀬真生1),数井裕光1),吉峰俊樹2),武田雅俊1)
1)大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室
2)大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科教室)

 軽度アルツハイマー病(以下AD)患者の脳波・脳磁図では基礎律動の徐波化,広汎化,徐波の増加などの典型的な所見を認めないことがある。今回我々は健常高齢者(以下NC)と,基礎律動の徐波化を認めない軽度AD群の脳磁図を測定し,基礎律動の減衰を評価した。対象はAD7人,NC7人。CTF社製全頭型64チャンネル脳磁計を用い,安静開閉眼時10秒間ずつの脳磁図をそれぞれ8試行測定した。オフラインでBESAを用いて閉眼に伴う基礎律動の事象関連同期 (ERS) を求めた。基礎律動のピーク周波数はAD群で9.8±0.9Hz ,NC群で10.5±0.4Hz と有意差を認めなかった。しかし基礎律動のERSは,NC群ではa帯域に明瞭に認められたが,AD群では他の帯域で認められたりERS自体が減少・消失する傾向が見られた。当日は空間フィルターを用いた解析結果,神経心理検査との相関についても述べる予定である。

 

(37) 認知症診断のための自発性脳磁場データベースの構築

初坂奈津子1),樋口正法1),鶴谷奈津子1),町谷知彦2),山田正仁2),賀戸 久1)
1) 金沢工業大学先端電子技術応用研究所 2) 金沢大学神経内科)

 これまでMEGを用いたアルツハイマー病(AD)に関する研究がいくつか報告されている。自発性脳磁場の周波数解析,例えばslow wave (d, q) の変化を検討したものが多いが,実用的なものはまだない。我々はMEGを用いたADの早期診断プロトコルの開発を目指し,自発性脳磁場を中心としたデータベースの構築を行っている。本データベースを用いてslow waveに限らず多くの特徴パラメータを抽出しADと健常者の比較・検討を行っている。今回はその一部として,開眼・閉眼時自発性脳磁場の解析を行い過去の報告例との比較を行った。また,聴覚刺激時自発性脳磁場については加算平均処理を行い聴覚誘発脳磁場の検討を行った。

 

(38) 標準脳座標に変換した脳表電流密度マップのROI解析による
言語優位半球の同定

錦古里武志1,2),文堂昌彦3),中村昭範2),Diers Kersten2),竹林成典3)
加藤隆司2),梶田泰一1),吉田 純1),伊藤健吾2)
1) 名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科
 2) 国立長寿医療センター研究所 長寿脳科学研究部
3) 国立長寿医療センター病院 脳神経外科)

【目的】MEGによる言語優位半球の同定法はPapanicolaouらによる単一双極子解析法が知られているが,多元的な言語機能を単一双極子モデルで解析することには疑問もある。我々は,distributed source modelを用いて優位半球を同定する方法を試みた。

【方法】脳腫瘍患者12名を対象に,かな黙読による誘発磁場を測定し,最小ノルム法によって算出した脳表電流密度マップを標準脳座標へ変換した。そして,1) 古典的言語野,2) 健常人にてかな黙読により有意に賦活された領域,にROIを設定し,ROI内の電気的活動の左右差から優位側を推定し,fMRIや和田テストの結果と比較した。

【結果】本法では,後部側頭葉・後頭側頭葉境界下部・角回に設定したROIが,左右差の判定に有用であった。12例中10例が左半球優位,2例が右半球優位と判定され,11例中9例でfMRIや和田テストの結果と一致した。

 

(39) Multimodality - fMRI, MEG, NIRS -による言語優位半球同定の検討

太田貴裕1),鎌田恭輔1),川合謙介1),青木茂樹2),斉藤延人1)
1) 東京大学医学部 脳神経外科 2) 東京大学医学部 放射線科)

 非侵襲的な皮質機能mapping法である機能MRI (fMRI)と脳磁図 (MEG) とにより術前に言語優位半球を同定することが可能となってきた。2006年末に当施設に光トポグラフィー (NIRS) および3.0Tesla MRIが導入されており3つのmodalityを用いた術前言語優位半球同定の信頼性について報告する。対象は23例(男10,女13)。年齢は16〜75歳,疾患はAVM2,動脈瘤1,主幹動脈狭窄症4,脳腫瘍9,てんかん7例。全23例でfMRI,MEG,NIRSを施行し,Wada Testは4例に施行した。これらの結果を2006年に1.5Tesla MRIとMEGを用いて言語優位半球同定を行った26例と比較した。f MRI, MEG, NIRSと機序の異なる3つのmodalityを用いる非侵襲的な言語優位半球同定は信頼性が高く,Wada testに替わる方法として検討を重ねていきたい。

 

(40) MCGによる心疾患モデルマウスの経時的観察

葛西祐介1),加古真祥1),及川敬敏1),斎藤 優1)
小野弓絵2),石山敦士3),葛西直子4),茅根一夫5)
1) 早稲田大学大学院理工学研究科2)神奈川歯科大学生体機能学講座
3)早稲田大学理工学術院
4)産業技術総合研究所5)エスアイアイ・ナノテクノロジー(株))

 現在,疾患の発生機序の解明や,薬効の検証のため,遺伝子改変技術の応用や,薬物投与により,種々の疾患モデルマウスが供試されている。従来,これらのマウスの検査法として侵襲的な方法が多く用いられているが,非侵襲的な検査法が確立されれば,疾患に関する新しい情報を与えるものとして期待される。そこで我々はマウス用生体磁気計測システムを用いて,心疾患モデルマウスの心磁図計測を経時的に計測し,疾患発生に伴う心磁図変化を捉えることができた。また,新生児や子供のマウスは体長も小さく体力も弱いため計測が困難であったが,生後間も無いマウスの計測法を開発し,疾患の発生や進展を知る上で重要な,新生児から生体までの一貫した心磁図計測法の開発を行うことができた。

 

(41) Current Source Reconstruction of MCG Vector Data

De Melis Massimo, Kim Bong Soo, Uchikawa Yoshinori
(Department of electronic and computer engineering, Tokyo Denki University)

 In the study of the biomagnetic inverse problem, the data obtained from the recorded magnetic fields are used in order to compute the sources that generate the measured fields distributions. Typical multichannel SQUID systems that are currently used in magnetocardiography (MCG) and magnetoencephalography (MEG) are planar systems that are able to detect only one component of the magnetic fields. However, using a multichannel system that can measure the three components of the fields allows to obtain a more complete information about the electrical activity of the sources. In MCG studies the cardiac activation can be modeled in terms of current density, since a distributed sources model is a more realistic representation than a single or multiple dipole model for the heart activation wavefront. The source reconstruction can be performed using all components of the measured fields, or using only the z-component, thus obtaining the equivalent results of a planar system. We can directly compare the results of the vector and planar data of the same subject, obtained with the same system. This procedure allows us to show what is the contribution of the information gain given by the vector data in terms of current source reconstruction.

 

(42) ウェーブレット変換と独立成分分析を用いた心磁図の
ノイズ低減に関する研究

宮内秀彰1),小林宏一郎1),中居賢司2),伊藤 学3),吉澤正人1),内川義則4)
1)岩手大学 工学部 2)岩手医科大学 医学部
3)株式会社ICS 4)東京電機大学 理工学部)

 現在,心磁図を用いて心臓血管手術後の患者の心筋障害や不整脈の性状を評価することが試みられている。しかし開胸心臓手術後の患者の肋骨部分にはワイヤが装着されており,MRI検査などで磁化されたワイヤは心磁図測定時に大きな磁気ノイズとなり問題である。その為,本来の心臓の情報を失わずにノイズのみを低減させることが重要な課題となっている。今回この磁気ノイズの低減するために,デジタルフィルタとウェーブレット変換,独立成分分析を組み合わせたアルゴリズムを考案した。シミュレーションで最適な条件を検討して,このアルゴリズムを心臓手術後5例に応用しノイズ低減を試みた。その結果,可逆変換可能なリフティングスキームを用いたウェーブレット変換後にfast-ICAを組み合わせたアルゴリズムは,信号とノイズの分離精度が向上して磁気ノイズ低減に有効であることが証明された。

 

(43) 運動負荷による三次元心磁図のST分節の検討

寒河江健1),金 鳳洙2),内川義則1),小林宏一郎3)
1)東京電機大学大学院 理工学研究科 2)東京電機大学 理工学部 3)岩手大学 工学部)

 SQUID磁束計による生体磁気計測では,生体の活動に伴う微弱な磁界を多点同時にリアルタイムに計測することが可能である。そこで,心磁図(MCG:magnetocardiogram)での刺激伝導系が体表面から非侵襲で計測可能となって以来,その臨床応用が期待されている。また,心疾患患者の運動負荷によって誘発される虚血状態のMCG計測を行い,ST分節の解析により心筋虚血部位の評価なども行われている。そこで本研究では,自作した非磁性のエルゴメータを用いて,安静状態でのMCGと運動負荷による健常者のMCG計測を三次元磁界計測システムを用いて行った。ST分節の詳細な検討のために特異値分解 (SVD:Singular Value Decomposition) を適用し,安静状態(Rest)及び運動負荷直後(HR1) のST分節での心筋活動の空間分布変化に関する検討を行ったので報告する。

 

(44) Early detection of coronary artery disease in patients with suspected acute coronary syndrome without ST elevation by magnetocardiography

Hyukchan Kwon 1), Kiwoong Kim 1), Yong-Ho Lee 1), Jin-Mok Kim 1), Hyun Kyoon Lim 1), Yong Ki Park 1),
Namsik Chung 2), Young-Guk Ko 2), Boyoung Joung 2), Jin-Bae Kim 2), Jung-Rae Cho 2)
(1) Bio-signal Research Center, Korea Research Institute of Standards and Science, Daejeon, Korea
2) Yonsei University Medical college, Seoul, Korea)

 In a preliminary study, we proposed a classification method (weighted maximum posteriori: wMAP) of MCG parameters on the basis of its probability distribution. The aim of the present study is to confirm the method in a relatively large population. To do that, we examine the classification performance of the conventional binary decision and the wMAP methods for the detection of coronary artery disease (CAD) in suspected acute coronary syndrome patients without ST-segment elevation. We used four MCG parameters representing the changes in direction and magnitude of the electrical activity during T wave. The study included 603 subjects: 320 patients with angiographically documented CAD (stenosis e 50 %), 118 symptomatic patients (stenosis<50 %) and 165 normal subjects. As results, wMAP was about 3 % better than the binary decision method. The classification performance of wMAP was noticeable in healthy subjects (94.5 %) and patients with myocardial infarction (93.8 %), compared to 87.9 % and 87.5 % obtained by the binary decision method. This study demonstrates that the MCG can be used to detect coronary artery disease in patients with acute chest pain by the classification of the MCG parameter on the basis of its prior probability distribution.

 

(45) Diagnostic performance of magnetocardiography parameters to detect patients with coronary artery disease I:
non-ST-segment elevation myocardial infarction

Hyun Kyoon Lim 1), Namsik Chung 2)*, Kiwoong Kim 1), Young-Guk Ko 1)
Hyukchan Kwon 1), Yong-Ho Lee 1), Jin-Mok Kim 1), Boyoung Joung 2)
Jin-Bae Kim 2), Jung-Rae Cho 2), In-Seon Kim 1), Yong Ki Park 1)
(1)Korea Research Institute of Standards and Science, Daejeon, Korea
2) Cardiovascular Center, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Korea)

 In this study, we evaluated the parameters of magnetocardiography (MCG). The purpose of this study is to find the MCG parameters that are sensitive enough to detect the non-ST-segment elevation myocardial infarction (NSTEMI) patients from control subjects. MCG data were recorded and analyzed from 165 young controls (mean age = 27.2±9.0 years), 57 age-matched controls (mean age = 55.9±10.5 years) and 83 NSTEMI patients (mean age = 59.7±11.1 years). The MCG recordings were obtained using a 64-channel MCG system in a magnetically shielded room. Statistical analyses were performed for 24 parameters derived from QRS-, R-, T-wave, and ST-T period. Binary boundaries to detect NSTEMI patients out of control subjects were found using the receiver operating characteristic (ROC) curve for each parameter. Fifteen parameters showed a significant difference (p < 0.05 and p <0.01) between NSTEMI and both of control groups. For the detection of NSTEMI, the angle of the maximum current on T-wave peak showed the highest diagnostic performance, 84% to 93 % for young controls (area under ROC curve=0.93), and the field map angle on T-wave peak for age-matched controls with the diagnostic performance of 75% to 86% (area under ROC curve=0.87). Our study showed that a number of MCG parameters are useful for screening NSTEMI patients in a clinical setting.

 

(46) シングルチップ集積型SQUIDマグネトメーターアレイ心磁計を用いた
モルモット心磁・心電同時計測とQT間隔自動解析

駒村和雄1),足立善昭2),河合 淳2),宮本政和2),上原 弦2),春田康博3)
1国立循環器病センター研究所 循環動態機能部
 2)金沢工業大学先端電子技術応用研究所
3)横河電機(株)MEGセンター)

 日米欧医薬品規制調和国際会議の規定により,医薬品開発におけるQT延長を含む催不整脈性に関する前臨床試験が義務化された。今回我々はモルモットを対象にシングルチップSQUIDマイクロMCGを用いて,心磁・心電同時計測の下にQT延長計測とその自動解析を行ったので報告する。体重200-300gのHartley系雄性モルモットをペントバルビタールにて麻酔後白金電極を装着して,正中線上剣状突起頭側10mmを標準計測位置としてマイクロMCGのセンサー下に保定し心磁・心電同時計測を行った。QTcは心磁・心電共に自動解析が可能で,r2=0.831, p=0.0312と良好な相関を呈した。抗不整脈薬キニジンの過剰投与 (60mg/kg) によりQTcは心磁において27.9±0.46msec→31.2±0.47msec, 28.1±0.63msec→33.0±0.87msecと有意に延長した。

 

(47) 聴覚野における時間積分機構の検討

中川誠司(独立行政法人産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門)

 ヒトの聴覚には聴取した音をある時間にわたって積分する機能があり,刺激音の持続時間の延長に伴ってラウドネスの増大や検出閾の低下が生じる。また,このような時間積分機構は大脳聴覚野活動においても観察されることが知られている。聴覚野における時間積分機構におよぼす刺激音周波数の影響を調べることを目的として,聴覚誘発脳磁界計測を行った。1kHzから12.5kHzまでの気導音,さらには30kHz骨導超音波を呈示し,聴覚誘発反応N1mの活動強度および潜時を推定した。すべての刺激音において持続時間の増加に伴う活動強度の上昇と潜時の減少が観察されたが,その上昇/減少は持続時間が40 ms において飽和した。少なくともN1mレベルにおいては時間積分機構は刺激音周波数によらないこと,骨導超音波であっても気導可聴音と同様の時間積分機構を有していることが示される。

 

(48) 定常聴覚刺激提示時における聴覚磁場応答

冨田教幸1),田森佳秀2)
1) 金沢工業大学大学院 システム設計工学専攻 2)人間情報システム研究所)

 N1mやP2m等の聴覚誘発磁場応答は,提示音が長く続いている場合にも,数十ミリ秒程度の幅で終わる単峰の応答になっている。音提示が続いており,その知覚が存在しているにもかかわらず,応答が消えてしまっている時間区間において,様々な周波数の純音を提示したときの脳磁場を計測した。解析の結果,このサイレントな時間区間に得られたN1mは,周波数の相対的な差によって応答の振幅が異なっていた。このことから,見かけ上応答が無い時間区間においても,音提示が続いている限り,なんらかの神経活動が存在していることが示唆された。

 

(49) 音源の位置の知覚に関わる聴覚誘発脳磁界反応

添田喜治,中川誠司(産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門)

 音源の位置を知る能力は,人間にとって重要である。頭の一方側に一つの音源がある時,遠い方の耳に到達する音は近い方の耳に到達する音に比べて,時間的に遅れ,強さは弱くなる。この場合,音源の位置に関する手がかりは,両耳間時間差と両耳間強度差である。また,両耳に到達する音の相関度は音像の広がり感と関係があり,両耳間相関度が低いほど広い音像が知覚される。つまり,両耳間相関度が低いほど音像が広がってしまい,音源の位置は不明瞭になる。本研究では,音源の位置の知覚に重要な要素である,両耳間時間差と両耳間相関度を変化させて脳磁界計測を行い,N1m反応に注目して解析を行った。解析の結果,両耳間相関度が高いときに,両耳間時間差の増加に伴いN1m振幅が大きくなる傾向が見られた。しかしながら,両耳間相関度が低いときには,両耳間時間差の効果は見られなかった。このことは,N1m振幅に音源定位能が反映されたと考えられる。

 

(50) 先行する音階にプライミングされた和音による脳磁界反応

大塚明香1,2),栗城眞也2),村田昇3),長谷川寿一1)
1) 東京大学21世紀COEプログラム「心とことば −進化認知科学的展開」
2)北海道大学電子科学研究 3)早稲田大学理工学部)

 We investigated the effects of priming of Western tonal schema on the perception of chords and their auditory evoked magnetic fields. Two types of chords tuned in major and minor modalities were presented alone in the control condition. In the task session, the major or minor chord was preceded by either a major or minor scale. When there was a modality shift between the scale and chord, i.e., a major chord preceded by a minor scale or a minor chord preceded by a major scale, the root of the chord corresponded to the sixth note of the scale (submediant), whereas when there was no modality shift, i.e., major chord preceded by a major scale or minor chord preceded by a minor scale, the root of the chord and the first note of the scale were identical, i.e., tonic. Nine musically trained subjects participated in the experiments. The perceptual stability of the chords judged by the subjects decreased for the submediant chords in both major-minor and minor-major conditions. Enhanced amplitude of N1m and P2m peaks was observed in the left hemisphere in the responses to the submediant (minor) chords preceded by the major scale.

 

(51) 異なる音階構造を持つ音列聴取時のMEG計測

前島克也1),柴 玲子2),根本 幾1,2)
1) 東京電機大学大学院 情報環境学研究科 情報環境デザイン学専攻
2)東京電機大学 先端工学研究所)

 本研究では,長音階でできた音列の認識および調性構造が定まりにくい音列の認識の違いについて調べるため,音列中の楽音変化による脳磁界 (MEG) のミスマッチ反応 (MMF) を比較検討した。1オクターブの楽音を用い,Krumhanslらの研究で示された音階層のモデルを基に,ハ長調を構成する6音の音列と,この音列の一部を半音変化させた,調性を定めにくい音列を作成した。それぞれの音列を被験者の両耳に繰り返し提示し誘発MEGを平均加算で求めた。その際0.2-0.25の確率で第6音を変化させMMFを求めた。聴覚誘発反応が最も大きく計測された右側頭の測定点でのMMFを比較したところ,調性を定めにくい音列聴取時のMMFの方が小さい傾向が見られた。この傾向は被験間でほぼ共通して観察され,調性構造の存在が音列認識を容易にすることが脳活動上に現れたものと考えられる。

 

(52) 音色のカテゴリー知覚の聴覚誘発N1m潜時への反映

水落智美1),湯本真人2),狩野章太郎3),伊藤憲治4),山川恵子4),加我君孝1,3)
(東京大学大学院 医学系研究科 1) 感覚・運動神経科学 2) 病態診断医学
3) 耳鼻咽喉科学 4) 認知・言語医学)

 音色の定常的な要素であるスペクトル包絡の違いが聴覚誘発磁場に与える影響を調べるため,3つの音色 (vocal, instrumental, linear) のスペクトル包絡と,2つの基本周波数(F0) 以外は音響要素が全て一致した24種の複合音を無視条件下で両耳提示し誘発されるN1mのピーク潜時と,その後極小となる潜時をオフセット潜時として解析した。この結果,ピーク潜時,オフセット潜時共にvocal音ではF0非依存性が,instrumental音及びlinear音ではF0依存傾向がみられた。また,ピーク潜時には音色ごとの差は認められなかったが,instrumental音に対するオフセット潜時はlinear音に対するものより有意に長かった。以上より,同じ複合音でもスペクトル包絡の違いにより聴覚情報処理に要する時間は異なり,その過程はN1mのピークからオフセットまでの長さに反映されると考えられた。

 

(53) 情緒的音声聴取時における早期聴覚情報処理過程;男女差に関する検討

矢倉晴子1,2,3),岩木直3),中川誠司3),外池光雄3,4),荻野 敏2)
1) 情報通信研究機構未来ICT研究センター バイオICTグループ脳情報プロジェクト
2)大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻
 3)独立行政法人産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門
4)千葉大学工学部メディカルシステム工学科)

 発話理解時における脳活動の性差が多く報告されているが,怒りや悲しみなどの音声の情緒的な特徴 (Emotional Characteristics : EC) 認知に関与する脳活動の性差についてはほとんど言及がない。そこで我々は,音声におけるPositiveとNegativeの2種類の感情的特徴 (EC) に注目する課題を,男性8名(平均26歳)・女性7名(平均25.6歳)に対して行い,神経活動を脳磁界計測 (MEG) により測定した。解析は,男性と女性の聴覚誘発信号を (p50m,N1m),T-testにより検定した。その結果,女性は男性よりも有意に早く聴覚P50m成分が誘発されることを検証した(右聴覚野,Latencyfemale>Latencymale, p=0.0003)。本研究により,情緒的音声理解時の神経活動の非常に早い段階において,音声のECへの注意による性差が生じていることを示唆した。

 

(54) 音の特徴の情報処理に音楽経験が与える影響の検討

小野健太郎1),中村昭範1),吉山顕次2),錦古里武志1),文堂昌彦3),伊藤健吾1)
1)国立長寿医療センター研究所 長寿脳科学研究部 2)国立長寿医療センター病院 精神科
3)国立長寿医療センター病院 脳神経外科)

 音楽の3要素として音の高さ・リズム・和音が知られているが,これらの特徴を処理する際の脳内メカニズムや音楽経験が与える影響については不明な点が多い。今回我々は,10年以上の音楽経験者と特別な音楽経験を持たない成人を被験者として,ピッチ・リズム・和音・音色という4種類の音の特徴における脳内処理過程に音楽経験が与える影響を検討した。Oddball課題を用いてそれぞれの特徴におけるミスマッチ反応(MMF) を74ch dual head 型MEGを用いて測定したところ,音楽経験の有無に関わらずそれぞれの特徴に対するMMFピークの潜時は左右半球で異なり,左半球では特徴間に潜時の違いが見られた。また,音楽経験者では左半球のMMFが右に比べて大きな傾向がみられたが,未経験者では逆に右半球の反応が大きな傾向が見られ,音楽経験が自動的な音の特徴処理に影響を与えていることが示唆された。

 

(55) フレーズの変化の認識に対応する誘発脳磁界の研究 −変化のタイプとの関係

平井一弘1),柴 玲子2),根本 幾1,2)
1) 東京電機大学大学院 情報環境学研究科 2)東京電機大学 先端工学研究所)

 本研究では,フレーズの輪郭について単調関係の定義を与え,その定義に基づいて,輪郭変化を認識する際の脳活動をMEGにより計測した。実験課題は,基本フレーズと,続けて呈示される試験フレーズが同じフレーズかどうか判断する課題で,試験フレーズには(1) 同一フレーズ,(2) 単調変化(輪郭一致),(3) 非単調変化(輪郭不一致)の3種類を作成した。その結果,聴覚誘発反応が最も大きかったチャネルのMEG信号について,非単調変化させた楽音呈示後120ms付近に,単調変化よりも有意に大きい振幅が観察された。この活動の信号源の位置は,試験フレーズのタイプによらず一定であった。被験者の平均課題正答率は,上記のフレーズのそれぞれについて(1)59%,(2)54%,(3)90%であり,輪郭変化によってフレーズの違いを認識していたと考えられる。これは,輪郭変化認識に必要な脳活動を捉えたものと考えられる。

 

(56) バースト長を変えたときの音列のテンポ認識とそれに伴うN1mの計測

笹本貴宣1),柴 玲子2),根本 幾1, 2)
1) 東京電機大学大学院情報環境学研究科 2) 東京電機大学先端工学研究所)

 我々はテンポの認識に音列の時間間隔だけでなく音の長さも影響すると考え,刺激の間隔(SOA)が一定で1音の長さ(duration) が異なる5種類の音に対する,心理実験と脳磁界計測を行った。心理実験は一対比較法を用いた。心理実験1ではSOAを500msとし,5種類の音の長さに対するテンポのとりやすさを-2から+2の5段階評価で判断した。心理実験2ではSOA500msの標準刺激5-6音に1回の割合で刺激呈示感覚を400msとした逸脱刺激を呈示し,テンポのずれの感覚を5段階評価で判断した。脳磁界計測は心理実験2と同様のタスクを使用した。標準刺激に対しては,音の長さが50msの時にN1m成分振幅が最大となり,心理実験でのテンポのとりやすさも最大となった。逸脱音に対しては,N1m成分振幅の脳活動,テンポのずれの感覚を判断する心理評価ともに音の長さによる違いは認められなかった。

 

(57) 聴覚皮質にみられる確率共鳴現象

田中慶太,川勝真喜,根本 幾(東京電機大学)

 確率共鳴現象とは,微小信号が外部雑音と共鳴して,確率的に増幅し,かつその増幅率を最大にする最適雑音強度が存在する現象である。本研究は,聴覚皮質における確率共鳴現象の存在の有無を確認するため,刺激音であるAM変調音(変調周波数40Hz,搬送周波数1kHz)の雑音対信号比(N/S) の違いによる40Hz成分脳磁界聴性定常応答(ASSR) を計測した。その結果,ASSRの刺激に対する位相同期は,すべての被験者でN/S=0(AM変調音のみ)時に比べ,わずかな雑音混入時により強い同期を示した。この結果は,ASSRの発生に最適雑音強度が存在することを示唆しており,ヒトの聴覚皮質における確率共鳴現象を表す。

 

(58) 示指伸展運動時における運動誘発脳磁界第二成分について

大西秀明1),相馬俊雄1),大山峰生1),亀山茂樹2),大石 誠2),黒川幸雄1)
1) 新潟医療福祉大学医療技術学部 2) 独立行政法人国立病院機構西新潟中央病院)

 自発運動を行うことにより運動準備磁場,運動磁場,運動誘発磁場第一・二・三成分 (MEF I・II・III) から構成される一連の運動関連脳磁界を計測することができる。運動直後のMEF I は大きな振幅を示し,電流発生源についても多くの議論が行われている。一方,MEF II およびIIIについての報告は少なく,波形の意義や電流発生源については明らかでないのが現状である。本研究の目的は,示指伸展運動時に誘発されるMEF IIの意義を検討することである。対象は健常男性7名である。脳磁界計測にはNeuromag306を用い,3種類の示指伸展運動時(通常の示指伸展,強負荷での示指伸展,可動範囲が小さい示指伸展)における脳磁界を計測した。示指伸展運動は5秒間に1回程度の頻度で自発的に行い,運動関連脳磁場波形を50回以上加算平均処理した。その結果,可動範囲が小さい示指伸展運動時においてMEF IIは最も大きな振幅を示すことが判明した。

 

(59) ニューロイメージングPF構想(ニューロインフォマティクス)

鈴木良次1),仁木和久1),藤巻則夫1),正木信夫1),市川一寿1),臼井支朗2)
1)NIMG-PF 委員会 2)RIKEN BSI NIJC)

 ニューロイメージング・プラットフォーム (NIMG-PF)委員会では,日本各地の研究拠点の幹事と十数名の委員により,神経情報基盤センター (NIJC) の下で,脳イメージングに関するニューロインフォマッテクス (NI)・プラットフォームのH19年度公開を目指して準備を行っており,会員の協力を仰ぐために内容を紹介したい。既にfMRI等に関するニューロイメージングのNIサイトが世の中に存在することから,当NIMG-PFでは,NIJC共通のNIシステムであるXooNIpsを利用して,MEGを含む各種ニューロイメージングとその統合化手法を扱う。この方針のもとで,テュートリアル情報,網羅的でなく主要な論文や生データ等の論文関連情報,表示・検索に便利な可視化・モデル・ツールなどの手法を収集し独自なNIを構築する。また世界のNIに対するポータルサイトとして研究関連情報にリンクする予定である。

 

(60) 力操作時の非協調的視覚変化に伴う擬似的力感覚生成過程の基礎的検討

青山 敦1),遠藤博史2),本田 敏1),武田常広3)
1) 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 2)産業技術総合研究所
3)東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

 脳磁場解析によって操作力と視覚変化の非協調性に伴う擬似的な力感覚生成過程の基礎的検討を行った。力操作においては,加力量に応じてスクリーン上に呈示された正方形のカーソル速度が協調的に変化するような一方向性のスティック型力量計を開発し使用した。被験者には,右示指での加力によって右視野に置かれたカーソルを左視野のターゲット位置に一定速度で移動させるよう指示した。この協調動作中にカーソルが予測に反して右方向へ移動した際に,加力量が不変にもかかわらず内的な力感覚が付加的に生じ,視覚変化後100ms付近から一次体性感覚野の活動増大が観測された。一方で変化が予測可能な場合には,このような感覚も皮質活動も存在しなかった。従って協調状態においては,予測不可能な視覚入力変化によって体性感覚情報処理を早期に駆動でき,この処理過程が擬似的な力感覚生成に深く関わっていると考えられた。

 

(61)脳磁界応答から見た運動感覚が運動イメージ想起に与える影響

林 紘章1),古田大祐1),作山 努1),小谷賢太郎1),堀井 健1),中川誠司2),山田 誠3)
1) 関西大学大学院工学研究科 2) 独立行政法人産業技術総合研究所
 3大阪医科大学)

 近年,運動イメージは,随意運動が困難な者でも可能であり,運動能力の向上に有効であることから,リハビリテーションに応用することが検討されている。リハビリテーションの一つであるミラーセラピーは,実際に動かしていない肢位に運動感覚を付加し,明瞭な運動イメージを支援する治療法であると考えられている。しかし,未だ明瞭な運動イメージが運動感覚によって支援されているのか明らかではない。運動イメージをより明瞭に行うほど運動関連領野において脳活動強度が強くなるといった報告より,本研究では,健常者11名に対して運動イメージ時と運動感覚を付加し運動イメージを行った時の脳磁界応答を計測した。運動関連領野におけるRMS解析結果より,運動感覚を付加し運動イメージを行った時の脳磁界応答の活動強度が高いことがわかった。以上より,運動感覚が明瞭な運動イメージを支援している可能性が示唆された。

 

(62)機能的MRIを用いたヒトの嗅覚と味覚の脳活動に関する研究

宇野富徳1),三分一史和2),外池光雄2),町 好雄3),小谷 誠3)
1) 東京電機大学工学研究科 2) 千葉大学工学部 3) 東京電機大学工学部)

 ヒトの嗅覚及び味覚に対する脳機能研究はMEG,fMRI,PET等を用いて主に嗅覚・味覚中枢の部位同定等が行われているが,知覚後の認知,判断,記憶といった高次脳機能についてはまだ十分に解明されていない。筆者らは簡易型の嗅覚刺激装置および味覚刺激装置を試作し,fMRIを用いて匂い刺激と味刺激に対する各々の脳活動を計測し,これらの中枢部位の同定と相互の関連性についての検討を行った。提示刺激は嗅覚実験では果物の匂いを,味覚実験は柑橘類の味溶液を用いた。SPMでの解析の結果,嗅覚実験では主に梨状前皮質,梁下野,鈎,味覚実験では主に島皮質,扁桃体等に賦活が認められた。また,嗅覚刺激と味覚刺激に共通して梁下野,島皮質,側頭極等の賦活も認められた。これについては,味溶液に含まれるフレーバー成分が発生する匂いの知覚による脳活動によるものと考えられ,匂いと味の関連性についての考察も行う。

 

(63)ガムチューイングが短期記憶獲得時のq 波活動に及ぼす影響

堂脇可菜子1),小野弓絵2),石山敦士3),小野塚実2)
1) 早稲田大学大学院理工学研究科 2) 神奈川歯科大学生理学
 3) 早稲田大学理工学術院)

 本研究ではSternberg Taskの遂行時のMEGデータから短期記憶の遂行に関連して発生するJ波成分を抽出し,その強度の時間変化と頭表における空間的分布について調べた。社会の高齢化に伴い認知症の予防への関心が高まっている。近年のfMRIの研究により咀嚼活動(ガムチューイング)が空間認知や短期記憶の獲得時に活動する海馬や頭頂連合野,前頭前野の賦活を増大させることがわかってきており,認知症の予防法として注目されてきている。本研究と同様の測定をした先行研究より,短期記憶課題を行っているときに特徴的に現れる前頭葉のq 波活動の強度を指標とすることによって,ガムチューイングが短期記憶活動に与える影響について調べられると考えられる。本実験では5人(22〜29才の男女)の被験者が実験に参加した。短期記憶課題の合間にガムチューイングを行うと前頭葉のq 波が減少し,記憶活動を円滑に行えるようになることがわかった。

 

(64)小脳経頭蓋磁気刺激によりヒラメ筋に誘発される筋電位への
前庭系賦活の効果
〜視運動性眼振を用いて〜

藤原暢子1),崎原ことえ1),平田雅之1,2),柳星伊1),荒木俊彦1)
魚川江津子1),梅川夕佳1),甲津彩子1),依藤史郎1)
1) 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学
 2) 大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科学)

【背景】我々は左小脳TMSにより左ヒラメ筋に誘発される約100msの長潜時筋電位を見出し(Sakiharaら,2003),この経路を明らかにするため,前庭脊髄路に注目した。

【目的】視運動性眼振を用いて前庭脊髄路の起始核である前庭神経核を賦活した条件下で,小脳TMSによる筋電位の影響を検討した。

【方法】健常者にactive刺激(縦縞が角速度10º /s及び30º /sで右に移動する画像),control刺激(固視点・静止画)を呈示し,立位でUgawaら (1995) に準じた小脳TMSによる誘発筋電位を30回加算平均した。

【結果】固視点と10º /s及び30º /s,静止画と30º /sの比較で,activeはピーク潜時が有意に短縮した (p<0.01)。

【考察】小脳TMSで誘発される筋電位の潜時が,前庭神経核を賦活する条件下で有意に短縮したことから,この誘発筋電位に前庭脊髄路が関与していると考えられた。

 

(65)刺激部位の違いによる経頭蓋磁気刺激時の誘発脳波計測

佐藤秀之1),有松 孟1),葛 盛1),上野照剛2),伊良皆啓治1)
1) 九州大学大学院システム情報科学研究院 2) 九州大学大学院工学研究院)

 本研究では,経頭蓋磁気刺激直後の脳波を全頭で測定し,脳波マッピングを求めることで脳神経ネットワークを解析している。脳波は,Sample and Hold 回路を導入した脳波計を使用することによりアンプの飽和状態を防ぎ磁気刺激時のアーチファクトを大きく減らした。刺激部位を変化させたときのトポグラフィーを比較し神経伝達の特徴を調べた。刺激後10msくらいまでは,まだアーチファクトの混入が見られるが,その後,脳波の変化が測定されている。トポグラフィーより左右間での刺激の伝播の様子がわかる。また,刺激部位の変化による伝播の様子の変化も観察された。ここでは,刺激部位の変化による活動電位の伝達パターンを示した。また,大脳の刺激と小脳の刺激の反応の違いを示した。

 

(66)全力暗算時における局所脳律動変化
〜そろばん熟練者と非熟練者の比較〜

木曽加奈子1),平田雅之1) 2),魚川江津子1),崎原ことえ1),依藤史郎1)
1) 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学
 2) 大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科学)

 かけ算の全力暗算時における脳律動変化から,脳内計算処理過程を明らかにすることを目的とし,そろばん熟練者と非熟練者を比較した。被験者が3秒間で計算できるレベルの桁数のかけ算を課題として視覚呈示し,黙読暗算させた。解析には開口合成脳磁図(SAM:Synthetic aperture magnetometry) を用いた。その結果,非熟練者と熟練者の双方で右頭頂間溝・右上頭頂小葉と両側後頭葉に脱同期反応を認めた。また非熟練者に特異的に左前頭前野内側に同期反応を認めた。また熟練者に特異的に両側感覚運動野の脱同期反応と左側頭葉の同期反応と後頭葉の同期反応を認めた。この結果より,非熟練者は両側の頭頂葉を用いて九九をしながら計算処理をおこなうが,熟練者はそろばんの記憶を側頭葉に保管し,感覚運動野でそろばんをはじくイメージをしながら頭頂葉で視空間的に計算処理をおこなうことが示唆された。

 

(67)計算する脳−計算式実行中の脳活動の解析

中村昭範1),ディアース ケアステン1),マエス ブルカード2)
文堂昌彦3),吉山顕次4),小野健太郎1),伊藤健吾1)
1) 国立長寿医療センター 長寿脳科学研究部 3) 同 脳外科
4) 同 精神科 2) マックスプランク認知脳科学研究所)

【目的】計算式の実行に関わるヒト脳活動を時空間的に詳細に描出する。

【方法】健常ボランティア20名を対象に,難易度を揃えた二桁と一桁の足し算または引き算(例78 - 3 = 75)を計算中の脳磁場反応を測定した。計算式の各オペランド,オペレーター及び答えは分離して逐次的に視覚呈示し,答えが正しいかどうかボタン押し反応を行わせた。また,コントロールとして計算の必要のない数字や演算記号の単純な呈示に対する反応も記録した。データは最小ノルム法により脳表電流密度を計算し,SPMにより有意な賦活部位を検討した。

【結果】各オペランド及びオペレーター全てに対して,呈示後約200-400msに左背外側前頭前野が有意に賦活された。これに加え実際の計算が行われるタイミングの「B」提示後約300msには,左右の上頭頂小葉も有意に賦活され,暗算実行には頭頂前頭ネットワークが重要な役割を担っていることが示唆された。

 

(68)三次元脳磁界計測に基づく大脳皮質での複数信号源弁別に関する研究

金 鳳洙,内川義則(東京電機大学理工学部電子情報工学科)

 高感度磁気センサであるSQUID磁束計を用いた生体磁気計測では,外界からの刺激によって誘発される脳内の反応(誘発反応)を計測し,ヒトの感覚,運動,認知などの脳内の情報伝達過程を捕らえる試みが行なわれている。脳磁界 (MEG) 計測において複数の信号源が存在すると複雑な磁界分布が得られ,信号源の数や位置が一意的に決定できなくなるため,様々な弁別法の提案と検討が行われている。著者らは右手の三つの指(親指,薬指,小指)への電気刺激によるSEFを,二次勾配型三次元磁界検出コイルを内蔵する39ch SQUID磁束計を用いて計測した。各SEFに対して特異値分解を適用し,大きい値を示した5つの特異値を用いて再構成したSEF波形より,第1次 (SI) と第2次 (SII) 体性感覚活動の弁別を行った。さらに,時間‐周波数解析と信号源推定を用いて薬指のSEFにおける複数信号源の弁別について検討したので報告する。

 

(69)N1m振幅などに含まれる乗法的な個人の効果を前処理で除去したデータの分散分析について

根本 幾(東京電機大学情報環境学部)

 誘発脳波や脳磁界の各成分の振幅には,刺激に対する被験者の感度や,信号源とセンサーとの位置関係などに起因する,乗法的な個人の効果が含まれていると考えられる。通常の分散分析では加法的な効果のみを扱っているので,乗法的な効果を除去する前処理法を提案した。本報告はその続報である。理論的な面に関しては,前処理後に繰り返しのない二元配置分散分析を行う場合のF値と,それに伴う多重比較に用いられるStudent化された範囲qの分布について興味ある結果が得られた。また,シミュレーションによると,実験条件数が少ないほど提案した方法の効果が大きいことがわかった。従って,いわゆるpaired t検定(実験条件数2)の前に本前処理を施すと,モデルが正しい場合には,大きな効果が得られることが分かった。

 

(70)MEGトポグラフにおける統計的有意な活動の抽出方法の開発

岩井裕章,豊福哲郎,三分一史和,外池光雄(千葉大学大学院 工学研究科)

 MEGでは様々なアーチファクトに起因するノイズや脳波の背景信号を相殺させるために加算平均法が用いられている。しかしこの方法は平均値のみの議論であり,背景の分散構造を考慮しない上,統計学有意性を客観的に評価できない。また,刺激の位相に同期しないinduced potentialも相殺されてしまい,その抽出を行うことができないという問題点がある。本研究ではwavelet変換を用いた時間−周波数領域における統計解析においてevoked potentialならびにinduced potential の抽出と統計的評価の可能性をシミュレーションならびに実データ解析において示した。

 

(71)脳内信号源推定における遺伝的アルゴリズムパラメータの最適化

佐々木貴志1),嶋田裕介1),安斉和久1),及川敬敏1),葛西祐介1)
斎藤 優1),石山敦士2),渡邊 裕3),葛西直子4)
1) 早稲田大学大学院理工学研究科 2) 早稲田大学理工学術院
3) 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座 4) 産業技術総合研究所)

 MEGデータを用いた脳内の複数信号源を精度よく推定するためのアルゴリズムである遺伝的アルゴリズムは,大域的探索性に優れた確率的探索法で,また探索時間も比較的短いという利点があるが,初期に設定するパラメータが推定解に大きな影響を与えるという特徴をもつ。そこで本研究では,遺伝的アルゴリズムのパラメータの最適な値をシミュレーションによって検討した。また,実データとして聴覚誘発MEGデータによる信号源推定を行い,シミュレーションによる結果との比較を行ったので本報告する。さらに,遺伝的アルゴリズムとシミュレーテッド・アニーリングを組み合わせた手法とも比較・検討したので合わせて報告する。

 

(72)MEG計測へのカルマンフィルタの応用

宇野 裕,武田常広(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻)

 生のMEGデータは一般にS/Nが悪く,1トライアルデータでは有意な脳活動情報が取り出せない場合がほとんどである。これを改善するため,現在は数百トライアル分のデータを加算平均することでS/Nを改善している。データ取得のコスト削減とMEGデータの時間情報精度の劣化を防ぐ目的で,カルマンフィルタを応用したMEG計測データのノイズリダクションが先行研究(Okawa et al., 2005)において提案されている。カルマンフィルタとは,与えられた制約条件のもとで誤差の分散を最小とする推定値を得るフィルタである。カルマンフィルタは,1960年代にKalmanによって提案されてから,航空・宇宙分野での応用をはじめ,現在では様々な分野で利用されている。本研究では,このカルマンフィルタを実際に構成し,フィルタ構成時の問題点・ノイズリダクションの性能・応用上の問題点等について検討した。

 

(73)チホノフの正則化を用いたMEG信号源推定

斎藤 優1),及川敬敏1),葛西祐介1),石山敦士2),渡邊 裕3),葛西直子4)
1) 早稲田大学大学院理工学研究科 2) 早稲田大学理工学術院
3) 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座 4) 産業技術総合研究所)

 本研究の目的は,チホノフの正則化による信号源推定は,最小二乗法による信号源推定よりも雑音耐性があるかを検討することである。今回,チホノフの正則化における正則化パラメータを定量的に選択する方法として,P.C.HansenのL-カーブ法を適用した。聴覚誘発MEGに対してL-カーブ法を適用し,チホノフの正則化におけるパラメータ選択法の妥当性を検討したので報告する。さらに,加算平均回数を変化させることにより作成したS/Nの異なる聴覚誘発MEGデータに対して,チホノフの正則化を用いて信号源推定した場合と,用いずに信号源推定した場合を比較することで,チホノフの正則化には雑音耐性があるか比較検討を行ったので合わせて報告する。

 

(74)誘発脳磁界計測データを用いたアダプティブ,及び,
ノンアダプティブな空間フィルターの比較

長野雅実1),田中博昭2),関原謙介1)
1)首都大学東京大学院 システムデザイン学部 2)横河電機 ライフサイエンス事業部)

 本研究では,アベレージデータ,Rawデータからそれぞれ計算した共分散行列を用いたアダプティブな空間フィルター,そして共分散行列を用いないノンアダプティブな空間フィルターの3種類を用い,2種類の実験のデータを解析することにより再構成結果の比較を行った。1つ目の実験は,6人の被験者に対し,右手首の正中神経を電気刺激することにより得られた体性感覚誘発脳磁界データ,2つ目の実験は,7人の被験者に対し,トーンバースト音を聞かせた場合の聴覚誘発脳磁界データである。そして,比較を行った結果,体性感覚誘発脳磁界データに対しては,アベレージデータより計算した共分散行列を用いたアダプティブな空間フィルターが空間分解能の点で最も優れており,聴覚誘発脳磁界データに対しては,ノンアダプティブな空間フィルターならば全センサーの測定データを用いても正確な再構成ができるという結果を得た。

 

(75)Beamformerによる時間相関を持つ複数信号源推定

及川敬敏1),木村壮志1),斎藤 優1),葛西祐介1)
石山敦士3),渡邊 裕2),葛西直子4)
1)早稲田大学大学院理工学研究科
 2)東京歯科大学オーラルメディシン 口腔外科学講座
3)早稲田大学理工学術院 4)産業技術総合研究所)

 Beamformer法は,複数信号源の位置や強度の変化を時間的に緩やかな変化として推定できる逆問題推定手法である。しかし,時間的な相関を持った複数信号源を推定する際に,推定解が悪化する欠点がある。そこで当研究室では,データ共分散行列から信号空間固有ベクトルを分解することで時間相関成分を除去する手法を考案した。固有ベクトル分解の際に逆問題解析を行うが,優決定手法では先見情報として信号源数を把握する必要がある。そのため前報では,劣決定手法であるL2ノルム最小化法を用い,シミュレーションデータに適用したが,ノイズによる空間分解能の悪化が明らかになった。そこで,ノイズの影響を軽減させるために,前処理として特異値分解を行ったL2ノルム最小化法を導入した。シミュレーションデータに適用した結果,前報の手法に比べ,より精度良く推定できた。また,実験データにも適用し,実用性を確認したので報告する。

 

(76)平面型グラジオメータの等磁場線図

橋詰顕,栗栖薫,飯田幸治,花谷亮典,白水洋史
(広島大学大学院先進医療開発科学講座脳神経外科)

 Elekta-Neuromag社のマニュアルには平面型グラジオメータから等磁場線図をどのように作成されるのかの簡単な記述があるのみで詳細は不明である。そこで具体的にどのようなアルゴリズムで平面型グラジオメータの情報から等磁場線図が作図されているかについて試行錯誤を行なったところ,Elekta-Neuromag社の呈示する等磁場線図様の図を作成することが可能となったので,そのノウハウを公開する。

 

(77)電流双極子を2等辺3角形コイルで表現したファントムの試作

上原 弦1),橋本 勲1),湯本真人2),田中博昭3)
木村友哉3),成田憲道3),宮本政和1),足立善昭1)
1)金沢工業大学 2)東京大学 3)横河電機)

 MEG装置の性能を評価し維持するためには,評価標準となるべきSarvasのモデルを模すファントムが必要であると考えられる。従来,Sarvasのモデルを模すものとして,生理食塩水で満たされた球形の容器の中に電流双極子の電極を配置したものが多く使われてきたが,我々は,このタイプには,電気二重層の電気分解による非線形性の問題などがあることを明らかにしてきた。一方,Ilmoniemiらの2等辺3角形コイルの頂角対辺を無限小にしたタイプのファントムは,電流駆動の線形性が保証されており,評価標準として良い候補であることに着目し,頂角対辺を有限の5mmにすれば発生する磁場はSarvasのモデルと誤差0.2%で一致することを示した。今回はこのコイルを実際に製作し,発生する磁場をMEG装置で計測して電流双極子の位置とモーメントを計算し,それらの精度の分析を行ったのでこれについて報告する。

 

(78)心磁界計測データーからの信号源推定

組橋 勇1),緒方邦臣2),神鳥明彦2),関原謙介1)
1)首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 2)日立製作所 基礎研究所)

 心疾患の診断のため心臓での電気生理学的活動を可視化することが求められている。本研究では心磁界計測によって得られる磁場分布から,空間フィルタにより電流源分布を3次元的に再構成し可視化する。心磁界計測には平面に配置された心磁計を用いて身体正面と背面から行うことを仮定し,空間フィルタはminimum-norm filterとspatial matched filterそしてsLORETAを用いその再構成結果を比較した。さらに再構成を行う空間を心臓モデル表面に制約し,制約の有無による再構成結果の比較を行った。

 

(79)人とサルの心臓磁場の比較

宗行健太1),塚田啓二1),関 悠介2),神鳥明彦2),揚山直英3),寺尾恵治3)
1)岡山大学大学院 自然科学研究科 2)(株)日立製作所 基礎研究所
3)医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)

 現在,心臓や脳の疾患を診断する方法の一つとして,超伝導量子干渉素子(SQUID)を利用した手法が注目されている。特に心磁計は心電計に比べ,微小電位による感受性が高い,体表面での多点計測が可能といった数多くの利点を有している。本研究では,実験用サル類を対象として心磁計測を行った。これにより,人の前臨床試験に最も適しているサル類の健常値を人のそれと比較し,その違いを明らかにすることを目的とした。サル類の心電図はヒトに比べて体が小さいが故に胸部誘導が困難であり,さらには低電位でもあるため,雑音に埋もれ易く診断も困難である事が多いが,心磁図ではその有意差を確認することができた。今回の測定により,QRS幅,PQ間隔,RR間隔はともに人の健常値に比べて半分程度であることがわかり,また,サルの雌雄の有意差も確認することができた。

 

(80)高ダイナミックレンジ・広帯域型FLL回路の開発
−その1 回路設計とシミュレーション−

小林宏一郎1),小山大介1),吉澤正人1),内川義則2)
Simon Hattersley 3),Quentin Pankhurst3)
1)岩手大学 工学部 2)東京電機大学 理工学部 3)University College London)

 近年,生体磁気計測の臨床応用が進み,安価で使い易い装置開発が求められている。著者らは,磁気シールドルームを必要とせず,ベッドサイドで動作可能な高感度ワイドレンジ型SQUID磁束計の開発を行ってきた。しかし,デジタル制御による帯域の制約が問題であった。そこで本報告では,磁気シールドルーム外で安定して動作し,かつ広帯域を実現するため,アナログ・デジタルハイブリッド型フィードバックを用いたFLLを新たに提案する。その1では,回路の設計思想とシミュレーションを用いた特性評価を行い。その2では,実際に試作したハイブリッド型FLLの特性評価と心磁図計測結果について報告する。

 

(81)高ダイナミックレンジ・広帯域型FLL回路の開発
−その2 試作回路の評価と心磁図計測−

小山大介1),小林宏一郎1),吉澤正人1),内川義則2),Simon Hattersley3),Quentin Pankhurst3)
1)岩手大学 工学部 2)東京電機大学 理工学部 3) University College London)

 近年,生体磁気計測の臨床応用が進み,安価で使い易い装置開発が求められている。著者らは,磁気シールドルームを必要とせず,ベッドサイドで動作可能な高感度ワイドレンジ型SQUID磁束計の開発を行ってきた。しかし,デジタル制御による帯域の制約が問題であった。そこで本報告では,磁気シールドルーム外で安定して動作し,かつ広帯域を実現するため,アナログ・デジタルハイブリッド型フィードバックを用いたFLLを新たに提案する。その1では,回路の設計思想とシミュレーションを用いた特性評価を行い,その2では,実際に試作したハイブリッド型FLLの特性評価と心磁図計測結果について報告する。

 

(82)小動物生体磁気計測装置におけるノイズキャンセリング

宮本政和1),河合 淳1),足立喜昭1),駒村和雄2),上原 弦1)
1)金沢工業大学 先端電子技術応用研究所 2)国立循環器病センター研究所 循環動態機能部)

 生体磁気計測では,設置環境からの雑音の影響を最小限に抑えることはデータの効率的な収集および実験の再現性の面から重要な要素である。我々は現在開発中の小動物用生体磁気計測装置において,リファレンスセンサから得られる環境雑音信号をSQUIDセンサのフィードバックコイルに直接フィードバックすることで計測時にリアルタイムでノイズキャンセリングを行う回路を組み込んだ。同回路を用いて実際の使用環境における効果を確認したところ,ハムノイズとその高調波において15dB程度のノイズキャンセリング効果があることが確認された。また,リファレンスセンサと生体磁場信号検出用センサ間での外部環境磁場に対する周波数特性の違いがあることを確認した。この周波数特性の差は外部環境磁場の信号源位置によっても変化することが確認された。

 

(83)75ch SQUID頚部脊髄誘発磁場計測システムの開発

足立善昭1),宮本政和1),河合 淳1),上原 弦1),尾形久直1)
川端茂徳2),富澤將司2),友利正樹2),佐藤朋也3)
1)金沢工業大学 先端電子技術応用研究所 2)東京医科歯科大学 整形外科
3)首都大学東京 システムデザイン学部)

 非侵襲的な脊髄機能診断の確立をめざした脊髄誘発磁場計測システムを開発した。開発した計測システムはセンサアレイとデュワに大きな特徴がある。SQUIDセンサアレイは磁束伝達型の低温SQUIDを適用した25個のベクトル差分型磁束計を装備し,約80mm×90mmの観測領域において,体表面に対して法線方向と接線方向の磁場を同時に観測可能である。センサアレイは被験者の頚部形状に適合するように緩やかな円筒面を有している。円筒状の液体ヘリウム容器の側面からセンサ格納部が突き出た特殊な形状を有するデュワを開発した。この構造は座位の被験者の頚部後方にセンサを近づけるのに適している。センサ面のcool-to-warm距離は7mmである。計測システムの性能確認のために,健常被験者の手首正中神経刺激にともなって誘発する磁場信号を頚部にて観測した。後シナプス電位,活動電位に由来する磁場を検出することができた。

 

(84)高精度TMS刺激部位解析システム

樋脇治,井上朋紀,池田太郎(広島市立大学大学院情報科学研究科)

 経頭蓋磁気刺激(TMS)において脳の刺激部位を正確に特定できるシステムを開発した。すなわち,大脳皮質の解剖学的特徴と神経線維の磁気刺激における興奮特性を考慮し,脳内に誘導される電界から刺激部位を特定し可視化するシステムを構築した。このシステムは,三次元スキャナと頭部MRI情報から脳の位置を計測するモジュールとメカニカルアームにより刺激用コイルの位置を計測するモジュールを具備している。これらのモジュールを用いて得られる脳内の正確な電界分布をもとにして,脳の表面に垂直な方向の電界分布を算出し,その強度の強い部位を刺激部位として可視化するシステムを開発した。

 

(85)超強磁場MRIにおけるヒト頭部RF電磁場のFDTD解析

関野正樹1),キムドンミン1),上野照剛2),大崎博之1)
1)東京大学大学院新領域創成科学研究科 2)九州大学大学院工学研究院)

 近年,10Tを超える強磁場MRIの開発が議論されており,その磁気共鳴周波数は500MHzに達する。そのような高周波数では,測定対象内部のRF電磁場が複雑な空間分布を示す結果,画像に著しい不均一が生じ,また比吸収率(SAR)が従来装置に比べて増大する可能性が指摘されている。本研究では有限差分時間領域 (FDTD)法を用いた数値解析により,ヒト頭部のRF電磁場分布を求め,画像の信号不均一やSARを評価した。磁気共鳴周波数の上昇にしたがって画像の不均一は顕著になり,500MHzの装置では,脳深部の信号が強く,その周囲が弱く,脳表面付近がやや強い画像となった。また,磁気共鳴周波数の上昇にしたがって頭部平均SARは増加したが,局所SARは複雑な増減を示した。

 

(86)骨再生の実用化に向けた永久磁石磁気回路の検討

齋藤大輔1),斉藤智之1),篠原 肇1),青木雅昭2),小谷 誠1)
1)東京電機大学 2)株式会社NEOMAX)

 骨組織再生には,生体骨の構造と類似させるために強磁場により配向させたコラーゲンゲル中で細胞を培養し石灰化させることが有効であると報告されている。一般に強磁場を得る場合には超伝導磁石を用いるが,現状のまま実用化することは骨作成コストが大きな問題となる。そこでこれまでに本研究では,骨作成コストを低下させるためにコラーゲン配向に必要な磁場強度を検討し,永久磁石でハルバッハ磁気回路を構成することで強磁場発生装置を試作し,コラーゲン配向が得られることを確認した。しかし,ハルバッハ磁気回路を実用サイズに大型化するためには磁石量が大量となり大きさや重量の問題が生じることがわかった。そこで今回は,少量の磁石で強磁場を得ることが可能な磁気回路を検討し,実際に骨組織を作成可能な大きさの強磁場発生装置を作成した。さらに,作成したコラーゲンゲルに骨芽細胞を播種し,永久磁石磁気回路の有効性を検討したので報告する。

 

(87)骨形成に関わる細胞系パターニングにおける反磁性的な磁気作用

岩坂正和, 阿部俊秀, 仲二見信吾(千葉大学工学部)

 培養骨芽細胞および破骨細胞形成系における反磁性的な力学効果が細胞集団の構造形成に与える影響を調べた。最大5テスラおよび12テスラの超伝導磁石空間を用い,地球重力に対する磁気力の重畳環境が骨芽細胞あるいは破骨細胞の成長に与える影響を観測した。磁場下での細胞形態のリアルタイム観察および光学計測を用い細胞動態計測を行った。さらに,細胞構成成分および細胞外マトリックスに作用する反磁性的な磁気トルクによる細胞凝集状態変化についても検討を進めた。骨形成の磁気的支援技術の探索を進めた。

 

(88)中間周波磁界 (2,20kHz) の生物影響評価

池畑政輝,鈴木敬久,吉江幸子,中園 聡,和氣加奈子,早川敏雄
1)(財)鉄道総合技術研究所 環境工学研究部
 2)(財)電力中央研究所 環境科学研究所
3)首都大学東京 都市教養学部 4)(独)情報通信研究機構 第三研究部門)

 インバータなどに用いられる中間周波(2及び20kHz)の電磁界に関して,その安全性の基礎的な知見を得るため,特に変異原性に着目し評価をおこなった。マウスリンフォーマ細胞L5178Y TK+/-3.7.2c細胞を培養後,磁界曝露群,対照群,陽性対照群(メタンスルホン酸メチル処理)の3群に分けて処理をおこない,突然変異頻度を求めた。磁界曝露には樹脂製の炭酸ガスインキュベーターと平面コイルを組み合わせた曝露装置を製作し,周波数2および20kHz・磁界強度最大約800mTの磁界を曝露した。その結果,対照群と磁界曝露群の間には有意な突然変異頻度の差は認められなかった。また,コロニーの形成についても両群で差異は認められなかった。したがって,本研究で検討した磁界曝露の条件では,中間周波磁場はMLAで検出される種々の突然変異(点突然変異,染色体レベルの変異)誘発能を持たないことが明らかとなった。

 

(89)磁気誘発筋電図による施灸効果の検出

千葉 惇,生塩研一,稲瀬正彦(近畿大学医学部生理学1)

 We demonstrated a technique in which the magnetic pulse stimulation of the, rat spinal nerves to cause a spinal reflex is measured after moxibustion. Magnetic stimulation was produced by a figure eight coil over the L4-L5 vertebrae that had a maximum magnetic strength of 2.2 Tesla were recorded from the gastrocnemius and tibialis anterior muscles EMGs. The maximum temperature produced by the indirect application of moxibustion was 65±2℃ on the skin, and 45±5℃ in the subcutaneous layer. Moxibustion was administered indirectly on the dorsal epidermis at L4-L5 on the supraspinal column. Magnetic stimulation at theL4-L5 vertebrae generated 3 response waves: M (1.1 msec), H(3.7 msec) and F (1.8 msec) waves. After moxibustion, H-slopes (Hslps) in both the two muscles were larger than those before moxibustion. The Hslp ratio of' the tibialis anterior muscle was larger than that of the gastrocnemius muscle. The increase in Hslp/Mslp on the gastrocnemius muscle after moxibustion was larger than that of the tibialis anterior muscle. The facilitating effects of moxibustion on the H-reflex suggest the elevation of the excitatory state in the spinal reflex.

 

(90)交番磁気刺激による神経栄養因子産生の促進:
アルツハイマー型痴呆等脳疾患の治療の可能性

木下 香,角田浩一,谷崎綾美,木下 巌,西 光晴
(株式会社メディカル・アプライアンス 技術開発センター)

【目的】我々は,交番磁気刺激による脊髄のアストロサイト増殖を報告した。これを応用し,脳由来アストロサイトで神経栄養因子が産生促進されるかを検討した。

【方法】生後8日マウスの脳からアストロサイトを分離培養し,約1マイクロTの交番磁界(20M〜1GHz)を60分間照射した。その培養ろ液をPC12細胞に作用させ,神経突起の伸展を観察した。また細胞内Ca濃度,mRNAの定量も行った。

【結果】磁気刺激群は対照の約3倍の陽性率であり,周波数の特異性も確認された。また約50%の細胞でCa濃度上昇がみられた。以上の結果から磁気刺激によるアルツハイマー型痴呆等の神経変性疾患,うつ病などの脳疾患の治療の可能性が示唆された。

 

(91)大腸菌SOD欠損株の遺伝子変異誘発に基づく定常磁場の影響評価

吉江幸子,池畑政輝,早川敏雄
((財)鉄道総合技術研究所 環境工学研究部 生物工学)

 強磁場曝露と酸化ストレスの関係を検討するため,Superoxide dismutase (SOD)遺伝子を欠損する大腸菌QC774株を用いて,定常強磁場 (SMF) の変異原性ならびにSMFと同時に活性酸素種を発生するPlumbaginとの同時曝露によるSMFの助変異原性を評価することを目的とした。Plumbagin (0,25,50mM) を含むLB培地に懸濁したQC774株に対し,SMF (5T) を24hr,37℃条件下にて曝露し,Thy-変異体を検出することにより,遺伝子変異誘発への影響を調べた。この結果,Plumbaginとの同時曝露によるSMFの助変異原性は認められなかったが,Plumbagin 0mMの場合にSMF曝露系の遺伝子変異率が減少する傾向がみられた。これは,本評価系にてPlumbaginを溶解するため添加しているDMSOが何らかの影響を及ぼしていると推察された。

 

(92)細胞磁界測定法を用いたRefractory Fiberの有害性評価

工藤雄一朗,杉浦由美子,三村剣司,日吉沙千代,
太田悦子,小山美智代,角田正史,相澤好治
(北里大学医学部衛生学公衆衛生学)

【はじめに】本研究では石綿代替繊維の一つである三種のRF (RF1,RF2,RF3) の安全性を検討するため,マウス由来腹腔マクロファージ様培養細胞株RAW264.7を用いて,細胞磁界測定法,LDH酵素測定法,電子顕微鏡による形態学的観察により細胞毒性評価を行った。

【方法】RAW264.7細胞に,細胞磁界測定の指標としてFe3O4を添加し,実験群にはRF1,2,3を各250,500,1000mg/mlとなるように添加し,コントロール群にはPBSを添加した(細胞数25×104個/ml,液量1ml,各群n=6)。48時間培養後,細胞磁界測定では外部より磁化を行った。その後,磁化中止後20分間の残留磁界をフラックスゲート磁束計にて測定した。群毎に平均値を算出し一元配置分散分析で比較した。

【結果・考察】細胞磁界測定及びLDH酵素測定で,RF添加量と細胞毒性の間に量影響関係が認められた。形態学的観察では,RF1,2,3ともにRAW264.7細胞が繊維を不完全に貪食している像が観察された。

 

(93)光酸化を利用したリポソーム内包薬物の放出制御に関する研究

中川秀紀1),松本竜樹1),椎名 毅2),小谷 誠3),上野照剛1)
1)東京大学大学院医学系研究科 2)筑波大学大学院システム情報工学研究科
 3)東京電機大学工学部)

 近年,光と磁界の複合作用に関する研究分野が活発化し,光応答性磁性ベシクルを始めとする多くの人工生体膜モデル(リポソーム)が,細胞レベルでの検討に広く利用されている。一方,常磁性イオンであるラジカルは,生体内における多くの重要な反応に関与することから,生体膜に対しての積極的な利用も期待される。本研究では,ドラッグデリバリーへの応用を目的に,光惹起ラジカルによる膜酸化を利用して,リポソーム内包薬物を放出制御する方法を検討した。膜酸化に伴い変化する脂質分子の流動性を13CT1から評価し,膜曲率および膜透過性の変化は31Pを始めとする多核NMR法によって解析した。その結果,構成脂肪酸の不飽和度のみならず,薬物とともにリポソームに内包したイオン種の違いにより,膜透過性に大きな差異が生じることを見い出した。現在,リポソーム粒径やホスホリパーゼ内包時の影響についても検討中である。

 


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