生理学研究所年報 第30巻
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23.筋・骨格系と内臓の痛み研究会

2009年1月22日-1月23日
代表・世話人:水村和枝(名古屋大学環境医学研究所)
所内対応者:富永真琴(生理学研究所・岡崎統合バイオサイエンスセンター)

(1)
三叉神経因性疼痛モデルによる冷痛覚過敏の解析
浦野浩子,尾崎紀之,篠田雅路,杉浦康夫
(名古屋大学大学院 医学系研究科 機能形態学講座)

(2)
糖尿病性神経因性疼痛を引き起こす因子の同定:
低酸素/高血糖ストレスによるTRPV1活性の増強
柴崎貢志1,2,3,Violeta Ristoiu4,Maria-Luiza Flonta4,富永真琴1,2,3
1岡崎統合バイオサイエンスセンター・細胞生理,2生理学研究所,
3総合研究大学院大学・生理科学,4 University of Bucharest, Romania)

(3)
ラット角膜に分布するTRPV1およびIB4陽性神経について
中川 弘1,樋浦明夫21徳島大学病院小児歯科,2徳島大学歯学部口腔解剖)

(4)
神経根絞扼モデルラットにおける脊髄膠様質細胞の特性変化
寺島嘉紀1,田中 聡2,杉山大介2,川真田樹人2
1札幌医科大学整形外科,2信州大学麻酔蘇生科)

(5)
ガラニンはラット脊髄膠様質における興奮性シナプス伝達を濃度に依存して
二相に制御する
熊本栄一,岳 海源,藤田亜美,中塚映政(佐賀大学医学部 生体構造機能学講座)

(6)
成熟ラット脊髄膠様質におけるPAR-1活性化は興奮性シナプス伝達を促進する
藤田亜美,中塚映政,熊本栄一(佐賀大学医学部 生体構造機能学講座)

(7)
デクスメデトミジン(a2作動薬)の脊髄後角における作用
河野達郎,石井秀明(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 麻酔科学分野)

(8)
パッチクランプ法を用いた脊髄電気刺激による鎮痛機構の解明
中塚映政,谷口 亘,藤田亜美,熊本栄一(佐賀大学医学部 生体構造機能学講座)

(9)
ラット腹膜切開モデルによる術後痛の検討
杉山大介,田中 聡,川真田樹人(信州大学 麻酔蘇生学講座)

(10)
骨格筋,および皮膚侵害受容器活動の加齢による変化
田口 徹,松田 輝,村瀬詩織,太田大樹,水村和枝
(名古屋大学環境医学研究所 神経系分野Ⅱ)

(11)
筋C線維受容器のATPによる機械反応抑制と酸に対する反応の増強
松田 輝,田口 徹,水村和枝(名古屋大学環境医学研究所神経系分野Ⅱ)
林 功栄,尾崎紀之,杉浦康夫
(名古屋大学大学院 医学系研究科機能形態学講座・機能組織学分野)

(12)
ラット持続性筋痛モデルにおける神経成長因子の関与
林 功栄,尾崎紀之,杉浦康夫
(名古屋大学大学院 医学系研究科機能形態学講座)

(13)
遅発性筋肉痛(Delayed-onset Muscle Soreness: DOMS)の脳機能画像
-fMRIによる検討-
柴田政彦1,松田陽一2,住谷昌彦3,植松弘進2,大城宜哲4,小山哲男5,真下 節1
1大阪大学大学院 医学系研究科疼痛医学講座,
2大阪大学大学院 医学系研究科生体統御医学麻酔・集中治療医学講座,
3東京大学医学部付属病院麻酔科,4仁寿会石川病院リハビリテーション科,
5西宮協立脳神経外科病院リハビリテーション科)

(14)
繰り返し寒冷ストレスモデルにおける運動時の筋血流増加の変化
那須輝顕,堀田典生,水村和枝(名古屋大学環境医学研究所神経系分野II)

(15)
痛みによる不快情動生成における分界条床核内コルチコトロピン放出因子の役割
大野篤志1,出山諭司1,2,片山貴博1,山口 拓3,吉岡充弘3,南 雅文1
1北海道大学大学院 薬学研究科 薬理,
2京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解,
3北海道大学大学院 医学研究科 神経薬理)

(16)
神経因性疼痛モデルマウスにおける海馬CA1領域でのグリシン取り込みの増加と
シナプス長期増強現象への影響
兒玉大介,小野秀樹,田辺光男(名古屋市大院・薬・中枢神経機能薬理)

(17)
GPR103の内因性作動物質である26RFa脳室内投与の効果
山本達郎,宮崎里佳(熊本大学大学院医学薬学研究部 生体機能制御学)

(18)
難治性疼痛における一酸化窒素(NO)標的分子の解析
陸 景珊,片野泰代,伊藤誠二(関西医科大学医化学講座)

(19)
抗癌薬オキサリプラチン誘発疼痛のマウスモデルにおける
一次求心線維の自発神経活動の増加
安東嗣修1,プナムガウチャン1,大森 優1,加藤 敦2,佐々木淳1,倉石 泰1
(富山大学大学院医学薬学研究部 1応用薬理学,2付属病院薬剤部)

(20)
ラット脊髄坐滅モデルの疼痛行動とセロトニン2C受容体RNA編集の関与
中江 文,柴田政彦,萩平 哲,高階雅紀,真下 節
(大阪大学大学院医学系研究科 生体統御医学 麻酔・集中治療医学講座,
同 疼痛医学寄附講座)

(21)
マウス帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛の動的触アロディニアにおける
P2X7受容体の関与
佐々木淳,北見紀明,金山翔治,倉石 泰
(富山大学大学院 医学薬学研究部(薬学),応用薬理学)

(22)
神経因性疼痛発症に関与するミクログリアP2X4受容体発現増加のメカニズム解明
豊滿笑加,津田 誠,齊藤秀俊,井上和秀
(九州大学大学院薬学研究院薬理学分野)

(23)
メダカに対するメントールの効果:冷侵害受容器を介する異常遊泳行動と
GABAAレセプターを介する麻酔作用
笠井聖仙(鹿児島大学理学部生命化学科)

(24)
腰椎椎間板ヘルニアにおけるセロトニンとTNF-aの相互作用
小林 洋,関口美穂,加藤欽志,菊地臣一,紺野愼一
(福島県立医科大学整形外科学講座)

(25)
関節炎性疼痛モデルにおけるASIC3の関与
池内昌彦1,Sluka KA21高知大学医学部整形外科,2アイオワ大学)

(26)
骨損傷時の圧痛メカニズムの解析 -神経成長因子の関与-
安井正佐也1,尾崎紀之1,白石洋介1,2,杉浦康夫1
1名古屋大学大学院医学系研究科 機能形態学講座 機能組織学分野,
2日本伝統医療科学大学院大学 統合医療研究科)

(27)
「特別講演」 Translational studies of musculoskeletal pain
Thomas Graven-Nielsen
(Aalborg University, Center for Sensory-Motor Interaction)

【参加者名】
南 雅文(北海道大・薬),寺島嘉紀(札幌医大),矢吹省司,関口美穂,小林義尊,佐々木信幸,小林 洋,上杉和秀,吉田勝浩(福島県立医大),會澤重勝(東京衛生学園),河野達郎(新潟大・歯),佐々木淳,西川幸俊,安東嗣修,倉石 泰,(富大院・応用薬理),水村和枝,佐藤 純,片野坂公明,田口 徹,堀田典生,村瀬詩織,松田 輝,浦井久子,久保亜抄子,太田大樹,那須輝顕,フェルナンド ケメ(名古屋大・環医研),Thomas Graven-Nielsen (Aalborg University),田辺光男,兒玉大介(名古屋市立大・薬),肥田朋子,城由起子,下 和弘(名古屋学院大・医),鈴木重行,井上貴行,松尾真吾,井本晶太(名古屋大・医),松原貴子,岩田全広(日本福祉大),仙波恵美子(和歌山県立医大),尾崎紀之,林 功栄,安井正佐也,浦野浩子,堀紀代美(名古屋大・機能組織学),小山なつ,中江 文,眞下 節(滋賀医科大学),吉村 恵,井上和秀,豊満笑加(九州大・医),川喜田健司,神田浩里,林 聖子,久保恵梨香(明治国際医療大),柴田政彦,岩下成人,安澤則之(大阪大学),陸 景珊,伊藤誠二,片野泰代(関西医科大),樋浦明夫,中川 弘(徳島大・歯),池内昌彦,泉 仁(高知大・医),熊本栄一,中塚映政,藤田亜美,川﨑康彦(佐賀大・医),今井利安,中田恵理子(日本ケミファ(株)),山本達郎(熊本大・医),吉田菜三夏(武田薬品工業(株)),丸山隆幸,前川仁志(小野薬品),武内隆志(持田製薬(株)),野々村和彦,奥村貴子,大城博行,渡邉修造(ラクオリア創薬(株)),富永真琴,柴崎貢志,山中章弘,曽我部隆彰,梅村 徹,内田邦敏,小松朋子,周 一鳴,Boudaka Ammar,加塩麻紀子,高山靖規,川口 仁,三原 弘,水野秀紀,志内哲也,柿木隆介,井本敬二(生理研),吉本隆彦,森本温子,大道美香,牛田享宏(愛知医科大・痛み),辻田隆一(旭化成ファーマ),井原 賢(基生研),岩崎有作(自治医大),新庄勝浩(生化学工業)


【概要】
 痛みの中でも,筋・骨格系の痛みと内臓の痛みは頻度が非常に高く,臨床医学的な重要性が高い。皮膚表面痛とは異なった特徴,例えばストレスの影響が大,脊髄への入力系として皮膚よりも強力,他部位への放散,自律神経系への強い影響,などがあり,異なる神経機構も示唆されるにもかかわらず,その実験的研究は国内外ともに極めて少なく,疼痛研究領域のなかでも特に遅れている。そこで,本研究会では筋・骨格系及び内臓の慢性痛の発生・維持のメカニズムについての研究を促進するため,この研究者ばかりでなく,神経因性疼痛,炎症痛研究者など,幅広い痛み研究者の参加を要請して,分子基盤を軸に領域横断的に研究成果を交流しあい,意見・情報交換を行うことを目的とした。26題の一般発表があり,提案代表者と共同研究を行っているデンマークのGraven-Nielsen教授による筋・骨格系の痛みのtranslational studyに関する特別講演が行われ,筋・骨格系の痛み対するヨーロッパでの研究の進展に驚かされた。一般演題では,イオンチャネル・トランスジューサー・末梢神経に関する演題5題,脊髄における情報伝達機構に関して4題,グリアの役割に関する演題2題が発表された。筋・骨格系における痛み(6題)については遅発性筋痛モデルや腰痛モデルにおける神経・解剖学的研究結果が報告された。また,痛みに関わる情動の分子レベルでの解析結果も報告され,末梢から中枢まで幅広い痛み関連の演題であふれた。筋・骨格系の痛みのいままで行われてきた皮膚表面痛や内臓痛との違いは参加者に強いインパクトを与え,その研究の必要性も参加者に広く認識される結果となった。

 

(1) 三叉神経因性疼痛モデルによる冷痛覚過敏の解析

浦野浩子,尾崎紀之,篠田雅路,杉浦康夫
(名古屋大学大学院 医学系研究科 機能形態学講座 機能組織学分野)

【目的】三叉神経の損傷に伴う三叉神経因性疼痛は,深刻な症状によって日常生活が障害されるが有効な治療法がなく,メカニズムの解析が急がれている。我々はこれまでに,ラット眼窩下神経の部分的な結紮により機械性ならびに熱性痛覚過敏をきたす三叉神経因性疼痛モデルを報告してきた。本研究では本モデルにおける冷痛覚の変化を明らかにし,亢進した冷痛覚におけるTRPチャネルの関与を明らかにすることを目的とした。

【材料と方法】SD系ラットの片側眼窩下神経を口腔内からアプローチし,6-0絹糸で半結紮した。vonFreyフィラメントによる機械刺激,THERMAL STIMULATORによる冷温度刺激をラット洞毛部の皮膚に加え逃避行動を観察することで機械性および冷痛覚の閾値を測定した。さらにTRPチャネルアンタゴニスト(Capsazepine)をラット洞毛部の皮下に投与し同部位皮膚の痛覚閾値の変化を観察した。

【結果】眼窩下神経の半結紮後4日目より冷痛覚の閾値が有意に上昇し冷痛覚過敏を示し,結紮後6日目からは機械性痛覚の閾値が有意に低下し機械性痛覚過敏を示した。亢進した冷痛覚は,TRPチャネルアンタゴニスト(Capsazepine)の局所投与によって有意に抑制された。

【結論】眼窩下神経の半結紮は顔面の機械性痛覚過敏および冷痛覚過敏をひき起こし,三叉神経因性疼痛のモデルとして有用と思われた。本モデルにおける冷痛覚過敏にはTRP チャネルの関与が考えられた。

 

(2) 糖尿病性神経因性疼痛を引き起こす因子の同定:
低酸素/高血糖ストレスによるTRPV1活性の増強

柴崎貢志1,2,3,Violeta Ristoiu4,Maria-Luiza Flonta4,富永真琴1,2,3
1岡崎統合バイオサイエンスセンター 細胞生理,2生理学研究所,
3総合研究大学院大学・生理科学,4University of Bucharest, Romania)

 カプサイシン受容体TRPV1は1997年に分子実体が初めて明らかとなった侵害刺激受容体であり,現在までに急性疼痛,様々な炎症性疼痛に関与することが明らかとなっている。近年,糖尿病モデル動物で正常時に比べてTRPV1活性が増強することが見いだされ,糖尿病性神経因性疼痛へのTRPV1の関与が考察されている。しかしながら,糖尿病の進行に伴って,どのような因子がTRPV1活性の増強を引き起こし,糖尿病性神経因性疼痛が惹起されるのかは全く不明である。我々は,糖尿病に伴う高血糖により神経細胞に充分な量の酸素が供給されないことが,TRPV1活性増強の引き金になるのではないかと仮説を立てた。そして,これを立証するために,ラットDRG 神経細胞を単離し,人工的に低酸素・高血糖の条件を作製し(以下糖尿病条件と略,4% O2, 25 mMグルコース),24時間培養後に正常条件(7% O2, 7.4 mMグルコース)とTRPV1活性を比較した。両群の細胞にカプサイシンあるいはプロトンを投与し,TRPV1電流を記録したところ,糖尿病条件群でTRPV1電流の有意な増強を観察した。この結果は,短期間の低酸素・高血糖ストレスがTRPV1活性の増強を引き起こす主要因子であることを強く示唆している。培養細胞であるHEK293細胞にratTRPV1を発現させ,同様の実験を行ったところ,この異所性発現系においても,糖尿病条件下でカプサイシン電流の増強が認められた。我々は,TRPV1の活性増強にPKCeによるTRPV1のSer残基502/800のリン酸化が関与することを報告している。そこで,Ser502/800をAlaに置換した変異体を用いて実験を行ったところ,この変異体では糖尿病条件下でのTRPV1活性の増強は認められなかった。つまり,糖尿病条件下でのTRPV1のPKCeによるリン酸化が引き起こされていることが強く示唆された。これを実証するために,Ser800残基のTRPV1リン酸化のみを検出する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行ったところ,糖尿病条件下でTRPV1のリン酸化が増大していることを確認した。以上の結果より,糖尿病性神経因性疼痛の発生機序として,高血糖・低酸素状態の出現,PKCe活性の増大,TRPV1のリン酸化増大,痛みの惹起というカスケードが存在すると考えられる。

 

(3) ラット角膜に分布するTRPV1およびIB4陽性神経について

中川弘1,樋浦明夫21徳島大学病院小児歯科,2徳島大学歯学部口腔解剖)

 ラット角膜のアルデヒド固定全載標本で非特異的アセチルコリンエステラーゼ(NsAchE)に反応しない,無染色で確認できる神経様構造が見られる。それは何本もの線維から成る多数の束が角膜周辺部から中心部に向かって規則的に走行しながら,隣接の束の線維とつながり網目状を呈する。これらの線維が神経であるか否かを知るために,(1)カプサイシンに対する感受性,(2)カプサイシンレセター(TRPV1)の抗体とイソレクチンB4 (IB4)に対する反応性を調べた。生後2日のラットにカプサイシンを皮下投与(50mg/kg)し,投与後15日に角膜を対照群(溶媒のみ投与)と共に採取,固定した。無染色の角膜全載標本を作成して,比較・観察した。また,生後20日のラット角膜(両側)を麻酔下で摘出し,固定した。角膜はPBSで洗浄後,IB4-FITC (10mg/m)およびTRPV1(x 2000)で同時に反応させた。反応後PBSで洗浄し,抗ウサギIgG (Texas Red, x 400)で反応させた。ラット角膜に見られるNsAchE法で染まらない規則的に走行する網目状の構造はカプサイシンで減少する。TRPV1とIB4陽性神経も同様な網目構造を示した。このことから,網目状の走行を示す線維は,カプサイシンに感受性で最小な侵害受容性の神経線維であると推測された。

 

(4) 神経根絞扼モデルラットにおける脊髄膠様質細胞の特性変化

寺島嘉紀1,田中 聡2,杉山大介2,川真田樹人2
1札幌医科大学整形外科,2信州大学麻酔蘇生科)

【はじめに】神経根性疼痛は腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などにみられる頻度の高い愁訴の一つである。特に罹病期間が長い症例において,感覚受容野を触っても感じない,触るだけで痛いというアロディニア,強い安静時痛を認める場合があり,脊髄痛覚伝達系に何らかの変化がおきている可能性が示唆される。我々はin vivo patch clamp法を用いて二次ニューロンである脊髄膠様質細胞の特性変化を検討したので報告する。

【対象と方法】雄SDラット(6週齢)を使用した。神経根絞扼群(以下,絞扼群)では右L5神経根を露出,8-0 nylon糸でDRG より中枢側をtightに絞扼し,sham群では神経根の露出のみを行った。アロディニア及び痛覚過敏反応を示している術後10-14日にウレタン麻酔下に脊髄膠様質細胞からin vivo patchclamp記録を行い,感覚受容野にair刺激(触覚刺激)とpinch刺激(痛覚刺激)を加え,その応答変化を記録した。

【結果】今回は電流固定法による結果のみを解析した。活動電位の発火頻度は絞扼群ではsham群と比較して有意に増加した。触覚刺激と痛覚刺激に応答する細胞の割合は変化し,絞扼群では痛覚刺激に対してのみ活動電位を発するNociceptive typeは減少し,触覚刺激,痛覚刺激に対して応答するMulti-receptive typeが増加した。また刺激に全く応答しないニューロンを認めた。

【考察】神経根は絞扼することによりワーラー変性を起こし,脊髄膠様質細胞では自発発火が増大し入力様式が変化したと思われた。介在ニューロンを介して興奮は増強し,アロディニアや強い安静時痛が惹起されている可能性があると考えられた。

 

(5) ガラニンはラット脊髄膠様質における興奮性シナプス伝達を
濃度に依存して二相に制御する

熊本栄一,岳 海源,藤田亜美,中塚映政
(佐賀大学医学部生体構造機能学講座・神経生理学分野)

 脊髄腔内へ投与したガラニンが濃度に依存して痛み行動を二相性に制御することはよく知られているが,その機序を細胞レベルで調べた研究は少ない。本研究では,皮膚末梢から脊髄に至る痛み伝達の制御に重要な役割を果たす脊髄後角第二層(膠様質)ニューロンにおける興奮性および抑制性のシナプス伝達に及ぼすガラニンの作用を調べた。実験は,成熟ラットの脊髄横断スライスの膠様質ニューロンにホールセル・パッチクランプ法を適用して行った。ガラニンは濃度に依存して異なった作用を示し,低濃度ではグルタミン酸作動性の自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)の振幅を変えずに発生頻度を増加させた一方(EC50 = 0.0029 mM),高濃度では-70 mVで外向き膜電流を誘起した(EC50 = 0.044 mM)。これらのいずれの作用もNa+チャネル阻害薬であるテトロドトキシンにより影響を受けず,前者の作用はガラニン受容体(GalR)-2/3作動薬galanin2-11により,後者の作用はGalR-1作動薬M617により特異的に見られた。このsEPSCの発生頻度増加は無Ca2+液中や電位依存性Ca2+チャネル阻害剤La3+存在下で見られなかった。ガラニンはGABAおよびグリシンを介する自発性抑制性シナプス伝達には作用しなかった。以上より,ガラニンは低濃度でGalR-2/3を活性化して細胞外から細胞内へのCa2+流入量を増加させてグルタミン酸放出を促進する一方,高濃度でシナプス後細胞のGalR-1を活性化して膜過分極を起こすことが明らかになった。この結果は,ガラニンは低濃度で膠様質ニューロンの膜興奮性を増加させ,高濃度で減少させることを示しており,この膜興奮性変化は,ガラニンが濃度に依存して痛み行動を二相性に制御するという行動生理学の実験結果を説明するかも知れない。

 

(6) 成熟ラット脊髄膠様質におけるPAR-1活性化は
興奮性シナプス伝達を促進する

藤田亜美,中塚映政,熊本栄一
(佐賀大学医学部生体構造機能学講座・神経生理学分野)

 Proteinase-activated receptor (PAR) にはPAR-1から-4までがあり,プロテアーゼによる切断によって新たに露出されたN末端が内蔵リガンドとなることで活性化される。一方,PAR-1,-2,-4は,内蔵リガンドに相当する合成ペプチドによってだけでも活性化される。PAR-1や-2は一次求心性感覚神経の末梢側で痛覚情報伝達に関与しているが,中枢側の脊髄後角においても痛覚情報伝達に関与している可能性がある。脊髄後角,特に第II層の膠様質は痛覚情報伝達の制御に重要な役割を果たしていると考えられている。今回,膠様質ニューロンで起こるグルタミン酸作動性の自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)に対して,PAR,特にPAR-1の活性化ペプチドがどのように作用するのかを検討した。実験は成熟雄性SDラットから作製した脊髄横断スライス標本の膠様質ニューロンにブラインド・ホールセル・パッチクランプ法を適用して実施した。脊髄スライスにPAR-1活性化ペプチドを灌流投与すると,sEPSCの振幅は変化せずに発生頻度だけが濃度依存的に増加した。この発生頻度の増加はテトロドトキシン存在下では変化しなかった一方,無Ca2+の細胞外液中では抑制された。また,PAR-1の内因性活性化プロテアーゼであるトロンビンを灌流投与すると,ペプチドの場合と同様にsEPSCの振幅は変化せずに発生頻度のみが増加した。これらの外因性および内因性アゴニストによる興奮性シナプス伝達の促進作用はPAR-1アンタゴニスト存在下では見られなかった。以上の結果より,膠様質においてPAR-1活性化は細胞外液からのCa2+流入を介したシナプス前終末からのグルタミン酸の放出を増加させ,痛覚情報伝達を促進することが示された。

 

(7) デクスメデトミジン(a2作動薬)の脊髄後角における作用

河野達郎,石井秀明(新潟大学大学院医歯学総合研究科・麻酔科学分野)

【目的】デクスメデトミジンは選択性の高いa2アドレナリン受容体作動薬であり,主に集中治療室における鎮静に使われている。しかし,デクスメデトミジンを硬膜外や髄腔内に投与し,良好な鎮痛効果が得られたとする報告もある。脊髄後角にはa2受容体が多く存在し,鎮痛作用に関与していることが知られている。しかし,デクスメデトミジンが脊髄後角でどのように作用し,痛覚情報の伝達を制御しているのか明らかではない。そこで,脊髄後角第II層ニューロンにおけるデクスメデトミジンの作用を調べた。

【方法】ラットから脊髄を切りだし,厚さ約500mmの脊髄横断スライス標本を作製し,ニューロンからホールセルパッチクランプ記録を行った。

【結果】デクスメデトミジンの灌流投与により,濃度依存性にほとんどのニューロンで過分極電流を誘起した。さらに,その電流はa1受容体拮抗薬で抑制されず,a2受容体拮抗薬で抑制されたことからa2受容体を介したものであることがわかった。また,電流の逆転電位はK+チャネルの平衡電位に近似していた。加えて,電極内液にGタンパク質阻害薬を加えると膜電流は誘起されなかった。これらの結果から,デクスメデトミジンはa2受容体に作用し,Gタンパク質を介したK+チャネルの開口によってニューロンの過分極を引き起こし脊髄後角でシナプス伝達を抑制すると考えられる。

 

(8) パッチクランプ法を用いた脊髄電気刺激による鎮痛機構の解明

中塚映政,谷口 亘,藤田亜美,熊本栄一(佐賀大学医学部生体構造機能学講座)

 鎮痛薬や神経ブロック治療に対して抵抗性の難治性慢性疼痛に対して脊髄電気刺激による鎮痛法が臨床応用されているが,その鎮痛機構は未だ不明である。今回,我々は後根付き成熟ラット脊髄横断薄切片の膠様質ニューロンにパッチクランプ法を適用して,脊髄電気刺激による鎮痛機構を検討した。後根の反復性電気刺激により膠様質ニューロンに緩徐なシナプス応答は観察されなかったが,脊髄後角を局所的に反復性電気刺激すると約30%の膠様質ニューロンにおいて緩徐な抑制性シナプス後電流(slowIPSC)が発生した。このslow IPSCの振幅は刺激回数依存的に増大し,灌流液からCaを除去することによって有意に減少した。また,slow IPSCの振幅はKチャネル阻害剤あるいは細胞膜Gタンパク質阻害剤の存在下では有意に減少し,GIRKチャネル阻害剤によって有意に抑制された。さらに,slow IPSCの振幅はアデノシン受容体やオピオイド受容体阻害剤など様々な受容体阻害剤によって影響を受けなかったが,ソマトスタチン受容体阻害剤によって有意に抑制された。興味深いことに,ソマトスタチンの灌流投与によって外向電流が発生している間,slow IPSCの振幅は有意に減少した。以上の結果より,脊髄電気刺激によって脊髄介在ニューロンあるいは下行性抑制性神経線維終末から遊離される内因性のソマトスタチンによってソマトスタチン受容体が活性化する。その結果,細胞内G蛋白質を介してGIRKチャネルが活性化することによって膠様質ニューロンの膜が過分極することが明らかとなった。したがって,本機序が脊髄電気刺激による鎮痛機構に関与することが推察された。

 

(9) ラット腹膜切開モデルによる術後痛の検討

杉山大介,田中 聡,川真田樹人(信州大学麻酔蘇生学講座)

【背景】整形外科手術などに比べて,開腹術後は疼痛が強いことが知られている。その機序として,腹膜や内臓への外科的侵襲が挙げられるが,詳細は不明である。そこで今回,腹膜切開による脊髄後角ニューロンの機能変化を検討し,開腹術後の疼痛の機序を検討した。

【方法】ウレタン麻酔下の雄性SDラット(180-300g)を用い,側腹部に受容野を有する胸部脊髄後角widedynamic range (WDR)ニューロンの単一活動電位を細胞外記録により導出し,自発活動とvon Freyfilament刺激に応答する閾値を計測した。次いで,受容野中心を皮膚~腹膜までの切開や(以下,P群),あるいは皮膚・筋肉までの切開を加え(以下,S群),切開2時間後までニューロンの活動を記録した。

【結果】P群では切開後,自発活動が次第に増加した。S群では,自発活動は切開後,速やかに切開前値にまで低下し,有意な増加を認めなかった。一方,両群とも,切開後von-Frey filaments応答する閾値が明らかに低下した。

【結論】開腹術後の自発痛は,腹膜に外科的侵襲がおよぶために増強することが示唆された。

 

(10) 骨格筋,および皮膚侵害受容器活動の加齢による変化

田口 徹,松田 輝,村瀬詩織,太田大樹,水村和枝
(名古屋大学環境医学研究所神経系分野Ⅱ)

 これまでに,疼痛行動や痛覚系の加齢による変化はヒトやげっ歯類において数多く報告されているが,末梢侵害受容器の加齢による変化を体系的に調べた研究はない。本研究では,若齢(10-14 w)および老齢ラット (125-133 w)から長指伸筋-総腓骨神経,および皮膚-伏在神経の取出し標本を作成し,骨格筋および皮膚C線維受容器(伝導速度 1.6 m/s 以下)の機械,化学,温度(冷・熱)刺激に対する反応を単一神経記録法により記録し,加齢による影響を調べた。記録した骨格筋および皮膚C線維受容器の一般的な特徴(伝導速度,受容野の分布,自発放電)には,若齢と老齢ラットの2群間で有意差がみられなかった。加齢ラットの骨格筋C線維受容器は,若齢ラットに比べ,機械刺激に対する反応閾値が有意に低下し(85±8 mN(若齢群,n = 33)vs. 55±5 mN(老齢群,n = 29), p < 0.01, Mann-WhitneyU-test),反応の大きさが増大する傾向を示した。しかし,行動レベルではランダル・セリットテストにより測定した筋機械逃避閾値に群間差はなかった。このことは,骨格筋C線維の機械反応の増大は逃避行動を変化させるのに十分な程度ではなかったか,あるいは逃避行動に必要な脊髄や運動ニューロンの加齢による変化(鈍化)により,行動レベルに反映されなかったのか,疑問が残るところである。一方,加齢ラットの皮膚C線維受容器では,侵害熱刺激に対する反応の大きさが,若齢ラット群に比べて有意に減弱した(0.54 ±0.13 imp/s(若齢群,n = 25)vs. 0.18±0.07 imp/s(老齢群,n = 25),p < 0.01, Mann-Whitney U-test)。このことは,侵害熱刺激に対する逃避潜時が老齢マウスで延長し,伏在神経に含有されるTRPV1チャネルタンパク量が減少するという報告(Wang et al. Neurobiol Aging.27:895-903, 2006) とよく一致すると考えられた。

 

(11) 筋C線維受容器のATPによる機械反応抑制と酸に対する反応の増強

松田 輝,田口 徹,水村和枝(名古屋大学環境医学研究所神経系分野Ⅱ)

【目的】ATPの皮下投与によって皮膚では痛みと熱・機械刺激に対する痛覚過敏を誘発することが知られている。加えて炎症や運動による細胞間質のpHの減少は痛みの原因のひとつであると考えられている。そこで,ATPと酸が筋の侵害受容器にどのような影響を及ぼすかを調べた。

【方法】10~13週齢の雄性SDラットを用い,ペントバルビタール麻酔下で長指伸筋-総腓骨神経標本を取り出,in vitroでC線維の単一神経記録を行った。機械刺激(10 秒間で0~196 mNの鋸歯状刺激)を,10分間隔で4回行い,反応閾値,放電数を測定した。ATP1mM, 1mMあるいはKrebs液(コントロール)を2回目の機械刺激の5分前から投与した。その後,異なったpH (7.4,7.0,6.6,6.2)溶液を30秒間投与した。

【結果】ATP1mM投与によってexcitationを起こしたものは記録した筋C線維の約半数(9/16)であった。コントロール群では機械刺激に対する反応は刺激を繰り返しても変化しなかったが,ATP1mM投与は投与後の機械閾値を有意に上昇させ,放電数を有意に減少させた。ATP1mM投与でも似た結果を示した。コントロール群では異なったpH溶液に対しては放電数が多少増大するC線維があったものの,記録した全線維の平均では放電数の有意な増加とはならなかった。ATP1mM群ではpH6.2溶液に対する放電数が有意に上昇した。多くのC線維受容器は,熱,発痛物質に反応するポリモーダル受容器であった。

【考察】ATPによる抑制効果は以前の報告とは異なっている。しかし,ATP受容体にはGi共役型のP2Y13, 14がある。これらの受容体が関係しているかは今調べているところである。ATPによる酸に対する反応性の遅延性感作のメカニズムはまだわかっていないが今後,調べる予定である。

 

(12) ラット持続性筋痛モデルにおける神経成長因子の関与

林 功栄,尾崎紀之,杉浦康夫
(名古屋大学大学院医学系研究科機能形態学講座・機能組織学分野)

【目的】持続性筋痛と筋硬結の触知,トリガーポイント痛が特徴である筋・筋膜性疼痛症候(MPS)は罹患者も多く重要な病態であるが,発症メカニズムの詳細は不明である。そこで今回,伸張性収縮運動(ECC)を用いてMPSの病態に近い持続性筋痛モデルを作成し,筋の組織学的検索と痛覚亢進における神経成長因子(NGF)の関与を調べた。

【材料と方法】ラット腓腹筋にECCを2週間連続して負荷し,筋の圧痛閾値,筋硬結の出現及び筋硬度を計測した。HE 染色とGomori染色で筋の組織学的観察を行ない,正常,再生及び変性細胞数を計測した。筋におけるNGF 発現を免疫組織染色法及びELISA法を用いて評価し,NGF受容体阻害薬であるK252aを筋内投与し圧痛閾値の変化を調べた。

【結果】圧痛閾値はECC開始翌日より有意に低下し,ECC期間中持続した。ECC開始後3~8日目に筋硬結が出現し,硬結部は有意に高い硬度を示した。ECC群の筋には再生及び変性細胞が有意に多く,再生筋細胞部にはNGFが発現し,NGF蛋白量の増加も見られた。ECCにより低下した圧痛閾値はK252aの筋内投与により有意に回復した。

【結論】ECCの繰り返しにより筋硬結を伴う持続性筋痛モデルを作成できた。本モデルにおける圧痛閾値低下にはNGF及びその受容体の関与が考えられ,これらはMPS発症メカニズムにおいても重要と思われる。

 

(13) 遅発性筋肉痛(Delayed-onset Muscle Soreness: DOMS)の
脳機能画像-fMRI による検討-

柴田政彦1,松田陽一2,住谷昌彦3,植松弘進2,大城宜哲4,小山哲男5,真下 節1
1大阪大学大学院医学系研究科疼痛医学講座,
2大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学麻酔・集中治療医学講,
3東京大学医学部付属病院麻酔科,4仁寿会石川病院リハビリテーション科,
5西宮協立脳神経外科病院リハビリテーション科)

【目的】臨床的には動きに伴って痛みを生ずることが多いが,その脳活動についてはほとんど知られていない。本研究では,ヒトDOMSモデルを作製し,脳内の活動部位をfMRIで調べた。

【対象】健康成人12名(男性9,女性3)。

【方法】非利き手の上腕二頭筋にDOMSを作製,求心性収縮時の最大筋力を測定しそれを100%とした負荷で遠心性収縮運動を行わせた。痛みの評価はVAS,SF-MPQ を用いた。2日後に,肘関節屈伸運動をfMRI装置内で0.5Hz,30秒間行うのを1タスクとし,3タスク行わせ撮像した。1ヶ月以上あけてDOMSの消失した状態で同様のタスクを行った。SPM2を用いrandom effect analysis にてDOMS時,筋痛消失時の脳活動を解析後,その差をとることにより運動時痛によって活動する脳局在を調べた。

【結果】肘の屈曲進展運動に伴う脳活動部位はDOMS 時,非DOMS時ともに対側一次運動野,中帯状回,両側二次体性感覚野,両側視床などであった。DOMS時と非DOMS時の活動部位の差異は対側大脳皮質一次感覚野に見られた。(uncorrected paired test p<0.005)

【考察】運動時痛のある際には対側の一次運動野がより活動したが,その機序として痛みのある際には同じ動きを行うのに一次運動野のより大きな活動を必要とした可能性と運動時痛を一次運動野でencodeした可能性とが考えられる。

 

(14) 繰り返し寒冷ストレスモデルにおける運動時の筋血流増加の変化

那須輝顕,堀田典生,水村和枝(名古屋大学環境医学研究所神経系分野II)

 慢性筋痛を持った患者は多いが,その神経機構は不明な点が多い。繰り返し寒冷ストレス(RCS)は全身性の持続性の痛覚過敏や全身の循環系の変化などを生じ,線維筋痛症のモデルとして使われている。一方,線維筋痛患者では休息時の血流は健常者と変わらないが運動時の活動筋の血流増大が障害されているという報告がある。また慢性筋痛の圧痛症状には筋虚血の関与が示唆されているが,実験根拠に乏しい。そこで我々は蛍光マイクロスフェア法を用いて,RCSが安静時の局所血流と運動中の血流増大に与える影響をコントロール(CTR群),RCS 暴露後1週間後(1w群),最も痛覚過敏が増悪するRCS暴露後2週間後(2w群)の3群で調べた。局所血流の安静時値はRCS暴露の影響を受けなかった。下腿伸筋群の等張性収縮運動(SHC)によってRCS無負荷のCTR群の長指伸筋血流は有意に増加したのに対し,前脛骨筋血流には有意な増加は見られなかった。また非運動筋(腓腹筋,ヒラメ筋)血流はSHCの影響を受けなかった。一方,1w群では運動によって長指伸筋血流は軽度に増大したが有意ではなく,前脛骨筋の血流量は有意に増大した。2w群では運動によって長指伸筋,前脛骨筋ともに血流量が有意に増大した。RCS後の非運動筋の運動時血流量は減少傾向を示した。RCS暴露後,運動時の血流増大反応が運動筋の中でも異なったことは,RCSによって運動時の局所血流分布が変化した可能性を示唆する。またRCS暴露群におけるSHC時の非運動筋の局所血流減少傾向は,筋血管に対する交感神経出力の亢進の可能性を示唆する。

 

(15) 痛みによる不快情動生成における分界条床核内コルチコトロピン
放出因子の役割

大野篤志1,出山諭司1,2,片山貴博1,山口 拓3,吉岡充弘3,南 雅文1
1北海道大学大学院 薬学研究科 薬理,2京都大学大学院 薬学研究科 生体機能解析,
3北海道大学医学研究科 神経薬理)

 「痛み」は痛いという感覚的成分と,不安,恐怖,嫌悪といった情動的成分よりなるが,情動的成分を担う物質的基盤に関する研究は未だ緒についたばかりである。我々はこれまでに,腹側分界条床核(vBNST)におけるbアドレナリン受容体を介したノルアドレナリン神経情報伝達亢進が,痛みによる不快情動生成に重要であることを示唆する結果を報告している。本研究では,背外側分界条床核(dlBNST)においてコルチコトロピン放出因子 (CRF) 含有神経の投射が多く存在することに着目し,dlBNST内CRF神経情報伝達が痛みによる不快情動生成に関与するか否かについて検討した。実験には雄性SD系ラットを用い,条件付け場所嫌悪性(CPA)試験により不快情動生成の評価を行った。CRF受容体拮抗薬a-helical CRFのdlBNST内局所投与により,ホルマリン後肢足底内投与により惹起されるCPAが用量依存的に減弱した。また,CRF受容体を介した細胞内情報伝達の下流にはprotein kinase A (PKA)が存在するが,PKA阻害薬Rp-cAMPSのdlBNST内局所投与によっても,CPAが有意に減弱した。さらにdlBNST内CRF局所投与による条件付けを行った結果,CPAが有意に惹起された。以上の結果から,dlBNST内CRF情報伝達の亢進が痛みによる不快情動生成に重要な役割を担っていることが示唆された。

 

(16) 神経因性疼痛モデルマウスにおける海馬CA1領域での
グリシン取り込みの増加とシナプス長期増強現象への影響

兒玉大介,小野秀樹,田辺光男(名古屋市立大学大学院 薬学研究科 中枢神経機能薬理)

 慢性痛患者では痛みに加えて不安,うつ,睡眠障害,認知障害など様々な症状が現れることが知られている。我々はこれまでに坐骨神経の部分結紮によって作製する神経因性疼痛モデルマウス(Seltzer モデル)およびsham手術を施したマウスから海馬スライス標本を作製し,CA1領域におけるシナプス伝達長期増強現象 (LTP)を記録した結果,Seltzerモデル群ではsham手術群に比べてLTP強度の減弱が見られる事を報告した。また選択的グリシントランスポーター1(GlyT1) 阻害薬 [3-(4’- fluorophenyl)- 3- (4’phenylphenylphenoxy) propyl]sarcosine (NFPS) の存在下では,Seltzerモデル群でもsham手術群と同程度にLTPが維持されることを示した。今回はこのLTPの減弱についての詳細なメカニズムを検討するため,CA1領域錐体細胞からホールセルパッチクランプ記録を行い,NMDA受容体を介した興奮性シナプス後電流 (NMDA-EPSCs) に対してグリシンやGlyT1阻害薬NFPS が与える影響を調べた。潅流適用したグリシンによるNMDA-EPSCsの増強作用は,Seltzerモデル群においてsham 手術群に比べて低下していた。これに対し,NFPSの適用により増加した内因性グリシンによるNMDA-EPSCs増強作用はSeltzerモデル群で強く現れた。また,fluoroacetate によりグリア細胞の代謝を阻害したスライス標本では,グリシンによるNMDA-EPSCs増強作用にSeltzerモデル群とsham手術群との間の差は見られなくなった。これらの結果はSeltzerモデルではグリア細胞に存在するGlyT1によるグリシンの取り込みが増加している事を示唆しており,それがLTPの減弱につながる可能性が考えられる。

 

(17) GPR103 の内因性作動物質である26RFa 脳室内投与の効果

山本達郎,宮崎里佳(熊本大学大学院医学薬学研究部 生体機能制御学)

 GPR103はorexin,neuropeptide FFと相同性の高いG蛋白共役型受容体である。その内因性作動物質として26RFa,QRFPが知られている。26RFaはNPY Y1受容体,NPFF2受容体にも作用することが示されている。GPR103は脊髄後角に強く発現しており,髄腔内へ26RFaを投与すると鎮痛効果があることが報告されている。さらに上位中枢では,痛み刺激伝達に関係していることが知られているparafascicular thalamic nucleus,locus coeruleus,dorsal raphe nucleus,parabrachial nucleusにGPR103が発現していることが報告されている。従って,26RFaは上位中枢でも痛み刺激伝達に関与している可能性が示唆される。本研究では26RFaをラット脳室内へ投与し,ホットプレートテスト,ホルマリンテストにおける鎮痛効果を検討したので報告する。鎮痛効果検討の3日前に側脳室へカニュラを留置し,薬物投与はカニュラを介して行った。52.5℃のホットプレートテストは,飛び上がるか後肢をなめる行動を起こすまでの潜時を測定することにより評価した。ホルマリンテストは,5%ホルマリンをラット後肢に皮下注し,足を振り回す行動の回数を測定することにより評価した。26RFaは,投与量依存性にホルマリンテストでは鎮痛効果を示したが,ホットプレートテストでは鎮痛効果がなかった。26RFaの効果は,NPY Y1受容体・NPFF2 受容体の拮抗薬であるBIBP3226により拮抗されなかった。さらにNPY, NPFF脳室内投与によりホルマリンテストでの鎮痛効果は見られなかった。今回の結果から,脳室内26RFa投与により鎮痛効果が確認され,この効果はGPR103を介する可能性が高いことが示された。

 

(18) 難治性疼痛における一酸化窒素(NO)標的分子の解析

陸 景珊,片野泰代,伊藤誠二(関西医科大学医化学講座)

【目的】 我々は疼痛動物モデルを用いて,NMDAグルタミン酸受容体とその下流に位置する神経型一酸化窒素合成酵素 (nNOS) の活性化が慢性痛の発生・維持に重要であることを明らかにしてきた。NOはcGMP/プロテインキナーゼG系を介するリン酸化による中枢作用を示すことがよく知られるが,リン酸化に加えて,最近,タンパクのCys残基のニトロシル化 (S-NO) が着目されている。痛覚伝達における脊髄後角でのS-NO化による機能調節の解明を目的とし,S-NO化ターゲット分子を同定,機能解析を検討し,以下の知見を得た。

【結果および考察】マウス脊髄画分(可溶性/不溶性)をin vitroでNO放出剤SNAPを用いS-NO化した。S-NO 化タンパクの検出には,ビオチン-スイッチ法 (Nat.Cell Biol.3:193-197, 2001) を用いた。複数の分子が,SNAPの濃度依存的にS-NO化され,また可溶性画分においてよりS-NO化が促進した。S-NO化タンパクをpull down精製し,その一つを,抗アクチン抗体を用いたwestern blot にてアクチンと同定した。また,精製アクチンは,SNAP 処理にてSNAPの濃度と反応時間に依存してS-NO化した。さらに,アクチンS-NO化は,ホルマリン注射による炎症性疼痛モデルの脊髄後角からも検出された。次にアクチンのS-NO化による機能調節を明らかにするため,PC12細胞を用いて神経伝達物質ドーパミン(DA)遊離をHPLCにて測定した。その結果,SNAPはPC12細胞からの自発的,およびPACAP刺激によるDA遊離を有意に抑制した。本解析は,痛覚伝達における脊髄後角でのNOの新しい作用機序として,アクチンS-NO化の関与を示唆するものである。

 

(19) 抗癌薬オキサリプラチン誘発疼痛のマウスモデルにおける
一次求心線維の自発神経活動の増加

安東嗣修1,プナムガウチャン1,大森 優1,加藤 敦2,佐々木淳1,倉石 泰1
(富山大学大学院医学薬学研究部 1応用薬理学,2付属病院薬剤部)

 オキサリプラチンは,抗癌薬として用いられる白金製剤で,投与した患者のほぼ全例に末梢神経障害を誘発することが報告されている。末梢神経障害の発症機序は不明な点が多く,有効な治療法は確立されてないのが現状である。本研究では,オキサリプラチンをマウスに投与し,アロディニアと腓腹神経の活動への影響について検討した。実験には,雄性C57BL/6マウス(実験開始時6週令)を用いた。オキサリプラチンは,ヒトの臨床用量に相当する用量(3mg/kg)を単回腹腔内注射した。von Frey線維 (0.68 mN)の刺激に対する機械的アロディニアが,投与後3日目には観察され,10日目が最大となり,21日目にはほぼ消失した。また,オキサリプラチン投与後10日目に,後肢の舐め動作時間(自発的疼痛動作)が増加し,腓腹神経の自発発火と機械刺激(刷毛によるブラッシング,圧刺激,0.68および9.8mNの強さのvon Frey 線維)に対する誘発発火が有意に増加した。以上の結果より,オキサリプラチン誘発の神経障害性疼痛に,機械刺激感受性一次求心線維の自発神経活動と感受性の増加が少なくとも一部関与することが示唆される。

 

(20) ラット脊髄坐滅モデルの疼痛行動とセロトニン2C 受容体RNA
編集の関与

中江 文,柴田政彦,萩平 哲,高階雅紀,真下 節
(大阪大学大学院医学系研究科 生体統御医学 麻酔・集中治療医学講座,
同 疼痛医学寄附講座)

【背景】RNA編集とはmRNAの塩基配列を変えることにより,翻訳されるたんぱく質に変化をもたらす現象のことである。セロトニン2C受容体のRNA編集は,第2膜貫通部位でおこるため,受容体機能に影響を及ぼすことで知られている。セロトニンを神経伝達物質とする系は脊髄において下行性抑制系に働くことで知られている。我々は脊髄坐滅モデルにおいて,セロトニン2C受容体のRNA編集がもたらす影響を調べた。

【実験方法と結果】6週令のオスのSDラットを用い,た。障害は10gの錘を5cmの高さから落とすことにより行った。術後2週間で疼痛行動を評価するとモデルサンプルにおいて有意な疼痛閾値の低下が認められた。その後脊髄のサンプルを障害部位周囲1cm,その頭側1cm,その尾側1cmに分けて取り出し,セロトニン2C受容体の発現定量とセロトニン2C受容体のRNA編集の解析を行った。その結果,セロトニン2C受容体の発現は障害部位より尾側で低下していた。RNA編集の解析において,受容体機能高いタイプのサブタイプが障害部位とその尾側のサンプルで増え,低いサブタイプの減少が障害部位で認められた。

【考察】セロトニン2C受容体のRNA編集は疼痛刺激に対しセロトニン伝達を有利な方向に誘導している可能性が考えられた。

【結語】脊髄坐滅モデルに対し,セロトニン2C受容体の発現定量と,RNA編集の分析を行った。RNA編集による受容体機能の変化が神経因性疼痛の病態に関与する可能性が示唆された。

 

(21) マウス帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛の動的触
アロディニアにおけるP2X7受容体の関与

佐々木淳,北見紀明,金山翔治,倉石 泰
(富山大学大学院医学薬学研究部(薬学),応用薬理学)

 近年,炎症性疼痛および神経障害性疼痛の発現におけるATP受容体サブタイプの役割が注目されている。P2X7受容体もそのひとつであるが,in vivoでの詳細な研究はなされていない。そこで本研究では,帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛のマウスモデルを用いて,動的触アロディニアの発現におけるP2X7受容体の関与を検討した。選択的P2X7受容体拮抗薬Brilliant Blue G (100 mg/kg) の腹腔内投与は,帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛の両時期において動的触アロディニアを抑制した。帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛の両時期の脊髄において,P2X7受容体mRNAの有意な発現増加が生じた。脊髄後角のP2X7受容体の免疫活性は,NeuN陽性ニューロンおよびglial fibrillary acidic protein陽性の活性化アストロサイトで観察されたが,CD68陽性の活性化ミクログリアでは観察されなかった。また,坐骨神経部分結紮処置によっても脊髄でP2X7受容体mRNAの有意な発現増加が生じたことから,末梢神経の損傷がP2X7受容体の発現増加の引き金となっている可能性が考えられる。一次感覚ニューロンの損傷を示唆する遺伝子発現変化として,activating transcription factor 3 (ATF3) mRNAの発現増加および核におけるそのタンパク質の発現誘導が報告されている。帯状疱疹痛マウスの後根神経節においても,ATF3mRNAの発現増加およびそのタンパク質発現が生じ,これらの変化はP2X7受容体mRNA発現増加に先行して生じた。したがって,一次感覚神経の損傷がP2X7受容体発現増加に寄与することが示唆される。以上の結果から,活性化アストロサイトおよび脊髄後角ニューロンに発現するP2X7受容体が,帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛の動的触アロディニアの発現に関与することが示唆される。

 

(22) 神経因性疼痛発症に関与するミクログリアP2X4 受容体発現増加の
メカニズム解明

豊滿笑加,津田 誠,齊藤秀俊,井上和秀(九州大学大学院薬学研究院薬理学分野)

 脊髄後角の活性化ミクログリアにおけるATP受容体サブタイプP2X4受容体(P2X4R)の発現増加は神経因性疼痛の発症維持に非常に重要である。これまでに我々は,細胞外マトリックス分子の一つであるフィブロネクチン(FN)とその下流に存在する非受容体型チロシンキナーゼであるLynがミクログリアにおけるP2X4Rの発現増加に深く関わっていることを報告してきた。しかし,その細胞内分子メカニズムは依然として不明である。そこで本研究では,FNによるP2X4R発現増加に関与する細胞内シグナル伝達経路の解明を目的に実験を行った。初代培養ミクログリア細胞をFNで刺激することにより,PI3KおよびERKが活性化され,FNによるP2X4Rタンパク質の増加はPI3K阻害剤LY294002 とMEK阻害剤U0126により抑制された。興味深いことに,FNによるP2X4R mRNAの発現増加はLY294002により抑制されたが,U0126では抑制されなかった。FN刺激で活性化したPI3K はAktの活性化を介して転写因子であるp53の発現レベルを低下させ,またp53阻害剤を単独処置することでP2X4R mRNAおよびタンパク質の発現が共に増加した。一方で,FN処置により翻訳開始因子であるeIF4Eの活性化が起こり,その活性化はU0126では抑制されたが,LY294002では抑制されなかった。また,eIF4Eを阻害することによりFNのP2X4Rタンパク質の発現増加は抑制された。以上の結果は,FNがPI3K-Akt経路依存的なp53の抑制を介してP2X4R遺伝子発現を増加すること,および,MEK-ERK経路依存的にP2X4Rタンパク質の翻訳を制御していることを示唆している。

 

(23) メダカに対するメントールの効果:冷侵害受容器を介する
異常遊泳行動とGABAA レセプターを介する麻酔作用

笠井聖仙(鹿児島大学理学部生命化学科)

 ヒトで低濃度のメントールもしくはicilinで冷感が起こり,高濃度のメントールでは痛みが引き起こされることはよく知られている。魚類に対するメントールの効果を調べた実験はなく,発表者はメダカに対するメントールの効果を調べる実験において,メントールが麻酔効果(外科的麻酔)および激しい動き(異常遊泳行動)を引き起こすことを見出した。今回はこれら麻酔効果および異常遊泳行動を引き起こす濃度閾値を調べ,さらにどのような受容体を介して起こるかについて検討した。メントールの効果はメダカをメントール水に全身暴露することで調べた。0.33 mMメントール(dl-menthol)では麻酔効果(外科的麻酔)は見られなかったが,0.5 mMで60%に麻酔効果がみられ,0.83 mM, 1.7 mM, 3.3 mMでは全てのメダカに麻酔効果が観察され,その反応の潜時は容量依存的に短くなった。この麻酔効果はIcilin (TRPM8 receptors agonist)およびAllylisothiocyanate(TRPA1 receptors agonist) のいずれの薬物でも誘起されなかった。GABAは麻酔効果を及ぼし,かつGABAAレセプターの特異的阻害剤であるSR-95531の前処置でメントールによる麻酔効果は減弱した。3.3mMのメントールでは,異常遊泳行動のあと麻酔効果がみられた。異常行動はAllyl isothiocyanate暴露により観察され,Icilinではこの行動を示さなかった。これらの結果はメントールによる全身麻酔効果は少なくとも一部はGABAAレセプターを介し,TRPM8-, TRPA1-レセプターを介さないこと,異常遊泳行動はTRPA1レセプターを介することを示している。さらに,魚類に冷侵害受容が存在する可能性を示唆している。

 

(24) 腰椎椎間板ヘルニアにおけるセロトニンとTNF-aの相互作用

小林 洋,関口美穂,加藤欽志,菊地臣一,紺野愼一
(福島県立医科大学整形外科学講座)

【背景】セロトニンとTNF-aは,腰椎椎間板ヘルニアにおける神経炎症に関与する化学的因子である。しかし,両者の相互作用については不明である。

【方法】SD系雌ラットを用い実験系を,対照群(生理食塩水),セロトニン群 (30mg),TNF-a群 (0.5ng),混合投与群(セロトニン+TNF-a),および髄核留置群(尾椎髄核)の5群に設定した。各物質を左第5 腰部神経根の後根神経節 (DRG) 上に100ml投与した。機械的疼痛閾値の測定と左L5DRGでの神経細胞障害マーカーであるATF3の発現を計測した。さらに,セロトニンの代謝産物である5HIAA,TNF-a,5HT2A受容体,およびTNFR1 受容体の発現を定量した。

【結果】機械的疼痛閾値は,セロトニン群とTNF-a群では術後7日目まで,混合投与群では術後21日まで,髄核留置群では術後28日目まで,対照群と比較して有意に低下していた。ATF3陽性率は,セロトニン群とTNF-a群では術後2日目まで,髄核留置群では術後7日まで,対照群に比べて有意に増加していた。Western blottingでは,セロトニン群とNP群におけるTNF-aの増加と,TNF-a群とNP群における5HT2A受容体の発現の増加が認められた。一方,TNFR1の発現の増加はいずれの群でも認められなかった。5-HIAAの増加はNP群でのみ認められた。

【考察】外因性のセロトニンとTNF-aは,各々単独で神経細胞障害と疼痛閾値の低下を引き起こした。また,セロトニンはTNF-aを誘導し,TNF-aは5HT2A受容体発現を増加させるという相互作用が認められた。これらの結果から,両者は腰椎椎間板ヘルニアにおいて同時に存在することにより,疼痛閾値の低下をより長く持続させると考えられた。

 

(25) 関節炎性疼痛モデルにおけるASIC3 の関与

池内昌彦1,Sluka KA21高知大学医学部整形外科,2アイオワ大学)

 関節炎症状は,ときに炎症部位の疼痛にとどまらず,関節から離れた部位の疼痛(関連痛)や痛覚過敏(二次痛覚過敏)を伴う。われわれは筋骨格系疼痛における酸感受性イオンチャンネルASIC3の役割に注目しており,今回ノックアウトマウスを用いてASIC3と関節炎性疼痛の関係を検討した。マウス膝関節にカラゲナン関節炎を作り,tweezerによる膝関節刺激とvon Freyフィラメントによる足底刺激の2種類の機械的刺激に対する行動学的疼痛評価を行った。ベースラインにおいて各刺激に対する疼痛閾値は,ノックアウトと野生型マウスの間に差を認めなかった。関節炎惹起後,野生型マウスでは膝・足底いずれの刺激に対しても疼痛閾値は低下したが,ノックアウトマウスでは足底における疼痛閾値の変化を認めなかった(二次痛覚過敏の欠如)。野生型マウスにおいてDRG細胞のASIC3発現率を免疫組織学的に検討した結果,関節炎惹起後にASIC3-irニューロンの数が約50%増しになっており,増加したニューロンの多くはCGRPと共存していた。ASIC3は,関節炎性疼痛のうち炎症部位を離れた部位の疼痛閾値の低下(二次痛覚過敏の発生)に関与しており,関節炎惹起後にみられるASIC3のアップレギュレーションが二次痛覚過敏を発生させる一因であることが示唆された。

 

(26) 骨損傷時の圧痛メカニズムの解析 -神経成長因子の関与-

安井正佐也1,尾崎紀之1,白石洋介1,2,杉浦康夫1
1名古屋大学大学院医学系研究科 機能形態学講座,
2日本伝統医療科学大学院大学 統合医療研究科)

【目的】骨損傷時の圧痛メカニズムを解明するため,骨損傷モデルにおける損傷部の圧痛と神経分布の変化を観察し,神経成長因子(NGF)とそのレセプターであるTrkAの阻害薬が及ぼす痛覚の変化を観察する。

【方法】ラットの脛骨に,1)皮膚,骨膜を切開しドリルで骨孔を開けた骨損傷群,2)皮膚,骨膜切開を行った骨膜切開群,3)皮膚切開のみ行った皮膚切開群,の3群を作製し,損傷部の機械刺激に対する逃避行動を観察した。また,治癒経過をHE染色にて観察し,免疫組織化学的に標識した神経線維の長さを計測した。さらにanti-NGFとK252a(TrkA阻害薬)を損傷部へ投与し痛覚の変化を観察した。

【結果】骨損傷群で28日間,骨膜切開群で21日間,皮膚切開群で5日間,機械性痛覚過敏が観察された。骨損傷群で28日間,骨膜切開群で21日間,内軟骨性骨化が観察された。骨損傷群の損傷後28日目の仮骨及び骨膜にCGRP, TH, GAP43陽性神経線維が著しく増加していたが,骨膜切開群では変化がなかった。anti-NGFおよびK252aは骨損傷群7日目および28日目の機械性痛覚過敏を抑制した。

【結論】脛骨に骨孔を作製する骨損傷モデルは,骨損傷および治癒経過における痛みのメカニズムの解析に有用と思われた。骨損傷時の痛みには,骨の治癒過程と,神経線維の発芽が関与しており,NGF-TrkAを介する知覚神経の感作が示唆された。

 

(27) 「特別講演」 Translational studies of musculoskeletal pain

Thomas Graven-Nielsen (Aalborg University, Center for Sensory-Motor Interaction)

 Chronic pain conditions are today recognised as an independent healthcare problem. Between 12-17% of the world’s population suffers from chronic pain. Especially musculoskeletal pain has a great socio-economic impact. Unfortunately chronic pain responds often inadequately to current treatment modalities and a better understanding of muscle pain mechanisms are crucial. Muscle pain is typically accompanied by a variety of characteristics such as referred pain to distant somatic structures and muscle hyperalgesia. Studies in animals or healthy volunteers can not be translated directly into the clinical application and act as proxies for clinical conditions but they can provide mechanistic knowledge providing better fundamental understanding of clinical signs and symptoms. Experimental pain research is one way to attain new knowledge on the mechanisms involved in muscle pain. In healthy subjects and patients standardised induction and assessment of muscle pain can reveal novel information about the normal and pathological nociceptive system. Manifestations of referred pain, temporal summation of muscle pain, and deep tissue hyperalgesia can be assessed in humans and reflect sensitisation of peripheral and central neuronal components. Central sensitisation is fundamental in the transition from acute pain to chronic pain. Sensory manifestations of muscle pain are reported as a diffuse aching pain in the muscle, pain referred to distant somatic structures, and hyperalgesia in the painful areas. The sensation of acute muscle pain is the result of activation of group III and group IV muscle receptors (nociceptors) responding to strong (noxious) mechanical or chemical stimulation. The nociceptors can be sensitized by the release of substances from glia cells, neural, and muscular tissues. Eventually, peripheral sensitisation may lead to hyperalgesia and central sensitization of dorsal horn neurones manifested as prolonged neuronal discharges, increased responses to defined noxious stimuli, pain response to non-noxious stimuli, and expansion of the receptive field Fundamentals of muscle pain, muscle hyperalgesia and referred pain and how these characteristics can be assessed in experimental or clinical conditions will be presented. Referred pain and summation of muscle pain is based on central mechanisms and therefore likely to be enhanced by central sensitization. Quantitative sensory testing provides the possibility to evaluate these manifestations in a standardized way. In experimental human models it has been shown that prolonged conditions of muscle pain can facilitate the mechanisms of referred pain and temporal summation of muscle pain. In musculoskeletal pain patients facilitated mechanisms for referred pain has recently been described together with a more expressed summation of pain from deep tissue. Novel models of prolonged muscle hyperalgesia by NGF injections show similar facilitation. Such translational steps can provide the basis for developing better diagnosis and targeted drug development hopefully providing better treatment of disabling chronic musculoskeletal pain conditions.

 



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