【概要】
2009年には,かなり大きな人事異動があった。中田大貴君が早稲田大学に,坂本貴和子さんが日本大学に各々移動しました。また,平井真洋君がカナダのクイーンズ大学に,望月秀紀君がドイツのハイデルベルグ大学に留学した。新しい研究室での活躍を祈っている。逆に,4月より,守田知代さんが特任助教,仲渡江美さんと松吉大輔君がポスドクとして新しく赴任してきた。さらに,大学院生5名が学位論文をまとめて,2010年3月に卒業予定である。長年,共に研究してきた仲間が離れていくことには一抹の寂しさを感じるが,研究者の流動性は,研究室のactivityを維持するのに必須であることも事実である。
2009年も他施設との共同研究が順調に進んでいる。国内では中央大学文学部(山口教授),日本大学脳外科(片山教授,山本教授),大阪大学脳外科(齋藤准教授),三重大学精神科(元村英史先生),広島大学保健学科(弓削類教授),群馬大学保健学科(酒井教授)また国外では,米国NIH (Prof. Hallett),米国カリフォルニア工科大学(Prof. Shimojo),カナダRotmann Institute (Prof. Ross),イタリアChieti大学(Prof. Romani),ドイツMunster大学(Prof. Pantev),ドイツHaiderberg大学(Prof. Treede)との共同研究を行っている。
医学(神経内科,精神科,小児科など),歯学,工学,心理学,言語学,スポーツ科学など多様な分野の研究者が,体性感覚,痛覚,視覚,聴覚,高次脳機能(言語等)など広範囲の領域を研究しているのが本研究室の特長であり,各研究者が自分の一番やりたいテーマを研究している。こういう場合,ややもすると研究室内がバラバラになってしまう可能性もあるが,皆互いに協力し合い情報を提供しあっており,教室の研究は各々順調に行われている。脳波と脳磁図を用いた研究が本研究室のメインテーマだが,最近はそれに加えて機能的磁気共鳴画像(fMRI),近赤外線分光法 (NIRS),経頭蓋磁気刺激 (TMS)を用いた研究も行い成果をあげている。
2008年度から,私が領域代表者として5年間の予定でスタートした,文部科学省新学術領域研究「学際的研究による顔認知メカニズムの解明」も順調に活動が進んでいる。他に文部省科研費,厚生労働省,環境省などからの研究費を含めて,多くの競争的外部資金を得ている。研究員一同,より一層の努力を続けて質の高い研究を目指していきたいと思っている。
仲渡江美,大塚由美子,金沢 創(日本女子大学)
山口真美(中央大学),渡邉昌子,柿木隆介
正面顔と横顔を見ている時の生後5ヶ月児と8ヶ月児の脳血流量を,近赤外分光法(Near-Infrared Spectroscopy;NIRS)を用いて計測した。乳児に,野菜の写真を10秒以上見せた後,5名の女性の正面顔,または横顔の写真を5秒間ずつ提示し,それぞれ野菜を見た時と,顔写真を見た時のヘモグロビン量の差について分析した。その結果,正面顔に対しては,5ヶ月児も8ヶ月児も,顔認識に重要な役割を果たす右側頭部位でヘモグロビンの変化量が増加した。一方で,横顔に対しては,8ヶ月児でのみヘモグロビンの変化量が増加した。この結果は,5ヶ月児は正面顔だけを「顔」とし,横顔を「顔」として見ていない可能性がある一方で,8ヶ月児は,正面顔も横顔も「顔」として見ている可能性を示すものであった。つまり,「横顔」を「顔」として判断するには,生後5ヶ月から8ヶ月にかけて発達的な変化が起こる可能性が考えられた。(Human Brain Mapping, 30(2):462-472, 2009)
坂本貴和子,中田大貴(名古屋大学医学部保健学科),柿木隆介
よく噛むと頭がよくなる,という指摘を,誰しもが一度は受けたことがあると思う。日本咀嚼学会では,咀嚼によってリラックス,ストレス軽減,記憶力向上,ダイエット等,様々な効果が得られるとしているが,これまでの先行研究では咀嚼中の脳活動を記録したものはあるものの,咀嚼によって脳活動がどう変化するのかを検討したものは殆どなかった。そこで今回我々は,聴覚を用いたオドボール課題中のP300と,逸脱刺激が提示された際のボタン押しによる反応時間を同時に計測するタスクを1つのタスクとし,合計4タスクの計測を行った。この際タスクとタスクの間に休憩を5分間はさみ,この間①安静,②ガム噛み,③指タッピング,④顎運動,の4つの手法で,それぞれ休憩を行ってもらった。結果,休憩中にガムを噛ませた場合のみ,P300の潜時が早くなり,振幅は維持された。また反応時間の短縮が認められた。以上より,咀嚼動作には,覚醒やモチベーションの維持等,何らかの効果があることが示唆された。 (Clinical Neurophysiology, 120(1):41-50, 2009)
三木研作,渡邉昌子,竹島康行,照屋美加,本多結城子,柿木隆介
初期視覚野の活動を抑えるランダムドットブリンキング(RDB)を用い,顔認知過程を反映する誘発脳波を調べた。以下の視覚刺激を用いた。(1)Upright:輪郭,目,口からなる模式的な正立顔。(2)Inverted:Upright条件を逆にしたもの。正立顔としての全体性は失われているが,空間的配置はUprightと同じ。(3)Scrambled:UprightやInvertedと構成要素は同じだが,内部構造の空間的配置自体が異なる。左右側頭部のT5,T6電極で,頂点潜時が刺激提示後250ミリ秒の陰性波 (N-ERP250)が各条件でみられた。N-ERP250の頂点潜時は,InvertedとScrambled条件で,Uprightに比べ有意に延長していた。また最大振幅に関しては,条件間に有意な差はみられなかった。この結果より,正立顔を構成する要素が失われていくことで,顔認知過程において,正立顔では起こらない顔の部分の分析的情報処理が行われていることが示唆された。(Experimental Brain Research, 193(2):255-265,2009)
平井真洋,中村みほ(愛知県心身障害者コロニー),金桶吉起,柿木隆介
ウィリアムズ症候群は希少遺伝子病であり重度の空間認知障害があることが知られている。特に情報の統合に障害があることが報告されているため,各光点運動を統合してヒト運動として知覚することが必要なバイオロジカルモーション(以下,BM)知覚処理には困難が伴うと考えられてきたが,数例の行動研究によりBM知覚処理は異常が見られないとの報告がされている。しかしながら,ウィリアムズ症候群の患者に関して,BM刺激に対する神経活動に関してこれまで明らかにされてこなかった。本研究では脳磁図計(MEG)を用いてウィリアムズ症候群成人のBM刺激に対する脳磁場反応を計測した。結果,ウィリアムズ症候群成人における脳磁場反応の最大振幅と潜時は正常な成人の平均値の2標準偏差以内に入った。これらの結果は,これまでの行動実験による研究と矛盾せず,神経活動においても障害が無い可能性が示唆された。(Neuroreport, 20(3):267-272, 2009)
山代幸哉,乾 幸二,大鶴直史,木田哲夫,柿木隆介
ヒトや動物は生存のために,身の周りに起こる変化を瞬時に検出する皮質ネットワークを備えていると推察される。変化検出の皮質ネットワークが存在するならば,文字通りの刺激の変化のみならず,刺激の呈示(ON)や刺激の消失(OFF)に対しても脳活動が記録されるはずである。本研究では,変化検出に関わる脳活動を記録するために数秒間持続するトレイン電気刺激のONとOFFを用いて実験を行った。結果,ON・OFF刺激に共通して刺激後100-150ms付近に陽性と陰性の脳活動(P100・N140)が記録された。脳が変化を検出するためには比較のための前事象が必要不可欠であり,ON反応の場合は無刺激状態,OFF反応の場合はトレイン刺激が前事象となりP100・N140が誘発されたと考えられる。よって,これらの活動は短期記憶によって保持された変化前の事象と最新の事象との比較により誘発される変化検出反応であると示唆された。(Neuroimage, 44(4):1363-1368, 2009)
中田大貴(早稲田大学スポーツ科学学術院),坂本貴和子,本多結城子
望月秀紀(ハイデルベルグ大学),寶珠山稔(名古屋大学医学部保健学科),柿木隆介
これまで我々は随意運動中の痛覚−運動統合処理過程について,脳磁図(MEG)と脳波(EEG)を用いて検討してきたが,本研究では随意運動前における痛覚−運動統合処理過程を検討した。聴覚刺激の2~3秒後に,YAGレーザーによる痛覚刺激を各被験者の左手の甲に与え,3つの実験課題を行った。①安静課題では何もしない(コントロール),②動作課題では痛覚刺激後にできるだけ早く左手の第II指を挙げる,③計数課題では痛覚刺激の回数を数える,という課題を行なった。各課題50試行行い,計150試行を計測した。その結果,動作課題においては,脳波におけるN2成分の振幅と,前帯状回(ACC)に関する脳磁場強度が有意に減少したが,計数課題ではそのような変動は見られなかった。追加実験として,同様に①安静課題(コントロール),②痛覚刺激後にできるだけ早く右手の第II指を挙げる,③痛覚刺激後にできるだけ早く左足の甲を挙げる課題を行った。その結果,脳波のN2成分の振幅の変動は見られなかった。本研究の結果は,随意運動前の痛覚−運動統合処理過程において,刺激部位と動作部位が一致する場合に,前帯状回の脳活動が随意運動によって抑制を受けることを示唆した。(Neuroimage, 45, 129-142, 2009)
田村洋平(東京慈恵会医科大学神経内科)
植木美乃,Peter Lin,Sherry Vorbach,Mark Hallett
(米国立神経疾患・卒中研究所運動制御部門)
美馬達哉(京都大学脳機能総合研究センター),柿木隆介
Focal hand dystonia(FHD)における感覚皮質可塑性について検証した。対象はFHD患者10名(右利き,患側は右側),健常人10名(右利き)。左第一次感覚皮質磁気刺激と右正中神経電気刺激を組み合わせたPaired - associative stimulation(PAS)により感覚皮質可塑性を誘導した。0.1Hzで計180ペア施行した。PAS施行前後で右正中神経刺激SEP計測を単発刺激,二重刺激で行い,興奮および抑制機能を検討した。FHD患者ではPAS施行後のSEP皮質成分の振幅増大の程度が健常人に比較して大きかった。またFHD患者において二重刺激で抑制の障害を認めたが,PASによって抑制が増強された。FHDでは運動皮質と同様に感覚皮質においてもPASにより誘導される可塑性の変化が認められ。これは興奮と抑制の両側面において認められた。(Brain, 132(Pt 3) :749-755, 2009)
金桶吉起,浦川智和,平井真洋,柿木隆介,村上郁也
(東京大学大学院総合文化研究科)
2通りの運動知覚(上下または左右)が交代して起こる視覚刺激(仮現運動)をもちいて,その知覚が維持されるメカニズムを調べた。視覚刺激は1秒に4回の早さで与え続けると,250msごとにその刺激に対する反応が脳磁図(MEG)で記録される。刺激はまったく同じにも関わらず,被験者が上下の運動を知覚しているときの反応と左右の運動を知覚しているときの反応を比べると潜時160ms付近で明瞭な振幅の差が見られた。さらに驚くべきことは,刺激を物理的に変えて強制的に上下や左右の運動しか見えない刺激を与えて反応を記録しても,知覚も刺激も違うにもかかわらず反応には明瞭な差はみられなかった。よって,あいまいな刺激のみに反応が変化したことは方向選択性ニューロンの特性などでは説明できず,あいまい刺激から明瞭な知覚を得るときのみに起こる神経活動が存在し,それは初期視覚野にあることを示す。さらにその神経活動は,刺激を受けてから惹起されるわけではない。数十秒も同じ知覚が持続することは,視覚野のその刺激に対する反応特性がその間維持されていることを示す。つまり,250msごとに繰り返される刺激にどう反応するかあらかじめ決定されているのである。これは視覚野neural networkのシナプス特性に反応特性が刻み込まれていることを示唆する。(Neuroscience, 159(1):150-160, 2009)
三木研作,木田哲夫,田中絵実,永田 治,柿木隆介
視覚的回旋刺激を提示した際の聴覚誘発脳磁場について検討した。視覚刺激として,国際宇宙ステーション「きぼう」船内のバーチャルリアリティ画像を用いて,以下の条件を提示した。(1)RR:被験者が画像の真ん中を中心に回旋しているように感じる。(2)VR:被験者が垂直方向に回旋しているように感じる。(3)HR:被験者が水平方向に回旋しているように感じる。(4)ST:画像自体は回旋しない。視覚刺激提示後10秒後に視覚刺激を提示したまま1000Hzの純音を提示し,聴覚誘発脳磁場を計測した。聴覚刺激提示後90ミリ秒後に明瞭な誘発脳磁場が認められ,Heschl’s gyrus付近に活動源が推定された。活動の大きさ(最大値)においては,右半球ではST条件に比べ,RR条件とVR条件で有意に大きくなっていた。この結果より,視覚情報が直接的もしくは前庭系などを介して,間接的に聴覚野の活動へ影響を及ぼした可能性が示唆された。(Experimental Brain Research, 194(4):597-604,2009)
金桶吉起,浦川智和,柿木隆介
物体の運動はその速度と方向で現されるベクトルであるが,視覚的に物体の運動を認識する際の脳の処理過程では,局所で検出された運動の速度と方向がそれぞれ独立した神経系で処理されている可能性が指摘されている。今回の実験では,それを検証するためにヒトが運動を観察したときに生じる脳反応を脳磁場にて計測した。脳反応は,運動の速度や方向によってその特性が変化した。反応の潜時(運動が始まってから反応が起きるまでの時間)は,運動速度が速くなるほど短くなり,方向には依存しなかった。一方反応の波形は,方向によって有意に変化し,その変化は速度には依存しなかった。この結果はヒトの脳反応は速度と方向でそれぞれ独立に変化することを示し,脳内で速度と方向が別々の神経機構で処理されていることを支持している。
自然界の複雑な運動を検出するための神経機構の探求は,これまで運動ベクトルを処理するとして多くの研究がなされてきた。しかしそれらにはいずれも解決されない重大な問題があった。運動ベクトルがいったん2つのスカラーとして処理されるとすると多くの問題がたやすく解決する可能性があり,脳の情報処理過程の真の姿にせまることができるかもしれない。またそのような処理方法は種々の画像処理に応用でき,画期的な技術開発につながる可能性がある。(Neuroscience, 160(3):676-687, 2009)
平井真洋,渡邉昌子,本多結城子,柿木隆介
バイオロジカルモーション(以下,BM)刺激に対する神経活動の学童期における発達的変化を明らかにするため,7歳から14歳までの児童50名と成人10名を対象に事象関連電位(ERP)計測をした。実験にはヒトの歩行運動が知覚可能なBM刺激と光点の空間位置をランダマイズしたscrambled motion (SM)刺激の2種類の刺激を提示した。結果,刺激提示後130, 200, 330ミリ秒後にみられる3つの成分(P1, N1, N2)を両側後側頭部で計測した。P1成分はBMのほうがSMよりも短く,またP1成分の振幅およびN1成分の潜時は年齢とともに線形に減少した。しかしながらN2成分については発達に伴う変化はみられなかった。更にP1とN1成分の振幅の差分およびN1成分の潜時は10歳まで成人よりも有意に増大が認められたが,11歳では有意差は認められなかった。これらの結果はBM刺激に対する後側頭部における神経活動が10歳まで変化する可能性を示唆する。(Neuroscience 161(1):311-325, 2009)
坂本貴和子
中田大貴(名古屋大学医学部保健学科),本多結城子,柿木隆介
本研究は,前述の事象関連電位を用いた検討にて,咀嚼には何らかの効果があるということが示唆されたことから,咀嚼の効果がヒトの認知処理過程にあるのか,それとも運動そのものにあるのかを明確にすることを目的として行われた。実験は聴覚刺激を用いた随伴性陰性変動(Contingent Negative Variation: CNV)と,運動関連脳電位(Movement-Related Cortical Potential)を計測した。タスクはそれぞれ計4タスクずつ行い,前述の事象関連電位の実験と同様,タスク間には5分間の休憩を挟んだ。休憩中は①ガムを噛む場合と,②安静にする場合の,それぞれ2パターンの休憩を行ってもらった。結果,タスク間にガムを噛んだ場合のみ,CNVの振幅が有意に増大したが,タスク間に安静を保った場合には変化が認められなかった。またMRCP課題を行った際は,休憩中にガムを噛んだ場合も安静を保った場合も,どちらも振幅に有意な違いは認められなかった。この結果より刺激始動性の運動準備過程を反映しているCNVでのみガム噛みの効果が得られたことから,ガム噛みは刺激を認知・処理する過程へ効果をもたらすことが示唆された。(Neuroscience Research, 64(3):259-266, 2009)
田中絵実,乾 幸二,木田哲夫,柿木隆介
顔を見たときの皮質活動の時空間動態に含まれる様々な成分のうち,輝度関連,顔関連,感覚非特異的成分を抽出するために,我々は脳磁図により顔刺激の出現,消失,変化に対する皮質応答を計測した。その結果,一次・二次視覚野(V1/V2)の応答は輝度に依存する応答を示した。中後頭回(Middle Occipital Gyrus: MOG)と側頭頭頂接合部(Temporo-Parietal Junction: TPJ)は,三種の顔刺激すべてに150msで応答した。紡錘状回(fusiformgyrus: FG) の応答は,顔の出現と変化に対して認められたが,消失では認められなかった。FGの応答は三相性の応答を示し,皮質直接記録と一致する結果であった。以上より,顔を見たときに誘発される皮質活動には,輝度関連活動 (V1/V2),物体(顔)認知関連活動(FG),非特異的活動 (MOG,TPJ)の少なくとも四つの成分が含まれていることが明らかとなった。(BMC Neuroscience, 10(1):38, 2009)
平井真洋,柿木隆介
これまでの行動実験により,2エージェントの相互作用するバイオロジカルモーションはそうでない刺激に比べて検出成績が高いとの報告があるが,いつ,どのように2エージェントの相互作用に関する情報が脳内において表象されるかについては不明であった。本研究では,相互作用するバイオロジカルモーションと2エージェントの位置を入れ替えた刺激を用い,その提示方向を操作し,それらの刺激に対する神経活動を調べた。結果,刺激提示後300-400ミリ秒において両側後頭部において脳磁場反応が見られ,その活動は相互作用,提示方向の要因によって変調された。特に左半球は2エージェントの相互作用に関する情報を,右半球はエージェントの形態情報に関する情報を処理する可能性が示唆された。(BMC Neurosci 10(1):39, 2009)
山代幸哉,乾 幸二,大鶴直史,木田哲夫,柿木隆介
ヒトや動物は生存のために,身の周りに起こる変化を瞬時に検出する皮質ネットワークを備えていると推察される。変化検出の皮質ネットワークが存在するならば,文字通りの刺激の変化のみならず,刺激の呈示(ON)や刺激の消失(OFF)に対しても脳活動が記録されるはずである。本研究では,変化検出に関わる聴覚誘発電位を同定するために,1000Hz純音と2種類のトレイン(ISI:50,100ms)によって構成される持続音(3~5s)のONとOFFを刺激として用いた。結果,ON・OFF刺激に共通するN1mが誘発された。脳が変化を検出するためには比較のための前事象が必要不可欠であり,ON反応の場合は無音状態,OFF反応の場合は持続音刺激が前事象となりN1mが誘発されたと考えられる。本研究は,N1mが短期記憶によって保持された変化前の事象と最新の事象との比較により誘発される変化検出反応であることを明らかにした。(European Journal of Neuroscience, 30(1):125-131, 2009)
中田大貴(早稲田大学スポーツ科学学術院)
坂本貴和子,乾 幸二,寶珠山稔(名古屋大学医学部保健学科),柿木隆介
No-go電位はGo/No-go課題を行なった際,No-go試行に特異的に誘発され,反応抑制に関係した電位であるとされている。これまで視覚・聴覚刺激を中心とした研究がなされてきたが,この電位が真に反応抑制を反映しているのであれば,刺激のモダリティーには依存しないであろうと考えられる。我々の先行研究では,体性感覚刺激を用いたGo/No-go課題を行ない,視覚・聴覚刺激と同様のNo-go電位を計測することができた。本研究ではさらに,痛覚刺激によるGo/No-go課題を用いてNo-go電位が計測されるのかを確かめた。痛覚刺激は表皮内電気刺激法を用い,左手の甲の内側をGo刺激,外側をNo-go刺激とし,呈示確率を50%:50%にした。実験条件は①安静課題,②Go/No-go課題,③選択反応課題を行なった。Go/No-go課題ではGo刺激時に右手のボタン押しを行なった。選択反応課題では,内側が刺激された場合は#1のボタン,外側が刺激された場合には#2のボタンを押す課題を行った。その結果,Go/No-go課題でのN2,P3成分の振幅は,No-go刺激時にGo刺激時よりも有意に増大した。安静課題,選択反応課題において,有意な振幅の違いは認められなかった。痛覚刺激Go/No-go課題時においても,No-go試行時に特異的な電位が誘発されることが示唆され,No-go電位は刺激のモダリティーには関係なく,共通した神経活動を反映していると考えられた。(Neuroreport, 20, 1149-1154, 2009)
田中絵実,木田哲夫,乾 幸二,柿木隆介
人間をはじめとする霊長類にとって多種感覚環境において動的変化を素早く検出する能力は,危険な事象を察知し,生存を勝ち取るために不可欠である。これまでの研究で視覚,聴覚,触覚刺激によって多種感覚領域が活動することが示されてきた。本研究では,脳磁場計測により,視覚,聴覚,体性感覚刺激を用いた多種感覚環境において,単一感覚種の入力変化に応答する時変的皮質活動を検証した。その結果,側頭頭頂接合部(Temporo-Parietal Junction: TPJ),中・下前頭皮質(Middle and Inferior Frontal Gyrus: MFG/IFG)などの多種感覚領域において,どの感覚種の入力変化によっても駆動される皮質応答が記録された。これらの多種感覚応答は,個々の感覚領域における応答に後続して記録され,いずれも変化後300ms以内にあった。以上より,多種感覚環境において単一感覚種入力の変化に応答する神経過程は,初期の感覚領野から後期の多種感覚領野にまで異なる時間動態で分布することが明らかとなった。(Neuroimage, 48(2):464-474, 2009)
中田大貴(早稲田大学スポーツ科学学術院),坂本貴和子
Ferretti A, Perrucci MG, Del Gratta C, Romani GL
(キエーティダヌンチオ大学生体応用工学部)
柿木隆介
不適切な行動を抑制することは,ヒトにおいて不可欠な能力であるが,この抑制過程に関わる脳部位については,まだ詳細に明らかにされていない。本研究では,事象関連型fMRIを用い,体性感覚刺激Go/No-go課題におけるNo-go試行時の脳活動部位について,その血流が下がるNegative BOLD効果を検討した。被験者は健康成人15名。課題は,Go刺激が呈示された際にボタン押しを行なう①動作課題,Go刺激の数を数える②計数課題を行なった。Go刺激(左手正中神経)ならびにNo-go刺激(左手尺骨神経)は50% : 50%で,呈示された。その結果,2つの課題において,No-go刺激時に上前頭回(SFG)(ブロードマン8野)の脳活動の血流が下がることがわかった。この脳部位は「ボタン押しをしない」「数を数えない」といった際に,共通して脳血流が下がる部位であることを示した。その詳細な機序については不明であるが,No-go刺激時に血流が増加する背外側前頭前野(DLPFC),腹外側前頭前野(VLPFC)の部位と関係があると推察される。(Neuroscience Letters, 462, 101-104, 2009)
中村みほ,道勇さゆり(愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所)
水野誠司(愛知県心身障害者コロニー・中央病院)
松本昭子,熊谷俊幸(愛知県心身障害者コロニー・こばと学園)
渡邉昌子,柿木隆介
ウィリアムズ症候群(WS)は認知のばらつきが大きいことで知られている,図形の構成の障害をはじめとする視空間認知障害は中でも特徴的な所見とされており,本邦においては漢字模写にも影響をあたえることがある。
これまでのWS研究はこれらの認知特性を横断的に検討することが多かったが,本検討においては長期にわたる研究協力の得られた被験者らを対象として視空間認知症状について縦断的な検討を実施しえた。
初診時4歳から11歳のWS男児4名について,2次元図形,3次元図形,漢字の模写をはじめとする視空間認知課題を実施し,その縦断的変化を検討した。また,経過観察最終時点でBenton 3D block construction testsやtheYerkes testを実施した。従来,ウィリアムズ症候群においては2次元図形の模写において,細かい構成要素の模写は可能であるが,それらを適正に配置して大まかな形を形成することが苦手である(local processing bias)という所見が示されていたが,同様の所見を全例において経過観察の比較的初期に認めた。また,同時期に漢字模写に困難を示した。
しかしながら,上記所見は一過性であることが多く,3名ではその所見に改善を認めた。
また,3次元図形の模写については改善がおくれ,特に立方体透視図の模写は全例で困難なままであった。Yerkes testにおいて,ブロックで作られた立体図形の奥に隠れた部分を推定することが困難であった所見と合わせ,WSにおいて,長期的に存続する特徴的な認知特性を反映する所見と考えられた。(Pediatric Neurology, 41(2):95-100, 2009)
望月秀紀,乾 幸二,大鶴直史,山代幸哉
田邊宏樹,佐々木章宏,定藤規弘(生理学研究所大脳皮質機能研究系)
秋山理沙(ワシントン大学心理・生物学部)
中田大貴(名古屋大学医学部保健学科)
柿木隆介
痒みは掻きむしりたくなる不快な体性感覚である。これまでの痒みの脳機能画像研究から,前頭前野,体性感覚野,帯状回,島,頭頂葉,運動関連領野,線条体,小脳などが痒み刺激によって活動することが明らかとなった。しかしながら,これら脳部位が,どのような機能的つながりをもっているのか,すなわち,脳部位間の情報伝達については検討されていない。そこで我々は,高時間分解能を有する脳磁図と高空間分解能を有する機能的MRIを組み合わせることにより,痒みの脳内情報伝達過程を可視化することを試みた。痒み電極を用いて痒みを誘発したときの脳磁場反応は,主に,両側第二次体性感覚野(SII)/島と楔前部の神経活動に起因することが,脳磁図データとfMRIデータの解析から明らかとなった。痛みの先行研究では痛み刺激に伴う楔前部の反応があまり観測されていないことから,この部位が痒みに選択性をもつことが示唆された。また,時間情報に注目した脳磁図データの解析から,脳梁を介した刺激対側SII/島から刺激同側SII/島への情報伝達経路が明らかとなった。(Journal of Neurophysiology, 102(5):2657-2666,2009)
坂本貴和子
中田大貴(名古屋大学医学部保健学科)
Perrucci MG,Del Gratta C,Romani GL(キエーティ・ダヌンチオ大学生体応用工学部),
柿木隆介
本研究では,何らかの作業中に脳血流が増加する一般的なBOLD効果ではなく,作業中に脳血流が減少する領域を検索した(Negative BOLD効果)。通常手や足の運動を行った場合,対側の一次運動野等において血流の増加が認められるが,反対に同側の運動野にて血流の現象がみられることが知られている。では運動時に両側の運動野が活動する舌を運動させた際には,どの領域で血流の現象が認められるのか,それを調べるため事件を行った。fMRIの中で視覚刺激を提示し,緑ランプが点灯するタイミングに合わせて舌の前突運動を遂行してもらった。結果として,一次運動−体性感覚両野,下頭頂小葉,島皮質,上側頭回,視床などにおいて脳血流の増加が認められたが,反対に後頭頂葉(PPC),楔前部,中側頭回において血流の現象が認められた。今回の実験では,手や足を両側同時に動作させた際のNegative BOLD効果については検討していないため,考察を深めることはできないものの,明瞭な血流現象がみられた後頭頂葉や楔前部には,舌の運動に関連した神経ネットワークが存在することを反映しているのではないかと考えられる。(Neuroscience Letter, 466(3): 120-123, 2009)
大鶴直史,乾 幸二,山代幸哉,宮﨑貴浩,大澤一郎(三重大学医学部),
竹島康行,柿木隆介
従来の電気刺激では細径のC線維のみを選択的に刺激することは困難であり,細径神経機能を選択的に評価する方法は確立されていない。そこで本研究では,我々の研究室で開発した表皮内針電極を用い,特殊なパラメーターを用いることによりC線維を選択的刺激が可能であるかを調べた。健常被験者10名から,特殊な電気刺激パラメーターを用いた表皮内電気刺激による誘発電位を脳波計を用いCzより記録した。2箇所(手背,前腕)の刺激により記録した誘発反応(P1)潜時の差から伝導速度を求めた。結果,手背と前腕の刺激による平均P1潜時は各々,1007±88ms,783±80msであり,2箇所のP1潜時差から求めた平均伝導速度は1.5±0.7m/sであった。
得られた伝導速度は,マイクロニューログラフィーやレーザー刺激において報告されているC線維の伝導速度と一致し,C線維を選択的に刺激していることが示唆された。(The Open Pain Journal, (2):53-56 (4), 2009)
宮﨑貴浩,王 暁宏,乾 幸二,Domino EF(ミシガン大学薬学部),柿木隆介
本研究はC線維を介する痛覚認知に喫煙およびニコチンが与える影響を評価するため,レーザーによるC線維の選択的刺激と痛覚関連電位を用いて検討した。実験は喫煙,非喫煙の2条件で行った。喫煙条件では被験者はニコチン1mgを含有するタバコを一本喫煙し,その前と5, 20, 35および60分後に痛覚関連電位を測定した。非喫煙条件では,喫煙をしないことを除いて同様の方法で測定を行った。痛覚関連電位の主要な成分であるN2, P2成分の振幅には,血漿中ニコチン濃度に相関した増加が認められた。またN2, P2成分の振幅は背景a帯域活動の周波数とも正に相関していた。本実験の結果は喫煙・ニコチンによる覚醒度の亢進が痛覚関連電位の振幅を増加させることを示唆するものと考えられる。この結果はAd線維に関して行った実験とは逆の結果であり,喫煙・ニコチンがAd線維とC線維を介する痛覚認知において異なる作用を示す可能性を示唆された。 (The Open Pain Journal (2):71-75 (4), 2009)
【概要】
私達を含め動物は,日常生活において周りの状況に応じて最適な行動を選択し,あるいは自らの意志によって四肢を自由に動かすことにより様々な目的を達成している。このような随意運動を制御している脳の領域は,大脳皮質運動野と,その活動を支えている大脳基底核と小脳である。逆にこれらの領域に異常があると,パーキンソン病やジストニアに見られるように,随意運動が著しく障害される。本研究部門においては,大脳基底核を中心に,このような随意運動の脳内メカニズムおよびそれらが障害された際の病態,さらには病態を基礎とした治療法を探ることを目的としている。
そのために,①大脳基底核を巡る線維連絡を調べる,②課題遂行中の霊長類の神経活動の記録を行う,③大脳基底核疾患を中心とした疾患モデル動物(霊長類・げっ歯類)からの記録を行う,④このような疾患モデル動物に様々な治療法を加え,症状と神経活動の相関を調べる,⑤様々な遺伝子改変動物の神経活動を記録することにより,遺伝子・神経活動・行動との関係を調べることを行っている。
畑中伸彦,高良沙幸,金子将也,橘 吉寿,南部 篤
大脳基底核は大脳皮質−基底核連関の一部として,運動の遂行,企図,運動のイメージ,習慣形成などに関わるとされている。大脳基底核の入力核のひとつである視床下核は大脳皮質からの興奮性入力を受け,淡蒼球内節・外節と黒質網様部に興奮性の出力を送る(ハイパー直接路)。また視床下核は淡蒼球外節からの抑制性入力(間接路)を受けており,大脳基底核の出力核である淡蒼球内節および黒質網様部に時間的に差のある2種類の出力を送ることになる。このように,視床下核は大脳基底核の入力核でもあり,介在部でもある複雑な働きをしていると考えられる。われわれはサル視床下核ニューロンを,大脳皮質一次運動野上肢近位領域および遠位領域,補足運動野上肢領域に対する刺激への応答様式から分類し,その後,遅延期間付き3方向への上肢到達運動課題を課し,そのニューロンの実行中の活動様式を記録した。さらに,単一ニューロン活動記録と薬物の微量注入を併用し,視床下核ニューロンへの興奮性・抑制性入力をブロックした場合の運動課題実行中の活動様式を観察し,興奮性・抑制性の入力がどのように影響を与えているかを検討している。
金子将也,畑中伸彦,南部 篤
淡蒼球内節と黒質網様部は,大脳基底核の出力核であり,その活動は大脳基底核−大脳皮質連関に大きく影響を与えると考えられる。淡蒼球内節には時間的に異なる3つの入力が大脳皮質よりもたらされる。1) 大脳皮質−視床下核−淡蒼球内節路(ハイパー直接路)は淡蒼球内節ニューロンを短潜時で興奮させる。2) 大脳皮質−線条体−淡蒼球内節路(直接路)が続いて蒼球内節ニューロンを抑制する。3) 大脳皮質−線条体−淡蒼球外節−視床下核−淡蒼球内節路(間接路)が再び淡蒼球内節ニューロンを興奮させる。淡蒼球内節ニューロンは拮抗する興奮性・抑制性入力によってどのように調節されているのかを調べるために,運動課題遂行中のサル淡蒼球内節ニューロンにおいて,単一ユニット記録と神経遮断薬の微量注入を併用し,検討している。
知見聡美,太田 力,佐藤朝子,笹岡俊邦,勝木元也(基礎生物学研究所)
黒川 信(首都大学東京),南部 篤
大脳基底核は運動制御の高次中枢である。大脳基底核内のドーパミンが枯渇すると,パーキンソン病でみられるような重篤な運動障害を生じることから,ドーパミン神経伝達が運動制御において重要であることが知られているが,機能の詳細については不明な部分が多い。本研究では,大脳基底核内情報伝達におけるドーパミンD1およびD2受容体の機能を明らかにすることを目的として,Dox投与によりD1受容体の発現を調節できる遺伝子改変マウス,D2受容体のノックアウトマウスにおいて,大脳基底核の神経活動を覚醒下で記録した。淡蒼球内節および外節ニューロンの自発発火様式と,大脳皮質の電気刺激に対する応答様式の解析から,D1受容体を介したドーパミン神経伝達は,線条体から淡蒼球内節に投射する直接路ニューロンに対して興奮性に働くのに対して,D2受容体を介した伝達は,線条体から淡蒼球外節に投射する間接路ニューロンに対して抑制性に働くことが示唆された。
佐野裕美,知見聡美,小林和人(福島医大),南部 篤
線条体の投射ニューロンは,ドーパミンD1受容体を発現し黒質網様部/淡蒼球内節に投射する線条体−黒質投射ニューロンと,ドーパミンD2受容体を発現し淡蒼球外節に投射する線条体−淡蒼球投射ニューロンに分類される。イムノトキシン細胞標的法という遺伝子組換えマウスを利用したこれまでの解析から,線条体−淡蒼球投射ニューロンを除去すると運動量が増加することが明らかとなっている。しかし,線条体−淡蒼球投射ニューロンの除去により,どのように神経活動が変化して運動が増加したのかについては解明されていない。線条体−淡蒼球投射ニューロンが制御する神経活動と運動調節との関係を明らかにするため,線条体−淡蒼球投射ニューロンを除去したマウスの淡蒼球外節と黒質網様部の神経活動を覚醒下で記録した。その結果,線条体−淡蒼球投射ニューロンの除去は淡蒼球外節や黒質網様部の発火頻度や発火パターンに影響を与えないことが明らかとなった。しかし,大脳皮質運動野の電気刺激に対して淡蒼球外節や黒質網様部で認められる早い興奮−抑制−遅い興奮という三相性の応答のうち,淡蒼球外節では抑制と遅い興奮が,黒質網様部では遅い興奮が消失する傾向が認められた。これらの結果から,大脳基底核の出力核である黒質網様部における遅い興奮の消失が運動量の増加に関与していることが示唆された。
佐野裕美,知見聡美,加藤茂樹(福島医大),
小林憲太(福島医大),小林和人(福島医大),南部 篤
Channelrhodopsin-2 (ChR2)やhalorhodopsin (NpHR)等の光受容体を利用した光遺伝学は,光照射により時間分解能良く神経活動の興奮や抑制を誘導することができるため,神経回路の情報処理機構を解明するための強力なツールである。光遺伝学を有効に活用するためには,複雑な神経回路において標的とする神経経路特異的に光受容体を導入する必要がある。新規に開発された狂犬病の糖タンパクを持つレンチウイルスベクターは注入部位から逆行性に遺伝子導入が可能であり,複雑な神経回路において標的の神経経路に遺伝子導入するための優れた手段である。そこで,ChR2のcDNAを組み込んだ狂犬病の糖タンパクを持つレンチウイルスベクターを作製し,マウスの線条体に注入した。その結果,大脳皮質,視床束傍核,黒質緻密部など線条体へ入力することがよく知られている領域においてChR2の発現が認められた。さらに,大脳皮質において光照射と神経活動の記録を同時に行ったところ,光照射に応答して興奮の誘導が認められた。この結果は,大脳皮質−線条体経路を選択的に興奮誘導することができたことを示唆している。
高良沙幸,畑中伸彦,南部 篤
線条体は大脳皮質運動野に生じた運動情報を受け取る大脳基底核の入力核のひとつで,GABA作動性の投射ニューロンと少数であるが数種類の介在ニューロンから成り立つ。介在ニューロンは投射ニューロンの活動に大きな影響を与えると考えられているが,実際の運動中にどのような役割を担っているのかは,未解明である。線条体ニューロンのうち,1)自発発射頻度が高く,2)スパイクの持続時間が短く,3)大脳皮質刺激に対し短潜時で応答するニューロングループがあり,これらはパルブアルブミン陽性GABA作動性の介在ニューロンと考えられる。サルに上肢到達運動課題を遂行させ,このニューロンの活動を調べた。その結果,運動時に発射活動が増加し,その活動は到達運動の方向には依存しないことがわかった。このことは,この介在ニューロンが運動に際し,広く周囲の投射ニューロンを抑制している可能性を示唆する。