生理学研究所年報 第31巻
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動物実験センター

【概要】

1.全般

 本年度の大きな柱は,1) 明大寺地区地下SPF施設の本格稼働,2) 明大寺地区本館・新館施設における清浄化の維持および3) 霊長類遺伝子導入実験室の設置に伴う動物実験センターの機能移転であった。

 1) については漸く動き出し,個別喚起ケージ(IVC)システムの長所・短所を今後良く見極め,不具合の部分は改善を図りたい。IVC使用希望者数は増え,明大寺地区と山手地区における利用者の交通整理が今後必要である。2) については一年間感染症の再発はなく,撲滅宣言として,完了する。この間,センター職員も微生物汚染に関してかなり神経を使い,多くの時間と労力を注いだ。3) は計画通りに仕事が進まず,新しい受理室を設置したことに留まり,次年度に引き継ぐ事項である。MRI撮影時の動物の保管や微生物レベルが不明瞭な動物の受入などで,支障が生じている。

2.明大寺地区地下SPF施設の稼働

 2009年6月から明大寺地区地下SPF施設は試験稼働から本稼働に移行した。2010年1月から3月までエレベーター工事で一時休止する間に,器具機材の最終購入を図り,来期以降の利用促進を心がけた。

3.長類遺伝子導入実験室に伴う動物実験センターの機能移転

 当初予定していた受理室の建物では,建築が難しいことや建築費が高額であることがわかり,家庭用のバルコニーを応用する案を提出し,方針を変更した。新しい受理室の設置が大幅に遅れてしまい,その間実験動物や飼料の搬入に苦慮した。外気が直接侵入する問題が生じ,感染症の防疫対策で労力を割くこととなった。2009年10月に漸く新受理室ができ,通常の受け入れ業務に移行した。ロボット掃除機による廊下の清掃や空気清浄機による空間の清浄化に注意を払っている。

 マウス・ラットの緊急避難一時飼養保管施設の設置は,今期実現することができなかった。設計段階の話は済み,建築許可申請の手続きに向かっている。来年度秋期を目処にできる限り早めに設置稼働できるようにしたい。

 動物実験センターの機能の移転は未だ十分ではないが,センターの業務および利用者の実験に支障が起きないように現在努力をしている。グレーゾーンの実験動物の搬入や空調・給排気のバランスの崩れなど今後残る問題もあり,対策を講じなければならない。平成23年度以降の生理学研究所の耐震補強工事計画に関係づけて改善が図れればと期待する。

4. 山手地区一時保管室の定期的消毒

 これまで一時保管室は定期的モニタリングを行っていないので,一年に一回という考えで,全面消毒を今期実施した。研究のスケジュール上,一気に消毒を行うことができず,二期に分けて作業を実施した。ホルムアルデヒド薫蒸消毒ではなく,過酢酸および過酸化水素を用いた水溶性消毒剤噴霧を適用した。師走に完了したが,新しい消毒方法により良好な消毒成績を得た。代替消毒技術も今後確立させて,安全な消毒に努めたい。

5. 明大寺地区本館2階・新館3階のクリーン化および感染事故撲滅

 Mouse hepatitis virus, Mycoplasma pulmonis およびBordetella bronchiseptica の感染について,昨年度第一期・二期に分けて,消毒作業を行い,2008年12月末をもって終息をみた。その後も感染の広がりはなく,1年間の定期的モニタリング成績からも異状は認められなかった。一連の微生物検査成績に基づき,上記感染症の完全撲滅宣言としたい。Pasteurella pneumotropica および消化管内原虫は残り,拡散方向に進んだが,これは致し方ないと考える。今後も,気をゆるめることなく,設備や機材の整備(白衣,帽子,手袋,マスク,消毒薬,履き物等)に努めたい。ただし,定期的微生物モニタリングの協力件数が減ってきている点が気がかりではある。また,衛生資材の消耗品経費も増加し,廉価な物に切り換えるなどの努力をする。

6. 山手地区SPF施設の清浄度レベルの確認

 国立大学法人動物実験施設協議会が示すExcellent statusの項目を調べ,どのレベルまで達しているかを確認した。6か月間の調査ではあったが,Staphylococcus aureus を除き,すべての項目で陰性であることがわかった。国内のSPF施設の清浄度レベルとしては,最高レベルの状況で維持されている。特に,大学・公的研究機関のSPF施設としては申し分がなく微生物統御がなされていると判断された。黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus については,市販のSPF動物が20-70%ほど有する細菌のため,動物の導入に伴い施設に定着しているものと思われた。利用者のご協力に感謝申し上げるとともに,今後もこの高い清浄度レベルが維持できる様に努力する所存である。また,温水配管を設置し,冬期の手指洗浄に利便を図った。

 通常の定期モニタリング成績では,山手地区SPF施設はMinimum status+蟯虫,Pasteurella pneumotropica は陰性であった。部門内の実験動物では,蟯虫と緑膿菌が検出された。明大寺地区の成績については,動物実験センター,行動様式解析室および研究部門内の実験動物はカテゴリーA, Bの検査項目をクリアーしている。

7. 吸入麻酔機の導入

 実験動物の苦痛の軽減,従事者の労働安全の確保および実験の精度・効率の向上を目指すために,齧歯類の吸入麻酔機を導入した。現在試行段階であり,従来のバルビツレート系注射麻酔に比べ,取り扱いが良いことは確かである。来期は,吸入麻酔法の経験を多くして,データを積み重ねることを目標にしたい。麻酔モニタリング指針(案)の策定にも協力できる体制をとりたいと考える。

8. エレベーター・ダムウェーターの改修工事

 動物実験センターの開設後,約30年が経過して,施設の老朽化がかなり目立ち始めている。とりわけ,エレベーター・ダムウェーターの障害は大きな問題となり,手直しを図り,機器の延命に努めて来た。今期マスタープランに則り,エレベーター・ダムウェーターの改修に漕ぎ着けた。事故(特に人身事故)が起こらずに済み,ホッとしている。ダムウェーターは人が乗降できるエレベーターに変わり利便性が高まった。エレベーターは清浄に心懸け汚染しない様にしている。今後,人や物品の動線もさらに改まることが期待できる。

9. 教育訓練

 麻酔および疼痛管理の教育訓練を,動物実験委員会主催の教育訓練part 2として,4回に分けて開催した。中型動物(イヌ,ネコ,サル),小型動物(ウサギ,モルモット),両生類,魚類およびげっ歯類(マウス,ラット)と動物種ごとに分けて実施した。今後テキストとして利用できるように便宜を図る予定である。山手地区利用者講習会は毎月定期的に実施した。

 



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