生理学研究所年報 第31巻
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計算科学研究センター

【概要】
 様々な機能性生体様物質の創生を目指している。なかでも核酸の塩基対構造に注目し,4種類の天然塩基を区別することなく塩基対を形成する動的構造変化型ユニバーサル塩基とそれをオリゴヌクレオチドに導入したユニバーサル核酸,高い塩基認識能と塩基対形成能および様々な機能を有する人工核酸塩基,核酸中の全塩基を塩基選択的に標識する手法を開発している。それら人工の核酸塩基を利用して,塩基対構造を深く理解するとともに,電子顕微鏡をはじめとする各種計測装置を利用した一分子核酸配列解析技術への応用についても研究を進めている。人工核酸塩基と反応剤の設計・評価に計算科学研究センターに設置された大型計算機とプログラムライブラリーを利用する。

 

ユニバーサル核酸の創生

片岡正典

 報告者の開発した,相対する塩基に呼応して動的に構造変化して天然型核酸塩基4種すべてと塩基対を形成しうる動的構造変化型ユニバーサル塩基をペプチド核酸型のオリゴヌクレオチドへの導入に成功した。天然のオリゴヌクレオチドとの会合体形成について吸収スペクトルで調査したところ,如何なる配列であっても安定な複合体を形成することが明らかとなった。核酸配列を全く認識せず,核酸に対して特異的に複合体を形成する人工核酸の例はなく,その波及効果は計り知れない。

 

全塩基修飾型核酸標識-塩基置換法

片岡正典,永山國昭

 核酸中の同種の塩基全てを化学的に標識する手法を開発した。本法は塩基選択的に塩基を分解,遊離させてリボースを生成させる第一段階とリボースに対して標識剤を導入する第二段階からなり,一度の操作で核酸中の同種の塩基全てを標識できる。本法は塩基選択的反応を組み合わせ,標識を4度繰り返すことで塩基ごとに異なる標識を施すことも可能である。また,1級あるいは2級のアミノ基を有している全ての標識剤を導入できるため,目的に応じて標識剤を自由に選択できる特長も有している。実際に本法を用いてオリゴヌクレオチドを11個の金からなる金属クラスターによって多点標識することに成功しており,透過型電子顕微鏡を用いた配列解析技術など様々な応用が期待される。

 

全塩基修飾型核酸標識-塩基拡張法

片岡正典,永山國昭

 核酸中の同種の塩基全てを化学的に標識する手法を開発した。塩基置換法に比して装置の要求度は高いものの安価・簡便な操作で標識を完了し,高分解顕微鏡をはじめとする一分子観察技術を用いて4種の塩基を識別可能とする。本法は塩基を構成するヘテロ環を増環する修飾反応に基づいており,塩基選択的であることから様々なパターンで各塩基を標識できる多様性も有する。また,解離剤を用いなくとも直接二重鎖DNAを標識反応に供することができ,標識後は自動的に一本鎖に解離する。本法は塩基置換法と同様に核酸中の同種の塩基全てを標識できる,これまでに類を見ない標識法である。

 



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