生理学研究所年報 第31巻
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4.神経科学の新しい解析法とその応用

2009年7月16日-7月18日
提案代表者:高橋正身(北里大学)
所内対応者:池中一裕(分子神経生理部門)

(1)
前脳形成過程におけるジンクフィンガー遺伝子Fezf1, Fezf2の機能解析
清水健史1,中澤祐人1,平田 務1,Young-Ki Bae1
可児修一1,清水貴史1,影山龍一郎2,日比正彦1
1理化学研究所,発生再生科学総合研究センター(CDB),体軸形成研究チーム,
2京都大学,ウイルス研究所)

(2)
脳由来神経栄養因子によるミトコンドリアの局在を介した軸索側枝形成の制御
中原聡一郎,松木則夫,小山隆太
(東京大学 大学院薬学系研究科 薬品作用学教室)

(3)
COUP-TFIIは尾側基底核原基に優位に発現し,尾側細胞移動経路を制御する
金谷繁明,仲嶋一範(慶應義塾大学・医学部・解剖学)

(4)
偏光顕微鏡を用いた神経突起縮退時の細胞骨格ダイナミクスの解析
犬束 歩(京都大学大学院理学研究科 生物物理学教室 構造生理学講座)

(5)
Cre-loxPシステムによるゼブラフィッシュ脊髄神経回路網の解析
佐藤千恵(岡崎統合バイオサイエンスセンター)

(6)
LTPに伴うスパイン増大におけるCaMKIIaのキナーゼ活性の解析
梅田達也1,2,山肩葉子3,4,5,真鍋俊也5,6,岡部繁男7
1東京医科歯科大学 細胞生物学,2生理学研究所 認知行動発達機構,
3生理学研究所 神経シグナル研究,4総合研究大学大学院,5CREST,
6東京大学 神経ネットワーク,7東京大学 神経細胞生物学)

(7)
聴覚同時検出におけるフィードフォワード抑制機構の働き
山田 玲(京都大学 医学部 神経生物学)

(8)
KCC2による海馬顆粒細胞の主要樹状突起形成の制御
市川淳也,松木則夫,小山隆太
(東京大学 大学院薬学系研究科 薬品作用学教室)

(9)
アメボイドミクログリアにおけるPLD4の解析
大谷嘉典1,山口宜秀1,木谷 裕2,池中一裕3,佐藤友美4,古市貞一4,馬場広子1
1東京薬大・機能形態,2家畜研究センター,
3生理研・分子神経生理,4理研・脳センター・分子神経形成)

(10)
神経幹細胞のアストロサイト分化を制御するエピジェネティクス機構
佐野坂司1,波平昌一1,神山 淳1,蝉 克典1,田賀哲也2,中島欽一1
1奈良先端大・分子神経分化制御,2東京医科歯科大・幹細胞制御)

(11)
小脳皮質形成期の外顆粒細胞層で一時的にGABAが放出され
顆粒細胞前駆体(GCP)の増殖を制御している
森島寿貴(浜松医科大学 生理学第一講座)

(12)
Mechanism underlying gliotransmitter release from cultured astrocytes
Hae Ung Lee1, Shigeyuki Namiki3, Kenji Tanaka1,2,
Kishio Furuya4,5,6, Hongtao Liu7, Masahiro Sokabe4,5,6,
Kenzo Hirose3, Yasunobu Okada1,7, Kazuhiro Ikenaka1,2
1Division of Neurobiology and Bioinformatics,
National Institute for Physiological Sciences, Okazaki, Japan,
2The Graduate University of Advanced Studies,
3Department of Neurobiology, Graduate School of Medicine,
University of Tokyo, Tokyo, Japan,
4International Cooperative Research Project/Solution Oriented Research
for Science and Technology, Cell-Mechanosensing Project,
Japan Science and Technology Agency, Nagoya, Japan,
5Department of Physiology, Nagoya University Graduate School of Medicine,
Nagoya, Japan,
6Department of Molecular Physiology, National Institute
for Physiological Sciences, Okazaki, Japan,
7Department of Cell Physiology, National Institute
for Physiological Sciences, Okazaki, Japan)

(13)
統合失調症の動物モデルの作成とその行動薬理学的,組織学的解析
鳥塚通弘,牧之段学,山内崇平,紀本創兵,
辰巳晃子,奥田洋明,和中明生,岸本年史
(奈良県立医科大学 精神神経医学講座,第二解剖学講座)

(14)
Identification and functional analysis of anovel LewisX-synthesizing a1,3- fucosyltransferase gene in neural precursor cells
Akhilesh Kumar

(15)
温度感知行動を司る神経回路システム
~分子生理学者が目指すシステムズバイオロジー~
久原 篤(名古屋大学大学院理学研究科)

(16)
細胞間隙での伝達物質濃度推移が定める信号伝達特性
松井 広(生理学研究所・脳形態解析研究部門)

(17)
海馬白板のオリゴデンドロサイトの同定および活動電位の軸索伝導に対する修飾効果
山崎良彦(山形大学医学部生理学講座)

(18)
多光子励起顕微鏡を駆使した骨組織内のin vivoライブイメージング
~骨吸収の新しい調節機序の発見
石井 優(大阪大学・免疫学フロンティア研究センター・生体イメージング)

【参加者名】
石井 優(大阪大学免疫学フロンティア研究センター),市川淳也(東京大学大学院薬学系研究科),犬束 歩(京都大学大学院理学研究科),梅田達也(生理研認知行動発達機構),大谷嘉典(東京薬科大学大学院薬学研究科),鹿川哲史(東京医科歯科大学難治疾患研究所),金谷繁明(慶應義塾大学医学部),工藤佳久(東京薬科大学),久原 篤(名古屋大学大学院理学研究科),熊倉鴻之助(上智大学理工学部),熊田竜郎(浜松医科大学生理学第一),小山隆太(東京大学大学院薬学系研究科),佐藤千恵(岡崎統合バイオサイエンスセンター),佐野坂司(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科),清水健史(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター),高橋正身(北里大学医学部),鳥塚通弘(奈良県立医科大学大学院医学研究科),中原聡一郎(東京大学大学院薬学系研究科),鍋倉淳一(生理研生体恒常機能発達機構),東島眞一(岡崎統合バイオサイエンスセンター),松井 広(生理研脳形態解析),湊原圭一郎(京都大学大学院理学研究科),森島寿貴(浜松医科大学生理学第一),山崎良彦(山形大学大学院医学系研究科),山田 玲(京都大学大学院医学研究科),山中章弘(岡崎統合バイオサイエンスセンター),和中明生(奈良県立医科大学第二解剖学),池中一裕(生理研分子神経生理),等 誠司(生理研分子神経生理),田中謙二(生理研分子神経生理),吉村 武(生理研分子神経生理),小池崇子(生理研分子神経生理),後藤仁志(生理研分子神経生理),稲村直子(生理研分子神経生理),李 海雄(生理研分子神経生理),範 凱(生理研分子神経生理),清水崇弘(生理研分子神経生理),Akhilesh Kumar(生理研分子神経生理),石野雄吾(生理研分子神経生理),杉尾翔太(生理研分子神経生理),宮本愛喜子(生理研生体恒常機能発達機構),吉田 明(生理研多次元共同脳科学推進センター),佐々木哲也(基生研脳生物),湊佐知子(基生研統合神経),桜庭寿一(基生研統合神経),服部聡子(生理研行動様式),作田 拓(基生研統合神経),山肩葉子(生理研神経シグナル)


【概要】
 極めて高度に複雑化した脳の機能を理解していくためには,異なるコンセプトに基づく多様な解析法を駆使していくことが不可欠となっている。しかし急速な神経科学研究の進展の結果,夥しい量の情報が溢れ,異なるコンセプトに基づく研究者間での相互理解は容易ではなくなってきている。本研究会では神経科学の様々な分野で活発に研究を行っている若手研究者を集めて最新の研究成果を紹介してもらい,異なるコンセプトに基づく研究への相互理解を深めることを通じて,より広い視野から神経科学を見つめ直してもらうことを目的とした。

 神経発生の分野では分化に伴う転写制御や機能分子の役割,細胞移動,神経突起の伸長・退縮,回路形成などの問題を取り上げた。成体の脳機能の解析法については,多光子励起顕微鏡の新しい利用法の紹介や,シナプス可塑性に伴うスパインの動態の解析などと共に,神経回路の機能に着目したシステムバイオロジーや,コンピューターシュミレーションを用いた新しいシナプス機能の解析法などの方法論も取り上げ,活発な討論を行った。

 今回の研究会のもう一つの特色として,近年脳機能への役割が注目されているグリア細胞に関わる研究の紹介も積極的に行い,グリア細胞の分化に関わるエピジェネティックな機構や,グリア細胞からの情報分子(グリアトランスミッター)の放出機構,グリア細胞の機能制御に関わるシグナル分子の同定などの話題も取り上げた。

 現在,我が国には神経科学を分子レベルから個体レベルまで系統的に教育するシステムが残念ながら存在していない。このため若手研究者のものの見方や考え方が,ともすると出身研究室のコンセプトに囚われてしまい,新たな問題提起や解決法の発見に繋がる広い視野を持つことが難しい状況にあると考えられる。この様な状況を打破していくためには,様々な分野の若手研究者を一堂に集め自由で活発な討議を行える研究会の重要性が,今後益々高まってくるものと考えられる。

 

(1) 前脳形成過程におけるジンクフィンガー遺伝子Fezf1, Fezf2の機能解析

清水健史1,中澤祐人1,平田 務1,Young-Ki Bae1
可児修一1,清水貴史1,影山龍一郎2,日比正彦1
1理化学研究所,発生再生科学総合研究センター(CDB),体軸形成研究チーム,
2京都大学,ウイルス研究所)

 前脳および嗅覚システム特異的に発現するジンクフィンガー型転写抑制因子FEZF1, FEZF2は,マウスとゼブラフィッシュにおいて,前脳形成,特に,皮質投射神経の形成・終脳背側の成長・海馬領域の形成・ドーパミン作動性神経の形成・間脳のパターニングを制御することが明らかになっている。しかしながらFEZF1, FEZF2が,どのような分子メカニズムでそれらをコントロールしているかは不明であるので,転写因子FEZF1, FEZF2の標的遺伝子を探索を行った。GeneChip解析により,Fezf1-/- Fezf2-/-胚で発現が増加する遺伝子としてbHLH型転写抑制因子Hes5を,減少する遺伝子としてbHLH型転写活性化因子Neurogenin2を見出した。

 Hes5プロモーターアッセイとクロマチン免疫沈降法(ChIP)を行った結果,FEZF1, FEZF2タンパク質がHes5プロモーターに結合し,Hes5の転写を抑制することを明らかにした。

 また,Fezf1-/-Fezf2-/-マウスの胎生10.5日胚において,神経前駆細胞の増殖の増加と,Tuj1陽性ニューロンの減少が認められた。終脳の発生初期にTuj1陽性ニューロンが減少した結果,Fezf1-/-Fezf2-/-マウスにおいてカハールレチウス細胞の減少とサブプレートニューロンの減少,および大脳皮質第4層の欠損が誘導されることが分かった。

 

(2) 脳由来神経栄養因子によるミトコンドリアの局在を介した
軸索側枝形成の制御

中原聡一郎,松木則夫,小山隆太(東京大学 大学院薬学系研究科 薬品作用学教室)

 側頭葉てんかん患者およびそのモデル動物の海馬歯状回では,顆粒細胞の軸索である苔状線維が過剰な数の側枝を形成する異常発芽が確認されている。軸索側枝の形成および維持にはミトコンドリアによるATPの供給が不可欠であるため,異常発芽の形成とミトコンドリア動態の関連をラット由来の海馬切片培養系を利用して検証した。異常発芽の形成とミトコンドリアの動態を経時的に観察するために,細胞膜移行性を有するGFPとミトコンドリア移行性を有するDsRedを切片内の顆粒細胞に共発現させ,共焦点顕微鏡を利用した経時観察を行った。そして,GABAA受容体の阻害薬であるピクロトキシンを処置することにより,培養切片にてんかん様状態を誘導した。その結果,苔状線維内のミトコンドリア密度の上昇に伴う側枝数の増加が確認された。次に,ミトコンドリアの軸索内局在を制御する因子として脳由来神経栄養因子(BDNF)に着目し,その関与を検証した。てんかん様状態における軸索内ミトコンドリア密度の上昇はBDNFの機能阻害抗体によって抑制された。さらに,BDNFを被覆した微小ビーズを苔状線維に接触させると,接触部位にミトコンドリアが局在し,その後,同部位より新たな側枝が形成される様子が観察された。本研究により,てんかん脳における異所性神経回路の形成に,軸索内ミトコンドリア局在の異常が関与する可能性が示唆された。

 

(3) COUP-TFIIは尾側基底核原基に優位に発現し,
尾側細胞移動経路を制御する

金谷繁明,仲嶋一範(慶應義塾大学・医学部・解剖学)

 大脳発生期の尾側基底核原基(CGE)にて誕生する抑制性神経細胞は,尾側へ向かう領域特異的な移動様式CMS(尾側細胞移動経路:Caudal migratory stream)を示す(Yozu et al., J Neurosci, 2005)。我々はCMSがCGE特異的に観察される事から,CMSがCGE特異的に発現する遺伝子により制御されているのではないかと考え,CGEに特異的に発現する分子を探索した結果,COUP-TFIIがほぼCGE特異的に発現していることを見出した。さらにCGE細胞にてsiRNAを用いてCOUP-TFIIを抑制した場合,CMSの移動が抑えられ,逆にMGE細胞においてCOUP-TFIIを強制発現させた場合において,CMSが誘導されることを示した。胎生13.5日目においてCOUP-TFIIはCGEのみならず腹側と背側のMGEにも発現が見られる。そこで我々は,局所遺伝導入法により腹側MGEからの移動細胞を可視化したところ,腹側MGEからも顕著に尾側へ細胞が流れCMSを形成していることを見出した。この結果はCOUP-TFIIの発現により,CMSがCGEだけにとどまらず,“COUP-TFIIが発現する領域”という広い範囲において発現分子特異的に制御されている可能性を示すものである(Kanatani et al., J Neurosci, 2008)。

 

(4) 偏光顕微鏡を用いた神経突起縮退時の細胞骨格ダイナミクスの解析

犬束 歩(京都大学大学院理学研究科 生物物理学教室 構造生理学講座)

 神経回路網の形成過程においては,樹状突起や軸索といった神経突起が外環境中のガイダンス因子に応答して正しい経路を選択する。こうした応答においては最終的に細胞骨格が変化して細胞の形態が再編成されることが必要不可欠である。細胞骨格を構成する微小管やアクチンフィラメントといった構造物は,分子が規則的に配列しており,細胞内において複屈折性の高い領域として知られている。よって,偏光を用いた観察によって,蛍光分子を導入することなく非侵襲的に細胞骨格のダイナミクスを観察することが可能である。我々は従来型の偏光顕微鏡が持つ方向依存性を解消したLC-PolScopeを用いることによって,プロテインホスファターゼ阻害剤であるCalyculin A(CL-A)が引き起こす神経突起縮退現象を解析した。縮退過程において細胞骨格の複屈折性が維持されていたことから,CL-Aによる神経突起の縮退は従来提起されていたような微小管の脱重合によるものではないことが判明した。また,阻害剤等を用いた薬理実験により,CL-Aによる神経突起縮退の主な要因はミオシン軽鎖のThr18, Ser19におけるリン酸化を介したアクトミオシンの活性化であることが示され,そのリン酸化を担うキナーゼは軸索縮退においてしばしば報告されるMLCKやRho kinaseとは異なることが示唆された。

 

(5) Cre-loxPシステムによるゼブラフィッシュ脊髄神経回路網の解析

佐藤千恵(岡崎統合バイオサイエンスセンター)

 高等脊椎動物の神経回路網は複雑であり,解析に困難が伴うことが多い。一方で,ゼブラフィッシュは,脊椎動物の中では比較的その神経回路が単純で,また,胚,幼魚は体が透明で蛍光タンパクでの細胞の可視化に適しているため,近年,神経回路網の解析によく使用されている。我々は,神経発生の過程で,脊髄の背腹軸に沿ってドメイン状に発現する転写因子に関して,その陽性細胞で蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックフィッシュを作成し,それらの性質を解析している。これらの転写因子の発生期の脊髄における発現パターンは,脊椎動物間でよく保存されているので,ゼブラフィッシュで得られた知見が,哺乳類などにも有用な情報を与えてくれると期待される。

 研究を進めるにつれ,転写因子陽性細胞を単純に蛍光タンパク質でラベルする手法による解析のみでは困難が多いことも分かってきた。転写因子の発現は一過的であるため,成熟した神経細胞においては,蛍光タンパク質の発現が非常に弱くなってしまうこと,転写因子を発現する細胞から,複数のクラスの神経細胞が生じることが多いこと,である。これらの困難を克服するため,現在,Cre-loxPのシステムを取り入れることで,より少ないクラスの神経細胞を,その後期においても可視化することに取り組んでいる。本研究会では,我々の,Cre-loxPシステムを用いたゼブラフィッシュ神経回路網の解析の成果を報告したい。

 

(6) LTPに伴うスパイン増大におけるCaMKIIaのキナーゼ活性の解析

梅田達也1,2,山肩葉子3,4,5,真鍋俊也5,6,岡部繁男7
1東京医科歯科大学 細胞生物学,2生理学研究所 認知行動発達機構,
3生理学研究所 神経シグナル研究,4総合研究大学大学院,5CREST,
6東京大学 神経ネットワーク,7東京大学 神経細胞生物学)

 神経回路網は外界からの刺激に応じて神経細胞間のシナプス結合を可塑的に変化させて機能していると考えられている。近年の光学技術の進歩により,シナプス結合の可塑的変化は,機能的な変化(伝達効率の長期増強:LTP)だけでなくシナプス後部スパインのサイズが増大するといった大きな形態学的変化が同時に起こる事が複数の研究グループから報告されている。一方,CaMKIIaの持続的なキナーゼ活性がLTP発現に必須であるが,スパインサイズの増大時にスパインへの集積が報告され足場タンパク質としても働いている事が示唆されている。本研究では,キナーゼ活性を欠損したCaMKIIaのノックインマウスを作製し,回避学習課題や海馬でのLTPにキナーゼ活性が必須である事を示した。更に,海馬スライス培養における単一シナプスの動態を観察する実験から,LTPを誘導する刺激で生じるスパインの持続的な構造変化においてもキナーゼ活性が必要である事を示した。

 

(7) 聴覚同時検出におけるフィードフォワード抑制機構の働き

山田 玲(京都大学 医学部 神経生物学)

 動物は両耳間時差(ITD)を手がかりに音源定位を行う。ITD検出は脳幹の神経細胞が両側蝸牛神経核からの興奮性シナプス入力の同時検出器として働くことで行われる。鳥類では層状核(NL)神経細胞が,哺乳類では内側上オリーブ核(MSO)がその役割を担うが,それぞれ抑制性入力が重要な働きを持つ。哺乳類のMSOではフィードフォワード抑制により,抑制が興奮に対して一定の時間差で入ることが必要とされる。他方,鳥類のNLは上オリーブ核(SON)を起源とするフィードバック抑制を受ける。SON細胞は音圧系からの入力を受け,音の強さに応じた抑制によりITD検出の精度を制御する。他にも抑制性の介在細胞がNL周囲に存在するが,その役割は不明であった。今回我々は,スライス標本において蝸牛神経核を電気刺激すると,NLの低い周波数領域の細胞(low-CF細胞)においてEPSCに同期したIPSCが観察されることを見出した。このIPSCはSONを除去しても観察されることから,介在細胞によると考えられる。実際に介在細胞はlow-CF細胞の周辺に集中して存在することも分かった。これらのことからNLのlow-CF細胞においては音の時間情報を保持したフィードフォワード抑制回路が存在すると考えられる。さらにシミュレーションを用いることでITD検出における役割について検討した。

 

(8) KCC2による海馬顆粒細胞の主要樹状突起形成の制御

市川淳也,松木則夫,小山隆太(東京大学 大学院薬学系研究科 薬品作用学教室)

 歯状回門で新生した顆粒細胞は,先導突起に依存した放射状様移動をおこない,して顆粒細胞層に到達する。その後,顆粒細胞は分子層に1~2本の主要樹状突起を形成する。本研究では,先導突起が樹状突起となる可能性及びこれに関与する細胞生物学的メカニズムの解明を目指した。特に,GABA及びKCC2(K+-Cl-co-transporter)に着目し,その関与を検証した。生後6日齢のGFP強制発現ラットから作成した歯状回門切片を,野生型由来の海馬切片上に配置する共培養法により,幼若顆粒細胞の移動を経時的に観察した。これにより,先導突起が主要樹状突起へ成熟することを明らかにした。次に,同系においてビククリン(GABAA受容体の阻害薬)を処置したところ,主要樹状突起数は増加した。また,顆粒細胞の初代培養系において,GABAは主要樹状突起以外の短い樹状突起長を減少させた。さらに,GABAは顆粒細胞の細胞体および神経突起におけるKCC2の発現を上昇させることを発見した。最後に,フロセミド(KCC2阻害薬)の処置により,主要樹状突起数が増加することを確認した。以上の結果は,GABAがKCC2の発現上昇を介して主要樹状突起形成に関与することを示唆する。

 

(9) アメボイドミクログリアにおけるPLD4の解析

大谷嘉典1,山口宜秀1,木谷 裕2,池中一裕3,佐藤友美4,古市貞一4,馬場広子1
1東京薬大・機能形態,2家畜研究センター,
3生理研・分子神経生理,4理研・脳センター・分子神経形成)

 Phospholipase D4(PLD4)は生後初期の小脳や脳梁における発達期のアメボイド(活性化状態)ミクログリアに発現する分子である。また,病態時における変化をProteolipid protein(PLP)-transgenicヘテロ接合体マウスを用いて解析したところPLD4は病巣部のアメボイドミクログリアにも発現していることが明らかになっている。

 今回,PLD4の機能を明らかにするために,ミクログリア系細胞MG6を用いて解析を行った。LPS(Lipopolysaccaride)で活性化したMG6ではPLD4発現の明らかな上昇がWestern blotにより確認できた。MG6におけるPLD1, 2, 4の細胞内局在を免疫染色で検討した結果,PLD1は細胞の核小体に,PLD2は細胞質に,PLD4は核小体を除く核質に多く存在することが明らかになった。また,LPSによる刺激時にそれぞれの発現量が増加し,BioParticleを用いた貪食実験では,PLD1, 4のみが食胞に移行し,PLD2の局在には変化がなかった。これらのことからMG6の貪食作用にはPLD1, 4が関連することが示唆された。次にPLD4に相補的なsiRNA(PLD4-siRNA)およびControlのsiRNA(con-siRNA)でPLD4発現を抑制した際に貪食作用に影響があるかどうかを検討した。その結果,PLD4-siRNAを加えた群では無刺激とLPS刺激したもののどちらの状態においてもcon-siRNA群と比べて貪食細胞の割合が低く,特にLPS刺激群では無刺激の場合と同じレベルまで減少し,減少の度合が大きかった。以上の結果から,MG6細胞の貪食にPLD4が何らかの役割を果たしていることが示唆された。

 

(10) 神経幹細胞のアストロサイト分化を制御するエピジェネティクス機構

佐野坂司1,波平昌一1,神山 淳1,蝉 克典1,田賀哲也2,中島欽一1
1奈良先端大・分子神経分化制御,2東京医科歯科大・幹細胞制御)

 中枢神経系を構成するニューロン,アストロサイト及びオリゴデンドロサイトは,発生過程において共通の神経幹細胞から産生される。しかし,哺乳類の神経幹細胞は発生初期からそれら細胞種へと分化できる多分化能を有しているわけではない。胎生初期から中期にかけて神経幹細胞はニューロンのみを産生し,胎生後期から生後になって,始めてアストロサイトやオリゴデンドロサイトを産生する。近年の研究から,サイトカインなどを含む「細胞外シグナル」とエピジェネティックなゲノム修飾を含む「細胞内在性プログラム」の双方が神経幹細胞の分化制御に重要であることが明らかになりつつあるが,神経幹細胞の細胞産生順序を規定するメカニズムについては不明な点が多い。今回我々は,神経幹細胞から早期に生まれたニューロンが,Notchシグナルを介して神経幹細胞に働きかけ,アストロサイト特異的遺伝子の脱メチル化を介して神経幹細胞のアストロサイト分化を誘導することを明らかにしたので紹介したい。

 

(11) 小脳皮質形成期の外顆粒細胞層で一時的にGABAが放出され
顆粒細胞前駆体(GCP)の増殖を制御している

森島寿貴(浜松医科大学 生理学第一講座)

 小脳では,シナプス形成前から,外顆粒細胞層(EGL)のGCPにおいて,GABAA受容体が発現しているが,その役割は知られていない。我々は,リガンドであるGABAの時空間的な放出をイメージングできる方法を開発し,小脳皮質内での細胞外GABAの放出の分布を調べた。本方法はGABaseによるGABAの異化反応の際に起こるNADPがNADPHに変化する副反応を利用する。このNADPHの蛍光強度を測定することでGABAを定量的に可視化できる。小脳皮質での細胞外GABAレベルをイメージングした結果,皮質形成初期のP3では,GABAはEGLで強く観察された。さらにこのP3でのGCPにtonic GABA currentがpatch-clamp法で記録されることから,EGLのGABAARが細胞外GABAにより持続的に機能していると示唆される。次に,P3のEGLのGCPは細胞増殖期である為,GCPの増殖におけるGABAARの役割について機能阻害実験により検討した。GABAAR阻害剤であるBMIを含むEVA樹脂をラット小脳に移植し,GCPの増殖度合いを細胞分裂マーカーの免疫染色により調べた結果,EGLで増殖している細胞数が大幅に減少した。しかし,TUNEL陽性の細胞数は変化がなかった。このことから,GABAは発生初期のEGLで,GCPの増殖を制御している可能性が示唆された。

 

(12) Mechanism underlying gliotransmitter release from cultured astrocytes

Hae Ung Lee1, Shigeyuki Namiki3, Kenji Tanaka1,2,
Kishio Furuya4,5,6, Hongtao Liu7, Masahiro Sokabe4,5,6,
Kenzo Hirose3, Yasunobu Okada1,7, Kazuhiro Ikenaka1,2
1Division of Neurobiology and Bioinformatics,
National Institute for Physiological Sciences, Okazaki, Japan,
2The Graduate University of Advanced Studies,
3Department of Neurobiology, Graduate School of Medicine,
University of Tokyo, Tokyo, Japan,
4International Cooperative Research Project/Solution Oriented Research
for Science and Technology, Cell-Mechanosensing Project,
Japan Science and Technology Agency, Nagoya, Japan,
5Department of Physiology, Nagoya University Graduate School of Medicine,
Nagoya, Japan,
6Department of Molecular Physiology, National Institute
for Physiological Sciences, Okazaki, Japan,
7Department of Cell Physiology, National Institute
for Physiological Sciences, Okazaki, Japan)

 Recently, it has revealed that astrocytes sense and integrate synaptic activity and, depending on intracellular Ca2+ levels, release gliotransmitters that have feedback actions on neurons. Although these reports provided clues that astrocytes are the active components in the brain, they did not analyze the temporal and spatial pattern of gliotransmitters release from astrocytes. To examine the release of ATP and glutamate, we applied imaging techniques visualizing ATP and glutamate released from astrocytes. Luciferin-luciferase solution was applied to the extracellular fluid of astrocytes to visualize ATP release. To visualize glutamate release, glutamate optic sensor was applied. This specific probe for detecting glutamate is a hybrid molecule consisting of glutamate-binding protein (extracellular domain of AMPA receptor) and a small-molecule fluorescent dye. We successfully observed ATP or glutamate release from astrocytes and applied these technologies to observe spatio-temporal pattern of gliotransmitters release. By ATP stimulation, intracellular calcium elevation was observed in all astrocytes. However, under the same condition, only few astrocytes (ca. 3~7%) released glutamate. A similar phenomenon was observed in glutamate-evoked ATP release from astrocytes; even though all astrocytes showed increased intracellular calcium levels, small proportion of astrocytes released ATP by glutamate stimulation (ca. 1%). Our experiments revealed that intracellular calcium elevation was not enough to evoke gliotransmitter release. For the first time, glitransmitter release was successfully visualized and the mechanisms of gliotransmitter release were revealed through these imaging technologies.

 

(13) 統合失調症の動物モデルの作成とその行動薬理学的,組織学的解析

鳥塚通弘,牧之段学,山内崇平,紀本創兵,
辰巳晃子,奥田洋明,和中明生,岸本年史
(奈良県立医科大学 精神神経医学講座,第二解剖学講座)

 統合失調症の発症,病態には遺伝子異常,脳発達異常,ストレスなどの様々な要因が複雑に関与している。病因,病態の解明に加えて,治療薬の薬効評価に動物モデルは必須のツールであり,様々なモデルがこれまで作成されている。我々はウイルスパンデミックが後の統合失調症発症につながるという疫学調査に基づいた母体感染モデルに着目し研究を進めている。ウイルス感染と同様の免疫反応の起こさせるPoly I:Cを妊娠早期のマウスに投与し,その母体から生まれた仔マウスを解析するものである(以降Poly I:Cマウスと呼ぶ)。Poly I:Cマウスは統合失調症様症状として最も認知されているPrepulse inhibition(PPI)の低下を示す。このマウスにおいて我々は生後一過性に海馬のミエリン化が低下していることを認めた。逆に生後早期の正常マウスの両側腹側海馬にリゾレシチンを注入することで人為的にミエリン化を低下させると成熟期に至ってPPIの低下を示すことから,幼若期の海馬軸索のミエリン化はその後の精神神経発達に重要な役割を担っていると考えられる。Poly I:Cマウスではまた脳内のグルタチオン濃度の低下が認められ,酸化ストレスが高まっている。酸化ストレスを負荷するL-buthionine sulfoximine(BSO)を脳内に投与しさらに水浸拘束ストレスを加えるモデルについても現在検討中であり,これらいくつかのモデルについて紹介したい。

 

(14) Identification and functional analysis of a novel LewisX-synthesizing a1,3- fucosyltransferase gene
in neuralprecursor cells

Akhilesh Kumar

 LewisX (LeX) or stage specific embryonic antigen-1 (SSEA-1), is an important carbohydrate moiety expressed in undifferentiated embryonic stem cells, 8-cell to blastocyst stages in mouse embryo, in primordial germ cells, neural precursor cells and embryonic carcinoma cells. LeX expression is developmentally regulated in brain and is thought to play a role in cell-cell recognition, neurite outgrowth and neuronal migration during embryonic brain development. To analyze the functional role of LeX determinant in neurogenesis it is necessary to characterize the a1,3-fucosyltransferase enzyme(s) involved in its synthesis in neural precursor cells.

 Immunohistochemistry and in situ hybridization have revealed the co-expression of a novel a1,3-fucosyltransferase enzyme, fucosyltransferase 10 (FUT10) with LeX epitope in germinal zones around the lateral ventricle in mice embryonic brain. Further, the combinations of in vitro fucosyltransferase assay and high-performance liquid chromatography (HPLC) analysis have confirmed the a1,3-fucosyltransferase activity of FUT10 on some specific N-glycan bearing glycoprotein(s). In vitro fucosyltransferase assay revealed that FUT10 can synthesize LeX on bisecting sugar chain bearing glycoprotein(s) from Neuro2a cell lystae but not on pure lacto-N-neotetraose or PA-labeled bisecting sugar chains. Thus, FUT10 essentially requires the presence of substrate N-glycan bearing protein(s) for synthesizing LeX.

 In addition, in vivo loss-of-function studies using RNA interference (RNAi) targeting FUT10 were done. miRNA vectors or control vectors were coelectroporated with an green fluorescent protein (GFP) reporter in utero into the lateral ventricle at embryonic day 14.5 to transfect neural precursor cells of ventricular zone; the distribution of transfected cells were analyzed at embryonic day 17.5. This approach revealed the significance of FUT10 in embryonic brain development. A control miRNA with no effect on FUT10 expression has no effect on the distribution of transfected cells. In contrast, miRNAs that can suppress FUT10 expression showed mislocalization of GFP labelled cells, with essentially most of the transfected cells remain localized in ventricular zone, subventricular zone and intermediate zone. This defect is rescued by in utero electroporation of FUT10 expression construct along with the effective miRNA, confirming that FUT10 is crucial for the normal embryonic brain development.

 

(15) 温度感知行動を司る神経回路システム
~分子生理学者が目指すシステムズバイオロジー~

久原 篤(名古屋大学大学院理学研究科)

 感覚受容から記憶そして行動までを処理する神経メカニズムを包括的に理解することは,現在の神経科学における重要な課題のひとつである。我々は,記憶に依存した行動の可塑性を解析できるシンプルなモデル実験系として,線虫C. elegansの温度感知行動を指標に研究を行っている。本会では,「温度感知」と「温度情報処理」に関わる遺伝子と神経回路の生理学的活動に関する最新の知見を紹介する。前半では,これまでに嗅覚ニューロンとして知られていたAWCニューロンが温度の感知と記憶を行ない,AWCにおいて温度情報が哺乳類の視覚や嗅覚と同様にGタンパク質を介して伝達されることを紹介する(2)。後半では,従来の分子遺伝学とカルシウムイメージングやハロロドプシンなどの最新の光学技術を駆使し(2, 3, 4),行動を司るシンプルな神経回路を1つのシステムとしてとらえた研究を紹介する。さらに,実験系で得られた行動解析の結果とコンピューターシュミレーションを組み合わせた,チャレンジングな研究の展望と進行状況を紹介する。

(1) Mori & Ohshima, Nature, 1995
(2) Kuhara et al., Science, 2008
(3) Kuhara et al., Neuron, 2002
(4) Kuhara & Mori, J. Neurosci, 2006

 

(16) 細胞間隙での伝達物質濃度推移が定める信号伝達特性

松井 広(生理学研究所・脳形態解析研究部門)

 多細胞生物の各細胞は,細胞膜で区切られている以上,細胞の内側同士に連絡がない場合が多い。これらの細胞間で,何らかの信号を伝えたい場合,伝達物質を中継として活用する手段がよく使われる。信号を送る側は,小胞に詰め込んだ伝達物質を開口放出させ,伝達物質を細胞間隙に遊離させる。信号を受け取る側の細胞膜に発現した伝達物質受容体が活性化されれば,信号が伝わる。脳内での信号伝達は,この方式を多用しており,その典型例は化学シナプスである。シナプス前細胞から,どのような伝達物質が放出されるのか,また,シナプス後細胞に発現している受容体は,どのような伝達物質濃度に対して活性化されるのか,といったシナプス前後細胞の特性に関する研究は進んでいる。一方,伝達物質の細胞間隙での拡散係数が求まっていないため,伝達物質濃度推移の時空間特性は明らかになっていない。また,そもそもシナプス小胞に,何分子の伝達物質が詰まっているのかも明らかになっていないので,細胞間隙での伝達物質濃度の最大値すら分かっていない。もう一つの問題は,放出部位と受容体との位置関係であり,両者がどの程度一致していなければ信号が伝わらないのかも不明である。本発表では,電気生理学・形態学・シミュレーションを駆使して,グルタミン酸の細胞間隙における動態を推測し,神経細胞間および神経細胞からグリア細胞への信号伝達特性を決定する要因を探った例を紹介する。

 

(17) 海馬白板のオリゴデンドロサイトの同定および活動電位の
軸索伝導に対する修飾効果

山崎良彦(山形大学医学部生理学講座)

 オリゴデンドロサイトは,中枢神経系において髄鞘を形成している細胞であり,跳躍伝導による速く確実な活動電位の伝播を可能にしている。変性疾患や虚血性疾患などの病態におけるオリゴデンドロサイトの変化・役割については,以前からそして現在も強く注目されている。最近では,さらに,正常な脳機能の発現や情報処理に対しても積極的に関与していると考えられるようになってきた。我々は,オリゴデンドロサイトの髄鞘形成による活動電位の軸索伝導速度促進以外の機能について知りたいと考え,まず海馬の白質である白板に存在するオリゴデンドロサイトに着目し,ホールセル記録を行った。形態学的特徴から,記録された細胞の多くが成熟したオリゴデンドロサイトであると考えられた。グルタミン酸あるいはGABAの微量局所投与により,また,電気刺激によっても,脱分極性の反応が観察された。オリゴデンドロサイトが様々な刺激で脱分極することがわかったので,CA1領域の錐体細胞とオリゴデンドロサイトから同時ホールセル記録を行い,活動電位の軸索伝導に対する,オリゴデンドロサイトの脱分極刺激の効果を検討した。その結果,反復する脱分極刺激によって,逆行性に伝導してくる活動電位の潜時が短くなった。以上のことから,オリゴデンドロサイトは髄鞘形成によって跳躍伝導を可能にするだけでなく,髄鞘形成後でも活動電位の伝導速度を修飾する可能性が示唆された。

 

(18) 多光子励起顕微鏡を駆使した骨組織内のin vivoライブイメージング
~骨吸収の新しい調節機序の発見

石井 優(大阪大学・免疫学フロンティア研究センター・生体イメージング)

 破骨細胞は単球・マクロファージ系血液細胞から分化する多核巨細胞であり,硬質の骨組織を融解・吸収する特殊な能力を有する。関節リウマチや骨粗鬆症などの骨吸収性疾患では,破骨細胞の機能亢進が病状形成に重要な役割を果たしている。これまでに,破骨細胞分化に関与する数多くの分子機構が明らかにされているが,これらの細胞がいかにして骨表面にリクルートされるのか,また具体的にin vivoでどのように機能しているのかなど,不明な点が多く残されている。演者はこれらの疑問を解決すべく,多光子励起顕微鏡を駆使して生きたマウスの骨組織内・骨髄内のin vivoイメージングを行い,破骨細胞の遊走・接着が血中に豊富に存在する脂質メディエーターや,骨髄内に存在するケモカインなどによって統合的に制御されていることを解明した。本セミナーではこれらの最新の研究成果に加え,演者が立ち上げた骨組織内のin vivoライブイメージングの方法論やその今後の応用について,多くの動画を交えて概説する。

 



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