生理学研究所年報 第31巻
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12.脳機能画像解析中級編:領域間結合解析

2009年9月24日-9月25日
代表・世話人:河内山隆紀(ATR-Promotion脳活動イメージングセンタ)
所内対応者:定藤規弘(自然科学研究機構生理学究所心理生理研究部門)

(1)
領域間結合分析の考え方とその実習
河内山隆紀(ATR-Promotion脳活動イメージングセンタ)

(2)
領域間結合解析の実際 -課題設計・解析・結果の報告-
藤井 猛(国立精神・神経センター・精神保健研究所・成人精神保健部)

【参加者名】
相澤恵美子(東北大学行動医学分野),赤塚 諭(関西学院大学大学院理工学研究科),出馬圭世(玉川大学脳科学研究所),伊藤岳人(日本医科大学大学院医学研究科),伊藤博晃(北海道大学大学院文学研究科),上田一貴(東京大学先端科学技術研究センター),臼井信男(日本大学大学院総合科学研究科),大隅尚広(名古屋大学大学院環境学研究科),岡田成生(自治医科大学大学院医学研究科),小川昭利(理化学研究所脳科学総合研究センター),小田正起(KARC神戸研究所未来ICT研究センター),小俣 圭(国立精神・神経センター神経研究所),笠原和美((独)JST ERATO下条潜在脳機能プロジェクト意思決定研究グループ),金津将庸(京都大学人間・環境学研究科),寒 重之(情報通信研究機構未来ICT研究センター),小林琢也(岩手医科大学歯学部),佐藤 弥(京都大学霊長類研究所),鹿内 学(京都大学大学院医学研究科),重宗弥生(東北大学加齢医学研究所),篠崎 淳(札幌医科大学医学部),須藤千尋(千葉大学医学研究院),高橋英之(玉川大学脳科学研究所),橘 亮輔(同志社大学大学院生命医科学研究科),田部井賢一(日本大学大学院総合科学研究科),長塚昌生(大阪大学経済研究科),中村優子(九州大学歯学部大学院),能田由紀子(ATR- Promotions),土師知己(玉川大学脳科学研究所),橋本照男(理化学研究所BSI象徴概念発達研究チーム),春野雅彦(玉川大学脳科学研究所),藤井 猛(国立精神・神経センター精神保健研究所),松田雅弘(了徳寺大学健康科学学部),松田哲也(玉川大学脳科学研究所),松田佳尚(JST-ERATO岡ノ谷情動情報プロジェクト),松元まどか(玉川大学脳科学研究所),眞野博彰(産業技術総合研究所),水口暢章(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科),宮腰 誠(国立長寿医療センター研究所),山田真希子((独)放射線医学総合研究所),山田 祐(国立がんセンター東病院臨床開発センター),山根承子(大阪大学経済学研究科),祐伯敦史(立命館大学生命科学部),楊 家家(岡山大学大学院自然科学研究科),吉澤浩志(東京女子医科大学),李 春林(岡山大学大学院自然科学研究科),渡邊言也(玉川工学研究科),原田宗子(名古屋大学医学系研究科),平松千尋(生理学研究所),原田卓哉(生理学研究所),木田哲夫(生理学研究所),田中絵実(生理学研究所),坂谷智也(生理学研究所)


【概要】
 1990年に発見された機能的磁気共鳴画像法(以下fMRI)はヒト脳機能を非襲的に探る上で卓越した可能性をもっている。その発展の一端を担っているのが様々な解析手法である。近年,差分法による伝統的な手法に加えて,脳機能画像の時空間情報を最大限に活用した新しい解析手法が提案されている。我々はこれらの解析に精通し,積極的に利用することが求められているが,その一方で,学際性の高い脳科学分野においては,数理的な学問背景を持たない研究者や学生も多く,先進的手法に取り組む際の敷居が大変高いのも事実である。実際,国内からの研究成果の発信は,まだ少なく,啓蒙や教育活動が必要であると考えられる。このようなfMRIを取り巻く現状を鑑み,国内の脳機能画像法研究の更なる発展のためには,先進的な解析法に関する議論や知識を共有する場の整備が急務であると考え,新しい形の研究会の開催するに至った。

 本年度は,脳領域間結合解析をテーマとした。従来の差分法は,脳機能の局在性評価に特化した方法論であったが,本解析法は,局在化した機能領域の統合過程を評価できる手法である。近年,世界的に関心の高まりを見せている分析法の1つであり,国内のfMRI研究がその流れに乗り遅れないためにも,本解析法をテーマとした研究会を開催したいと考えた。

 ホームページ等により参加者を募ったところ,定員25名を大きく上回る65名の参加希望者を得た。選考の結果,45名の参加者で実施した。事後アンケートの結果では,講義や実習を含む新しい研究会の形式は極めて好評で,次年度以降もこのような形式の研究会の実施を望む声が多く寄せられた。また領域間結合分析を自らの実験に取り入れたいと考える参加者が多く見られ,本研究会の開催意義が改めて感じられた。このような先進的な解析法に従事する研究者が増えることで,実際の適用例についての議論も可能となり,今後の研究会の更なる発展が期待される。

 

(1) 領域間結合分析の考え方とその実習

河内山隆紀(ATR-Promotion脳活動イメージングセンタ)

 脳機能画像法は,差分法と呼ばれる脳機能の局在性評価に特化した解析法で発展したが,近年,逆に局在化した機能領域の機能統合の過程を評価できる方法である,脳領域間結合分析法が提案された。その思想自体は,脳機能画像法の黎明期より存在したが,近年,動力学的モデルや時系列分析の考え方を発展的に融合することで,例えば,影響の因果性を加味した神経回路レベルでのモデル評価が可能となった。近年,世界的に関心の高まりを見せている分析法の1つである。

 本研究会では,まず本解析法の原理や方法に関する知識を講義を通して参加者全員で共有し,その後,実際のデータを用いて,本解析法の技能を身につける時間を設けた。さらにその結果を検討することで,当解析法の有効性や問題点を確認した。また既に本解析法に取り組んでいる研究機関や個人に対しては,研究過程で生じた疑問や課題を持ち寄り,問題解決の糸口を掴むための自由な議論の場を設けた。以上のように,本発表は,全員参加の研究会の場とした。

 

(2) 領域間結合解析の実際 -課題設計・解析・結果の報告-

藤井 猛(国立精神・神経センター・精神保健研究所・成人精神保健部)

 近年,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)において,connectivity解析(脳領域間の関係性の解析)に注目が集まっている。しかし,従来の解析方法とは理論および手順が大きく異なるため,独力でその理論を理解した上で,自らの研究に適用するにはハードルが高い。そこで今回,代表的なconnectivity解析の一種であるDynamic causal modeling(DCM)について,その解析と結果の実例を示して適用方法を解説した。

 例では失明者による触覚点字判別課題遂行時のデータを用いDCMで解析した。結果は失明者において晴眼者よりも,一次体性感覚野から視覚の背側経路を経て,後頭葉にいたる経路のconnectivityが強いことを示した。またこれらのconnectivityの強さは失明年齢と負の相関を,課題成績と正の相関を示した。これにより失明者では視覚入力がないにも関わらず,背側経路を介して(晴眼者で視覚野にあたる)後頭葉に活動が伝播して点字判別に寄与している可能性が示唆された。

 このようにDCMを有効に使う為には,先行研究から領域間のconnectivityに関する仮説を絞り込むことが重要であり,また解析においては従来の方法とは計画行列の組み方が異なることに注意が必要である。これらの理解を通じて,今後DCMが適用されて多くの成果が生み出されることを期待する。

 



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