生理学研究所年報 第31巻
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25.伴侶動物の臨床医学研究会
(比較腫瘍学・造血系腫瘍への挑戦,麻酔)

2009月12月3日−12月4日
代表・世話人:丸尾幸嗣(岐阜大学応用生物科学部獣医臨床腫瘍学)
所内対応者:木村 透(動物実験センター)

(1)
造血系腫瘍の病理学的概要(医学)
稲垣 宏(名古屋市立大学医学部臨床病態病理学)

(2)
造血系腫瘍の病理学的概要(獣医学)
酒井洋樹(岐阜大学応用生物科学部獣医病理学)

(3)
造血系腫瘍の臨床における現状(医学)
原 武志(岐阜大学医学部第一内科学)

(4)
造血系腫瘍の臨床における現状(獣医学)
辻本 元(東京大学農学部獣医内科学)

(5)
悪性リンパ腫の最新トピックス(医学)
楠本 茂(名古屋市立大学医学部腫瘍 免疫内科学)

(6)
悪性リンパ腫の最新トピックス(獣医学)
佐藤雅彦(東京大学農学部獣医内科学)

(7)
骨髄性白血病の最新トピックス(医学)
直江知樹(名古屋大学医学部血液内科学)

(8)
骨髄性白血病の最新トピックス(獣医学)
久末正晴(麻布大学獣医学部内科学第二)

(9)
教育講演:重症例における麻酔や疼痛管理の要点と話題(医学)
飯田宏樹(岐阜大学医学部麻酔 疼痛制御学)

(10)
教育講演:重症例における麻酔や疼痛管理の要点と話題(獣医学)
今井彩子(日本小動物医療センター)

【参加者名】
代田欣二(麻布大学),内田和幸(東京大学),酒井洋樹(岐阜大学),稲垣 宏(名古屋市立大学),岡本芳晴(鳥取大学),森 崇(岐阜大学),辻本 元(東京大学),原 武志(岐阜大学),直江知樹(名古屋大学),丸尾幸嗣(岐阜大学),佐藤雅彦(東京大学),楠本 茂(名古屋市立大学),鷲巣 誠(岐阜大学),今井彩子(日本小動物医療センター),飯田宏樹(岐阜大学),久末正晴(麻布大学),児玉篤史(岐阜大学),村井厚子(岐阜大学),中山 萌(岐阜大学),村上 章(岐阜大学),山中洋一(岐阜大学),村上麻美(岐阜大学),星野有希(岐阜大学),山田名美(岐阜大学),横山須美江(岐阜大学),関根一哉(岐阜大学),岩谷 直(岐阜大学),野口俊助(岐阜大学),林 聡恵(中山獣医科病院),駒澤 敏(知多愛犬病院),高沼良征(新宿動物病院),高橋克典(ワシズカ獣医科),原 一郎(岡崎南動物病院),中川史洋(なかがわアニマルクリニック),中川尚子(なかがわアニマルクリニック),藤本あゆみ(麻布大学),長谷晃輔(おざわ動物病院),近藤幸司(ロッキー動物病院),安藤仁志(ミドリペットクリニック),木下 現(メリアルジャパン),竹内康博(不明),高柳直哉(ホーミどうぶつ病院),藤間裕子(吉永動物病院),橘田大典(まさき動物病院),河合 章(河合動物病院),須藤直人(ハート動物クリニック),大塚直樹(しんたに動物病院),大矢勇一郎(郡上八幡動物病院),水口永久(メリアルジャパン),大和田兼一(ヤマト動物病院),加藤 崇(麻布大学),根尾櫻子(麻布大学),後藤 淳(アニマルケアH&H),矢田治郎(日名わんにゃんクリニック),人見隆彦(日本動物医療センター),小薗江亮太(ハート動物クリニック),古橋秀成(ふるはし動物病院),若園多文(ながまつ動物病院),舩木大志(ワシズカ獣医科),横井佐知(あいち犬猫医療センター),西谷 英(ハート動物クリニック),椋田昌友(メリアルジャパン),三上真一(大日本住友製薬),中島規子(カニエ動物病院),櫻町育夫(リアル動物病院),勝野麻衣(おおはし動物病院),熊谷清隆(しばた動物病院),山本英森(中根犬猫病院),計68名


【概要】
 本研究会では2007年乳がん,2008年骨軟骨腫瘍を取り上げ,現状と課題について議論した。今回は造血系腫瘍をテーマにして,前2回と同様に医学と獣医学からの講演者を課題毎にペアにして発表していただき,両分野相互の観点から議論をした。今までの研究会を通しての主要テーマは,『比較腫瘍学』である。すなわち,小動物臨床のゴールを動物とその飼主に限定せず,人を視野に入れた学術領域を創成しようというものである。この試みは米国では既に2003年,NCIのComparative Oncology Programとして開始されており,そのキーパースンはDr. Chand Khannaである。臨床試験の多施設共同実施体制,例えばComparative Oncology ConsortiumやAnimal Cancer Investigationなどを構築して,臨床研究体制の整備と臨床研究の推進に努力している。わが国においても,私事であるが,岐阜大学応用生物科学部附属のセンターとして,来年度より“比較がんセンター”を設置して活動を開始する予定である。

 今回の内容は,造血系腫瘍の病理学的概要,造血系腫瘍の臨床における現状,悪性リンパ腫の最新トピックス,骨髄性白血病の最新トピックスを掲げ,伴侶動物とヒトの情報を比較検討して,今後の課題を見いだし,これらの解決の糸口を探るものである。加えて,参加者の多くが小動物臨床獣医師であるため,小動物臨床における興味ある追加テーマとして麻酔を取り上げ,教育講演を企画した。いずれの講演も従来に無い新鮮な内容であり,有意義な議論が行われた。

 本研究会を通して,比較腫瘍学が新たな学術領域として発展し,ヒトと動物の健康と福祉に貢献できるきっかけとなればと願っている。

 

(1) 造血系腫瘍の病理学的概要(医学)

稲垣 宏(名古屋市立大学医学部臨床病態病理学)

 ヒトの造血系腫瘍は骨髄系とリンパ系に分かれるが,それぞれの分類は学問の進歩とともに変遷している。

 ここでは,造血系腫瘍の分類を概説し,造血系腫瘍はただ一つの疾患としてまとめることはできない多様な疾患からなることを,病理学的分類によって示したい。すなわち,リンパ腫を例に挙げれば,病理病態学的には現在適用されているWHO分類では詳細な区別がなされているが,分類されたそれぞれの疾患と臨床的予後との関係については,必ずしも検証されていない。リンパ腫に対する特異的治療は限られており,それぞれの病理学的分類による疾患に対する特異的治療は明らかとなっておらず,病理学的分類に臨床が十分に追いついていないのが現状である。今後は病理学的分類をさらに精査進展させ,それぞれの疾患に対する最適の治療を見いだす努力が必要である。そのためには治療後の予後を詳細に分析し,症例を蓄積していくことがより良い治療の確立に役立つものと思われる。

 

(2) 造血系腫瘍の病理学的概要(獣医学)

酒井洋樹(岐阜大学応用生物科学部獣医病理学)

 伴侶動物における造血器系腫瘍は,医学におけるWHO分類に準じた,Histopathological classification of hematopoietic tumors of domestic animals(2002)によって,病理学的に分類される。近年では,伴侶動物の造血器系腫瘍,特にリンパ系腫瘍についてはCD抗原の免疫染色およびフローサイトメトリーやPCRによるクローナリティ解析による表現型の検索も一般的になり,治療方針の決定に寄与している。

 一般的に,伴侶動物の造血器系腫瘍はリンパ系腫瘍が多くを占め,骨髄性腫瘍はまれである。また,リンパ系腫瘍のなかでも,リンパ腫の発生が多く,犬,猫ともに頻発する腫瘍のひとつに挙げられる。猫では,レトロウイルスである猫白血病ウイルスに起因するリンパ系腫瘍も多い。

 造血器系腫瘍の診断においては,細胞学的診断もまた重要である。リンパ系腫瘍,特にリンパ腫は臨床的にも遭遇する機会が多く,体表リンパ節への針生検,体腔内リンパ節への画像ガイド下針生検などによって,細胞を採取し,細胞学的診断に供される。細胞学的診断については,非腫瘍性変化との鑑別,その後,腫瘍の分類がなされるが,現在,その分類には,個々の細胞形態をもとに腫瘍細胞の起源とグレーディングを合わせた新Kiel分類が比較的広く用いられている。

 

(3) 造血系腫瘍の臨床における現状(医学)

原 武志(岐阜大学医学部第一内科学)

 白血病の罹患率は人口10万人に対し約10人,急性骨髄性白血病が約50%,急性リンパ性白血病と慢性骨髄性白血病がそれぞれ約25%を占めている。急性骨髄性白血病における寛解導入療法はAra-Cにアントラサイクリン系薬剤が標準的に用いられている。寛解導入後,地固め療法を施行する。また急性前骨髄性白血病では寛解導入療法として,全トランスレチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法が施行される。イマチニブは慢性骨髄性白血病の標準療法である。

 悪性リンパ腫はリンパ系組織に主に存在する正常なリンパ系細胞がある分化段階で腫瘍化した疾患である。本邦で最も多いびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫ではCHOP療法が標準療法と考えられてきたが,近年抗CD20抗体であるリツキシマブが臨床導入され,現在ではR-CHOP療法が標準と考えられる。

 多発性骨髄腫はB細胞の終末分化段階である形質細胞の単クローン性増殖とその産物である単クローン性免疫クロブリンを特徴とする疾患である。多発性骨髄腫に対する治療としては,移植適応のない高齢者に対しては経口抗癌剤(MP療法)が選択され,腎障害を認める場合や早期の治療効果を期待する場合にはVAD療法が選択される。若年者に対してはVAD療法による寛解導入療法に引き続き自己末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法が選択される。

 

(4) 造血系腫瘍の臨床における現状(獣医学)

辻本 元(東京大学農学部獣医内科学)

 造血系腫瘍は,犬において皮膚腫瘍,乳腺腫瘍に次いで発生頻度の高い腫瘍であり,猫においては最も発生頻度の高い腫瘍である。犬においてはその病因は明らかではないが,猫においては猫白血病ウイルス(feline leukemia virus, FeLV)がある程度の頻度でその病因となっている。

 犬や猫を含めた動物の造血系腫瘍に関しては,人における新WHO分類に基づいた動物における新WHO分類が公表され,それに沿った分類法が一般化しつつある。犬と猫の造血系腫瘍のなかでは,リンパ腫がもっとも高頻度に認められる。リンパ系腫瘍のなかでリンパ腫以外の疾患としては,急性リンパ芽球性白血病(ALL),慢性リンパ性白血病(CLL),多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍などが認められる。また,骨髄系の腫瘍としては,慢性骨髄増殖性疾患(CMPD),骨髄異形成症候群(MDS),急性白血病(AML)の発生が認められる。

 ここでは,犬のリンパ腫を中心として,以下の通りその臨床における現状を述べる。

1. 犬のリンパ腫の病型と臨床病期
2. 犬の多中心型リンパ腫に対する化学療法
  犬における他の型のリンパ腫に対する化学療法
3. 犬のリンパ腫の予後と関連する因子
4. 犬のリンパ腫の病理組織学的分類および細胞診による細分類

 

(5) 悪性リンパ腫の最新トピックス(医学)

楠本 茂(名古屋市立大学医学部腫瘍 免疫内科学)

 悪性リンパ腫は血液のがんであり,造血器腫瘍のうち最も発生頻度が高く,全身のあらゆる部位から発生する性格を持つために様々な症状が出現する。その治療方針は病気の広がりによって異なり,局所放射線照射が可能な限局期においては化学療法と放射線照射の併用療法が選択されるのに対し,進行期においては全身化学療法が治療の主役となる。また,悪性リンパ腫はその病理組織所見によって20種類以上に分類され,そのタイプによって治療目標(治癒が期待しうるか否か)や治療レジメン(抗がん剤の内容)が異なるため,正確な病理診断が欠かせない。

 また,悪性リンパ腫はホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別され,さらに後者はB細胞性,T細胞性・NK細胞性に分けられる。最近,分子標的治療薬であるリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)の登場により,B細胞性リンパ腫の治療成績が大きく改善した。本発表では,悪性リンパ腫の代表的なタイプであるびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)の治療方針について説明し,その標準的治療の変遷および副作用対策の重要性について述べる。一方,T細胞性・NK細胞性リンパ腫に対する治療成績の改善はいまだ十分ではないが,最近の新規治療開発の状況について述べる。最後に,悪性リンパ腫新規治療開発における分子標的治療薬の展望について述べてみたい。

 

(6) 悪性リンパ腫の最新トピックス(獣医学)

佐藤雅彦(東京大学農学部獣医内科学)

 犬の高悪性度リンパ腫は,基本的に多剤併用化学療法で治療が行われる。その完全寛解率は約60-90%,治療の開始から完全寛解までにかかる期間の中央値は11日,平均値は15日と報告されており,多くの症例は治療開始後早期に完全寛解に至る。しかしながら,1年生存率約50%,2年生存率約25%とほとんどの症例は治癒することなく再発,死の転機をたどる。リンパ腫治療における一つの問題点として,上述のように,治療開始後すぐに病変が検出できなくなるため,治療効果を判定できずに抗癌剤治療を行っていることが挙げられる。

 近年,分子生物学的技術の発達により,リンパ腫の微小残存病変(Minimal Residual Disease: MRD)の検出が可能となった。MRDとは,抗癌剤などによる治療後に症例の体内に残るわずかな腫瘍細胞のことで,ほとんどの場合,それらが増殖して再発病変を形成する。これら腫瘍細胞は身体検査や血液検査,画像診断といった従来の検査では検出できないが,リアルタイムPCR技術を用いることにより検出および定量が可能となった。我々の研究室では犬リンパ腫において,腫瘍細胞特異的なプライマーとプローブを用いたリアルタイムPCR系を確立し,MRDの検出に利用している。

 本講演では,当研究室で行われている犬リンパ腫におけるMRD定量に関する研究結果をいくつか報告させていただく。

 

(7) 骨髄性白血病の最新トピックス(医学)

直江知樹(名古屋大学医学部血液内科学)

 ヒトの白血病の発生原因の一つとして,腫瘍ウィルスが関係していると考えられる。白血病の年齢別発生率は二相性のピークを示すことから,その発生要因については,多様な原因を考慮すべきであると思われる。

 骨髄増殖性腫瘍については,慢性骨髄性白血病を中心にお話ししたい。慢性骨髄性白血病は急性転化をすることによって予後不良となるが,分子標的治療薬であるイマチニブの投与により,マーカー染色体であるフィラデルフィア染色体を持つ細胞は激減して,著効を示す。急性骨髄性白血病は,化学療法を実施するが,化学療法の強化と臨床的予後との関係が今のところ明らかとなっていない。現在,分子標的治療は成果を上げており,骨髄移植は予後不良症例に対して有効となっている。急性前骨髄性白血病は亜ヒ酸およびビタミンA活性型代謝産物により治療するが,DICに移行することが多く,予後不良群の原因を遺伝子レベルで明らかにする必要がある。骨髄異形成症候群ではリスク別治療を考慮すべきであり,メチル化阻害薬が使用されている。

 我が国における白血病症例数はリンパ腫症例数に比べて著しく少なく,白血病の臨床研究の進歩を阻害している。そこで,全国55大学を含む185施設に呼びかけ,名古屋大学が拠点となって,共同研究システムを構築した。今後,化学療法の有効性のエビデンスを蓄積するとともに,白血病治療の進歩に貢献したい。

 

(8) 骨髄性白血病の最新トピックス(獣医学)

久末正晴(麻布大学獣医学部内科学第二)

 急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia, AML)は造血細胞の悪性腫瘍であり,一般的に骨髄中の未分化な造血細胞(芽球)がクローン性に増殖していく病態である。一方,骨髄異形成症候群(Myelodysplastic Syndromes, MDS)とは,2ないし3系統にわたる血球減少症を主徴とする難治性の血液疾患である。本疾患はヒトにおいてAMLの前白血病段階の病態を指す疾患として定義されており,獣医学領域においても現在まで犬および猫においてその発生が認められている。さらに,これら血液疾患は主にネコにおいて多く認められ,その多くはネコ白血病ウイルス(Feline leukemia virus; FeLV)の感染によって引き起こされていることが知られている。今回はそれぞれの疾患の診断および治療の問題点について概説し,その診断や治療についてはヒト医学領域の最新情報を提供する。またMDS/AMLの病理発生に関して,その病原体であるFeLVに関する最新知見について触れたいと思う。

 

(9) 教育講演:重症例における麻酔や疼痛管理の要点と話題(医学)

飯田宏樹(岐阜大学医学部麻酔 疼痛制御学)

 従来の「意識がなければ痛みと認識しない」という発想に基づく鎮静薬を中心とした麻酔から,鎮痛薬を充分に投与し,「鎮痛が充分であれば,鎮静は最低限でよい」とするバランス麻酔の考え方が現在の麻酔臨床では中心となってきた。この転換には,コントロールのしやすい短時間作用性の種々の麻酔関連薬が開発されてきたことが大きい。特に,短時間作用性のオピオイドの使用は,術中のコントロールを容易にしたが,新たに術後痛対策の必要性が以前以上に増すことになった。現在本邦では,硬膜外麻酔を中心とした術後鎮痛法が普及しているが,抗血小板薬や抗凝固薬を内服する患者の増加と共に,安全性の問題から異なる方法も考慮する必要性が出てきたので,これらの変化について紹介したい。また,ハイリスク患者における周術期管理の問題点を明確に示すために,それらの患者の代表である高齢者の身体的特徴・麻酔薬の使用上の注意点を概説すると共に,広く一般的にストレス反応を抑制するために用いられている薬物(a 2adrenergic agonistsやb adrenergic antagonists)の使用上の意義や注意点についても概説する。加えて,最近注目されている喫煙と周術期管理の問題にも触れたい。

 

(10) 教育講演:重症例における麻酔や疼痛管理の要点と話題(獣医学)

今井彩子(日本小動物医療センター)

重症患者:
 獣医療に明確な定義は存在しないが,人の医療の基準のひとつである「治療なしには多臓器不全,そして死につながる代償不全状態」という患者が獣医療でもあてはまると思われる。全身麻酔の対象としては術前評価分類での評価が有効であり,その中のPS3以上が重症患者にあてはまるであろう。

重症例における全身麻酔の要点:
 重症患者ではその原因疾患に関わらず,共通して予備力の低下が起っている。通常,健康体であれば全身麻酔薬の抑制作用に対して,予備力をもってある程度それに打ち勝つことができる。全身麻酔の状態と体の恒常性を自ら均衡させることができる。麻酔を行う側は,動物のその均衡した状態を維持するように管理を行っていく。しかしながら重症動物では打ち勝つ力(予備力)が原因疾患で使われてしまい残っていないため,全身麻酔の副作用が極端に大きく現れる場合が多い。この点がリスクの高さに結びついている。麻酔を行う側は予備力の代わりをすべく術中の管理を行う必要がある。

重症例における疼痛管理の要点:
 重症例では健康症例と異なり,鎮静薬および全身麻酔薬の使用におのずと制限が加わる場合が多いため,周麻酔期には,その鎮静作用も含めて鎮痛薬の占めるウエイトが大きい。重症例であっても,麻酔前に興奮を示す患者は多く,その場合は,麻薬系オピオイドの鎮静作用をもって興奮を抑え,かつ先制鎮痛を行なうことが多い。

 



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