公開日 2005.11.10

単一シナプスにおけるグルタミン酸受容体数と密度

カテゴリ:研究報告
 大脳皮質機能研究系 脳形態解析研究部門
 

概要

脳内の情報伝達は、主にシナプスと呼ばれる1ミクロン以下の非常に微細な神経細胞同士の接合部における伝達物質の放出とその受容体による反応によって担われている。一つの神経細胞は数千から数万ものシナプス入力を受けているが、その一つ一つにおける伝達効率の変化が記憶や学習の基礎過程と考えられている。この効率を変える一つの重要な因子は受容体の数と考えられるが、個々のシナプスにおけるその正確な数や密度を推定することは困難であった。我々は、2光子励起グルタミン酸放出法、ノイズ解析、電子顕微鏡観察を組み合わせる事で、幼若ラット小脳プルキンエ細胞の単一シナプスでAMPA型グルタミン酸受容体数の測定に初めて成功し、密度が1平方ミクロン当たりおよそ1000個であり、AMPA受容体数はシナプス面積に比例することを見いだした。さらに、我々は、受容体数を直接計測する高感度の免疫電子顕微鏡法(SDS-digested freeze fracture replica labeling)を確立し、この結果を確認した。なお、この研究は細胞器官研究系 生体膜研究部門との共同研究で行われた。

論文情報

Tanaka J, Matsuzaki M, Tarusawa E, Momiyama A, Molnar E, Kasai H and Shigemoto R. Number and density of AMPA receptors in single synapses in immature cerebellum. Journal of Neuroscience, January 26, 2005, 25(4):799-807

【図1】

20051110_1.gif

シナプスの模式図。神経終末内には伝達物質(青)を含むシナプス小胞が多く含まれ、信号が神経終末に到達すると伝達物質が放出される。放出された伝達物質は、シナプス後部に発現する受容体(赤および黄緑)を活性化し、次の細胞に情報を伝達する。

【図2】

20051110_2.gif

生後3-4日齢ラット小脳登上線維-プルキンエ細胞シナプスの電子顕微鏡写真

【図3】

20051110_3.gif

シナプス面積とAMPA型グルタミン酸受容体数の関係

【図4】

20051110_4.gif

この時期のシナプスの2次元レプリカ像。膜内粒子の密集が観察され、AMPA型グルタミン酸受容体の金粒子標識が小さな黒点として見える