公開日 2006.02.27

上丘浅層へのコリン作動性入力の作用機構を解明

カテゴリ:研究報告
 発達生理学研究系 認知行動発達機構研究部門
 

概要

中脳上丘は様々な感覚刺激に対して眼球や頭部、視線を向ける指向運動を制御する要となる中枢である。その浅層には視覚信号が入力する。上丘浅層(sSC)は中脳の二丘傍核(parabigeminal nucleus; PBN)よりコリン作動性投射を受ける。これまで上丘浅層におけるコリン作動性入力の役割としてはGABA作動性の抑制性伝達を増強することは知られていたが、メカニズムは不明であった。本研究では、Yanagawaらによって開発されたGABAニューロンがGFPの蛍光を発するGAD67-GFP knock in mouseの上丘スライス標本においてGABA作動性ニューロンと非GABA作動性ニューロンからホールセル記録を行い、アセチルコリン(ACh) 1 mMの瞬間的空気圧投与に対する効果を解析した。
ACh投与はGABA作動性抑制ニューロンにおいては、興奮作用を意味する内向き電流を誘発した。この内向き電流はα7 型受容体による速い成分とα3β2型受容体による遅い成分から成っていた。それに対して非GABA作動性ニューロンにおいては、速い内向き電流に引き続いて外向き電流成分を誘発される場合と、内向き電流が主に観察される場合が見られた。この外向き電流はGABA作動性のシナプス電流であり、興味深いことにテトロドトキシンによって活動電位を抑制した状態でも観察された。従ってこのGABA作動性シナプス電流はAChによって活性化されたGABAニューロンからのGABAの放出によって誘発されたものと考えられる。これまでの解剖学的知見から、上丘浅層においてはGABA作動性ニューロンが非GABA作動性ニューロンの樹状突起と樹状突起間シナプスを形成することが知られているので、今回の結果は図のようにシナプス前樹状突起に存在するα7, α3β2 型受容体が活性化されたことでGABAの放出が促進されたものと考えられる。
上丘浅層のGABA作動性ニューロンは広い範囲に樹状突起を有する水平細胞であるので、このようなAChによるGABA作動性シナプス伝達の促進は側方抑制の増強による視覚信号のコントラストの増強作用があると推測される。

論文情報

Endo T, Yanagawa Y, Obata K, Isa T. (2005) Nicotinic acetylcholine receptor subtypes involved in facilitation of GABAergic inhibition in mouse superficial superior colliculus. Journal of Neurophysiology, Aug 17; [Epub ahead of print]

【図1】

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