公開日 2006.04.28

Neuronal Ca2+ Sensor-1は神経障害によって増加し、神経保護因子として作用する

カテゴリ:研究報告
 発達生理学研究系 生体恒常機能発達機構研究部門
 

概要

細胞内Ca2+結合蛋白の一つであるNeuronal Calcium Sensor 1(NCS-1)はシ ナプス伝達や可塑性など種々の神経回路機能制御に関連し、脳における発 現は新生児期をピークに発達とともに減少する。しかし、種々の細胞障害時に は再び発現の増加が観察される。NCS-1を過剰発現させた培養神経細胞で は酸化ストレスなどによる障害に対して抵抗性を示す(細胞死が抑制される) 一方、NCS-1のdominant negative mutant (E120Q)発現細胞ではストレス負 荷による細胞死が促進された。NCS-1は神経栄養因子の1つであるglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)により増加し、GDNFによるAkt依存性 細胞死防御作用の一部はNCS-1を介していることが判明した。実際に生体内 でおいて運動神経細胞の軸索障害後に障害細胞ではNCS-1の増加が観察さ れ、アデノウィルスを用いてNCS-1のdominant negative mutantを強制発現した 運動神経細胞では軸索障害で細胞死が有意に増加した。このことは、成熟期 運動神経細胞の傷害に対するアポトーシス抵抗性にNCS-1が重要な役割を 担っていることを示唆している。これらの結果から、GDNFの神経細胞生存シ グナルはNCS-1を介するPI-3キナーゼーAKTシグナル経路を介していること が示唆され、種々の障害後の細胞死を抑制する有効な治療薬のターゲット分 子となることが期待できる。 (西谷友重(Nakamura TY、国立循環器センター)氏との共同研究)

論文情報

Nakamura TY, Jeromin A, Smith G, Kurushima H, Koga H, Nakabeppu Y, Wakabayashi S & Nabekura J. (2006) Novel role of neuronal Ca2+ sensor-1 as a survival factor up-regulated in injured neurons. Journal of Cell Biology, 172:1081-1091.
(NEWS SECTION: Journal of Cell Biology, 172:957, 2006.)