公開日 2006.05.25

体温下でのcyclic ADP-riboseによるTRPM2の活性化は膵β細胞からのインスリン放出に関与する

カテゴリ:研究報告
 岡崎統合バイオサイエンスセンター 細胞生理研究部門
 

概要

新規温度感受性TRPチャネルの探索から、これまでADP-ribose やβ-NAD+によって活性化することが分かっているTRPM2が体温近傍の温度によって活性化する新たな温度受容体として機能することが明らかになりました。また、cyclic ADP-riboseが室温ではTRPM2を活性化しないものの、体温近傍の温度においてTRPM2に結合して活性化することが判明しました。TRPM2は膵臓のβ細胞に強く発現していました。膵臓ではこれまでcyclic ADP-riboseがインスリン放出に関わることが報告されてきたことから、インスリノーマ由来の細胞や単離膵臓細胞を熱刺激したところ、TRPM2様の電流の活性化が観察され、TRPM2のsiRNAによってその活性が減弱したことから内因性TRPM2がその活性を担っていることが推測されました。さらに、膵島からのインスリン放出は熱刺激で促進され、TRPM2のsiRNAやTRPM2阻害剤で抑制されたことから、TRPM2が膵臓からのインスリン放出に関わっていると結論しました。これまでは、ATP感受性K+チャネルの閉鎖による脱分極が電位作動性Ca2+チャネルを活性化してインスリン放出に必要な細胞内Ca2+濃度増加をもたらすものと考えられてきましたが、グルコース取込の後に産生されるcyclic ADP-riboseによる体温でのTRPM2活性化からのCa2+流入もインスリン放出を引き起こすものと考えられます。TRPM2活性化はインスリン放出を引き起こして糖尿病治療に結びつくものと推定され、TRPM2研究の進展が期待されます。

論文情報

冨樫和也、原雄二、富永知子、東智広、小西康信、森泰生、富永真琴 EMBO J 25 (9): 1804-1815, 2006.

【図1】

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