公開日 2006.05.18

脊髄背側部に一過性発現するNetrin-1は一次求心性線維の伸長を一過性に抑制することで「waiting period」を作り出す

カテゴリ:研究報告
 分子生理研究系 分子神経生理研究部門
 

概要

体性感覚を伝える後根神経節(DRG)神経細胞は、脳や脊髄に存在する特定の神経細胞に軸索を送る。その回路網形成の初期過程において、DRG線維は脊髄内に入った後、まず長軸方向にそって伸長することにより脊髄背側部に後索を形成し、一定の時間をおいて軸索側枝を脊髄外套層の標的細胞に伸ばす。後索形成と側枝の外套層侵入の時差は"waiting period"と呼ばれ、緻密な神経回路網や組織構築の形成に重要な現象と考えられているが、その制御機構はほとんど明らかではない。
Netrin-1は腹側正中部で発現する軸索誘導分子として同定されたものである。一方、netrin-1は脊髄背側部でも一過性に発現することが報告されてきたが、その機能は不明のままであった。本研究では、脊髄背側部で一過性に発現するnetrin-1に注目してDRG線維でみられる"waiting period"の分子機構を、解析することを目的とした。
その結果、(1)Netrin-1はwaiting periodの一時期 (マウス胎齢12.5日目(E12.5))に後根進入部位近傍で一過性に発現が強くなり、その後E13.5以降では弱くなる、(2)Netrin-1欠損マウスでは、DRG線維が野生型より早期に、また後索を正常な領域に形成することなしに脊髄外套層に侵入する、(3)DRGとnetrin-1発現細胞と共培養すると、DRGからの突起形成が著しく阻害される、(4)底板を欠損するGli2欠損マウスにおいて正常な後索が形成される(背側部由来のnetrin-1がDRG線維の投射に関わることが示された)、(5)netrin受容体のうち、Unc5aとUnc5cがDRGに発現する、(6)Unc5c突然変異マウスにおいてDRG線維の早期の異常侵入が認められる。以上の結果から、背側由来netrin-1はUnc5受容体を介してDRG線維に抑制的に作用することで外套層への進入時期や進入部位を適正に制御していることが明らかとなった。
本研究により脊髄背側部に発現するnetrin-1の機能の一部が明らかとなり、さらに神経系の機能構築の形成に重要な過程である軸索伸長のwaiting periodの制御機構が初めて分子レベルで解明された。なお本研究は、玉巻伸章博士、古田貴寛博士(熊本大学/京都大学)、Sue Ackerman博士(HHIM/Jackson Lab)との共同研究である。

論文情報

Watanabe K, Tamamaki N, Furuta T, Ackerman SL, Ikenaka K, Ono K. (2006) Dorsally Derived Netrin-1 Provides an Inhibitory Cue and Elaborates the "Waiting Period" for Primary Sensory Axons in the Developing Spinal Cord. Development, 133 (7): 1379-1386.

【図1】

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