公開日 2006.07.20

凍結乾燥ラット精子から産仔の作出に成功

カテゴリ:研究報告
 行動代謝分子解析センター 遺伝子改変動物作製室
 

概要

凍結乾燥した精子を室温あるいは冷蔵庫で保存できれば、精子の維持や輸送のコストを大幅に削減できる。そこで本実験では、凍結乾燥したラット精子が卵細胞質内顕微注入(ICSI)によって産仔発生に寄与できるかどうかを調べた。SD系ラットの精巣上体尾部精子を50mM NaCl、50mM EGTA、10mM Tris⁄HClからなる培養液に浮遊させ、その半量を超音波式細胞破砕装置により10秒間処理した後、1.5ml容量のポリプロピレンチューブに100μlづつ分注した。凍結乾燥区は、精子サンプルを液体窒素中に20秒間浸漬し、凍結乾燥機で6時間処置した後に4℃で48時間保存し、100μlの蒸留水を加えることによって加水した。また凍結融解区は、精子サンプルを液体窒素中で48時間保存後、25℃の水中で融解した。これらとは別に新鮮対照区を設け、それぞれの区の精子をピエゾマイクロマニピュレーターを用いてSD系ラット由来卵子にICSIした。そして翌日に偽妊娠1日目の雌ラットの卵管に移植し、21日後に帝王切開して産仔の有無を確認した。その結果、新鮮対照精子、凍結融解精子、および凍結乾燥精子のICSI後の産仔発生率はそれぞれ、6.7、7.6、および2.4%だった。一方、あらかじめ超音波処理を施した精子の産仔発生率はそれぞれ、23.3、35.0、および9.2%であり、いずれの値も超音波処理を施さなかった当該実験区の値よりも3.5~4.6倍、高かった。 ICSI後の産仔率を向上させるラット精子の超音波処理は、体外に取り出すと自発的に活性化を始めてしまうラット卵子において、精子膜を崩壊させることで脱凝縮を速やかに起こさせることと関連する効果かもしれない。本論文は凍結乾燥精子に由来する産仔の獲得をラットで初めて報告したもので、哺乳類ではマウス、ウサギに次ぐ成果となる。

論文情報

Hirabayashi M, Kato M, Ito J, Hochi S: Viable rat offspring derived from oocytes intracytoplasmically injected with freeze-dried sperm heads. Zygote 13: 79-85. 2005.