公開日 2006.08.31

視床神経細胞に入力する上行性と下行性グルタミン酸作動性シナプスの機能

カテゴリ:研究報告
 生体情報研究系 神経シグナル研究部門
 

概要

視床は感覚情報を大脳皮質に伝える主たる中継核である。その視床には末梢からの感覚情報を伝えるシナプスと共に、大脳皮質から大量のフィードバックシナプス(皮質視床シナプス)入力を受けている。これらは、ともにグルタミン酸作動性シナプスであり、視床の投射細胞の発火応答は従来、この二種類のシナプスによって制御されていると考えられてきた。しかしながら、これらのシナプス特性、特に、シナプス電流(EPSC)に関わるグルタミン酸受容体構成の違いについては明らかになっておらず、かつ、その違いがどのような時間特性をもって投射細胞の発火応答に関わっているかは不明であった。我々は、体性感覚を司るマウスの視床VB核投射細胞で、末梢からの体性感覚入力である内側毛帯シナプスと皮質視床シナプスにおいて、これらを比較検討した。結果、皮質視床シナプス EPSCでは、比較的キネティックスの遅いNMDA受容体成分がキネティックスの速いAMPA受容体成分に比べて極めて多く存在し、その内、NR2Bサブユニット成分が存在した。また、カイニン酸受容体成分も存在していた。一方、内側毛帯シナプスEPSCでは、AMPA受容体成分がNMDA受容体成分より顕著に多く存在し、NR2B,カイニン酸受容体成分は観察されなかった。皮質視床シナプスを連発刺激すると、視床投射細胞は刺激のタイミングより遅延して持続発火応答を示すlate-persistent 発火を示すが、この発火応答の形成にはNMDA受容体成分が必須であった。一方、内側毛帯シナプスを連発刺激すると、刺激開始時には投射細胞は発火するが、その後刺激しても発火しなくなる初期発火型応答を示した。この初期発火応答の形成にはAMPA受容体成分が必須であった。従来、皮質視床シナプスの役割は、投射細胞を脱分極させることで、末梢からの感覚入力をゲーティングし、大脳皮質に伝えると考えられてきた。今回の結果は、このゲーティングの役割にNMDA受容体、カイニン酸受容体などのキネチックスの遅いグルタミン酸受容体が寄与していることが示唆された。一方、内側毛帯シナプスはキネティックスの速いAMPA受容体により、感覚入力のタイミングをコードしていると考えられた。

論文情報

Miyata M, Imoto K. Different composition of glutamate receptors in corticothalamic and lemniscal synaptic responses and their roles in the firing responses of ventrobasal thalamic neurons in juvenile mouse. J Physiol 575:161-174, 2006.