公開日 2006.10.12

A-delta線維とC線維を刺激した場合の痛覚関連脳活動の相違:fMRIを用いた研究

カテゴリ:研究報告
 統合生理研研究系 感覚運動調節研究部門
 

概要

人間が感じる痛みには、先ず初めに感じる鋭い痛み(first painと称される)と、遅れて出現する鈍い痛み(内臓痛やがん痛も含まれる。Second painと称される)の2つがあり、前者は末梢神経のA-delta線維を、後者はC線維を上行する。炭酸ガスレーザー光線を用いてA-delta線維とC線維を別々に刺激し、fMRIを用いて脳内の活動を解析した。すると、A-delta線維を刺激した場合もC線維を刺激した場合にも、両側半球の視床、第2次体性感覚野および前帯状回の腹側後部、刺激対側半球の島の中部から後部にかけての部位、が共に活動増強を示した。両側半球の前帯状回の腹側前部、pre-SMAと島の前部の活動は、C線維刺激時にA-delta線維刺激時に比し有意に増加していた。両刺激に対し刺激対側の第1次感覚野(SI)にも活動が見られたが、有意なレベルには達していなかった。
これまでの動物実験やヒトを対象としてのfMRIやPETの研究により、痛覚認知に関する情動や反応行動(behavior)に関して、帯状回と島の前部には強い関連があることが報告されている。今回の研究では、この2つの部位はC線維刺激時に有意に賦活されたことから、second pain認知に重要な部位であることが示唆された。first pain認知はsecond pain認知に比して短い時間で行われることから、侵害刺激に対する安全面での機能が重要であり、second painは注意や情動などの比較的長時間持続する脳活動により強く関連していると考えられる。また、SIの活動が有意ではなかったのは、SIの活動が他の部位に比しかなり短時間であるためノイズレベルにとどまったと思われる。

論文情報

Qiu Y, Noguchi Y, Honda M, Nakata H, Tamura Y, Tanaka S, Sadato N, Wang W, Inui K, Kakigi R: Brain processing of the signals ascending through unmyelinated C fibers in humans: an event-related fMRI study. Cerebral Cortex, 16(9): 1289-1295, 2006.

【図1】

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A-delta線維とC線維のいずれの刺激でも有意な脳血流の増加が見られた部位。これらの部位は、「痛み」に対して共通に活動する部位と考えられる。Mid. Ins.:島の中央部、pACC:前帯状回の後部、Th.:視床、SII: 第2次体性感覚野

【図2】

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C線維刺激の場合の方がA-delta線維刺激よりも有意に血流が多かった部位。これらの部位はsecond painに対して特に活動が高いと考えられる。L. ant. Ins.、R. ant. Ins:左、右半球の島前部、BA 32/8/6: Broadmannの32/8/6野(前帯状回とpre-SMA)