公開日 2006.11.10

4-6歳児における1年間の音楽訓練が聴覚誘発脳磁反応の発達に影響することがわかった

カテゴリ:研究報告
 統合生理研究系 感覚運動調節研究部門
 

概要

バイオリンの音、およびノイズ音を刺激として聴覚誘発脳磁反応を4-6歳児より1年間4回にわたり記録した。子供のグループは、半分が1年間音楽教室(スズキメソード)に通い自宅練習を行ったが、あとの半分は学校の授業以外の音楽訓練は行わなかった。

聴覚誘発脳磁場はほとんどのデータにおいて、両側で顕著なP100m, N250m, P320m, およびN450m反応を認めた。これらのピーク潜時はP100m反応以外ですべて1年の間に有意に変化した。これは被験者の脳が1年間で発達していることの証拠であり、聴覚誘発脳磁場がその発達の様子をわずか1年間内に見ることが可能であるということだ。P100m反応とN450m反応はバイオリン音に対する反応の振幅がノイズ音に対するものと比べ有意に大きかった。また、N250m反応の潜時と振幅の一年間での変化の度合いも、バイオリン音に対するもののほうが大きかった。P100mとP320m反応は左聴覚野のほうが右よりも大きかった。これはこの年齢の子供の脳では左半球のほうが先に発達していることと関係していると考えられた。

グループ間の差、つまり音楽訓練の効果も観測された。音楽訓練グループの左半球N250mは、他方に比べ、バイオリン音に特定してより潜時が早く、また振幅が大きかった。また、この違いはN250m反応だけではなく、聴覚誘発脳磁場の中の潜時100-400msの範囲に広く渡って見られた。すなわち、この範囲での反応波形の一年間による発達変化は、音楽訓練児の反応においてバイオリン音に対するものに限定されていたが、非訓練児においては、刺激音にかかわらず同程度の発達変化が起きていた。音楽訓練グループにおける、刺激音に特定して起こっているこの発達変化は、脳内での音に対するカテゴリー処理や注意を音や刺激に向ける処理に関わっていると考えられた。

なお、本研究はトロント大学との共同研究によるものである。

論文情報

Fujioka T, Ross B, Kakigi R, Pantev C, Trainor LJ: One year of musical training affects development of auditory cortical evoked fields in young children. Brain. 2006;129(Pt 10):2593-2608.

【図1】

20061110_1.jpg

グループ平均した脳磁反応波形 (左:音楽訓練したグループのデータ。右:音楽訓練は行わなかったグループのデータ。)
それぞれのグループで、バイオリン音およびノイズ音刺激に対する左および右聴覚野からの反応を1回目から4回目まで示してある。
1年間(1~4回目)での波形変化の度合いを標準偏差により刺激音ごとに示した。
この標準偏差の波形をみると、音楽訓練グループでは、バイオリン音による反応では現れている100-400msの発達変化ピークが、ノイズ音による反応にはほとんどあらわれていないことがわかる。
しかし、同じ発達変化は、非訓練グループでは両方の刺激音による反応に明らかに認められる。