公開日 2006.12.07

近赤外分光法(NIRS)によって乳児の顔認知に半球間機能差が発見された

カテゴリ:研究報告
 統合生理研究系 感覚運動調節研究部門
 

概要

近赤外分光法(NIRS)を用いて、正立顔と倒立顔の提示に対する乳児の脳活動を計測した。NIRSは脳血流の変化を非侵襲的に計測する技術である。さらに、NIRSは計測中に身体や頭部を固定する必要が無いため、覚醒状態にある乳児を対象とした脳活動の計測に非常に有用である。本研究では乳児用に新たに開発されたプローブを用いて計測を行った。生後5-8ヶ月の乳児10名を対象として、正立の顔と倒立の顔を観察中の左右側頭部位における脳血流の変化を計測した。本研究の結果は以下のようなものである。(1)正立顔の観察中には、右側頭部位において酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度と総ヘモグロビン (total-Hb) 濃度が上昇した。(2)右側頭部位においては、正立顔観察中の総ヘモグロビン (total-Hb)濃度と倒立顔観察中の総ヘモグロビン (total-Hb)濃度が異なっていた。(3)これらの結果から、正立顔の認知には左半球よりも右半球がより重要な役割を果たすと考えられた。さらに、(4)顔認知に関与すると考えられている左右両半球側頭部の上側頭溝(STS)付近において、最も大きな脳血流の変化が示された。本研究の結果から、脳血流反応の計測を行うことで乳児期において顔の倒立効果に半球間機能差が存在することがはじめて明らかにされた。

なお、本研究は中央大学文学部との共同研究である。

論文情報

Otsuka Y, Nakato E, Kanazawa S, Yamaguchi MK, Watanabe S, Kakigi R: Neural activation to upright and inverted faces in infants measured by near infrared spectroscopy. Neuroimage. 34(1):399-406, 2007

【図1】

20061207_1.gif

正立顔と倒立顔を観察中の左右各半球における脳血流変化(左:左側頭部位の平均値、右:右側頭部位の平均値)。10名の乳児から得られた24チャンネルの計測部位についてのデータを標準化し、半球ごとに平均化して表示している。エラーバーは1標準誤差を示す。右側頭部位においては、正立顔観察中に酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度と総ヘモグロビン (total-Hb) 濃度が上昇した。さらに、総ヘモグロビン (total-Hb) 濃度は倒立顔の観察中よりも正立顔観察中に上昇した。このような変化は左側頭部位においては観察されなかった。