公開日 2006.12.25

下側頭皮質における課題依存的な色選択ニューロン活動の修飾

カテゴリ:研究報告
 生体情報研究系 感覚認知情報研究部門
 

概要

同じ名前の色でも、さまざまに異なる色を含む。例えば我々は枝豆の色もホウレン草の色もどちらも「緑色」という同じカテゴリーとして扱う。一方、食べ物や洋服を選ぶ時のように、よく似た同じ名前の色でも細かく見分ける場合もある。必要に応じて、これら二つの色の見方、つまりカテゴリー判断と細かい弁別の機能を我々は使い分けている。  色覚におけるこれら二つの働きが脳内でどのように行われているかを調べるために、同じ色刺激のセットに対してカテゴリー判断または細かい弁別を行っているときのニューロン活動を測定し比較した。われわれは二頭のサルにカテゴリー課題、弁別課題の二種類の認知課題を訓練し、記録は下側頭皮質の色選択ニューロンから行った。いずれの課題でも赤から緑まで等間隔で分布した11個の色刺激セットを用いた。カテゴリー課題では、11色のうちの一つがサンプル色刺激として呈示された後、サンプル色刺激が赤のカテゴリーの色ならNO-GO応答(固視を続ける)緑ならGO応答(目を動かす)をすることでカテゴリー判断を行わせた。弁別課題では、サンプル色刺激の後に二つのわずかに異なる色のターゲット刺激が呈示され、最初に呈示された色と同じターゲット刺激に目を向ける必要がある。そのためにサルは同じカテゴリー内でもサンプル色刺激の色を細かく識別する必要がある。
下側頭皮質からサンプル色刺激に選択的な応答を示した124個のニューロンを記録し、サンプル色刺激呈示期間中の活動を課題間で比較したところ、多くの細胞が課題に依存して有意な活動の変化を示した(n=79/124; 64%)。そしてその多くはカテゴリー課題を行っているときに活動が強かった(n=61/79; 77%)。また、カテゴリー課題で強く活動する細胞は、赤または緑といったそれぞれのカテゴリーを最もよく表す両極端の色で最大応答を示すことが多かった。課題間で応答強度に違いの見られた細胞では、色選択性そのものには課題間ではっきりした違いは見られなかった。
これらの結果は、動物のおかれた状況を表現する内的な信号によって、視覚野の感覚情報を表現するニューロン活動が制御されていることを示している.そのような制御は下側頭皮質の色選択ニューロンにおいては、色のカテゴリー判断を行う時に活動を増強し、細かい識別を行う時には抑制するように働いていた.このことは下側頭皮質が色のカテゴリー判断に重要な役割を果たすことを示唆している。

論文情報

Koida K and Komatsu H. Effects of task demands on the responses of color-selective neurons in the inferior temporal cortex. Nature Neuroscience 10: 108-116, 2007

【図1】 二つの認知課題の概略図

20061225_1.gifのサムネール画像
(左)
カテゴリー課題。500ミリ秒間のサンプル刺激の呈示後、小さな白色光点が右と中央に呈示される。サンプル刺激が緑であれば右の光点に目を向け、赤であれば中央の光点を見続ける。
(右)
弁別課題。500ミリ秒間のサンプル刺激の呈示後、二つのわずかに異なる色のターゲット刺激が上下に呈示される。サンプル刺激と同じ色のターゲット刺激に目を向ける。

【図2】 課題依存的な活動変化を示した色選択性ニューロンの例

20061225_2.gifのサムネール画像
(左)
6つのグラフはそれぞれサンプル刺激(1:赤~11:緑)への神経応答の時間変動(ヒストグラム)を示している。横軸は刺激呈示の時間経過、縦軸はニューロンの発火頻度を示す。黒いバーはサンプル刺激の呈示期間である。赤色の線はカテゴリー課題、青色の線は弁別課題のときの神経活動である。
(右)
色選択性と課題依存性のまとめ。サンプル刺激に対する応答強度を、50msから550msまでの期間の平均発火頻度であらわした。