公開日 2007.01.10

電位依存性カルシウムチャネルの軽度な機能異常がもたらす病態

カテゴリ:研究報告
 生体情報研究系 神経シグナル研究部門
 

概要

CaV2.1(P/Q型カルシウムチャネル)変異マウスの1系統であるrockerマウスは、CaV2.1のa1サブユニットに1アミノ酸置換変異(T1310K)を持ち、運動失調や動眼運動異常等の神経疾患を呈するが、その程度は他のCaV2.1変異マウスと比較して最も軽いことが知られている。またrocker変異のCaV2.1チャネル機能への影響も大変軽度であり、rockerマウスの解析を通じてCaV2.1機能不全の引き起こす基本的な病態とその発症メカニズムを検討することが出来ると期待された。我々はスライスパッチクランプ法を用いて小脳皮質プルキンエ細胞上の2種類の興奮性シナプス(平行線維-プルキンエ細胞シナプス、登上線維-プルキンエ細胞シナプス)についてrocker変異の影響を検討したところ、両シナプスにおいて有意な変化が認められ特に平行線維-プルキンエ細胞シナプスにおいては著しいEPSCの減少が明らかになり、神経疾患の一因となっていることが示唆された。一方登上線維-プルキンエ細胞シナプスの変化は、complex spikeの波形に有意な影響を与えない程度のものであり、生理条件下での登上線維入力はrockerマウスにおいても正常に機能していることが示唆された。平行線維-プルキンエ細胞シナプスの機能異常の原因を追究したところ、電気生理学的検討から平行線維終末からの伝達物質放出は正常であることが示され、一方SDS-FRL法による免疫電顕解析からシナプス後部のAMPA受容体の密度及び総数が減少していることが明らかになった。またプルキンエ細胞樹状突起形態を詳細に解析した結果、rockerマウスにおいて樹状突起伸展パターンが有意に変化していることが示された。これらの一連の結果より、平行線維-プルキンエ細胞シナプスの機能がプルキンエ細胞上のCaV2.1に特に強く依存していること、及びプルキンエ細胞樹状突起の形態が細胞内カルシウムレベル依存的に調節・維持されている可能性が示唆され、また本研究により明らかにされたシナプス機能異常とその発症メカニズムは、軽度なCaV2.1機能異常によりもたらされたことから考えて、CaV2.1機能異常のもたらす一般的な病態の1つであると考えられる。

論文情報

Kodama T, Itsukaichi-Nishida Y, Fukazawa Y, Wakamori M, Miyata M, Molnar E, Mori Y, Shigemoto R, Imoto K (2006) A CaV2.1 calcium channel mutation rocker reduces the number of postsynaptic AMPA receptors in parallel fiber-Purkinje cell synapses. Eur J Neurosci 24:2993-3007.