公開日 2007.06.28

アセチルコリン作用からみた大脳新皮質の層構造と海馬領域の相同性

カテゴリ:研究報告
 大脳皮質機能研究系 大脳神経回路論研究部門
 

概要

アセチルコリンは覚醒・認知機能に深く関与する伝達物質であり、新皮質と海馬でも重要な働きをしていると考えられています。新皮質は多様なニューロンタイプからできていますが、アセチルコリンは皮質ニューロンのタイプごとに、投与時間・作用領域(細胞体・樹状突起など)に依存した固有の応答を引き起こすことがわかってきました。新皮質の錐体細胞についていうと、一過性のアセチルコリン投与に対して、5層のものは著明に過分極するのに対して、2・3層のものではそれはみられません。海馬にも領域ごとに興奮性の錐体細胞があります。今回、アセチルコリンを海馬錐体細胞の細胞体付近に一過性に与えたところ、CA3領域では過分極が見られませんでしたが、CA1領域では、M1型ムスカリン受容体、細胞内カルシウム上昇を介したSKチャネルによる過分極が起きました。新皮質では2・3層から5層錐体細胞への結合が主要な興奮性経路の一つなのに対して、海馬ではCA3からCA1錐体細胞へのシナプスが主な興奮経路です。皮質外への投射については、それぞれ5層とCA1錐体細胞が担っています。従って、アセチルコリンは、層構造下位の興奮性細胞の発火を一過性に抑制し、皮質外への出力を遮断する可能性があります。アセチルコリン作用・皮質内経路・皮質外投射様式を合わせて考えると、新皮質2・3層錐体細胞はCA3錐体細胞に、5層のはCA1のものに対応すると考えられます。

論文情報

Gulledge AT, Kawaguchi Y (2007) Phasic cholinergic signaling in the hippocampus: functional homology with the neocortex? Hippocampus 17, 327-332.

【 図 】

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アセチルコリンは海馬CA1の錐体細胞を一過性に過分極させ、スパイク発火時にはそれを抑制した。この過分極・発火抑制はCA3錐体細胞にはみられなかった。この反応性は、CA1やCA3領域内での細胞体位置には依存していなかった。