公開日 2007.06.21

エンドサイトーシスの分子機構解明に位相差電子顕微鏡が活躍

カテゴリ:研究報告
 分子生理学研究系 ナノ形態生理部門
 

概要

“Cell”の近刊(2007年5月18日)にエンドサイトーシス膜陥入機構解明に関する論文が載り、理化学研究所から共同研究の成果として、プレスリリースされた。以下特に生理研ナノ形態生理部門の寄与を中心にその紹介を行う。

細胞がウイルスなどの微粒子を取り込む基本過程の一つに「エンドサイトーシス」と呼ぶ現象がある。この過程ではまず細胞膜の表面がへこみ、微粒子を包み込むようにくぼんでいく。その後くぼんだ部分が引きちぎられ、微粒子が内部に取り込まれる。これまで細胞膜がくぼんでいく仕組みは不明だった。

理化学研究所研究チーム(横山グループ)は、膜をくぼませる機能を持つと推定された「EFCドメイン」と呼ぶたんぱく質に着目。X線結晶解析の手法で立体構造を解明した(図1a)。その結果、弓のような形を持っていることが判明。一方染色法を使う従来顕微鏡像から細胞膜のチューブ化を見出し(図1b)、EFCドメイン高分子(フィラメント)が細胞膜を絞るように巻き付き、チューブ化する超分子構造モデルを推測した(図1c)。しかし、このモデルの直接証明は無染色試料を対象としなければならず、その観察が困難であった。この困難を打ち破ったのが、岡崎で発明された位相差低温電子顕微鏡で、無染色試料を1ナノメートルの分解能で見る能力が細胞膜チューブ化機構の直接証明に利用された。図2a, bは、細胞膜陥入の初期過程に対応し、図1cのモデルと同様のEFCドメインフィラメントの巻き付きが見える。更に図2cの高分解能像では、巻き付いたEFCドメインフィラメントの規則構造が見え、フィラメント間隔が40Åと決定された。これは、モデルの予測値と良く一致した。

エンドサイトーシスは栄養物などの取り込みや病原体、ウイルスなどの細胞内侵入と幅広くかかわっており、今回の分子機構解明は種々の病気の治療法開発につながると期待される。

論文情報

Shimada A, Niwa H, Tsujita K, Suetsugu S, Nitta K, Hanawa-Suetsugu K, Akasaka R, Nishino Y, Toyama M, Chen L, Liu ZJ, Wang BC, Yamamoto M, Terada T, Miyazawa A, Tanaka A, Sugano S, Shirouzu M, Nagayama K, Takenawa T, and Yokoyama S, (2007) "Curved EFC/F-BAR-Domain Dimers Are Joined End to End into a Filament for Membrane Invagination in Endocytosis", Cell 129, 761-772.

Shimada A, Niwa H, Tsujita K, Suetsugu S, Nitta K, Hanawa-Suetsugu K, Akasaka R, Nishino Y, Toyama M, Chen L, Liu ZJ, Wang BC, Yamamoto M, Terada T, Miyazawa A, Tanaka A, Sugano S, Shirouzu M, Nagayama K, Takenawa T, and Yokoyama S, (2007) "Curved EFC/F-BAR-Domain Dimers Are Joined End to End into a Filament for Membrane Invagination in Endocytosis", Cell 129, 761-772.

【図1】  

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【図2】  

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