公開日 2007.09.07

KCNEによるKCNQ1チャネル電位センサードメインの制御

カテゴリ:研究報告
 分子生理研究系 神経機能素子研究部門
 

概要

KCNQ1は電位依存性カリウムチャネルのαサブユニットをコードし、不整脈や難聴の原因遺伝子としても知られている。KCNQ1のユニークな性質として、共発現するβサブユニットKCNEの種類によって電流の性質が著しく変化することが挙げられる。心臓ではKCNE1(KCNQ1と同様に不整脈の原因遺伝子)と複合体を構成してIKsと呼ばれる活性化・不活性化が著しく遅い電流を担い、腸管ではKCNE3と複合体になって常時開状態のカリウムチャネルを構成する。本研究ではKCNQ1チャネルの電位センサードメインに注目し、KCNEサブユニットが電位センサーの動きに与える影響を調べた。脱分極時、すなわち電位センサーが“up state”にあるときのみ細胞膜外に露出する場所である226番目のアラニンにシステイン変異を導入し(A226C)、システイン残基を修飾するMTS試薬を細胞外より投与して、その修飾速度を指標にKCNQ1の電位センサードメインの動きを調べた。その結果、KCNE1存在下ではMTSによる修飾速度が約13倍遅くなることが明らかとなった。それに対してKCNE3とKCNQ1の複合体では修飾速度は膜電位に依存しなかった。以上の結果はKCNE1がKCNQ1の電位センサーを“down state”に、KCNE3が“up state”にそれぞれ安定化していることを示唆している。

論文情報

Nakajo K and Kubo Y (2007) KCNE1 and KCNE3 Stabilize and/or Slow Voltage Sensing S4 Segment of KCNQ1 Channel. Journal of General Physiology 130: 269-281.

【 図 】

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(上段) MTSES投与によるKCNQ1電流の修飾の例。左がKCNQ1のみ、右がKCNQ1とKCNE1の複合体による電流。+40mV, 300msの脱分極パルスを10秒おきに与えた。赤い電流トレースはMTSES投与前、黒いトレースはMTSES投与1,2,3,4,5分後の電流をそれぞれあらわす。MTSES投与により、どちらもInstantaneous Currentが増加する。
(下段)30ms, 300ms 3sの脱分極パルスを与えた際のMTSES投与による電流量増加のグラフ。同じ長さの脱分極パルスで比べた場合、KCNE1存在下では修飾速度が遅くなっている。