公開日 2007.09.14

SCRAPPERによる神経伝達物質放出の制御

カテゴリ:プレスリリース
 生理学研究所 広報展開推進室
 

概要

私たち人間を含む生物の脳内の情報伝達は、神経細胞同士のシナプスと呼ばれる結合での信号のやりとりにより行われています。シナプスでの情報伝達は記憶や学習の分子基盤と考えられ、盛んに研究されていますが、シナプス伝達がどのように調節されているかは、まだ不明な点が多く残されています。本研究により、シナプス伝達の調節に"壊し屋"タンパク質による分解が重要であることが新たに分かりました。現在、脳梗塞やアルツハイマー病、統合失調症、うつ病などの脳神経精神疾患で神経伝達物質の放出異常が起こっていることが推測されています。過剰な伝達タンパク質を壊すことによって伝達効率を適正に抑える"壊し屋"タンパク質の発見が、脳神経精神疾患の新しい治療薬の開発につながることが期待されます。

今回の発見について荒木飛呂彦氏("ジョジョの奇妙な冒険"などの作品で有名な日本を代表する漫画家)が、壊し屋が伝達タンパク質を攻撃しているところをイメージしたイラストを描き、そのイラストが医学生物学で最も権威ある雑誌の一つであるCell誌の表紙になりました。子供たちの理科離れが問題になる昨今ですが、この"Japan Cool!"のArtとScienceのコラボレーションが科学に興味を持つ子供たちが増えてくれるきっかけにもなってもらえれば幸いです。

論文情報

Yao I, Takagi H, Ageta H, Kahyo T, Sato S, Hatanaka K, Fukuda Y, Chiba T, Morone N, Yuasa S, Inokuchi K, Ohtsuka T, Macgregor GR, Tanaka K, Setou M. SCRAPPER-Dependent Ubiquitination of Active Zone Protein RIM1 Regulates Synaptic Vesicle Release. Cell. 2007 Sep 7;130(5):943-57.

【 図 】

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図では、紫色のロボットのような形の「スクラッパー(タンパク質)」スタンドが、ハート型の青い「ユビキチン(タンパク質)」スタンドを赤い色の怪物「RIM(タンパク質)」スタンドにくっつけようとしています。