公開日 2007.11.27

中枢メラノコルチン系は高脂肪食摂取により低下した骨格筋AMPKのリン酸化を改善する

カテゴリ:研究報告
 発達生理学研究系 生殖・内分泌系発達機構研究部門
 

概要

脂肪細胞から分泌されるレプチンは、摂食を抑制するとともに、視床下部—交感神経系を介して骨格筋におけるAMP-activated protein kinase (AMPK)を活性化する。その結果、骨格筋での脂肪酸の酸化・分解を高めて、抗糖尿病作用を惹起する。しかしながら、高脂肪食の摂取により、レプチンの作用がうまく働かない「レプチン抵抗性」が引き起こされる。一方、レプチンの摂食抑制作用は、メラノコルチンとその受容体が関与するが、末梢組織における代謝調節作用にメラノコルチン・シグナルが関与しているかどうか、並びに「レプチン抵抗性」にメラノコルチン・シグナルがどう関わっているかは不明である。そこで我々は、骨格筋AMPK活性に及ぼす中枢メラノコルチン・シグナルの調節作用について肥満との関連を調べた。

マウス脳室内にレプチン及びメラノコルチン受容体のアゴニストであるMT-IIを投与すると、摂食抑制作用とは関係なく、骨格筋におけるAMPKのリン酸化、及びAMPKの標的タンパクであるacetyl-CoA carboxylase (ACC)のリン酸化を引き起こした。また、メラノコルチン受容体拮抗薬であるSHU9119を脳室内に投与すると、レプチンの効果は抑制された。さらに、KK-Ayマウスは、内因性メラノコルチン受容体拮抗物質が過剰発現してメラノコルチン・シグナルが抑制され肥満することが知られているが、このマウスにレプチンを投与しても、骨格筋におけるAMPKのリン酸化は起こらなかった。これらの実験結果は、メラノコルチン系がレプチンによる骨格筋でのAMPK活性化に関与することを示唆する。さらに、4週間高脂肪食を摂取させてレプチン抵抗性を引き起こしたマウスの脳室内にレプチンを投与しても、骨格筋におけるAMPKおよびACCのリン酸化は亢進しなかった。しかし、MT-IIを脳室内に投与するとAMPKとACCのリン酸化が亢進した。同様の効果はレプチンを過剰に発現するトランスジェニックマウスにおいても観察された。

本研究結果は、中枢のメラノコルチン・シグナルが、骨格筋におけるAMPK活性を調節することを初めて見出した成果である。中枢のメラノコルチン・シグナルを活性化する薬物は、レプチン抵抗性を呈した患者に対する新たな抗糖尿病治療薬となることが期待される。なお、本研究結果は、京都大学との共同研究による成果である

論文情報

Tomohiro Tanaka, Hiroaki Masuzaki, Shintaro Yasue, Ken Ebihara, Tetsuya Shiuchi, Takako Ishii, Naoki Arai, Masakazu Hirata, Hiroshi Yamamoto, Tatsuya Hayashi, Kiminori Hosoda, Yasuhiko Minokoshi, and Kazuwa Nakao. (2007)
Central Melanocortin Signaling Restores Skeletal Muscle AMP-Activated Protein Kinase Phosphorylation in Mice Fed a High-Fat Diet. Cell Metabolism 5, 395—402.

【 図 】

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高脂肪食を摂取したマウスにレプチンを投与しても、骨格筋におけるAMPK及びACCのリン酸化は亢進しなかった。しかし、メラノコルチン受容体アゴニストであるMT-IIを脳室内に投与するとリン酸化が亢進した。同様に、レプチンを過剰に発現するマウスの骨格筋ではAMPKおよびACCのリン酸化が亢進していたが、このマウスに高脂肪食を摂取させるとこれらのリン酸化は低下した。しかし、このマウスの脳室内にMT-IIを投与するとAMPKおよびACCのリン酸化は回復した。このことからMT-IIは、レプチン抵抗性を持つ動物にもAMPKを介して抗糖尿病作用を惹起できることを示す。