公開日 2008.04.17

プロトンチャネルとしてのTRPM7:その分子基盤

カテゴリ:研究報告
 細胞器官研究系 機能協関研究部門
 

概要

TRPM7は広範に発現する非選択性の陽イオンチャネルであり、細胞周期、細胞増殖、細胞死にかかわることが知られている。最近私達は、メカノセンサーとしても働き、細胞容積調節にも重要な役割を果たすことを明らかにした(Am. J. Physiol. Cell Physiol. 292, C460, 2007)。現在まで、TRPM7は1価カチオンおよび2価カチオンを透過させるチャネルであるという報告はあるがプロトンそのものの透過については、知られていない。本研究では、TRPM7を発現させたHEK293T細胞でプロトンの透過の有無を検討した結果、内向き整流性の比較的大きなプロトン電流がパッチクランプ法で観察された。また、このプロトン電流に対する生理的濃度のCa2+とMg2+の影響から、pH 5.5付近でプロトンは2価カチオンと同じ結合サイトを競合して透過することが分かった。そこで、TRPM7におけるプロトンの通り道と考えられるポア領域の負電荷アミノ酸を中性化する点変異(E1047A, E1052A, D1054A, D1059A)を導入した結果、D1054Aでは、電流が大きく抑制され、E1052A, D1059Aでは、部分的に抑制された。これらのことより、プロトンはTRPM7のポア領域における負電荷アミノ酸部位を介して流入していることが明らかとなった。ところで、子宮頚部では、常にpH 4からpH 5付近に保たれているので、子宮頸部上皮由来のHeLa細胞を用いて実際にTRPM7の活性を確認した。この結果、発現系と同様のプロトン電流が観察され、siRNAを用いたノックダウンによってこれが大きく抑制された。これらの結果より、子宮頚部でTRPM7を介するプロトン流入が生理的条件においても機能している可能性が示唆された。さらに、TRPM7は心臓や脳でも発現が見られるので、酸性化がもたらされる虚血や炎症などの病的状況で機能している可能性も示唆された。

論文情報

T. Numata & Y. Okada (2008) Proton conductivity through the human TRPM7 channel and its molecular determinants. J. Biol. Chem. (電子版 April 2008; doi:10.1074⁄jbc.M709261200 )

【 図 】 TRPM7のプロトン電流とその分子基盤

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(A)hTRPM7を発現したHEK293T細胞で記録したプロトン電流。酸によってプロトン電流の増大が見られた。D1054A変異ではプロトン電流が見られなくなった。
(B)ポア領域の負電荷アミノ酸の中性化点変異によるプロトン電流の抑制。負電荷を維持したD1054E変異では影響を受けない。
(C)TRPM7のS5-S6間の推定上のポア領域を示す模式図。