公開日 2008.05.02

両側とも右脳型神経回路を持つ変異マウスを発見

カテゴリ:研究報告
 大脳皮質機能研究系・脳形態解析研究部門
 

概要

体軸の非対称性の研究は、これまで明確な左右差を持つ内臓系において、その形成機構が明らかにされてきた。しかしながら、脳における非対称性に関してはヒトで機能的な左右差が存在することは広く知られているものの、マウスでは左右差を知る方法がほとんどなく、非対称性形成機構の遺伝的背景についても全く明らかではなかった。我々は、前回の論文で様々な実験手法を適用できるマウスにおいて海馬神経回路の構造的・機能的非対称性を明らかにした(Kawakami et al., Science, 2003)。そこで、この非対称性を指標としつつ、内臓に左右の逆位を示すivマウスを用いて電気生理学的手法による機能的解析を行った。ivマウスは発生初期に発現する遺伝子(LRD, Left Right Dynein) に点突然変異を持ち、その結果として内臓が正位にあるものと逆位にあるものが1対1で生まれてくることが明らかになっているマウスである。このivマウスの海馬神経回路について、電気生理学的手法を用いてそのシナプスにおけるNMDA受容体特性および可塑性の発達変化を解析した。その結果、ivマウスの海馬神経回路は、内臓の位置が正位であっても逆位であっても、通常のマウスで見出されたシナプス特性の左右非対称性が消失し、両側とも右脳の特性を持っているという結果が得られた。しかしながら、海馬の持つもう一つの非対称性である錘体細胞の上下の非対称性は維持されたままであった。次に、免疫電子顕微鏡法を用いて各個のシナプスにおけるNMDA受容体サブユニットの分布を解析したところ、完全に電気生理学的手法で得られた結果を裏付けるものであった。本研究の結果からivマウスの海馬神経回路は左という特性が消失しており、両半球の海馬神経回路が右型になっていることが示唆された。また、海馬の持つ非対称性の形成メカニズムはLRDの下流でありながら、内臓における左右軸の形成機構とは異なる決定メカニズムを持つと考えられる。

この研究は生理研一般共同研究、および科学技術振興機構、SORSTのサポートを得て九州大学の伊藤功准教授と脳形態解析研究部門の共同研究として行われたものである。

論文情報

Ryosuke Kawakami, Alice Dobi, Ryuichi Shigemoto, Isao Ito
Right isomerism of the brain in inversus viscerum mutant mice
PloS One, Vol. 3, Issue. 4, e1945, 2008

【 図 】

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