公開日 2008.07.03

コイルドコイルドメインによるKCNQチャネルの会合と発現制御

カテゴリ:研究報告
 分子生理研究系 神経機能素子研究部門
 

概要

KCNQチャネルは良性家族性新生児けいれん(BFNC)の原因遺伝子としても知られる電位依存性のカリウムチャネルである。KCNQ2とKCNQ3の2種類のサブユニットが会合することで、その電流量がKCNQ2単独による電流の約10倍に増加することから、神経細胞ではこのヘテロ多量体が電流を担っていると考えられている。しかしながらこの両者がどのようにしてヘテロ多量体を構成し、電流発現量を調節しているのかについてはまだよくわかっていない。今回われわれは細胞内C末端領域に存在するコイルドコイルドメインに着目し、ヘテロ多量体構成における役割と電流量の関係について研究を行った。まずKCNQ2とKCNQ3チャネルのコイルドコイルドメインを削った変異体を作成し、KCNQ2のコイルドコイルドメインが欠けるとヘテロ多量体における電流発現が大幅に損なわれることを見出した。また、KCNQ2とKCNQ3のキメラ変異体を作成することで、KCNQ3のコイルドコイルドメインの存在が電流発現を抑えること、この電流抑制効果はKCNQ2のコイルドコイルドメインの存在により打ち消されることも見出した。コイルドコイルドメイン上にはプラスあるいはマイナス電荷をもつアミノ酸が多数存在し、それらがサブユニット間で静電相互作用のネットワークを構成していると考えられている。これらの相互作用を壊すような変異体を導入したところ電流量の減少が見られたため、サブユニット間静電相互作用がコイルドコイルドメイン同士の会合と構造の安定性に寄与しており、電流発現量の調節にも関与している可能性が示唆された。BFNCを起こすメカニズムとして、コイルドコイルドメインを欠いた、あるいは機能が損なわれるような変異においては、電流の発現量が損なわれていることが原因となっていると考えられる。

論文情報

Nakajo K and Kubo Y (2008) Second coiled-coil domain of KCNQ channel controls current expression and subfamily specific heteromultimerization by salt bridge networks. Journal of Physiology 586: 2877-2840.

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KCNQ2(グレー)とKCNQ3(赤)の4量体コイルドコイルドメインの構造。サブユニット間で電荷によるアミノ酸側鎖相互作用のネットワークが存在し、ヘテロ多量体の会合と電流発現に寄与している。