公開日 2008.08.07

超音波で脳表面のリアルタイム血流測定に初めて成功
臨床診断などへの応用へ期待

カテゴリ:プレスリリース
 生理学研究所 広報展開推進室
 

概要

脳が活動するとき、よく働いている部分の血流が増えることは知られていましたが、これまでは、測定している血管を画像で直接確認し血流を測ることは出来ませんでした。今回、生理学研究所の畑中伸彦 助教らのグループは、(財)東京都医学研究機構東京都神経科学総合研究所での研究によって、病院で心臓の血流検査などに用いられる超音波断層法や超音波ドプラー血流測定法を組み合わせることで、脳が働いているときの血流の変化を微小な動脈ごとに直接測定することに成功しました。今回開発した方法を「経脳硬膜超音波ドプラー法」と名付けました。今回の手法については、(財)東京都医学研究機構東京都神経科学総合研究所とJSTが共同で特許を出願中です。

研究グループは、大脳表面の大脳皮質内の微小動脈を、超音波脳断層図とカラードプラーイメージ法を組み合わせて見つけ出し、その後、その微小動脈の血流の速さの変化を断続的に測定可能なパルス・ドプラー(pulsed-waveドプラー)モード法で測定することにより、見つけ出した血管の血流をリアルタイムで測定することに成功しました。また、グループはこの方法でサルの大脳皮質運動野(運動の司令を出す部分)の血流を測定し、運動を学ぶ際の脳活動について、脳の部分ごとに血流の変化が異なることを発見しました。

今後、この方法を応用すれば、運動や刺激による反応などで起こる脳の血流変化を直接測定できるため、脳外科手術の際の脳部位の把握や臨床診断などにも用いられると期待されます。

7月25日付の米国脳神経専門誌セレブラル・コルテックス誌に掲載されました。

※科学研究費補助金の交付をうけて行った研究の成果です。

この研究の社会的意義

  1. 脳の表面の血液の流れを、脳の活動時に、直接、リアルタイムに測定することに成功
  2. 脳の微小な動脈の位置を把握して、その中の血液の流れを測定できる
  3. 脳外科手術の際の脳部位の把握や、臨床診断へ応用が期待される

【図1】

心臓の検査に用いられる超音波ドプラー測定法を応用して、脳表面(大脳皮質)の微小な動脈の血流の変化を測定することに成功しました。

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【図2】

測定の実際の画像。上から、脳の断面図、同じ部位の超音波像、同じ部位の超音波ドプラー法による血流の測定。血流の速さによって、黄色から青色まで色分けされています。

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【図3】

脳表面の3次元イメージ図
脳表面で血流が増加した部分(図の黄色―赤色の部分)を、微小な血管ごとに、測定・表示することに成功。臨床検査への応用が期待できます。

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