公開日 2008.08.20

ゼブラフィッシュ脊髄の二種類のV2ニューロンは、神経前駆体細胞の非対称分裂により生じる

カテゴリ:研究報告
 生体情報研究系
神経分化研究部門
 

概要

脊髄腹側のp2前駆体細胞領域からは二種類の介在神経細胞、V2aとV2bニューロンが生じることが知られている。これまでに、V2aとV2bの分化には、分裂終了後の細胞間で起こるDelta-Notchシグナリングを介した相互作用が関与することが示されていた。しかし、V2aとV2bの細胞系譜は不明であり、上記の細胞間相互作用がどの細胞どうしで起こるかについては分かっていなかった。我々はp2前駆体細胞の最終分裂直前にGFPを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュTg[vsx1:GFP]を作成し、この問題に取り組んだ。経時観察により、GFPでラベルされたp2前駆体細胞の大部分は、一度だけ分裂し、V2aとV2bニューロンを対で生むことが分かった。この結果は、V2aとV2bニューロンが一対のニューロンを生じる分裂、かつ非対称な分裂によって生じることを示している。さらに、Delta-Notchシグナリングの相互作用が姉妹細胞間で起こることが、この分裂が結果として非対称になるために重要な役割を果たしていることを示唆する結果も得られた。この細胞運命決定のメカニズムはショウジョウバエの神経母細胞が、非対称分裂によって二つの異なるニューロンを生じる場合と良く似ている。しかし、ショウジョウバエの場合と異なり、ゼブラフィッシュのp2前駆体細胞の分裂軸の方向は決まっていないことも分かった。これらの結果は、脊椎動物の神経発生において、一対のニューロンを生じる神経前駆体細胞の最終分裂が、分裂軸の方向性に依存しないメカニズムを介して、二つの異なるニューロンを生むことができることを示している。 本研究は、脊椎動物の中枢神経系において、1つの神経前駆体細胞から非対称分裂により2つの異なるタイプのニューロンが再現的に生じることを示す初めての例である。哺乳類脳形成においても、1つの前駆体細胞によりニューロンペアを産生する例が知られている。そこにおいても、本研究で示されたように、Delta-Notchを介した姉妹細胞同士の相互作用により2つの異なるタイプのニューロンが生じる機構が存在するかもしれない。

なお本研究はDevelopment誌において注目論文を紹介するIn this issueにて取り上げられました。

論文情報

Yukiko Kimura, Chie Satou and Shin-ichi Higashijima
Development 135, 3001-3005 (2008)
Published Online: 6 August 2008

参考図

【図1】 V2aとV2bニューロンはp2前駆体細胞の分裂によって、姉妹細胞として誕生することを示した経時観察

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トランスジェニックフィッシュ、Tg[vsx1:GFP]では、最終分裂直前のp2前駆体細胞でGFPが発現する。p2前駆体細胞分裂の経時観察後にサンプルを固定し、V2aはChx10、V2bはSclの発現をそれぞれのマーカーとして、免疫染色法で検出を行った。p2前駆体細胞の分裂により、V2aとV2bニューロンが対になって生じることが分かった。Aは側方から、Bは背側からの観察。緑矢尻は分裂前、赤矢尻は分裂後の細胞を示した。Cは観察した例数。

【図2】 p2前駆体細胞からV2ニューロンへの発生モデル

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一つのp2前駆体細胞の分裂によって生じた姉妹細胞間でDelta-Notchを介した細胞間相互作用が起こり、一対のV2aとV2bニューロンが誕生する。