公開日 2008.10.31

大脳皮質における錐体細胞サブタイプに依存した結合特異性

カテゴリ:研究報告
 大脳皮質機能研究系 大脳神経回路論研究部門
 

概要

今回、5層錐体細胞の発火特性をニューロンタイプの指標とし、2⁄3層錐体細胞から5層錐体細胞への興奮性結合における錐体細胞サブタイプ依存性について、ラットの前頭皮質でスライスパッチ法を用いて検討した。5層錐体細胞は電流注入に対する発火応答の違いから、1)電流注入中規則的にスパイクが発生する細胞(SA)、2)電流注入中1)の細胞と同じように規則的にスパイクが発生するが電流注入の最初でスパイクが2発バースト状に発生する細胞(SA-d)、(3)電流注入した時の最初の期間しかスパイクが発生しない細胞(FA)の3種類に分類した(図-A)。逆行性蛍光トレーサーで投射先を同定し記録した結果、対側線条体と同側橋核に投射する5層錐体細胞では、投射先と発火パタンに相関が見られた。

本研究では、2⁄3層細胞から5層細胞へのシナプス結合を容易に見つけるために、2⁄3層錐体細胞にグルタミン酸を短時間投与し発火させ、その際に5層錐体細胞で起きるシナプス電流を検出する方法を確立した。この方法では、単一または、同時記録する複数の細胞へのシナプス前細胞を、多数の細胞の中から検索することができる。2⁄3層から5層への興奮結合経路が5層錐体細胞の多様性に依存して選択的に分化しているのかを知るために、このグルタミン酸刺激法を使って、二つの5層錐体細胞が同一2⁄3層細胞から共通入力を受ける確率が、サブタイプの組み合わせやサブタイプ間のシナプス結合に影響されるのかを検討した。その結果、5層細胞が同一2⁄3層細胞から共通入力を受ける確率は、同じサブタイプペアーの方が異なるサブタイプペアーより高かった。さらに、同じ5層サブタイプペアーでは、サブタイプ間でシナプス結合があるものが無いものより共通入力を受ける確率が高くなり、一方、異なるサブタイプペアーが共通入力を受ける確率は5層間結合の有無に影響されなかった(図-B)。以上から、2⁄3層から5層への興奮結合が5層錐体細胞サブタイプやサブタイプ間の結合に依存してサブネットワークを形成していることがわかった。以前に5層内のシナプス結合が皮質外の投射先に依存して分化していることを明らかにしたが、2⁄3層からの結合も皮質下構造に対応した選択的経路を作っていると考えられる。

論文情報

Otsuka T, Kawaguchi Y (2008) Firing-pattern dependent specificity of cortical excitatory feed-forward subnetworks. The Journal of Neuroscience, 28(44), 11186-11195

参考図

【図1】 

20081031_1.jpg

A, Voltage responses to current injections in SA, SA-d, and FA type L5 pyramidal cells. Asterisk indicates initial doublet spikes. Inset in SA-d, initial doublet (*) at an expanded time scale and reduced voltage scale. B, Schematic diagram of interlaminar divergence selectivity from L2⁄3 to L5 pyramidal cells. Line thickness represents connection probabilities. Open and dark triangles indicate different pyramidal subtypes.