公開日 2009.01.26

ATP受容体チャネルP2X2の膜電位とATP濃度によるゲート機構の解析

カテゴリ:研究報告
 分子生理研究系 神経機能素子研究部門
 

概要

P2X2 は、2つの膜貫通部位を持つサブユニット 3 個が会合して構成されるATP受容体チャネルである。我々は、この分子内に、膜電位センサーを思わせるような領域が全く無いにも関わらず、ATP 投与後の定常状態において、過分極時により活性化する、すなわち、膜電位依存的ゲート機構が存在するという興味深い現象を見いだした。さらに、その膜電位依存的ゲートがATP濃度に依存する、すなわち、ATP濃度が高いほど、コンダクタンス-電圧関係が脱分極側にシフトし、また、過分極ステップパルスを与えたときの活性化の速度が加速することを観察した。ATP の結合ステップと、その後の膜電位依存的ゲートステップからなる3ステートモデルを仮定し、実験値と、ATP結合に関する既報告値を元に、ゲートステップの種々の膜電位におけるrate constants を算出した。この値を用いて simulation を行ったところ、膜電位依存的ゲートステップに、(ATP投与後の定常状態であっても)ATP 濃度依存性が現れることを再現できた。これは、主として、結合ステップがゲートステップに比して速いことに起因する。一方、ATP 結合ステップに膜電位依存性があることを仮定したarbitrary なパラメターを用いて simulation を行ったところ、こちらは実験データに合わなかった。さらに、gating の最終ステップにおいてポアの開口につながる構造基盤を、種々の変異体を作成して探索し、第2膜貫通部位の中程にあるGly344 が、ゲートヒンジとして重要な役割を果たしていることを見いだした。

論文情報

Fujiwara Y, Keceli B, Nakajo K and Kubo Y (2009) Voltage- and [ATP]- dependent gating of the P2X2 ATP receptor channel. Journal of General Physiology 133: 93-109.

【図1】 

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第2膜貫通部位の中程にあるGly 344 をAla に変異させたところ、過分極時の活性化が見られなくなった。このG344A 変異体をバックグランドとして用いて、344 の周辺のアミノ酸残基をGly に置き換えたところ、341, 346, 347 等において膜電位依存的ゲートが復活した。そのため、第2膜貫通部位の中程における、ヒンジとなるアミノ酸残基の存在が膜電位依存的ゲートに役割を果たしていることが示された。