公開日 2009.02.17

ATP受容体チャネルP2X2の、極低温電子顕微鏡画像に基づいた単粒子構造解析

カテゴリ:研究報告
 分子生理研究系 神経機能素子研究部門
 

概要

P2X2 チャネルは、細胞外のATPによって活性化される非選択性陽イオンチャネルで、ATP 投与後の時間経過や細胞膜上の発現密度に依存してチャネルポアの拡大が起こることなどから、その構造と構造の動的変化に興味が持たれている。我々は、P2X2に関して、先に、レコンビナント蛋白を用いたクロスリンクの実験結果と、ウラニル酢酸負染色像に基づいた単粒子構造解析の結果に基づき、70kDのサブユニットの3量体で、疎でかさばった細胞外領域を持つ構造を示すことを発表した (Biochem Biophys Res Commun (2005) 337: 998-1005. Mio, Kubo, Ogura, Yamamoto and Sato)。

今回、より高解像度の構造を明らかにするために、90,000 個以上の極低温電子顕微鏡画像に基づく単粒子構造解析を行い、種々の角度から見た2次元像を得、さらに、3 次元画像の再構築を行った。また、画像上の細胞内領域側を、付加したFLAG tagに対する Fab-goldの結合側の決定により同定した。なお、ATP非存在下であるため、分子はclosed stateにあると考えられる。得られた三次元構造は、高さが202Å、直径が160Åの花瓶状を示した。細胞外領域と膜貫通領域においては、ポアを構成する内層を比較的疎な外層が取り囲む2層構造を示し、膜貫痛領域中程にはポアの再狭部と思われる部域が見られた。ATPは、細胞外領域の2 層の隙間にはりこむことによりATPaseによる分解から守られることが推測された。全体として疎に拡大した構造は、3 つのサブユニットがゆるく会合していることをイメージさせ、これがポア拡大現象の構造基盤となっていることが示唆された。

本研究は、産総研・脳神経情報・構造生理の佐藤主税氏の研究室(三尾、小椋、佐藤)を中心とする、京大院理・生物物理・構造生理の藤吉好則氏の研究室(廣明、藤吉)と、生理研・神経機能素子(山本、久保)の、共同研究による成果である。

論文情報

Mio K, Ogura T, Yamamoto T, Hiroaki Y, Fujiyoshi Y, Kubo Y and Sato C (2009) Reconstruction of the P2X2 Receptor Reveals a Vase-Shaped Structure with Lateral Tunnels above the Membrane. Structure 17: 266-275.

【図1】 

20090217_1.jpg

P2X2 の再構成3次元構造の表面像
A 左は、細胞外側からの top viewである。右は、水平軸に沿って回転した像で、右下隅が細胞内側からの bottom viewである。B 側面像。垂直軸に沿って回転した5つの像を示す。青線は、一次構造予測に従って分子量を細胞内外に割り振った計算による膜貫通部位を示す。