公開日 2009.02.18

容積感受性外向整流性アニオンチャネル(VSOR)を介する炎症時のグリアからニューロンへの情報伝達機構の発見

カテゴリ:研究報告
 細胞器官研究系 機能協関研究部門
 

概要

炎症時初期に生成されるブラジキニンが、脳内の主要なグリア細胞であるアストロサイトに作用すると、そこからグルタミン酸放出が誘起され、それが隣接するニューロンへの情報伝達に寄与することが知られている。最近我々は、そのブラジキニンにより誘起される情報伝達がアストロサイト上の容積感受性外向整流性アニオンチャネル(VSOR)を介して行われることを明らかにした。マウス大脳皮質由来のグリア・ニューロン共培養系に対しブラジキニン(1 μM)を投与すると、アストロサイトから放出されたグルタミン酸がニューロン上のNMDA受容体を活性化し、そのニューロン内にCa2+濃度上昇が引き起こすが、その上昇はVSOR阻害剤であるDIDSやphloretin投与により抑制された。実際のグルタミン酸放出量もそれらの阻害剤や高張溶液刺激により減少したが、開口放出阻害剤であるテタヌス毒素は放出量に影響しなかった。アストロサイトに対しwhole-cell電流記録を行うと、ブラジキニン投与中VSOR電流の増強が認められ、細胞内Cl-のグルタミン酸置換による逆転電位のシフトの程度から、VSORの有意なグルタミン酸透過性が示唆された。しかし、ブラジキニン投与中アストロサイトの細胞容積にはほとんど変化が認められず、一方で投与中細胞内に活性酸素種(ROS)の生成が認められ、ROS生成阻害剤の投与によりVSOR活性化が阻止されることも判明した。以上のことから、ブラジキニンの作用によりアストロサイト内に生成されたROSが細胞容積変化によらず直接VSORを活性化し、そのVSORを通じてグルタミン酸が放出される機序が示唆された。この機序は、脳内炎症時のニューロン過興奮や膨張・浮腫等の病態の背景となっていると考えられる。

論文情報

Liu HT, Akita T, Shimizu T, Sabirov RZ, and Okada Y (2009) Bradykinin-induced astrocyte-neuron signalling: glutamate release is mediated by ROS-activated volume-sensitive outwardly rectifying anion channels. J. Physiol. published online on February 2, DOI: 10.1113⁄jphysiol.2008.165084

【図1】 

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ブラジキニンはアストロサイト上のB2受容体への結合を通じてアストロサイト内にCa2+濃度([Ca2+]i)上昇を引き起こすと同時に、NADPH oxidase(NOX)を活性化してROS合成を促進する。生成されたROSはVSORを開口させ、そのアニオンチャネルを通じてグルタミン酸が隣接するニューロンに向かって放出される。放出されたグルタミン酸はニューロン上のNMDA受容体活性化を通じてニューロン内にCa2+濃度上昇をもたらす。