公開日 2009.06.30

覚醒行動下のサルにおけるシナプス前抑制の評価方法を確立

カテゴリ:研究報告
 発達生理学研究系 認知行動発達機構研究部門
 

「シナプス前抑制」の概念は1957年にフランクとフォートらによって初めて提唱され、その直後からエックルスやルンドバークその他の研究者による非常に精力的な研究が1960年代を通じて行われた。その結果、現在までにシナプス前抑制に関わる脊髄神経回路の詳細や薬理学的特性などについての知見が示されてきた。

では、このシナプス前抑制は覚醒動物の行動制御において、どのような役割を果たすのであろうか。残念ながらこの問いに対する明確な答えは見つかっていない。それを明らかにするためには、まず覚醒動物の行動下におけるシナプス前抑制を評価する方法を確立する必要があった。そのため、我々は覚醒サルに手首屈曲伸展運動を訓練し、その際の皮膚神経(superficial radial nerve)へ電気刺激を与えながら、刺激に単シナプス性に応じる細胞を検索した(図A)。その後当該脊髄部位に微弱電流刺激を繰り返し与え、皮膚神経において逆行性電位を記録した(図B)。さらに、その逆行性電位のサイズを手首運動の各局面で比較した結果、動的な運動の開始前後でそのサイズが増大することが確認された(図C)。この逆行性電位の振幅増大は、一次求心神経末端部の脱分極(primary afferent depolarization:PAD)を反映しており、さらにPADはGABA-Aによるシナプス前抑制の指標になることが知られている(excitability testing)。従って、この結果は随意運動における動的運動開始前後に、皮膚神経へのシナプス前抑制が増大することを示している。  

本研究によって、覚醒行動下のサルにおけるシナプス前抑制の評価方法が始めて体系的に確立した。今後は同方法を用いて、様々な随意運動の局面や様々なモダリティの感覚入力に対するシナプス前抑制の動態が明らかにされることが期待される。

論文情報

Task-dependent modulation of primary afferent depolarization in cervical spinal cord of monkeys performing an instructed delay task.
Kazuhiko SEKI, Steve I. Perlmutter, Eberhard E. Fetz
Journal of Neurophysiology 102: 85-99 (2009)

図1

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