公開日 2009.08.05

膀胱に尿が貯まることを感じる分子メカニズムを解明 —頻尿や過活動膀胱の薬剤開発に期待—

カテゴリ:プレスリリース
 自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室
山梨大学大学院医学工学総合研究部泌尿器科学
 

概要

膀胱に尿が貯まると、それが膀胱を膨らませます。その刺激が神経に伝わり「おしっこをしたい!」とわかります。こうした「膀胱が膨らむことを知る」機能が障害されると、尿が貯まっていないのにおしっこにいきたくなってしまう頻尿や過活動膀胱、または逆に、尿が貯まっているのにそれを感じることができないなどの症状がみられるようになります。今回、自然科学研究機構・生理学研究所(岡崎統合バイオサイエンスセンター)の富永真琴教授・曽我部隆彰助教、および、山梨大学医学部泌尿器科の武田正之教授・荒木勇雄准教授・望月勉助教との共同実験で、膀胱に尿がたまったときに、それを感じる分子メカニズムを解明しました。排尿障害の薬剤開発にむずびつく成果として期待されます。Journal of Biological Chemistry(米国生化学雑誌)8月号(8月7日発行)に報告されます。

今回研究グループが注目したのは、膀胱の内側の膀胱上皮と呼ばれる細胞にあるTRPV4センサー(トリップ・ブイフォー)。このセンサーを持つ膀胱上皮細胞をやわらかいシリコンの上に培養し、シリコンを引っ張ったところ、TRPV4センサーが活性化して細胞自身が”伸びる”ことを感じることがわかりました。より詳しく調べたところ、膀胱上皮細胞が伸びたときにはこのTRPV4センサーを通って細胞内にカルシウムが入り込み、これによってATPと呼ばれる物質を細胞表面から放出させることがわかりました。このATPは、膀胱の膨らみを神経に伝える役割を持っています。

曽我部助教は「膀胱におしっこがたまるのを感じる際に働く分子メカニズムの一端がはじめて明らかになりました。このTRPV4 センサーをターゲットにした薬剤開発によって、頻尿や膀胱過活動の改善が期待できます。」と話しています。

本成果は文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

今回の発見

  1. 膀胱の内側の膀胱上皮細胞にTRPV4 センサー(トリップ・ブイフォー)があり、膀胱に尿が溜まって膨らみ伸びることを感じていました。
  2. 膀胱上皮細胞が伸びると、カルシウムが入りこみ、ATP と呼ばれる物質を出すことによって神経に「尿がたまった」ことが伝わっていました。

 

【図1】 膀胱の“伸び”を感知するセンサー「TRPV4 センサー」

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TRPV4 センサーが、膀胱の内側、膀胱上皮細胞にあることが分かりました。このセンサーによって、膀胱の中に尿がたまったことを知ることができることが分かりました。

【図2】 膀胱上皮が伸びると、TRPV4 センサーが感知する

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正常な膀胱上皮細胞(野生型)をシリコンの上で培養し、その細胞を引っ張ってみると、TRPV4 センサーが活性化して、細胞の中にカルシウムが入りこみ、その伸展を感じていることがわかりました(右上の赤色)。TRPV4 をなくした細胞(TRPV4 欠損)では、その働きはありませんでした。

【図3】 膀胱が膨らむと、ATP が放出される

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膀胱が膨らんでTRPV4 センサーが活性化したときには、膀胱上皮細胞(野生型細胞)から、ATP が放出されていることがわかりました(中央写真・白く光っている部分)。このATP が膀胱の感覚神経に刺激をあたえることで、膀胱に尿がたまったことを中枢神経に伝えていました。

この研究の社会的意義

1.排尿障害の薬剤開発へ期待

排尿障害を訴える患者さんは高齢化社会がすすむにつれて急速に増加しています。これまで膀胱に尿が溜まることを知る分子メカニズムについては知られていませんでした。今回の発見は、TRPV4 センサーがその役割を担っていることを示した初めての研究成果です。 今後、このTRPV4 センサーに対する薬剤開発で、頻尿や過活動膀胱の改善が期待できます。

論文情報

THE TRPV4 CATION CHANNEL MEDIATES STRETCH-EVOKED Ca2+ INFLUX AND ATP RELEASE IN PRIMARY UROTHELIAL CELL CULTURES
Tsutomu Mochizuki, Takaaki Sokabe, Isao Araki, Kayoko Fujishita, Koji Shibasaki, Kunitoshi Uchida, Keiji Naruse, Schuichi Koizumi, Masayuki Takeda, Makoto Tominaga
The Journal of Biological Chemistry 284: 21257-21264, 2009

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曽我部 隆彰 助教 (そかべ たかあき)
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山梨大学医学部泌尿器科学講座(山梨大学大学院医学工学総合研究部泌尿器科学)
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