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宇宙生活においては、どこが上でどこが下だか分からないような絶えず無重力で回転している状態となっています。こうした無重力状態においてクルクルと回転しつづけているような状況では様々な感覚に影響が出ることが考えられます。今回、自然科学研究機構・生理学研究所の柿木隆介教授や三木研作助教の研究グループは、こうしたクルクルと回転しているようなバーチャル映像による視覚刺激が、他の感覚、とくに音に対する反応である聴覚にどのような影響を与えているか、その脳の反応を脳磁図(MEG)を用いて調べました。すると、クルクルと回転しているような画像を見続けている場合には、脳の中の音への反応(聴覚)が過敏になることが明らかになりました。独国(ドイツ)の脳科学専門誌Experimental Brain Research Volume 194, Number 4 (4月号)に報告しました。
研究グループは、宇宙環境を再現した地上実験として、国際宇宙ステーション「きぼう」船内のバーチャルリアリティー画像(ソリッドレイ研究所作成)を用いて、クルクル回転する画像を見せ、そのときの脳の聴覚に対する反応をMEGで記録しました。クルクル回転する画像としては、「目の前が回転するような映像(図1:RR)」「床と天井が縦に回っているような映像(図1:VR)」「天井や床の方向はかわらず水平方向に回転しているような映像(図1:HR)」の3つを用意し、止まっている映像と比較しました。すると、床が絶えず回転しているようなRRやVRの映像を見続けたときには、音に対する反応が20%程度大きくなりました。逆にCのように床はかわらずただ水平方向に回転している状況では、そのような効果はあまり見られませんでした。
柿木教授と三木助教は、「無重力状態のような上か下かが分からなくなるようなクルクル回転する視覚情報を受け続けると、脳の中の音を感じる聴覚に対して、直接または平衡感覚を介した間接的な影響が出るものと考えられます。無重力状態では視覚によって上下を判断することができなくなり、脳の中で視覚に頼れなくなり、聴覚のような他の感覚が過敏になるのかもしれません。」と話しています。
(本写真の使用はJAXAの了解のもと行っています。本写真の使用にはJAXAの了解が必要です。)
被験者に3種類の映像をみせながら、MEGで脳の活動を記録した。クルクル回転する画像として、「目の前が回転するような映像(RR)」「床と天井が縦に回っているような映像(VR)」「天井や床の方向はかわらず水平方向に回転しているような映像(HR)」の3つを用意し、止まっている映像をみせたときの反応と比較しました。
図1のような視覚映像を見せながら、脳の聴覚に対する反応を調べました。すると、写真の赤い点の聴覚野の部分、とくに右脳で、VRやRRの視覚刺激中の聴覚に対する反応が20%程度増大していました。こうした増大効果は、HR視覚刺激ではあまりみられませんでした。
地面が常に足もとにある地上とは違い、宇宙空間では上も下もなく、つねに回転しつづけるような状況におかれます。脳にとってもそれは予期せぬ出来事であり、くるくる回転しつづける感覚が、他の感覚に影響することは十分考えられます。今回の実験で、くるくる回転する視覚刺激においては、聴覚の反応が増大することがあきらかになりました。視覚によって上下が判断できないことで、それを補うように、聴覚がとぎすまされるものと考えられます。
The impact of visual movement on auditory cortical responses: a magnetoencephalographic study
Kensaku Miki, Tetsuo Kida, Emi Tanaka, Osamu Nagata, Ryusuke Kakigi Experimental Brain Research
自然科学研究機構 統合生理研究系 感覚運動調節研究部門
三木 研作(ミキ ケンサク)特任助教
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自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室
小泉 周(コイズミ アマネ)准教授
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